インタビュー
PCで人気の「モンスターハンター フロンティア オンライン」は,Xbox 360でどう受け止められた? MHF運営プロデューサーにいろいろ聞いてみた
本作は,Xbox 360用タイトルとしては数少ないオンライン専用タイトルとなっており,5月13日から5月27日までクローズドβテストが実施され,6月24日よりオープンβテストを開始,そして7月7日に正式サービスが開始予定となっている。
4Gamer読者ならご存じの人も多いだろうが,「MHF」はもともとPC用オンラインゲームとして2007年からサービスされており,高い人気を誇ってきた。その「MHF」が満を持してコンシューマ機に“逆輸入”されるわけだ。
今回4Gamerでは,「MHF」の運営プロデューサーを務める杉浦一徳氏にインタビューをさせてもらった。クローズドβテストでの手応えや,Xbox 360およびPC版の今後のサービス展開など,さまざまな話を聞かせてもらったので,本作に興味を持っている人は,ぜひ最後まで読み進めてほしい。
(2010年6月3日収録)
来るべくして来たXbox 360での展開
PCでは「MHF」をプレイできない人にもサービスを
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは,PCオンラインゲームで展開した「MHF」を,Xbox 360というコンシューマ機で展開するに至った経緯を教えてください。
すでに弊社の稲船(※1)や小野(※2)が語っているように,もともとカプコンには,「モンスターハンター」シリーズを,数多くのプラットフォームで展開したいという考え方があります。そこで今回は,「MHF」をXbox 360でやろうということになったんです。Xbox 360になったのは,マイクロソフトの泉水さん(※3)から,稲船に打診があったことも,大きなポイントでした。
※1 カプコン 常務執行役員 開発統括兼オンライン事業統括 稲船敬二氏
※2 カプコン オンライン事業部長 小野義徳氏
※3 マイクロソフト 執行役 常務 ホーム&エンターテイメント事業本部長 泉水 敬氏
4Gamer:
マイクロソフト側からのオファーもきっかけの一つだったんですか。
杉浦氏:
先ほどもお話ししたように,前々から「いつか『MHF』をコンシューマ機で展開するかもしれない」という話は聞かされていました。実際にゴーサインが出たときは「いよいよ来たか」と思いましたね。
私個人としても,以前からカプコンというゲームメーカーが,コンシューマ機でオンライン専用ゲームを展開することには興味を持っていました。オンライン専用ゲームの開発・運営体制が整っていれば,コンシューマ機であっても「MHF」のサービスを十分実現できると考えていましたから。
4Gamer:
なるほど。
杉浦氏:
もう一つの大きなポイントとしては,戦略的な部分ですね。
おかげさまで,日本のPCオンラインゲーム市場の中では,「MHF」はかなり知名度が上がり認知されるようになりました。同時接続数や月額課金者も公表はしていませんが,ほぼトップクラスなのはPCオンラインゲームの中では知られるところです。
しかしその半面,正式サービスの開始からもう丸3年が経とうとするタイトルですので,同じ市場の中での新規プレイヤーの開拓は,次第に難しくなっていますし,その対策も考えなくてはいけません。
4Gamer:
確かに,いつまでも右肩上がりの成長はできませんよね。
杉浦氏:
そういう状況で,Xbox 360という新しい市場に「MHF」を投入するとどんな反響があるのか,というところに大変興味がありました。
カプコンという企業のバックボーンと,その戦略的な部分の両面から,今回のXbox 360版は,まさに「来るべくして来た」というところです。
また,Xbox LIVEには,マイクロソフトさんが長年にわたって蓄積してきたノウハウがありますから,これまでのPC版「MHF」が苦手としてきた部分や足りない部分を補えるのではないか,という期待もありました。
4Gamer:
「MHF」の苦手な部分ですか? 具体的にはどのようなところでしょう。
杉浦氏:
決済関連にしても,PC版ではポータルサイトを作り,課金決済システムなどをゼロから構築しなければなりません。しかし,Xbox LIVEにはすでにXbox LIVE マーケットプレースがありますから,その分の負担は減ります。
4Gamer:
Xbox 360版では,どういったプレイヤー層をターゲットにしているのでしょう。
杉浦氏:
一言でいうと,PC版ではカバーできなかった層,これまでの3年間「パソコンのオンラインゲームだから」という理由でMHFを見送っていた人達がターゲットになります。
具体的には,PCで遊びたくても単純にハードウェアのスペックが足りない方や,ゲームを遊ぶことに違和感や抵抗感を覚える方が,けっこういらっしゃいます。日本では「ゲームはコンシューマ機で遊ぶもの」という認識も強いですから。
また,ゲームを遊ぶことだけを考えると,コンシューマ機よりPCのほうが割高になってしまいますから,金銭的なハードルも高いですよね。
4Gamer:
そうですね。コンシューマ機だと「スペックは満たしているのに動かない」といったトラブルもPCに比べて少ないでしょうし,プレイを始めるハードルは低くなりますね。
パッケージはアップデートごとに新バージョンのものを提供
ゴールドメンバーシップ12か月分はシステム改善の猶予期間を見込んでの結果
4Gamer:
PC版「MHF」ではパッケージの購入なしにゲームを始めることもできますが,Xbox 360版ではパッケージ購入が必須となります。これはどういった経緯で決まったんでしょうか?
