インタビュー
リメイクや移植ばかりじゃつまらない! 「ケイオスリングス」で有言実行を体現したスクウェア・エニックスの安藤武博氏に,次の一手やソーシャルゲームについて聞いた
リメイク,移植ばかりじゃつまらない
オリジナルタイトルでiPhoneアプリの市場を盛り上げたい
4Gamer:
ちょっと話を変えさせてください。
iPhoneアプリの市場を見ていると,売れそうなものがヒットしていなかったり,逆に意外なものがランキングの上位にずっと居続けていたりしますよね。何が売れるのか? という部分が,分かりにくくなっっているように思います。
安藤氏:
最近はiPhoneに限らず,分からなくなってますねぇ(笑)。
ただiPhoneアプリに関して僕が言いたいのは,「みんなにオリジナルを作ってほしい」ということなんですよ。
4Gamer:
でもスクウェア・エニックスのiPhoneアプリには,リメイク作品も多いですよね?
ええ,リメイク作に関しては,昔のゲーム体験をもう一度このiPhoneというプラットフォームで味わってほしいという思いがありますし,実際にたくさんのご要望があるからなんですね。
なので僕らは,オリジナルとリメイクは二本の柱であると考えて,どちらにも注力しているんです。
4Gamer:
そのうえで,自社だけでなく他社にもオリジナル作品を作ってほしいというのは,どういうことでしょう?
安藤氏:
新しいプラットフォームに飛び込んだときには,そのプラットフォームに合うオリジナル作品をちゃんと作らないと意味がないと思うんですよ。
リメイク作品ばかりだったら,プレイヤーさんはそのプラットフォームをあえて選択する必要もなくなりますし。
4Gamer:
古いハードを持っていればそれで済みますもんね。
安藤氏:
だからこそ,みんなでオリジナルを作っていこうぜ! と言いたいんです。リスクヘッジの意味でリメイク中心になるのは,理解できますが。
でもニンテンドーDSの話になりますが,ここ数年,「トモダチコレクション」にしろ「ラブプラス」にしろ,世間的な話題をかっさらったのって,オリジナルタイトルですよね。やっぱりオリジナルタイトルじゃないと未来を開拓できないんです。
僕らだっていつまでもFF,ドラクエ,キングダムハーツに頼り続けるわけにはいかないですし。
4Gamer:
コンシューマ市場でもナンバリングタイトルの売り上げは比較的安定していますが,急に人気が爆発することはあまりありませんよね。ある程度の予測値が事前に見えて,そのやや下か上かみたいな感じになりがちで。
安藤氏:
ええ。一方,オリジナルの人気が爆発すると,その作品だけじゃなくて市場全体も活気づくものなんですよね。
でもゲームメーカー大手から,なかなかiPhone向けのオリジナルタイトルが出ていないのが,ちょっともどかしいんです。ハドソンさんなんかは凄くいい動きをしていると思うんですが……。
4Gamer:
人気のIPを持っていれば,それを流用したほうがビジネス的にやりやすいというのは確実にあると思いますけど,それだけだと寂しいですよね。
オリジナルもリメイクも,バランス良く両方やればいいのになぁ……って,本当に思うんですよ。
もちろん僕自身,iPhoneでオリジナルタイトルをしっかり定着させて,新しいIPを作っていくのが目標なんですよ。幸いにも,ケイオスリングスが好評だったので,足がかりはできたかな,と。
4Gamer:
だからこそ,続編を作ろうとなったわけですしね。
安藤氏:
オリジナルタイトルで,これからブランド展開していける可能性のあるものって,会社全体でいってもなかなか芽生えるチャンスがなくなっているんですよね。
これまでだと,コンシューマのタイトルでブランドを立ち上げて,それをほかのプラットフォームに展開していくのが主だったんですけど,それが難しい時代になっているのは確かです。ならば,iPhoneから新しいものが出てもいいんじゃないかと思うんですよ。
4Gamer:
プレイヤー側にしても,ゲーム機という括りであれば一つのプラットフォームしか持っていなくても,そこにiPhoneのようなスマートフォンや,その他のデバイスを含めていけば,複数持っていても不思議じゃない時代ですし。
安藤氏:
そうやって新しいものが出てきたほうが,僕としても刺激的で楽しいんですよ。リメイクに関しては安定していて,ビジネスという面では凄く大事なものではあるんですけど,新しい何かがバスッと出てきたときの興奮は,僕だけじゃなく業界全体で味わっていきたいなぁっていう思いがあるんです。
