レビュー
Thermaltakeのゲーマー向けマウス第1弾をねちねちと掘り下げる
Thermaltake Tt eSPORTS BLACK
Thermaltake Technology(以下,Thermaltake)といえば,PCケースやCPUクーラーなどで名の知れた自作PC関連製品メーカーだ。秋葉原で製品展示イベントを開催したり,LANパーティのようなPCゲーム関連のイベントにも協賛していたりするので,4Gamer読者にも割と馴染みのある会社だろうと思う。
自作PC関連のメーカーが,ゲーマー向けの製品ブランドを立ち上げる例は,過去にもいくつかあった。今では決して珍しいことではないが,そんななかTt eSPORTSは「一般ゲーマー」と「ハードコア&プロゲーマー」,2種類のプレイヤー層に向けて,それぞれ異なる製品ラインナップを用意するという方針を打ち出し,差別化を図ろうとしているのがユニークなところだ。
さて,今回取り上げる「Tt eSPORTS BLACK」(以下,BLACK)は,そんなTt eSPORTS第1弾製品群に含まれるワイヤードマウスで,Royal Philips Electronics(以下,Philips)製のレーザーセンサーを搭載する,一般ゲーマー向けのモデルだ。そんな同製品が激しいゲームプレイにどこまでついてこられるのか気になるところで,今回はそのあたりをねちねちとチェックしてみたい。
かぶせ持ちのしやすさがとくに良好
外観からは想像できない軽さもGood
全体的なシルエットは,既存の製品だと,Logitech/ロジクールの「G9x Laser Mouse」で「ドライグリップ」を装着している状態に近いが,G9x Laser Mouseよりは全体的に一回り大きく,また,本体を真上から見たとき,前後中央部付近が左右両サイドとも山のように盛り上がっているなど,異なる点も少なくない。
これを握ってみた印象だが,「かぶせ持ち」派の筆者としては,かなり唸らさられてしまった。まず,本体を横から見たとき,最も盛り上がっている部分が中央よりも手前側(=本体後方)に若干寄っているため,手のひらへの適度な密着感があり,安定した握り方ができる。
さらに,左サイド奥には突起の付いたラバーパーツがあってグリップ感が高くなっている。右サイドは右サイドで,本体を持ち上げたとき指を引っ掛けられるような出っ張りが用意されているため,親指と薬指&小指で本体を挟み,人差し指と中指で操作するスタイルだけでなく,親指と小指だけで本体を挟み,残る3本の指でメインボタンとスクロールホイールを操作するようなスタイルでも使いやすい。
ちなみに筆者が今現在メインで使用しているマウス「Gaming Mouse G500」では,左右メインボタンがぴっちりくっついてしまっていてこのスペースがないため,カッターナイフとニッパーを使ってボタンをカットし,このスペースを作ったほどなのだが,BLACKではそういう手間もかからない。
この錘,5個だけ取り出して重量計に載せてみると実測22g強で,カタログ値より若干軽量なのだが,ともあれ,取り外しが可能なスポンジ製の台座が実測5g弱,錘部を固定するための蓋が同3g弱なので,錘とその台座,蓋を全部取り外せば,合計29gも軽量化できる。つまり,ケーブル込みで実測111.5g,ケーブルをどかした参考値で79.5〜83.5gと,外観からは意外なほど軽いマウスになってくれるのだ。大きめなのに軽いというのは,ありそうでなかった製品であり,この点に魅力を感じる人も多そうである。
右サイドにある薬指と小指が当たる部分が,それぞれつまみ持ち時にフィットしやすいよう調整されているのも,ポイントが高い。
ボタンは総じて無難なデキだが
1個に絞ったサイドボタンは押しやすい
スクロールホイールは,上下回転させたときに,ノッチのが感触がモソモソしたものになっている点は好みが分かれそうだが,「クリック時に指が滑って意図せず回転してしまう」ことはなかったので,及第点には達していると述べるべきか。
センタークリック機能そのものは,いい意味でもそうでない意味でもとくにコメントはなく,実に無難な完成度である。
一方,意識して押したいときは,親指をマウスの側面につけたまま時計回りに軽くひねるか,第一関節を伸ばして押し付けることで押せるため,操作性は高いといえる。「サイドボタンは1個で十分」「そもそも使わない」というユーザーに取っては,むしろ向いているデザインだ。
