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[CEDEC 2010]「モバゲー、mixiモバイル、GREE等、モバイルソーシャルゲームの最新動向とゲームデベロッパーへの事業機会」の聴講レポートを掲載
このセッションの講師はブレイクスルーパートナーズ マネージングディレクターの赤羽雄二氏。テーマが,近年国内でも非常に高い注目を集めるソーシャルゲーム,それもモバイル主体ということもあって,多くの聴講者を集めていた。
変化し続ける「現状」
まずは最新の現状把握ということで,表題に出ているモバゲー/GREE/mixiの3サービスにおいて,それぞれ流行しているソーシャルゲームのリストが提示された。mixiでは,“ゲーム”ではないアプリケーションが多数ランキングに入っているのが興味深いが,これはmixiの方針の影響であるようだ。
各サービスのユーザー年齢構成については,「mixiとGREEは高年齢中心,モバゲーは10代メイン」という印象が強かった図式は,テレビCMの影響などによってすでに崩れてきており,2010年6月現在では,GREEとモバゲーは似通った年齢構成になりつつあると述べた。
そのほか,課金を行う層には一定の偏りが確認されていることや,会員一人あたりの月売上高(ARPU)はモバゲーが圧倒的に高いが,その数値はここ最近劇的に変化したものであると説明。ソーシャルゲームの制作サイドは,激変する環境の中でのプロダクションを余儀なくされているようだ。
さて,ここで「モバイル」と言った場合,中心となるのは言うまでもなく,日本製の携帯電話である。ワールドワイドに見ると独自の進化をしてきたため「ガラケー」(ガラパゴスケータイ)と揶揄されるが,2009年の日本国内での携帯電話出荷台数は3390万台,2010年3月末の携帯電話加入者数は1億1271万人など,減少傾向にあるとはいえ市場規模としては相当に巨大だ。
一方,iPhoneに代表されるスマートフォンの成長は著しく,各SNSはスマートフォンへの対応を急ピッチで進めている。
mixiは5月31日に「mixi touch」という形でスマートフォンへの最適化を行ない,GREEも8月9日にiPhone版をβリリース(今後はAndroid端末にも対応)。モバゲーは日本では未リリースながら,海外向けに「モバゲータウン」のゲームアプリと「モバゲータウン」をベースにしたコミュニティ機能「MiniNation」の提供を5月10日より開始している。
また,ハンゲームもスマートフォン(Android端末が先行)に参入し,一つのIDでPC/携帯電話/スマートフォンに対応するという,オープンプラットフォーム化を進めていることにも触れていた。
実はモバゲーはFacebookで「怪盗ロワイヤル」をサービスしていたのだが,途中で撤退している |
スマートフォン版ハンゲームは,Androidが先行してリリース。審査がない分,Android有利の流れは確実に存在するといえる |
モバイルソーシャルゲームの本質
講演においてまず強調されたのは,「SNSの『友達』への波及」(バイラル性)と「『友達』への思いとしがらみ」(ソーシャル性)である。
まずバイラル性においては,ソーシャルゲームはSNSがそのプラットフォームとなっているため,自分が認定した相手への波及効果がすさまじく,一人が「良い」と思えば,その「良い」という評価が,口コミというレベルを超えた規模で拡散していくという。なお赤羽氏は,この拡散効果は,グルーポン系サービス(Webを利用した共同購入による割引サービス)の爆発的な拡大も同様であるとした。また,今後はバイラル的に広がる「ソーシャルゲーム的なもの」が,あらゆるWebサービスに広がっていくのでは,とも語った。
一方,ソーシャル性という点においては,赤羽氏の主張は非常に具体的なもので,ソーシャルゲームの特徴は,「ゲームを一人で遊んで,その面白さを伝えるというレベルではなく,ゲームそのものに『しがらみ』が組み込まれている」ことにあるとのこと。
「しがらみ」は男女によって傾向が違っていて,男性は「バトル系」「皆で何かをしなくてはならないことに,自分が貢献する」「サボると迷惑をかける」「貢献したことを友人にアピールをする」,女性は「ちょっとしたお返しをしなくてはならない」というように分析。
