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[GDC 2010]「なんでもできるようになった今だからこそ,細部にこだわりたい」――山岡 晃氏が語る理想のゲームサウンドとは
今回の山岡氏の講演は,小手先の技術論というよりは,“心構え”や“考え方”を説くといった内容で,その立脚点も「ゲームサウンドとはそもそも何か」「サウンドで人に何かを伝えるにはどうすればいいのか」といった,極めてシンプルなテーマに基づくもの。
ゲームのサウンドを聞いた時に,それによってプレイヤーに驚いてほしいのか悲しんでほしいのか,あるいは喜んでほしいのか。サウンドエフェクト一つをとっても,そこにはサウンドデザイナーの意思が存在するはずであり,「ただ音を当てる」だけではなく,人にどう気持ちよく聴いてもらうか,どう印象に残らせるかを考えてほしいといった趣旨。この中で山岡氏は,細かい“ディテール”こそが大事と語る。
山岡氏ははじめに,自身の簡単な略歴を説明しながら,「私は,ゲームの制作に20年間携わってきました。今日はこのGDCという場で,“日本”のクリエイターとしての私の考え方をお伝えできればと思います」と挨拶し,本題に入っていった。
音楽が情感に訴えやすいことは理解できるし,ことゲームに限ってみても,格闘ゲームしかりシューティングしかり,その爽快感や感覚的な気持ち良さは,往々にして,打撃音や銃撃音とセットで語られることが多い。その前提を踏まえたうえで,氏は「では,どうすれば情感に訴えるサウンドが作れるのか」と聴衆に語りかける。
ここでゲームサウンドのテクニックを披露するのかと思いきや,それとは方向性がかなり異なる,興味深い例を挙げた。曰く,
・人間は,「これはほかの人との共同作業です」といった途端に手を抜く
・人間は,ものを食べているときの方が承諾を得やすい
・人間は,重たいものを持っている時に言われた言葉を重要だと思いやすい
など。つまり,ほんの小さな細かい要素が,結果として人の意思決定や感情に大きな影響を及ぼすことがあるということだ。そして山岡氏は,ゲームにおけるサウンドについても同じことがいえるのではないか? と問いかける。
実際に,ゲームの効果音が始まるタイミングを例に,
・画面上で見えるタイミングよりも少し前に音を鳴らすと,不安感が煽られる
・画面上で見えるタイミングよりも少し後に音を鳴らすと,安堵感が得られる
また,音をあえて鳴らさない“無音”にも大きな演出効果があり,「人間の感覚として音というものをどう捉えるのか」を踏まえたうえで,音楽や各種効果音を作ることが大切であると述べていた。
山岡氏は,「God is in the detail of the arts」(神は細部に宿る)という言葉を引用しつつ,「ゲーム制作の環境もリッチになり,やりたいことはなんでもできるようになってきました。だからこそ,細部へのこだわりが大切になるのではないでしょうか」とまとめる。
最後に,「本当は,Tips的な細かい話をたくさんしてもよかったんですが,今回は大枠の考え方として,これまで述べてきたような視点があるということをお伝えしたいと思い,このような内容にしました」というあいさつで,講演を締めくくった。
彼らは,そのような,時代を越えて変わることのない要素,いわゆる“芯”や“視点”といったものをこそ伝えたいのかもしれない。
ともあれ,「オーディオが面白ければ,ゲームも面白い」――今回の講演名ではないが,ミュージックや効果音が印象に残らず“名作”足りえたゲームというものが,正直あまり思い浮かばないのは確かなところ。
その意味でも,グラスホッパー・マニファクチュアに参加した山岡氏がこれからどんなゲーム音楽を手掛けるのか,ゲームファンの一人として非常に気になるところだ。今後姿を見せるであろう氏の最新作を,今から楽しみに待ちたい。
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