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[GDC 2010]アイデアはだらだら書かず1文に。とにかくシンプルなPixar Animation Studiosのストーリー作り
Pixarといえば「トイ・ストーリー」や「WALL・E/ウォーリー」といった,CGアニメーションを得意とする会社であり,ゲームは開発していない。だが,CG技術の高さもさることながら,子供から大人まで楽しめるストーリー作りの巧みさも評価されており,公開された長編映画に興行的成功を収めたものが多いのは,ご存じのとおりだろう。
直接ゲームに関わっていないとはいえ,そんなヒットメーカーのストーリー作りの手法が聞けるとあって,会場はあっという間に満席に。中には立ち見をする人もいたほどだ。
Luhn氏は,ストーリー作りの始まりとして,ディレクターによるアイデア出しを挙げた。おおもとのアイデア自体は誰が出しても問題ないが,最終的にはプロジェクトを取り仕切る人がストーリーのアイデアを明確にし,スタッフ全員で共有するのだという。ただしこのときに長々とあらすじを語ったり,テキストに起こしたりするといったことはしない。わずか1センテンス(1文)で書き表すのだ。最初の段階で1文で書き起こせないようなアイデアは複雑過ぎ,ストーリーとして作りこんでいくには不向きなのだという。
アイデアを1文で表現したあとは,それを元に肉付けを行っていく。Luhn氏が定義するストーリーの構成要素は
・Inciting Incident
・Progressive Complications
・Crisis
・Climax
・Resolution
の六つ。Expositionとは直訳すると,解説や説明にあたる言葉であり,ストーリーの導入部分だ。ここで物語の世界の設定や,メインキャラクターの説明を行う。
Inciting Incidentは,主人公の身に起きる事件といったもので,これをきっかけにストーリーが展開。続いてProgressive Complicationsにおいて,その事件が複雑になっていき,Crisisで主人公が危機に陥る。最後にResolutionとして,その危機を解決して物語は完結だ。もちろん意図的にこの構成を外すときもあるが,Pixarでは基本的に従っているという。
次に説明されたのは,キャラクター作りについて。といっても,ストーリーを構成にそって作り上げてしまったあとに,キャラクターの肉付けを行っていくわけではない。Luhn氏によると,ストーリーアイデアを1文で表してから作品が完成するまで,常にキャラクターの肉付けは行われていくのだという。
実際にキャラクターの設定を決めていくにあたり,最初に行うのは,登場キャラクターを1語で表す作業だ。例えば「トイ・ストーリー」のウッディはJealousy(ねたみ),「WALL・E/ウォーリー」のWALL・Eは,Lonely(孤独)となる。次にキャラクターのストーリへの関わり方に応じて,警察,先生など職業でも表してイメージを膨らませ,より細かい設定などを決めていくという。
そのようなステップを踏みつつ,Pixarではストーリーが作られていく。全体を通して,とにかくシンプルなのが印象的だ。もちろん,どちらもストーリーが存在するとはいえ,ゲームと映画はまったくの別物。同じ“ストーリー”と呼ばれるものであっても,その見せ方はまったく異なるので,Pixarの手法をそのままゲームには持ってこられないかもしれない。とはいえ,映画,ゲームともに,一人で作れるものではない。大勢の人達が携わるプロジェクトなので,イメージを共有しやすくするためにも,シンプルであることは重要なのだろう。
また,ストーリーを作る手法としては,それほど斬新というわけでもなかったが,すでに成功している会社が,比較的オーソドックスなスタイルで進めていることが分かっただけでも収穫といえる。結局は,ディテールをいかに丁寧に作り込んでいけるのかどうかが,成功/失敗を分けるポイントなのかもしれない。
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