4Gamer:
とくに日本のコンシューマメーカーがiPhoneに向けてコンテンツを移植するとなると,まだまだ様子見的な感じで,どこか機能をそぎ落としたようなリメイクにもなりがちですよね。
安藤氏:
売り上げが保証されない以上,気合いを入れてそこに賭けるのが企業として難しいというのは,確かにありますからね……。価格も違いますし,マーケットの規模でいうとまだまだ小さいのも確かです。
でもケイオスリングスがそうだったように,売れるものは作れるわけです。iPhoneだとこういう新しいものを遊べるよっていうイメージを,どんどん根付かせていくことで,プラットフォームとして強烈なものに育っていくはずなんですよね。
4Gamer:
そうなれば,iPhoneからほかのプラットフォームへ……という流れも生まれやすくなりそうです。
安藤氏:
実はケイオスリングスの続編を作っていく中で,僕の中ではiPhoneとその他の境界線がどんどんなくなってきているんですよ。これだったら,別にPSPでもDSでも,3DSでもいけるんじゃないか? というような手応えを感じていますし。
4Gamer:
ケイオスリングスをPSPで遊びたいといった要望は届いていませんか?
安藤氏:
ありますね。こちらとしても,チャンスがあればほかのプラットフォームで展開したいという希望は持っています。今はまだそのタイミングじゃないかな,とは思っていますが。
すべての経験が一つの線になっている
「ヤン魂。」で生まれた点も,いつかどこかで線になる
またちょっと話題を変えます。「疾走、ヤンキー魂。」第二期の終了時にインタビューさせていただいたとき,「この経験も,今後の僕の作品には生きていく」とおっしゃっていましたよね。
そのあたり,あらためて聞かせていただけますか?
安藤氏:
続けていくことの大事さ……っていうのは,やっぱりありますよね。「鈴木爆発」「ヘビーメタルサンダー」,疾走、ヤンキー魂。に……,2003年ぐらいに「自動車王」というブラウザゲームもやってました。
4Gamer:
自動車王……ですか?
安藤氏:
ええ。工場のラインを調整しながら人員を配置して実車を生み出していく内容で,レースゲームでもないのに国内の自動車メーカー8社からライセンスをとってやっていました。
今,GREEで8月に始めた「ナイツ オブ クリスタル」というソーシャルゲームも作っているんですけど,自動車王でのブラウザゲームの経験,ヤン魂。第二期でのアイテム課金の経験なんかは,これに生きてますね。
4Gamer:
これまでの経験に捨てるものはない,と。
安藤氏:
コンテンツとしてはサービスを終了せざるを得なくなったものばかりですけど,死にコンテンツっていうのは絶対になくて,僕のプロデュース作品の中では,一つ一つの点が繋がって線になっているのは実感しています。
4Gamer:
例えば,具体的には?
安藤氏:
ヘビーメタルサンダーとケイオスリングスなんて,凄いですよ。開発会社が一緒ですから(笑)。
僕はヘビーメタルサンダーというゲームが凄く好きで,思う存分やらせていただいて,思いっきりフルスイングしたんですけど,三振してしまい……。でも,ヘルメットが上にスポーンと飛んだ感じで,お客さんには喜んでもらえたかな? っていう感じなんですね。
4Gamer:
みのもんたが愉快な感じで実況してくれそうな(笑)。
安藤氏:
そういう感じだったんですけど,ちょっと奇抜なことをやりすぎたかなぁというのは確かにあって。
でも,ケイオスリングスでは同じメディアビジョンさんと,彼らが一番得意なところで組めました。プロデュースという意味では,僕は彼らが思う存分振る舞えるようなことを一緒にやって,いつかリベンジしたいと思いがあったんです。
4Gamer:
それが時間を空けたことで実現したわけですね。
安藤氏:
メディアビジョンさんとしても,ワイルドアームズの新作がしばらく出ていない状態ですし,きっと彼らの中でRPGを作りたい欲求が高まっていたと思うんですよね。それが,いい方向に爆発したのがケイオスリングスだと思います。
裏テーマとして心の中で持っていた,「ヘビーメタルサンダーの仇を,ケイオスリングスで討つ!」というものが実現できたというのは,やっぱり嬉しいものでしたね。
4Gamer:
これまでの仇を全部討ったら,安藤さんはゲームの開発を辞めちゃうんですか?