そのうえで,「男性には女性の気持ちは分からないし,女性にも男性の気持ちは分からない」,「徹底したヒアリングを行い,男性開発者が多いので女性の思考回路の研究も欠かさない」ことが大切であるとした。
興味深いのは,これらを踏まえたうえで,赤羽氏はソーシャルゲームをマーケティングの視点から考えていることだ。
従来のマーケティングは,「ある特定の個人に売る」ことを前提としている。これはパッケージゲームについても似たようなことが言えるだろう。
一方,ソーシャルゲームは黎明期にあり,男女による「しがらみ」感覚の差,ヘビーユーザーとライトユーザーの差,課金ユーザーの差(絶対に課金を受け付けない/機会があれば課金を受け付ける/抵抗なく課金を受け付ける)といった,比較的大きなセグメントでマーケティングが可能であるという。
ソーシャルゲームの場合,日本最大手のSNSであれば,いずれも2000万人規模の市場としてくっついているので,良い場合は一気に拡散する。よって,むしろ重要になるのはバイラル性を高めること,課金への意欲を高めることであって,ここにおいてソーシャル性とバイラル性をいかに働かせるかが鍵となるという。
これはもともとマーケティングを仕事にしていた赤羽氏ならではの視点と言えるかもしれない。
Androidの躍進
“ガラケー”という巨大な市場があることはいったん置いておくとして,モバイル環境というと,「近年において非常に有力なのはiPhoneやiPadといったプラットフォームだ」という一種の先入観にも,赤羽氏は切り込んだ。
だが,Androidには別の利点がある。それは,デベロッパとしては,Androidをベースとしたほうがビジネスを組みやすいというポイントだ。
Appleはアプリの審査を厳格に行う(そのうえ,課金が絡んだ仕様について突然の変更を行ったりもする)。いわばアップルによる“検閲”状態にある。この点については赤羽氏も思うところが随分とあるようで,「iPhoneは突然梯子を外される」「製品としてのiPhoneは好きだが,ビジネスとしては難しい」と,言葉の端々に複雑な思いを滲ませていた。
Androidの売上がiPhoneを抜いたという状況の背景には,さまざまな要因が考えられるので,現状の売上数だけを見て「これからはAndroidだ」と言うことは若干難しいように思える。
ただ,“アプリケーション供給者の利便性”で,Androidが一定以上のメリットを提示できれば,iPhoneのアプリより量・質ともに上回っていくだろう。スマートフォンとしての性質を鑑みれば,最終的にその「良さ」「魅力」の判断基準になるのはアプリになるともいえる。AndroidがこのままiPhoneを押していくという赤羽氏の予想は,このあたりでとくに十分な裏付けを持っていると言えるだろう。
Facebookがもたらす革命
この“新しい”というのは,「今まで存在したことのないサービスでありアプリケーション」という文字どおりの意味である。赤羽氏は,その鍵となるのがFacebook,Twitter,Skypeなどとの連携であるとする。
中でもFacebookは,規模としては疑いなく世界最大のSNSで,ユーザー数は,1か月以上の休眠アカウントや複数アカウントを排除しても5億以上。日本のSNSが,休眠アカウントなどを含めた数字で約2000万であることを鑑みると,比較にもならない巨大さである。
ちなみにFacebookは,国内でも450万アカウントを越えており,30代よりは20代で広がっているのではないかと予測されている。
赤羽氏がFacebookとの連携を重視するのは,ソーシャルゲームがモバイルマーケティングと密接に関係していると見ているためだ。
たとえば,現在,携帯電話を使った通信販売で化粧品や衣料品などを購入するケースは増えており,これは「時間を使って買い物に行く」のではなく「時間が空いたときに,ちょっとした買い物をする」という消費の変化であるといえる。パッケージゲームとソーシャルゲームの関係においても,同様のことが言えるだろう。
これは「ウェブをさらに小さく,ソーシャルに,パーソナルに,そしてセマンティックにする」という意図のもとに行われており,要は「友達が良いと思ったWeb上のあらゆるものに自分もアクセスできる」ことになる。
これと位置情報が組み合わさると,現実空間まで含めたマーケティングがSNSおよびソーシャルアプリとつながっていく。
