インタビュー
リメイクや移植ばかりじゃつまらない! 「ケイオスリングス」で有言実行を体現したスクウェア・エニックスの安藤武博氏に,次の一手やソーシャルゲームについて聞いた
4Gamerでは,その模様と,直後に行ったインタビューをまとめて掲載したのだが,世間での反応を見る限り,その発言については,まさに賛否両論。議論を巻き起こすことも安藤氏の目的の一つであったとはいえ,その時点で発言を裏付けるような作品がリリースされていなかったため,説得力という部分で少々弱かったのは否定できない。
だが,2010年4月,iPhone/iPod touch用のオリジナル新作RPG「ケイオスリングス」がリリースされ,全世界15か国の有料アプリランキングで1位を獲得。1500円(税込)という価格についても,「高い」「思ったより安い」など,さまざまな受け止め方があったようだ。
その後,4Gamerが2010年の東京ゲームショウで行ったUstream配信で,安藤氏は「『ケイオスリングス』の続編を開発中」であると発表。これが実現するのも,「コンシューマゲームレベルのクオリティを持つゲームを,適切な価格でリリースしていくことで,このiPhone/iPod touchアプリの市場をきちんとした形で確立させたい」という安藤氏の思いが詰め込まれたケイオスリングスが,市場に受け入れられたからこそだろう。
4Gamerでは,こうした状況の変化について安藤氏が現在考えていることや,安藤氏がiPhone/iPod touch以外のプラットフォームで手がけていることなどを,まとめて聞いてみた。
「ケイオスリングス」を分割配信にしなかったのは
最後まで遊んだうえで評価してほしかったから
4Gamer:
たいへんご無沙汰しております。
とても古い話で申し訳ないんですが,2009年の東京ゲームショウのタイミングで,安藤さんにはiPhoneアプリの価格設定のお話を中心に聞かせていただきました。そのときに,「PSPクオリティのものを作って,適正だと思う価格で売ります」というようなことをおっしゃっていたと思うんですが……。
ええ,しましたね。
実はあのときに作っていたのが,「ケイオスリングス」だったんですよ。すでに戦闘シーンやフィールドなんかは動いているレベルでした。
だから「iPhoneから見たゲームの未来」という講演でも,見せようと思えば見せられたんですけど,リリースの近いものからにしておこうということで。
4Gamer:
それで「ソングサマナー 歌われぬ戦士の旋律 完全版」「国破れて山河あり」だけの紹介だったんですね。
安藤氏:
はい。ソングサマナーって,もともとクリックホイールのiPod用に作ったゲームなんですけど,当時,ハードの限界ギリギリに挑んでいたんですね。それをiPhoneに移植したときに,iPhoneの性能を生かし切れてない感じがしたんです。そこでケイオスリングスを作り始めたという流れがあるんですよ。
実はあのときもポケットにはプロト版のケイオスリングスがあったんですけど,まずはソングサマナーと国破れて山河ありを押し出したかったので,「新作も作っていますよ」という話だけにしておきました。
そういえば,オリジナルの新作で,キャラクターデザインを直良有祐氏が手がけている……というところまでは,インタビューでも聞かせていただきました。
安藤氏:
ああ,そうですよね。あっという間だ……。
あの時点で「今のiPhoneアプリって安すぎるんじゃない?」って,僕としては凄くまっとうなことを言ったつもりだったんですけど,それに見合うコンテンツを証拠として出してなかったから,説得力はいまいちでしたよね(笑)。
4Gamer:
実際,ゲーム業界関係者から「よく言ってくれた」という声があがる一方で,「そんなこと言ってるからダメなんだよ」と冷笑するような方もいらっしゃいましたし。
安藤氏:
あの時点ではケイオスリングスにかける腹づもりって,社内の人しか知らない状況だったんで,そこはあまり伝わらなかったですよね。しょうがないです。
でもケイオスリングスさえ出せば,必ず理解してもらえるだろうという確信はありました。
4Gamer:
で,年が明けて4月にケイオスリングスの配信が始まったわけですが,1500円(税込)という価格を聞いたとき,ちょっと意外に思いました。2000円は超えるんじゃないかと予想していたもので。
安藤氏:
凄く悩んだところではあるんですけどね。
実は会社に対して価格の提案は何回もしていたんですよ。それこそ,章ごとに分割して売るとか。あと,ケイオスリングスって四つのペアの中から一つを選んで進めていくんですけど,ペアごとに分割して売って,全部のペアで遊ぼうとなるとそれなりの価格になるというアイディアもありました。
でも,2009年末に僕の独断でそれはやめたんです。
4Gamer:
それを決意したのはなぜですか?