うーん……。第一部で仇ばかり残して,第二部で仇討ちを……という感じなんですよね,今。それが終わったら,とりあえず第二部は完結かもしれません。でも第三部があるかもしれないですから。
まあ,こうやって仕事をしていくと,いろいろなところにご迷惑もおかけしますし,それを一つ一つ返していく過程で,また新たに仁義を切らなければいけないものが生まれて……の繰り返しで,完結なんてできそうにないですけどね(笑)。
4Gamer:
過去に生まれた点,現在の点,未来の点を繋ぎ続けて線を張り巡らせていくということですね。
安藤氏:
そうなんですよね。
今年のE3で発表した「Moon Diver」という,Xbox 360とPlayStation 3のダウンロード専用タイトルも,僕のプロデュース作なんですけど,企画は10数年前に鈴木爆発を一緒に作った四井浩一さんなんです。
四井さんって,フリーランスとして鈴木爆発を作る前,カプコンで「ストライダー飛竜」を作った方なんですよ。
4Gamer:
ですよね。
安藤氏:
Xbox Live Arcadeでは,横スクロールアクションが熱いことになっていて,それを作ろうとなったとき,四井さんのことを思い出したんです。
というのも,例えばThe Behemothというアメリカのゲーム会社は,日本のアクションゲームに影響を受けて「Castle Crashers」(PlayStation 3/Xbox 360)のようなXbox Live Arcadeのヒット作を生み出したんです。
だったら,本家本元がもう一度作って,世界に打って出るのもいいかな? と思って,久々に四井さんを召喚して,Xbox 360での開発経験が豊富なフィールプラスと組んでもらいました。
4Gamer:
となると当然,鈴木爆発とは全然違うゲームですよね。
安藤氏:
鈴木爆発って,若かりし頃の僕の情熱がほとばしりすぎた作品なんですよねぇ……。それだけに,四井さんとまた組めるとは思っていなかったんですけど(笑)。
まあ,そういう形で,スクウェア・エニックス版で21世紀版のストライダー飛竜を作ろうとしています。
4Gamer:
それもまた,10数年前の点が,今に繋がっていると……。
安藤氏:
だからヤン魂。で生まれた点も,きっとこの先,どこかに繋がっていくんだと思いますよ。今はまだ,どこかは分からないですけど。
ソーシャルゲームの作り方は見切った
……その上で,何を作るかが大事だけど
4Gamer:
先ほど少しGREEのお話が出ましたが,昨今のソーシャルゲームについては,どうお考えですか?