杉浦氏:
理由はシンプルで,PC版の「MHF」の流儀を一方的に押しつけるわけにはいかない,というものです。
PC版を経験した方からすれば,「クライアントは無料じゃないのか」「ハンターライフコースだけで遊べないのか」というご意見もあるでしょうが,実はこれまでコンシューマ機でパッケージゲームだけを遊んできた方だと,逆に戸惑ってしまう恐れがあるんですよ。
4Gamer:
ダウンロード販売も定着してきましたが,今でもパッケージで購入するユーザーは多いでしょうね。
杉浦氏:
これは小売店さんでも同じです。販売スタッフの方が全員オンラインゲームに詳しいとは限りませんから。
たとえば,お客様が「『MHF』はどうやって始めればいいのか?」と質問したときに,「パッケージを買えばいい」と,一言で済ませられるようにしたかったんです。実際は,そのほかにもXbox 360本体にHDDが必要だったり,インターネット接続環境が必要だったりといったこともあるんですが,そういった説明を限りなく減らしたかったんです。
そこで,金銭的負担を増やしてしまうのは承知のうえで,分かりやすくするためにパッケージを採用したわけです。
4Gamer:
確かに,プレイする前にハンターライフコースを買って,Xbox LIVE ゴールド メンバーシップを買って……と手続きが煩雑になると,途中で挫折する人も出てきそうですね。
そういえば,PC版のパッケージでは,付属するハンターライフコースは60日分ですよね。Xbox 360版は30日分ですが,これはどうしてですか?
杉浦氏:
PC版ではハンターライフコース60日分が付くので,Xbox 360版が割高に思えるのではないかという点については,議論を重ねました。しかし,Xbox 360版にはXbox LIVE ゴールド メンバーシップも付きますから,また違った価値の捉え方をしていただけるのではないかと考え,最終的に現在の仕様に決定したんです。
4Gamer:
なるほど。それが計画当初のXbox LIVE ゴールド メンバーシップ1か月分になるわけですね(※)。
※「モンスターハンター フロンティア オンライン ビギナーズパッケージ」に付属するXbox LIVE ゴールド メンバーシップは,最終的に12か月分になった。
杉浦氏:
はい。また,Xbox LIVE ゴールド メンバーシップがあれば,Xbox LIVE上で「MHF」以外のゲームタイトルのオンラインモードなどを利用できるという,副次的なメリットもあります。
4Gamer:
それだと,「MHF」から離れてしまうという心配はありませんか?
杉浦氏:
継続してXbox LIVEを利用する方なら,何らかの事情で「MHF」を一旦休まれても,再び復帰していただく可能性は期待できます。今のPC版も,ポータル内で提供している以上は同様の考え方です。
4Gamer:
そういえば,Xbox 360版では,ハンターライフコースの有効期間が切れたらどうなるんですか?
