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[GDC 2010]「ソーシャルゲーム」定点観測:新興ビジネスの実情を解説
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印刷2010/03/10 19:39

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[GDC 2010]「ソーシャルゲーム」定点観測:新興ビジネスの実情を解説

画像集#001のサムネイル/[GDC 2010]「ソーシャルゲーム」定点観測:新興ビジネスの実情を解説
 この原稿の執筆時点では,まだGDC 2010が始まって初日の段階ではあるが,今年の会場の雰囲気は例年とかなり違う。これまでは,PCゲーム開発者の大御所として知られていたデベロッパが「ソーシャルゲーム開発者」などの肩書きで参加しており,その周辺にいる人や,彼らのセミナーに参加する人々も,GDCに毎年参加している筆者でも見覚えのないような,フレッシュな顔ぶれが目立つ。ゲーム開発者のイメージにありがちな,どこか“ギーク”や“ナード”な風貌ではなく,ネットブックをさっそうと持ち歩くベンチャービジネスマンやビジネスウーマンっぽい,とでも形容すべきだろうか。「あれ? ここ,本当にGDCなの?」と思ってしまうような感覚だ。

 FacebookやMySpaceといった,「ソーシャルネットワークサービス」(SNS)が,ゲームプラットフォームとして次々と整備され始めたのが2007年の中期くらい。それから3年も経たないうちに,SNSはゲーム開発者達が注目する,業界の主役へと一気に躍り出たのだ。それは,去年立ち上がった「iPhone Gamesサミット」を隅のこじんまりとした部屋に押しのけ,基調講演の会場も兼ねる大きなセミナーホールで始まった「Social & Online Gamesサミット」が新たにローンチされたことからも分かるだろう。

Facebookのプロダクトマネージャー,Gareth Davis氏
画像集#002のサムネイル/[GDC 2010]「ソーシャルゲーム」定点観測:新興ビジネスの実情を解説
 そのSocial & Online Gamesサミットのオープニングを飾ったのが,Facebookのマーケティング部門でゲーム向けのプログラムマネージャーの責務を負う,Gareth Davis(ガレス・デイビス)氏だ。Facebookは,現在世界中で4億人に達するユーザーを持ち,しかも,この半数が毎日アクセスするという,大きな潜在的市場を持ったサービスである。その強みは,デイビス氏によると「ゲームに登場するキャラクターではなく,本当の自分が主役として活動できる社交性」であるという。
 Facebook向けゲームからFacebook運営元に計上される額は,300億円といわれる全収益の15〜20%にも及ぶと試算されており,Facebookにとってもゲーム開発会社は最大の顧客である。300億円の20%というと,そのパイはあまり大きくは見えないかもしれないが,ソーシャルゲーム市場の年間成長率は60%にも及ぶ。現在,「2008年度でコンソールゲーム市場はピークに達してしまったかもしれない」と不安視する投資家達が引率するゴールドラッシュが続いており,ソーシャルゲームを開発できる会社にとっては,またとない機会が提供されているのである。

 「The State of Social Gaming: Industry Overview and Update」(ソーシャルゲーミングの近状:業界の総括とアップデート)というセミナーを行った,アナリストのJustin Smith(ジャスティン・スミス)氏によると,現在Facebookプラットフォームを中心に,ソーシャルゲーム業界のトップにランキングされるのが,2008年に190億円におよぶ収益を上げ,現在700人もの雇用を抱える「Zynga」だ。2番手は「Playfish」で,雇用者は250人,2008年度の収益は70億円とZyngaの3分の1ほどだが,2009年11月にElectronic Artsに買収されており,今後新たな局面を迎えるのは間違いない。業界3位は,300人の雇用者で45億円ほどの収益をあげた「Playdom」で,MySpace市場ではナンバー1の座を維持しているという。

Facebookで最も人気のあるゲームアプリが,Zyngaの「FarmVille」(写真左)だ。たった5週間で制作されたという本作は,4日で100万人の参加を記録し,現在では3200万人ものアカウントを保持する
画像集#003のサムネイル/[GDC 2010]「ソーシャルゲーム」定点観測:新興ビジネスの実情を解説 画像集#004のサムネイル/[GDC 2010]「ソーシャルゲーム」定点観測:新興ビジネスの実情を解説

 興味深いのは,スミス氏の「実は,北米のFacebookユーザーは30%(1億4000万人)を超えたくらいに過ぎません。その同等数のユーザーがヨーロッパにおり,全体の18%(7000万人)はアジア方面にいます」と話していたことで,今後はさらに,こういった市場で新しい展開があることを予測する。アジアが18%と低いのは,中国ではFacebookが正式にローンチされていないためだ。ただ,人口の多いインドやインドネシアでは,Facebookはすでにインターネットユーザーが利用するSNSのファーストチョイスとなっており,こういったマーケットからも,新しいゲームビジネスの参入が見込まれているようだ。
 また,Facebookは「Facebook Connect」という,ユーザーアイデンティティをFacebook以外でも利用できる新サービスを始めているのに加えて,今後は「Facebook Credits」というウェブマネーのような課金システムを整備していく予定だ。これには現在主流のPayPalも警戒しているのか,「PayPal ID」というSNS的サービスの発足を発表しているが,いずれにせよ,こういったFacebookのプラットフォームとしての進化が,ソーシャルゲーム業界を過敏に反応させつつ,今後もますます発展していきそうな気配である。
 実際,有能なゲーム開発者として知られる人物の多くも,現在ソーシャルゲーム開発会社に雇用されており,例えば「Sid Meier’s Civilization II」(1996年)や「Rise of Nations」(2003年)で知られるBrian Reynolds(ブライアン・レイノルズ)氏は,Zyngaで「チーフ・デザイナー」という役職についたばかり。

左から,「Indiana Jones and the Last Crusade」(1989年)のNoah Falstein,「Sid Meier's Alpha Centauri」(1999年)のBrian Reynolds,「Nemesis: The Wizardry Adventure」(1996年)のBrenda Brathwaite,「Pitfall」(1983年)のSteveMerezkyの各氏
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 彼のほかにも,「Indiana Jones and the Last Crusade」(1989年)のNoah Falstein(ノア・ファルシュタイン)氏,「Nemesis: The Wizardry Adventure」(1996年)のBrenda Brathwaite(ブレンダ・ブライスワイト)氏,「Pitfall」(1983年)のSteve Merezky(スティーブ・メレツキー)氏といった,そうそうたるメンバーがソーシャルゲーム市場に参入しており,今回のSocial & Online Gamingサミットでも「Why Are Gaming Veterans Flocking Social Gaming」(なぜ,ベテラン開発者はソーシャルゲーミングになびくのか)というディスカッションを行っている。

新市場とはいっても,2007年以来50万種類のゲームアプリがFacebookに登場したとDavis氏が話すように,成功するのはほんの一部なのかも知れない。iPhone的な「アプリの飽和状態」は懸念されないのだろうか……
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 レイノルズ氏が,「ソーシャルゲーム市場には,まるでDOSゲームを作っていたときのような無法っぽさと,それゆえのエキサイティングな空気を感じる」と話していたのは印象的だ。彼らはそれぞれが,GDCで毎年のようにセミナーを請け負う業界の重要人物であり,こういったゲームを真剣に考える人達が「クローニングばかり」(※クローニング=ソーシャルゲーム市場でヒットしたゲーム作品の類似商品を出す行為に使う業界用語)といわれるソーシャルゲーム市場で,「古さを生かした新境地」の役どころを担っていくのかもしれない。
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