たとえば,現在でも「foursquare」というサービスが人気を博しているが,これはユーザーが特定の場所に何度も行くと称号がもらえるというシステムで,ゲームとは断言できないが,非常にゲーム的な特性を持ったソーシャルアプリだ。
そして,「何度も通う場所」は「お気に入りの場所」ともいえるわけで,一種の「Like」を共有する(結果をTwitterなどに投稿できる)手段でもある。
ちなみに日本では,モバゲーとGREEで提供されているソーシャルゲーム「しろつく」が,現実世界での花火会場周辺で一情報を送信すると,ゲームアイテム「花火玉」がもらえるというイベントを行い,そのユニーク取得者数が15万人を突破したという。
このように,広告がゲームに,ゲームが広告になり,またその広告はバイラル性によって急激に拡散する。このようなデジタルマーケティングの進化は,「ゲームでのみつながりのある,ハンドルネームでしか知らない誰か」よりも,「実際に顔も名前も知っている知人」を経由したほうが圧倒的に効果があるため,Facebookとの連携はその点でも期待したいと赤羽氏は語った。もっとも,たとえFacebookが日本でもブレイクしたとしても,mixiなどと共存していくことにはなるだろう,とも予測している。
世界に通じる,まったく新しいゲームを目指して
最後に赤羽氏は本講演のタイトルに「モバイルソーシャルゲーム」という言葉を入れたことについて,「モバイル」の意味はただ単に携帯でゲームが流行っているという意味ではないと語った。
モバイルというのは,ガラケーであり,スマートフォンであり,タブレットであり,ノートPCであり,場合によってはデスクトップPCだってモバイルすることはできなくはない。
ここで各機材を細かく区分けすることにはほとんど意味はなく,むしろやがてそれらの違いはどうでもよくなっていく。大事なのは「画面のこちら側に一人,画面の向こうにたくさんの人,そしてその間に一枚の画面」,この構造と画面が「モバイル」として苦もなく持ち運ばれる,それが重要なのだとする(もちろん実際の開発において個々の環境に最適化したりすることは大切だが)。
また,ソーシャルアプリは「流行っているうちにβ版的なものを粗製乱造して資金を回収しよう」という姿勢では,もう利益を出すことはできない,むしろ完璧なものを最初からリリースして,それをさらに改善し続けイベントを打ち続けて,それで初めて生き残れるのだ,と断言した。
なぜなら,ソーシャルアプリでは,「最初の1回だけ訪れる」数万人のユーザーを取りこぼしたら,二度と浮上できないからだ。勝負は最初の2日で決まるものであり,ソーシャルアプリはスピードと完成度の戦いの世界に突入しているのである。
とはいえ,ソーシャルアプリという形で,ゲームの世界をインターネット,ソーシャルの世界に大きく広げるというこの一種の実験かつ勉強は,スピードこそ大切だが比較的低コストでできるだけでなく,黒字を出すこともできる。
そういう意味では恵まれたジャンルであるとも言えるが,Androidの普及,SNSの競争の激化など,状況は刻々と変化しているので,この議論の有効期限は1年くらいではないか,とも赤羽氏は語っていた。
赤羽氏の講演は,「どうすれば面白いゲームを作れるか」という観点から言えば,あまり参考にならないものかもしれない。また,「このプロダクトでどうやって稼ぐか,どうすれば稼ぎやすいか」ということが当然の前提となっているのも,純粋にゲームの完成度だけを問う視点からは違和感があるかもしれない。
しかし,「まったく新しいゲームを作り,ゲーム的なものをインターネット全体に広めていく」という姿勢は,野心的であると同時に,一定以上の現実性を持っているように思う。
突飛な例になってしまうが,アメリカ軍でゲームコントローラーを兵器のコントローラーに使うケースが存在するように,「ゲーム」という操作性と文法は「たかがゲーム」の範囲を遥かに超えている。
赤羽氏は,「日本の変化のためには,世界的ベンチャーがもっともっと増えなくてはならない。それ以外では変化しないだろう」と語り,最後に「成功するベンチャーを作りたい。一緒に世界を狙いましょう!」と講演を締めくくった。
※本講演の資料はブレイクスルーパートナーズの公式サイトで公開されている。
- 関連タイトル:
モバイル版ハンゲーム
- 関連タイトル:
ハンゲ
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