安藤氏:
例えば章ごとに分割した場合,一章を買ってくれた人が必ず最後まで遊んでくれるとは限らないんですよね。
最後まで遊ぶことで,序盤から出てくる伏線が回収されてストーリーの全貌が分かるものなのに,そこにたどり着いてもらえないのは,作る側として残念なんですよ。
4Gamer:
売り手としてだけでなく,作り手の気持ちとして,ということですね。
安藤氏:
ええ。一回買っていただいたなら,最後まで楽しんでいただいて,そのうえで評価していただきたいんです。商売的には分割したほうがいいという考え方もありますし,たぶん,それはそれで間違っていません。
でも,ゲームって最後までやらないと分からないことも多々あるじゃないですか。パッケージのゲームでも,序盤だけやって途中でやめちゃうことはあると思いますけど,「続きが気になるけど,この先も有料だからもういいや」って思われてしまうとしたら,それは売り方がそのゲームに合ってないってことだと思うんですよね。
4Gamer:
どこの段階でやめるかはプレイヤーの判断ではありますが,そこでのハードルを下げたほうがいいという姿勢ですね。
安藤氏:
はい。実際,去年の東京ゲームショウの段階では分割配信でいこうと考えていましたが,やっぱり遊んでくれる人達のことを考えた場合,完全版として配信するのがベストだろうなって。
iPhoneとiPadで別アプリとしてリリースしたのは
市場の可能性を探りたかったから
ケイオスリングスは,iPad版も別アプリとしてリリースされました。別アプリにしたのはなぜですか? 個人的には,両方買えということなのか! という気分に少しなったんですが。
安藤氏:
iPhoneとiPadの両方を持っている方にしてみると,そうなりますよね。よく分かります。
ただ両方をお持ちの方から2回お金を搾り取ろう! というのではなくて,iPad版を別アプリとしてリリースすることで,iPadのマーケットの今後のことを考えてみたかったんですよ。
会社全体の取り組みとしては,ケイオスリングスのように別々に出しているものだけでなく,「ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン コンプリート Larger-than-Life Gallery」のように,一つでiPhoneにもiPadにも最適化されているユニバーサルアプリも出しています。
4Gamer:
それぞれのやり方で,マーケットの動向をとらえようということですか?
安藤氏:
iPhoneとiPadのマーケットが,それぞれどういう形で成立していくのかを見極めないといけないんです。
というのも,この先もっともっと凄いものを作っていきたいという思いがあるからなんですよ。そのためには,きちんとビジネスとして成立させなければいけないわけです。
4Gamer:
確かに,マーケットの規模に応じて,開発にかけられる予算規模も変わりますし。
安藤氏:
そうなんですよ……。iPhoneは,ある程度のマーケットになってきました。でもiPadのマーケットが小さいままだなとなれば,iPhoneよりカジュアルな方向に寄せる必要があるかもしれないわけです。
でもiPad単体でマーケットが確立する可能性があって,そこでビジネスも成立するとなれば,それこそコンシューマゲームに匹敵するようなものもガンガン作っていけますよね。
4Gamer:
つまり,ケイオスリングスを使って,そのあたりの感触を探ってみたかったわけですね。
安藤氏:
チャンスの模索をしました。
4Gamer:
模索の結果,答えは出ましたか?