モバゲーさんやGREEさんが,もの凄いマーケットを作り上げて,ビジネスの規模が大きくなっているという話は聞いていたんですけど,遊んでみると,それがなぜなのかいまいち分からなかったんですよね。ただ,僕らの“ゲーム作り”とは別のロジックでゲームを作っていることだけは把握できました。
それで,じゃあとりあえず一つ作ってみようとなったのが,ナイツ オブ クリスタルです。実際に作ってみると,ソーシャル系の方々が言われてきたような「コンシューマと作り方が違う」という言葉の意味もよく分かったんです。
4Gamer:
よく言われていることですよね。それ故,ソーシャルゲームに乗り出そうとして,苦戦している従来のゲームメーカーも多いようです。
安藤氏:
ええ。ただ同時に,彼らの言う「作り方が違う」というのは,「コンシューマの人には出来ないことを我々はやっています」という意味ではないのも分かりました。
ヒットするソーシャルゲームって,人を集め,プレイヤーが納得する形でお金を払ってもらう仕組みがあると思うんですけど,その上でこの先重要になるのは,僕らコンシューマ畑の人間が培ってきた“ゲームとしてのもてなし”じゃないかと思うんですよね。
そういう意味では,僕にとってはナイツ オブ クリスタルは斥候というか特攻部隊なんですよ。
4Gamer:
作ったことで,見えたものがあるわけですね。
安藤氏:
はい。だからソーシャルゲームに関しても,今後はいろいろと取り組んでいきます。ナイツ オブ クリスタルに関しては,正直なところ,他社さんの既存タイトルを参考にしている部分が多々あるんでけど,これは最初のタイトルだからです。
ここで手応えは得られたので,今後はオリジナルのタイトルで勝負をかけていきたいと思っています。
安藤さんは,基本的にちまたで溢れる情報を咀嚼して何かを作るんではなく,とりあえず作って自分で確かめてみるスタイルなんですね。
安藤氏:
ブラウザゲーム,アイテム課金のオンラインゲーム,ダウンロード専用ゲームと,いろいろやってきましたからね。それぞれ,やってみる前までは,なんじゃらほいという感じだったんですけど,やってみると分かるものなんです。そうやって作りながら模索するのが,僕のスタイルなんですよね。
……そういう意味では,GREEやモバゲーに関しても,僕の中では見切っています。
4Gamer:
おおっ!
安藤氏:
ただ,見切るだけじゃダメで,何をどう作るか? というのが大事なんですけど(笑)。
ソーシャルゲームで活躍されている会社さんって,コンシューマゲームでは実績のないところが多いですよね。
4Gamer:
開発経験がいっさいないところも多いですね。中には,経験のあるスタッフもいるかもしれませんが。
安藤氏:
なんかそういう流れだと,コンシューマゲームで面白いものを作っているところは,ソーシャルゲームで面白いものを作れない……というような意見もあると思うんですけど,ただ見切ってないってだけだと思うんですよ。
4Gamer:
違う場所でチャレンジするときは,これまでの経験をいったん捨てて,新しい場所の作法などを見切らなければ,ということですよね。そのうえで,これまでのノウハウをどうやって活用するかを考えるべきだ,と。
安藤氏:
ええ。例えば,ソングサマナーはiPodとiPhone市場における,優秀な特攻隊長だったんです。そこで得たデータが,ケイオスリングスに生きています。ソーシャルゲームに関しては,ナイツ オブ クリスタルがちょうどソングサマナーの立ち位置なんですよ。
だから,次はGREEやモバゲー向けに,ケイオスリングス的な立ち位置のものを作りたいと思っています。……作れるかなぁ?
iPhoneやソーシャルゲームはユニクロやドンキ
コンシューマゲームはブランドショップ
ソーシャルゲームを見ていると,僕らが“ゲーム”だと思っているもの以外も,“ゲーム”として受け入れる人達が多いですよね。誤解を恐れずに言うと,ビデオゲーム登場以降に“ゲーム”と呼ばれてきたものの定義が広がったというか。
安藤氏:
広がりましたね。
そうですねぇ……。Emporio Armaniで服を買うのも,ユニクロで服を買うのも,服を買うという意味では同じですよね。でも,服を買いに行くときの気合いの入れ方は違いますよね。財布に入れていくお札の枚数も含めて。
4Gamer:
2000円しかなかったら,ユニクロにしか行かないですよね。
安藤氏:
2000円しかないから,靴下を一足だけ買おうと思っていたのに,一足だと380円,四足だと980円なんてなってて,一足しかいらないのに四足買ってしまったり(笑)。