スクロールホイールの手前に配置された2個の変更ボタンは,DPI設定を変更するためのもの。同様の配置を採用してきた多くの競合製品と同様,押したいときに押すためには,アクセシビリティが低い。ゲーム中,頻繁に押すようなことは考えないほうがいいだろう。
ドライバレス動作+外部ユーティリティ仕様
ユーティリティは現状「未完成」
Tt eSPORTSのサポートページ。本文で紹介しているとおり,設定ユーティリティはドライバソフトウェアではないのだが,「ドライバー」以下に置かれているのでご注意を |
スクロールホイールの手前側(写真右)で2つ並んでいるのが,標準でDPI変更に割り当てられている2ボタン。写真で中央下寄りに見える4連のLEDインジケータは,当該DPI設定の目安となっており,設定に合わせて1〜4個で光る数が増減する |
設定ユーティリティで変更した内容は,BLACK本体に内蔵されたフラッシュメモリに保存されるため,一度設定すれば,別のPCと接続したときも,当該設定を利用可能だ。
下に示したのが設定ユーティリティのメインウインドウで,左右メインボタンとホイールクリック,サイドボタン,ホイールの手前側に並んだ2連ボタンの計6ボタンに機能を割り当て,その内容はプロファイルとして3つまでBLACK本体に保存できる。また,ウインドウ中央下部に2つ並んだボタンからは,DPIや各種速度設定と,内蔵LEDの発光設定も行える。
プロファイルは,マウスと「←」のマークがあるボタンをクリックすれば本体に保存&反映可能。PCマークのボタン×2を駆使すれば,プロファイルをファイルとしてHDDへ書き出すこともできる。
任意のボタンにマクロキーを割り当てるとマクロエディタが起動。ボタンを押している間繰り返したり,ボタンを一度押してから次に押すまで実行し続けたりという設定も可能だ。ハードウェアマクロゆえか,筆者が確認した限り,「nProtect」など,不正防止ツールの監視下であっても使用に問題は出なかった(※オンラインゲームの場合,規約により使用が禁止されているケースもあるので,使用する場合は,事前に規約の確認をお勧めしたい)。
ただ,単一ストロークの割り当てをマクロで代用しようとすると,ユーティリティの仕様上,「キー押下+リリース」の繰り返しという形にせざるを得ず,やや使いづらい。
DPI設定はX/Y軸同期&非同期の設定が可能で,刻みは100DPI。また,ポーリングレートは125/500/1000Hzからの選択式となっている。DPI設定がプロファイルごとに設定可能なのはありがたいが,しかし,下のスクリーンショットでも示しているとおり,V.001とされる今回のバージョンでは表示がズレている。一部項目に至っては画面からはみ出してしまい,確認も設定もできないのは閉口させられた。
※2010年2月3日追記
1月24日のタイムスタンプが打たれ,2月3日に正式リリースされた最新版の設定用ソフトウェアで,「日本語表記問題」と「表示ズレ」の両方が直っていることを確認した。初出時の本文はそのまま残しておくが,下にスクリーンショットを示したとおり,現状,設定ソフトは問題なく使えるものになっている。
最新版の設定ソフトウェアで,表示系の問題は修正された
追従性は十分なレベルに収まるものの
気になる挙動もいくつか確認される
それでは,マウス評価のキモであるセンサー性能を見ていくことにしよう。BLACKに搭載されているレーザーセンサーは最大加速度50G,最大速度90IPSと,カタログスペックは相応に高いため,激しい動きへの追従性も期待できそうだが,実際のところはどうなのか。テスト環境は表1に示したとおりだ。
テスト条件およびテスト方法は下記のとおりである。
●BLACKの設定
- 設定ユーティリティのバージョン:V.001
- 設定ユーティリティから指定したトラッキング解像度:4000DPI
- 設定ユーティリティから指定したポーリングレート:500Hz
- Windows側設定「マウスのプロパティ」内「速度」スライダー:中央
- Windows側設定:「ポインタの精度を高める」:オフ
●テスト方法
- ゲームを起動し,アイテムや壁の端など,目印となる点に照準を合わせる