安藤氏:
実際のところ,僕らが思っていたよりiPad版も売れたんですよ。買ってくださった方からはご好評いただけていますし。
普及台数がiPhoneと比べると少ないですから,絶対数ではとうてい及ばないですけどね。
4Gamer:
となると,今後もiPad向けの何か……というのもありそうですね。
ただ実際のところ,iPhone版もiPadで遊べるんですよね。画面を引き延ばすこともできますし。
ただ,やっぱり単純に引き延ばすだけだと,グラフィックス的に不満があったんですよ。それもあって,iPadのディスプレイサイズと解像度に最適化した形で綺麗なグラフィックスを描いたら,高い商品性が出るんじゃないかとも考えました。
実際にやってみたら,ディスプレイを手で持つ……つまり目との距離が近い分,ハイデフのゲームを40インチのディスプレイで遊ぶのと遜色ない迫力があったんです。そこの価値を認めていただけると嬉しいですね。
4Gamer:
iPad版のケイオスリングスには,そういう価値もあるということですね。
そういえば,iPad版リリース後には,iPhone版のアップデートもありましたよね。
安藤氏:
ええ。iPhone 4のRetinaディスプレイに対応させたかったんです。初めてRetinaディスプレイを見たとき,アナログのテレビからデジタルのテレビに買い換えたときぐらいの衝撃を受けたんですよ。だから,それには対応させるべきだろうと。
プレイヤーさんにとっても,ある日突然,アップデートで画質が急激に変わるのって,従来のゲーム機ではありえないことなので,驚いてもらえるでしょうし,「俺のiPhoneすげえ」って思ってもらえるじゃないですか。そういう衝撃を実現しやすいのが,ケイオスリングスというコンテンツだったんですよね。
4Gamer:
急に高精細になってびっくりしました。
安藤氏:
やっぱり,iPhoneにしろiPadにしろ,そういうガジェットじゃないと体験できないものというのはあって,それを持っている人達に喜んでもらいたいんですよね。そういう意味のアップデートでした。
タイトルごとにユーザーインタフェースを見直せるから
作れば作るほど,良くなっていく
スクウェア・エニックスがリリースしたiPhoneアプリって,ちょくちょく購入しているんですけど,一つ一つ,ユーザーインタフェースが違いますよね。
それ自体,面白いと思うんですが……例えばケイオスリングスで遊んでいるときなんかは,グラフィックスが綺麗な分,自分の指が邪魔でキャラが見えなかったりするのが嬉しくないんですよ。
安藤氏:
ケイオスリングスに関しては,画面内のどこをタッチしてもキャラクター移動の操作ができる「どこでもコントローラ」ができたとき,一つ進化したなとは思いました。でも,指で隠れてしまうということに対しての不満は,開発中にもありましたね。
ただ,コントローラの位置が固定されるストレスよりも,コントローラの位置がどこでもいいということによる快適さのほうが上回っていたので,これを採用したんです。
とはいえ,あれで完成したとは思っていないですから,アプリによって快適な操作方法は常に模索しながら改善していきます。
4Gamer:
ハードウェアとして固定されたボタンがないからこそ,作品単位でコントローラを考えられるわけですからね。
安藤氏:
そうなんですよ。毎回,一から考えています。
でもそこでは,これまでに培ってきたノウハウが生きてくるんです。だから,出せば出すほど良くなっていくし,良くしていかなければいけないんですよ。
4Gamer:
ハードウェアとして固定されているものではないだけに,工夫のしがいもある,と。
安藤氏:
だからこそ,これまで培ってきたノウハウが生きてくるんです。
例えば,「ここまでやらないと気持ち良くならない」というラインを,これまでの経験で学んでいます。でも,そこにもまだ問題が残っているなら,次はそれを改善しなければならないわけです。だから,作れば作るほど,作品をリリースすればするほど良くなっていくものだと思うんですよ。
前作を越えられないと,ユーザーレビューに「前作より遊びにくい」みたいに普通に書かれちゃいますしね(笑)。