4Gamer:
ユニクロあるあるですね。
安藤氏:
今の消費者の多くは,お得な買い物をしたいというのがありますよね。そこで,お得な買い物をさせるのか,それとも目に見えないような価値も含めて買い物をさせるのかは,商売として違うんですけど,どちらもありですよね。
そういう意味で,iPhoneやソーシャルゲームって,ユニクロやドンキ・ホーテの売り方に近いと思うんです。一方,僕らがコンシューマゲーム市場でやってきたことは,デパートや路面店のブランドなんです。同じ鞄を買うのでも,機能的で安い鞄か,シャネルのバッグを買うか,みたいな。
4Gamer:
ゲームにお金を払うという意味では同じでも,単価はもちろん,消費者のそれに対するスタンスも違う,と。
安藤氏:
例えば,ケイオスリングスはiPhoneアプリとしては高いと言われます。確かにiPhoneアプリの中で高いですが,1500円で40時間近く新作RPGを遊べるという意味では破格だと思うんですね。
だから僕はケイオスリングスの価格設定をするとき,DSやPSPで標準的な価格,既成概念に,今までいかに僕らは守られてきたかという事実に直面したんです。
4Gamer:
ある程度決まった定価の相場みたいなものがないわけですもんね。
安藤氏:
それがもう,初めてのことで新鮮でした。
どういう値付けをしたら,お客様は納得してお金をくれるだろう? というのを本気で考えさせられたんです。
4Gamer:
そうなると,損益分岐点はどこだ? みたいな部分も手探りですよね。
安藤氏:
ええ。たいへんでしたけど,面白かったですね。
ゲームと呼ばれるものの売り方が変わってきているのを,身をもって経験できましたから。そういう意味では,ソーシャルゲームにおけるアイテムの売り方なんかは,凄く興味深く見ています。
4Gamer:
ケイオスリングスは40時間遊べて1500円,折れる釣り竿は2000円,みたいな感じですもんね。
ナイツオブクリスタルでは,そういう商売もやってるんですけど,単純比較できるものじゃないんですよね。
さっきの例えでいうと,こっちでは靴下四足で980円なのに,こっちでは靴下一足で5000円みたいな場合でも,高いほうのお店で「あっちでは四足で980円でしたが?」なんて文句を言うのはナンセンスじゃないですか。
要は,どういうお店を作っていって,どういうお客様に満足していただくかという問題であって。
4Gamer:
満足してもらえれば,どんな価格設定もアリですもんね。
安藤氏:
そういう意味で,売り方と仕掛け方は,10年前や20年前に比べると生々しくはなっていますよね。でも,お客様に納得していただけるかどうかが重要なのは変わらないわけで。
4Gamer:
個人的には,ゲームを含むエンターテイメント全般って,受け手の時間と金銭を引き替えにして,経験を売るビジネスだと思うんですね。
現在,ソーシャルゲームで行われていることは,果たして経験を売っているのか,それとも別の何かを売っているのか,という部分がいまいち見えないんですよ。
安藤氏:
実際,ソーシャルゲーム側の方達からは,明確に「経験なんていらない」みたいな意見も出ていますからねぇ……。
でも僕はコンシューマでやってきた,“経験を売る”という部分のノウハウを詰め込めないものかと思っています。脳みそにひたすら快楽を与えて,お金をガンガン使わせるみたいなやり方は,僕にはできません。それはプライドの問題なんですよね。どこにプライドを持つかを含めて。
4Gamer:
大きな売り上げを記録できているという部分にプライドを持つのだって,決して非難されるようなことではないですからね。
安藤氏:
ええ。単純に,僕にはできないっていうだけで。
これからはソーシャルゲームにも,
ビアンカとフローラのような楔を打ち込んでいく
4Gamer:
こういうことを言うと,我ながら年を取ったなぁとも思うんですけど,今のソーシャルゲームに夢中になっている人が,10年後,20年後にそのことを語りたくなるだろうか? という部分が疑問なんです。もちろん,まだソーシャルゲームが生まれて10年なんて経っていないので,何とも言い難い部分ではあるんですが。
例えば,「ドラゴンクエストV」でビアンカとフローラ,どっち選んだ? みたいな話って,最初に遊んでから10数年経っていても普通に盛り上がれるんですよね。共通言語であり,共通体験だからこそ。
安藤氏:
あれは凄いですよねぇ。