- マウスパッドの左端にマウスを置く
- 右方向へ30cmほど,思いっきり腕を振って動かす「高速操作」,軽く一振りする感じである程度速く動かす「中速操作」,2秒程度かけてゆっくり動かす「低速操作」の3パターンでマウスを振る
- 振り切ったら,なるべくゆっくり,2.の位置に戻るようマウスを動かす
- 照準が1.の位置に戻れば正常と判断可能。一方,左にズレたらネガティブアクセル,右にズレたら加速が発生すると判定できる
テストに用いたゲームタイトルは「Warsow 0.6」。本テストにおいて,ゲーム内の「Sensitivity」設定は,「180度ターンするのに,マウスを約30cm移動させる必要がある」という,マウスに厳しい条件になる0.275に設定し,読み取り異常の発生を分かりやすくさせている。
以上の条件で,マウスパッドとの相性を確認した結果が表2だ。
総じて,わずかなネガティブアクセラレーションが見られるものの,許容できる範囲内に収まっており,結果は「○」が多くなった。一部「△」となった組み合わせでも,「ほかのテスト条件と比べるとネガティブアクセラレーションが目立つ」という程度で,こちらも十分許容範囲内。リフトオフディスタンスも全体的に短めで,優秀だ。
……ただ,そのセンサー性能を手放しで褒められる状況というわけでもなかったりする。
その理由として挙げられるのが,いくつか見られた,不可解な挙動だ。
まずは海外で「Z-Axis Tracking」(Z軸トラッキング)と呼ばれることの多い挙動。これは,「パッド上の同じ場所で,マウスを浮かしたり接地させたりすると,そのZ軸の動きをセンサーが読み取って,ポインタが少しずつ斜め下へズレていってしまう」というもので,BLACKの場合,とくに布系マウスパッドで顕著にこの症状が見られた。さらに「DHARMA TACTICAL PAD(DRTCPW35SD)」と「SteelSeries 9HD」では,「マウスをさっと横に動かし,その後,マウスを浮かせて移動前の位置に接地させる」という操作を繰り返すとき,接地直後に,センサーの読み取りが一瞬停止してしまうという現象も生じている。
また,他社のマウスでも一部で確認されている,「メインボタンをクリックするとき,ポインタが小刻みに動いてしまう」ようなこともあった。
今回のレビューにあたっては,Thermaltakeの日本法人である日本サーマルティクから借りた個体のほか,4Gamerが店頭で購入してきた個体も用いているのだが,いずれも,手持ちの「Gaming Mouse G500」と並べて比べてみると,どちらの個体もわずかながら遅れているので,個体差ではないはずである。
おそらくこれらは,BLACKや,Razer USAの3G&3.5Gレーザーセンサー搭載マウスなどに用いられているPhilips製センサー固有の仕様によるものではないかと思われる。ただいずれにせよ,いまのところ解決策はない――ファームウェアでなんとか抑制できるかもしれないが,ファームウェアの更新が行われるかどうか,現時点では分からない――ので,記憶に留めておくべきだろう。
かぶせ持ち派なら「アリ」といえる選択肢だが
センサー周りには理解&納得が必要か
ドライバレスで動作し,同時に,必要最低限のカスタマイズ機能が提供されているのも,プラス材料だろう。単純なキー割り当てにもマクロツールを使わねばならないのは面倒だが,ハードウェアマクロなので,ゲーム環境を問わず使えるのもありがたい。カスタマイズ関連の問題点は,崩れているデザインのみで,これは早急な修正を願いたいところである。
残るネックは,人によってはサイズの割にボタン数が少ないと感じるかもしれないことと,Philips製センサー特有の挙動だろう。
実勢価格は4500〜5000円程度(※2011年1月31日現在)で,安くはないが,少なくとも高価すぎるということはなく,ゲーマー向けマウスのなかではそこそこ手を出しやすい。強くお勧めできるかというと疑問符がつくものの,ボタン数やセンサー周りに納得できるかぶせ持ち派なら,試してみる価値はあるマウスといえそうだ。
Tt eSPORTS日本語公式サイト
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