4Gamer:
iPhoneの場合は,とくにそれが顕著ですよね。買おうかな? って思ってApp Storeを覗いたら,軒並み批判的なレビューがついていたりすると,さすがに躊躇しますし。
安藤氏:
そうなんですよ。とくにiPhoneでスクウェア・エニックスのゲームを遊んでくださっている方達って,作品単位というより“スクウェア・エニックスのiPhoneアプリ”全体で見ていると思うんですよね。
4Gamer:
コアなゲーマー以外の人も遊ぶプラットフォームだと,必然的にそうなりますよね。
個別のタイトルというより,スクウェア・エニックスというブランドでゲームを選んで,それが気に入らなかったら「スクエニってダメじゃん」みたいな評価になりがちというか。
安藤氏:
ええ。だから違うタイトルを作っていても,全部繋がっている感じは凄くあります。こういうのも,コンシューマゲームの開発にはあんまりないですよね。
4Gamer:
そういえば,ケイオスリングスでは,デフォルトだとホームボタンが左側に来るようになっていますよね。
昨年のインタビューでも安藤さんが,「横にしたときにホームボタンを押して遊ぼうとして,ひたすらアプリを落としまくってる人がいたりとかして」と言っていましたが,ケイオスリングスではそれに対する回答を用意したんだなと感じました。
ただまあ,結局どっちがベストか? という結論にまでは至ってないんですけどね。ケイオスリングスに限らず,うちのiPhoneアプリは,オプションで天地を変えられるようにはしてあるんですが,デフォルトをどちらにするかは毎回議論が分かれるところなんです。
それを踏まえたうえで,ケイオスリングスではホームボタンを左側にするという選択をしたんですが,こういう形でプレイヤーさんに対してボールを投げているんですよ。これで,どう? って。
4Gamer:
そこでもプレイヤーとコミュニケーションしているわけですね。
個人的には,コンシューマゲームに慣れている分,右側にホームボタンがあると押したくなってしまうんで,「なるほど!」とは思いました。
安藤氏:
そういう風に思ってくださる方が多ければ,次の作品でもそれが採用される可能性が高まるかもしれません。アプリごとに適切なものを考えて変えていくという,根本的な姿勢は変わりませんけど。
……こういうのを考えられるのが,クリエイターとしてiPhoneに取り組むうえで,凄く楽しいんですよ。
4Gamer:
左側の十字キーで移動! 右側のボタンで攻撃! みたいなもの以外を考えられるわけですもんね。
かつて「パックランド」という意欲作もありましたけど(笑)。
安藤氏:
あれは凄かったですよね。
結局みんな2コンで遊ぶっていう(笑)。
4Gamer:
そうやって,UIについて常に考えているというのは分かりました。
あと,同じく昨年のインタビューでは,「十字キーとAボタン,Bボタンの呪縛から離れることが,なかなかできない」ともおっしゃっていましたが,あれから1年経って,その呪縛からは解き放たれましたか?
安藤氏:
ジャンルによっては,まだまだボタンの呪縛はありますね。
でも,去年の段階ではケイオスリングスにどこでも十字キーという発想はなかったんですが,これが生まれたことで,一つの固定概念をぶち破れました。そうすることによって,さらなる進化の可能性も見えましたし。
だからこれも,開発を重ねていくごとに,徐々に解き放たれるようになるのかなと。
新しいプラットフォームだからこそ,
柔軟に受け入れてもらえる
現在は「聖剣伝説2」や「ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争」(以下,FFT)のiPhoneへの移植を進めているんですよね。内容はともかく,UIに関してはどのようにしているんでしょうか。
安藤氏:
とくに聖剣伝説2は,あくまでもアクションRPGですから,どこでも十字キーは採用していなくて,十字キーを左側に固定しています。指が邪魔でキャラクターが見えないというのが,アクション系のゲームには適していませんからね。
4Gamer:
FFTは,ソングサマナーのような感じをイメージすればいいんでしょうか?