そういえば以前,新宿の三丁目のバーで会社の人間と飲んでいたとき,ドラクエの話をちょろっとしていたんですよ。そうしたら,カウンターで一人で飲んでいた50歳ぐらいのサラリーマンの方が,「ドラゴンクエストに関係している方なんですか?」って話しかけてきたんです。
4Gamer:
おお……。
安藤氏:
どういう方か分からないので,「ちょっとは関係してますよ」ぐらいに返答したんですけど,そうしたらドラクエVのことを語り始めたんです。「ビアンカとフローラのどちらを選ぶべきか,本当に一晩悩んだんですよ」って。白髪交じりのおじさんが,そういう風に語りたくなるっていうのは,ゲームの領域を越えているというか,心に残った経験という意味で,もの凄いくさびをプレイヤーに打ち込んだんだなぁって,あらためて気付いたんですよ。
4Gamer:
10代の頃にあの選択を突きつけられたプレイヤーにしてみれば,その後の人生に影響を与えるぐらいのトラウマものなんですよね,あれ。でもそうか……当時大人だった人でもそうなんですね。
安藤氏:
フローラを選ぶとイオナズン使えるし,ムチ強いし……みたいなある種デジタルな選択を優先できず,夜中にビアンカから「あの人と結婚したほうがいいよ」みたいなことを言われて揺さぶられたりね。
映画や文学作品に接しているときのような逡巡を,きちんとプレイヤーに突きつけているんですよ。しかもそれが,若い人だけでなく,それ以前のメディアに親しんできたような世代の人達にも影響を与えているというのは,ゲームの可能性を証明できていると思うんです。
4Gamer:
自分で操作するからこそ,感情移入もより強くなるという,その典型例ですよね。
ええ。ゲームの面白さって,そこだと思うんですよね。だからそれを,どうやって今どきのシステムやプラットフォームの上で,遊びに組み込んでいけるかというのは,僕自身も強く意識しています。
堀井雄二さんが,どこまでそういう意識を持っているのか分からないですし,単に自分の作品を面白くするための方策として,ごく自然に出してきているものかもしれません。
でも僕らはそこから何かを勝手に受け継いでいて,どこかしら「スクウェア・エニックスを舐めるなよ」みたいな魂を持っているんですよ。
4Gamer:
現状,ソーシャルゲームでそういった思いは形にできていますか?
安藤氏:
いや,まだまだですね。スクウェア・エニックスのソーシャルゲームで遊んでいる人達が,「スクウェア・エニックスのゲームだから,きっとこうだろう」みたいに思ってくれているとしても,まだそれに応えきれていないのは確かです。
じゃあ,何が足りないのか? ってなったら,やっぱりビアンカとフローラの部分ですよね。でも,ボタン一つだけを押して進めるようなゲームでも,何かが心に引っかかったり,心に刻みつけられるようなものは,実際にソーシャルゲームを作ってみた結果として,実現できそうな手応えはありました。次は,そういうことにも挑戦するつもりです。
4Gamer:
プラットフォームが違えば,それぞれで受け入れられる形は異なりますが,それでも心に残るものは作れる,と。
安藤氏:
10年,20年して思い出してもらえるような,思い出になるようなものを作っていきますよ。
4Gamer:
iPhoneだけでなく,そちらも期待しています。
今日は長い時間,ありがとうございました。
インタビュー中でも触れているとおり,安藤氏は現在プロデューサーとして,複数のプラットフォームで複数のタイトルを手がけているという。
iPhone/iPod touch用でいえば,聖剣伝説2は2010年12月21日より配信がスタートしたばかり。ケイオスリングスの続編や,「ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争」を,首を長くして待っている人も多いだろう。
さらに,PS3/Xbox 360用の横スクロールアクションであるMoon Diverは,アクションゲームファンのみならず,四井浩一氏の新作という意味で,ある程度の年齢に達しているゲーマーならば,注目したいところ。
そして,ソーシャルゲームに関しても,今後どのような作品が生まれてくるのか,興味は尽きない。
ひとまず現時点では,昨年掲載したインタビューで安藤氏が語っていたことは,ほぼ実現したといっていいだろう。では,今回のインタビューで語ってくれたことは,一年後の今頃,どうなっているのだろうか?
「ケイオスリングス」公式サイト
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