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[GDC 2010]「World of Goo」の開発者が立ち上げたゲーム開発基金「indieFUND」とは?
続けてカーメル氏は,これまでの30年近いゲーム史の中で,パブリッシャというビジネスモデルが成立してきたのは,パブリッシャが「流通」と「開発資金」の二つを掌握してきたからだと話す。デジタル流通によって,その一端が崩壊してしまった今,パブリッシャに残されたのは「開発資金」なわけだが,制作費900万円といわれるWorld of Gooもそうだったように,大ヒットゲームでさえも自費制作できるのである。この環境で次に問題となるのは,「最後まで作り上げる資金を持ち合わせていないインディーズ開発者」というわけだ。
カーメル氏が,仲間達とさらに話を進めていくうちに浮上した一つの案が「開発資金を,我々インディーズゲーム開発者が提供できるようなシステムを作れないだろうか」というものだったという。そこで生まれたのが,「indieFUND」と命名された,新しいゲーム開発者向け基金である。
このindieFUNDは,カーメル氏をはじめ,「flOw」で知られるthatgamecompanyのプロデューサー,Kellee Santiago(ケリー・サンティアゴ)氏や,「Braid」のJonathan Blow(ジョナサン・ブロウ)氏ら7人が集まって設立されたもので,インディーズゲームの開発者がプロトタイプや企画書を送れば,透明性の高い審査基準で評価して,開発資金を投資するかどうかが決定されるというものだ。基金である以上,失敗してもゲームの知的財産権を没収してしまうようなことはなく,あくまで独立系の開発者を最大限にサポートするのが目的ということだ。
興味深かったのは,Q&Aセッションのときにガーナから来たという若いインディーズ開発者がマイクの前に立ち,「我々は,アフリカのような貧しい土地でゲーム開発を行っています。このindieFUNDは,外国の開発者にも適応されるのでしょうか?」と切実そうな様子で質問していたことだ。カーメル氏は「それが,今の時代の良いところですよね。デジタル流通やインターネットのコミュニケーションが行われるようになって,開発者のロケーションに意味はなくなった。我々は面白いと感じたゲームに投資するのであり,国境は関係ありません」と答え,そのガーナ人の青年は,嬉しそうな表情で席に戻っていった。
カーメル氏は,World of GooやBraid(制作費は1500万円)規模のプロジェクトであれば,今後1年で最大20タイトル程度はファンドできると語っていたので,少なくとも3億円程度の資金は集めているようだ。現在の一般的なコンシューマゲームの開発費からするとそれでも微々たる額ではあるのだが,その資金がWorld of Gooのような名作を生み出すチャンスを作るのであれば,カーメル氏らのアイデアはかなり頼もしいといえるだろう。
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