安藤氏:
そうですね。ユニットを指で触って動かせるというのは,ある意味では,PSPよりも遊びやすくなるのかなと思っています。もちろん,それだけじゃなくていろいろな工夫はしていますが。
4Gamer:
これらを移植するお話は,いつ頃から動いていたんですか?
安藤氏:
別にセットで動き始めたわけじゃないんです。聖剣伝説2は,国内の携帯電話向けリメイクの評判が良かったので,iPhone版も検討しようというのがそもそもです。
FFTの場合は,どのゲームをリリースしてもレビューには,そのゲームの感想と同時に「FFTを遊びたい」という要望が添えられているんですね。で,そこまで期待されているのであれば……と。
4Gamer:
そういう要望は,日本からのものですか? それとも海外からの?
安藤氏:
このご要望に関しては,海外のお客さんからのほうが目立ちましたね。PSPというプラットフォームが,海外ではさほど伸びていないというのも事情としてはあるようです。
4Gamer:
となると,やはり世界中で同時に勝負をできるプラットフォームとしても,iPhoneは魅力的であると。
安藤氏:
やっぱりそうなりますよね。おかげさまでケイオスリングスは,世界15か国の有料アプリランキングで1位を獲得できましたし。
4Gamer:
ケイオスリングスって,ストーリー自体はいわゆる“JRPG”ですよね。それが世界中で受け入れられたというのは,日本のゲーマーとして嬉しいです。
安藤氏:
そうなんですよ。開発元のメディアビジョンさんも,「ワイルドアームズ」を手がけていた,いわば“JRPGの本家本元”みたいなところですし。なので正直なところ,日本国内はともかく海外で売れるのかな? というのは,やってみないと分からない部分が多々ありましたね。
でも,あの内容で海外でも受け入れられたというのは,iPhone/iPod touchでゲームを遊ぶ方達は柔軟なのかなぁ,と。
4Gamer:
「このジャンルはこういうものだ」「こうでなければならない」みたいな固定観念が薄いのかもしれませんね。日本でもコアなゲーマーになればなるほど,自由度が高ければ凄い! みたいな評価をしがちですけど,それとそのゲームが面白いか面白くないかは,ゲームデザイン全体のお話であって,そのゲームにマッチしてればどっちでもいいというか。
ケイオスリングスの成功を見ていると,そういう当たり前のことをあらためて認識させられます。
安藤氏:
そうなんですよね。結局,シチュエーションを変えると新鮮に見えることっていうのはたくさんあって,僕はそれを「新しい」と言い切っていいんじゃないかと思っているんです。
僕が20代の頃は,ゲームシステムからテーマからひたすら奇抜なものばかり作ってきて,何もかもが新しくないと「新しい」とは言っちゃいけないという原理主義的なところがあったんですけど(笑)。
4Gamer:
年齢と経験を重ねることで,安藤さんご自身も柔軟になったと。
安藤氏:
ええ。例えば同じステーキを食べるにしても,レストランで食べるのと屋外で食べるのでは雰囲気が違うし,味だって違うものに感じるわけじゃないですか。
ゲームの場合もシチュエーション含めての娯楽という側面があって,これまで蔑称的にJRPGと呼ばれていたものであっても,iPhoneというプラットフォームに乗っかったときに,それまでの評価がある程度すっ飛んでしまって,もう一度,一つの作品としてとらえてもらえるんです。
4Gamer:
新鮮に見えるわけですからね。
安藤氏:
実際,iPhoneアプリはアメリカ市場がメインですから,アメリカの人達に受け入れられる世界観やストーリー,キャラクターデザインをするべきだという考え方もありますけど,僕は決してそうではなくて。
アメリカの人達が不快に思わないようにすれば,日本人が思うように作っても,楽しんでもらえるだろうという直感があったんです。ただ,その直感に従って突き進めたのは,iPhoneというまだ新しいプラットフォームだからこそなんですよね。
4Gamer:
例えばXbox 360用にしよう! となったら,現地でXbox 360のゲームで遊びまくっている人達に寄せていかないと,なかなか難しいですよね。
安藤氏:
結局,まだiPhoneでJRPGをやったことがない人が多いから,凄く新鮮に感じてもらえたんですよね。
その上で,向こうで流行っているものを意識しないで,僕らが一番いいと思っているものを展開したほうが,クオリティもコントロールしやすいですから。
4Gamer:
逆にアメリカのゲームメーカーが,iPhone用にJRPGみたいなものを作ります! となっても,それはそれで違いますもんね。
安藤氏:
向こうのステーキの名人にお寿司握ってもらうようなもんですからね(笑)。
僕らはメディアビジョンさんも含め,JRPGを作ることに関しては長い経験を持っているわけです。そういう得意な部分を100%,120%まで投入していけば,いいものは作れるんですよ。そういったことは意識していました。
「ケイオスリングス」では,
RPGの楽しさを手軽に味わってもらおうとした
iPhoneというプラットフォームで展開することによって,新鮮さをうまく演出できるというのは分かりました。ただ,実際のところユーザー層はどうなんでしょうか?
安藤氏:
国内も海外も,ほかのゲーム機に比べると,年齢層はちょっと高めかもしれないですね。プレイヤーさんから寄せられる意見を見ても,「久しぶりにスクウェア・エニックスのゲームで遊びました」という声は決して少なくないです。
そのあたりから判断すると,「ファイナルファンタジー」なら「VIII」や「IX」まではやったけれど,PlayStation 2時代には卒業してしまったであろう40代の方も多いんです。その次が,30代後半ぐらいかな,と。
4Gamer:
それは確かに高めですね。そして,そこにケイオスリングスが受け入れられるというのは,意外なような納得できるような……。
安藤氏:
そういう意味では,意識的に間口の広いゲームにしたのが良かったのかなと思います。例えばFFのナンバリングタイトルであれば,前作のバトルシステムを超えなければならない宿命を背負っているんですけど,完全新作だとそれがないんですよね。
だから久しぶりにゲームで遊ぶ人でも楽しめるよう,シンプルにしようと考えました。
4Gamer:
攻撃のバリエーションにしても,基本はソロとペアぐらいですもんね。
安藤氏:
それぐらいなら,誰でも分かるだろうと。
あとは,「ジーン」というスキルの概念もありますけど,これも最新のRPGに比べたら相当簡単な仕組みにしました。iPhoneで遊ぶ時点で新鮮なので,それ以上,奇抜にしてもな……というのがあって。
だって,さっきの例でいうと,屋外でステーキを食べるだけで新鮮なのに,さらに水着のウェイトレスが! とか,食べた瞬間に打ち上げ花火が! みたいになると,喜んでくれる人もいると思いますけど,ちょっと情報量が多すぎかな? と思うんですよ(笑)。
4Gamer:
水着のウェイトレスまではセーフですね。
安藤氏:
まあ,セーフですね(笑)。
そんな感じで,ステーキ自体は皆さんが慣れ親しんだおいしさですけど,環境を変えたので新鮮に感じられますよ,という具合にしたかったんですよ。
なのでターゲットとしても,コンシューマのゲームを長年ガンガン遊んできている人よりも,iPhoneで久々にゲームに帰ってくる人達のことは,重視しました。
4Gamer:
去年の段階でも安藤さんは「iPhoneでPSPクオリティのものを作る」とおっしゃっていましたよね。現状,PSP用としてリリースされているタイトルを眺めてみると,PlayStationよりPlayStation 2に近いけど,決してPlayStation 3のレベルではありませんよね。さまざまな意味で。
結果論なのかもしれませんが,PlayStationでゲームを卒業してしまって,PlayStation 2にもPlayStation 3にも行かなかった人にとって,iPhoneってわりと順当な次のステップになり得るのかな,と感じました。
安藤氏:
ああ,確かにそうかもしれませんね。
iPhoneって当たり前だけど電話もできますし,常に自分の手元に置いておくデバイスじゃないですか。テレビの前に座って,「さぁ,ゲームで遊ぶぞ!」というのではなく,手軽に楽しめるものですし。
また繰り返しになりますけど,そうなったときに,重いチュートリアルが始まっちゃったらポップじゃないじゃないですか。
4Gamer:
だからこそ,ケイオスリングスはシステム的にシンプルにしたと。
安藤氏:
こんなのが動くのか,凄いなぁとか。レベルがサクサク上がって気持ちいいなぁ,とか。そういう楽しさを味わってもらいつつ,モチベーションを維持してもらうためには,どんなバランスにすればいいのか? というのは,凄く考えましたね。
ただ,ケイオスリングスでもその部分に関しては,100%成功したとは思っていません。
4Gamer:
どんなところがうまくいきませんでしたか?