Xbox LIVE ゴールド メンバーシップが有効であれば,ハンターライフコースの有効期間が切れていてもゲームにログインできます。また,ハンターランク2までのクエストならプレイが可能ですし,一部制限はありますが,チャットをすることも可能です。
ちなみに,Xbox LIVE ゴールドメンバーシップが有効になった段階で,トライアルコース扱いになります。正式サービス以降に「MHF」を始める方は,ハンターランク3になってからハンターライフコースのコードを入力すると,ほんの少しですが,その期間分お得になります。
4Gamer:
ちょっとした裏技ですね(笑)。
ということは,PC版同様,ハンターライフコースが切れていてもゲームにログインしてチャットしたり,ゲームの中を覗くくらいのことはできると。
そういえば,Xbox 360本体にインストールしたデータの扱いはどうなるんですか? 休止するとしたら,削除してしまっても問題ないんでしょうか?
杉浦氏:
そうですね。
基本的にデータはカプコンのサーバーに保存されますので,たとえXbox 360のHDDから「MHF」を削除しても,もう一度インストールすれば,以前と同じ状態で遊ぶことができます。ただ,ゲームのオプション設定などはXbox 360本体のHDDに保存するので,初期状態に戻ってしまうものもありますのでご注意ください。
4Gamer:
オンラインゲームに慣れていないと,セーブポイントを探してしまいがちですよね。実際,ゲーム中で「セーブはどうすればいいの?」という質問チャットを見たこともありました。
杉浦氏:
「MHF」では,ある一定の段階で自動的にサーバーにデータが保存されますから,セーブをする必要はないんです。それから,休止している期間が長いからといって,キャラクターデータを削除するようなことはありません。
4Gamer:
なるほど。では,パッケージの話に戻ります。
Xbox 360版「MHF」の発表当初は,ハンターライフコースとXbox LIVE ゴールドメンバーシップ料金を合わせて,1400円(税込)で提供すると発表されていましたが,最終的には,ビギナーズパッケージに12か月分のXbox LIVE ゴールドメンバーシップを付属する,という形で落ち着きましたね。この経緯をあらためて教えてもらえますか?
杉浦氏:
2010年1月に発表したとおり,最終的にはハンターライフコースの料金にXbox LIVE ゴールド メンバーシップも含まれる,という形を目指しています。その実現に向けて,カプコンもマイクロソフトさんも責任を持って臨んでいます。
しかしシステムの開発を進めていく中で,当初想定していなかった問題が発生し,解決に時間がかかることが判明しました。正式サービス開始には間に合わなくなってしまったので,システムが完成するまでの期間分として,12か月分のXbox LIVE ゴールドメンバーシップをビギナーズパッケージに付属させていただくことにしたんです。
4Gamer:
ということは,1年後までこのスタイルで提供される,ということなのでしょうか?
いえ,あくまでマージンを見込んでの12か月分です。
というのも,サービス開始後に,1か月以上継続して遊んでいただくお客様がハンターライフコースを購入する場合,そのお客様にXbox LIVE ゴールド メンバーシップを合わせて提供するのが難しかったんです。
不幸中の幸いといいますか,Xbox 360版をプレイしていただく方は,必ずパッケージを購入していただく形になっています。システムが完成するまでの期間分のXbox LIVE ゴールド メンバーシップがパッケージに入っていれば,Xbox 360版をプレイするお客様すべてが,その制約から開放されるので。
4Gamer:
なるほど。そういう事情だったんですね。それにしても,12か月分とはまた思い切りましたね……。
杉浦氏:
この発表は,Xbox 360版「MHF」というプロジェクトに対する,マイクロソフトさんとカプコンの本気度を示す結果にもなったんじゃないかと捉えています。すごくいい意味で,各方面でインパクトがあるニュースとして受け止められましたね。
4Gamer:
それはもう,ビックリしましたよ。Xbox LIVE ゴールド メンバーシップは12か月分だと5229円(税込)で,プラス800円(※)ほどで「MHF」が1か月遊べる計算になりますから。
意地の悪い見方をすると,Xbox LIVE ゴールド メンバーシップの購入が主目的になって,「MHF」がオマケ程度に考える人もいそうですが。
※ビギナーズパッケージの価格は6090円(税込)
確かに,5月の発表からビギナーズパッケージの受注数は大幅に伸びました。
ただ,おっしゃるようなXbox LIVE ゴールド メンバーシップだけが目的だとは,我々は思っていません。
というのも,Xbox 360版「MHF」推奨キーボードである,「Microsoft Wired Keyboard 600 Monster Hunter Frontier Online Special Edition」の受注数も,同時期から合わせて伸びているんです。
4Gamer:
なるほど。その話を聞くと,結果的に5月の発表が,Xbox 360版「MHF」を遊ぶかどうか迷っていた人を後押しした形になった,と言えそうですね。
杉浦氏:
はい。それと,PC版「MHF」の話ですが,「Xbox 360 Controller for Windows」に正式対応します。Xbox 360版もPC版も,双方でマイクロソフトさんと力強い協業体制を築いて,「MHF」全体を盛り上げようと考えています。
Xbox 360版でも大型アップデートごとにパッケージを発売
PC版との差異が出ないようなサービスを予定
4Gamer:
PC版では,大型アップデートに合わせたパッケージが,1年に3〜4回発売されていますよね。Xbox 360版はどうなるのでしょう?