ケイオスリングスって,レベルがカンストすると,ラスボスを一瞬で倒せてしまうバランスになってるんですね。これはつまり,ひたすらレベルを上げまくる人は,少ないだろうという判断で,それでも適度にレベルを上げておけばクリアできるようにしたわけなんですが……。
実は,けっこうな方がレベルをカンストさせて,「ラスボスが弱い!」という感想をくださいまして。嬉しい悲鳴ではあるんですが(笑)。
4Gamer:
その部分の読み違えですか。
安藤氏:
ここまでコアゲーマーのような遊び方をする人が多いとは思っていませんでした。
もともと,RPGにおける成長の楽しさを手軽に味わってもらって,「RPGって楽しいね」と思ってもらいたかったんですよ。RPGの楽しさを再構築するような形で。ところが,っていう。
なので現在,メディアビジョンさんと一緒に作っている次回作では,このあたりのバランスも考え直さないといけないですよね。手軽に遊びたい人のニーズは満たしつつ,やり込み派の人達にも満足してもらえるように。
4Gamer:
でもそれって,iPhoneに限らず,昨今のゲームにおける難問の一つですよね。きっと,確固たる正解はないでしょうし。
安藤氏:
そうなんですよねぇ。こういう,いわば王道のゲームバランス調整をiPhoneでするようになるまで,もっと時間がかかると思っていたんですけど,思っていたよりもそういう時代が早く来てしまいました。
4Gamer:
ケイオスリングスで時計の針を進めてしまったというか。
安藤氏:
それもあるんでしょうねぇ。
ただ,そういう遊び方をする人達が多いというのは,スペック云々は抜きにしても,iPhoneやiPod touchがゲーム機であることの証明だとも思うんです。僕らもそうなると思ってゲームを作ってきましたけど,一気に早まったなぁ,と。
4Gamer:
ちょっと話は変わりますが,iOS 4.1では,フレンド同士でスコアなどを競い合える「Game Center」という機能が追加されましたが,これについてはどうお考えですか?
安藤氏:
相性のいいコンテンツと,悪いコンテンツがありますよね。そういう意味では,RPGは相性が悪いと思います。逆に,僕らのコンテンツでいうと「CRYSTAL DEFENDERS」みたいに,得点を競い合いやすいものであれば,相性がいいと思いますし。
相性がいいコンテンツであれば,Game Centerも積極的に活用していきたいんですけど,Game Centerがあるから対応するというのではなくて,Game Centerによって元々のコンテンツがさらに面白くなるかどうか,というのが判断基準です。そこはきちんと見極めないといけないですよね。
4Gamer:
確かに,RPGで無理矢理対応させて,経験値稼ぎ競争をしたとして,それでそのゲーム自体がより楽しいものになるかというと……。
安藤氏:
それはそれで面白いかもしれないですけど,そのゲームが持つ本質的な面白さとはずれちゃいますよね。ゲーム内のミニゲームみたいなものだけが対応しているとかであるなら,まだしも。
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