杉浦氏:
PC版と同じタイミングでリリースしていきます。
4Gamer:
それだと,パッケージ同梱のXbox LIVE ゴールドメンバーシップはどうなるんですか? やはり12か月分ですか?
杉浦氏:
いえ,2011年6月末日までを基準にした形になります。たとえば3か月後にシーズン9.0が実装されると仮定した場合,そのタイミングで発売されるパッケージに付属するXbox LIVE ゴールド メンバーシップは,9か月分といった計算になります。
4Gamer:
となると,ビギナーズパッケージとそれ以降のパッケージすべてを購入した場合,1年後までは,Xbox LIVE ゴールド メンバーシップの利用可能期間がすごいことになりそうですね。
杉浦氏:
はい。パッケージに付属する特典ゲーム内アイテムに加え,そういった面でもお客さまにたいへんご満足いただける内容になっていると思います。
4Gamer:
それは太っ腹ですね……。
でも,パッケージに付属するXbox LIVE ゴールド メンバーシップは,あくまでも件のシステムが完成するまでの暫定処置ということになるんでしょうか。
杉浦氏:
そうですね。
4Gamer:
始めるのが早ければ早いほどお得になるわけですね。
ところで,Xbox 360版パッケージの購入特典として付属するゲーム内アイテムは,PC版同様,入力期間に制限があるんですか?
杉浦氏:
はい。特典イベントコードはパッケージの発売日から約1年後までしか入力できません。
4Gamer:
PC版では,入力期間が過ぎて入手方法がなくなったパッケージ特典アイテムを,「プレミアムキット」としてアイテム販売していますが,これはXbox 360版でも同様の展開を予定しているんですか?
杉浦氏:
そうですね。現段階の予定としては,Xbox 360版も同様のタイミングでアイテム販売を行っていく予定です。価格設定もPC版と同程度にする予定です。ただ,2010年のアニバーサリーパッケージに関しては,キット化するかどうかは未定です。
4Gamer:
エクストラコースについては,先日のニュースでXbox 360版でも提供されることが分かりましたが,そのほかの有料オプションサービスなどはどうなるのでしょう?
杉浦氏:
先日発表したとおり,エクストラコースは8月5日まで無料で開放します。課金自体は7月28日のメンテナンス終了後から,ハンターライフコース/エクストラコース/プレミアムコースのオプションサービスが開始されます。また8月4日からは,ハンターライフコースとエクストラコースの継続課金サービスをスタートします。
各コースの内容,プレイする上で必要なサービスかどうかといったことについては,その時期になればすでに1か月プレイされているので,お客様自身が判断していただけるようになっているのではないかと思います。
4Gamer:
アイテム販売についてはどうですか?
今のところ内容はPC版と同様で,9月上旬に販売を開始する予定です。
ほかに有料サービスで確定していないのは,ネットカフェ関連のサービスですね。公認ネットカフェではXbox 360版の展開は予定していないので,「Nポイント」をはじめとしたネットカフェ限定のサービスを,Xbox 360版でどう提供していくかを検討しています。
4Gamer:
ネットカフェ限定のコンテンツを提供すること自体は決定しているんですか?
杉浦氏:
はい。基本的に,「Xbox 360版ではできない」というコンテンツが生まれないよう,PC版と可能なかぎり同じサービスを提供する,というポリシーで進めています。
4Gamer:
となると,近隣に公認ネットカフェがないような環境のPC版プレイヤーの中には,Xbox 360版に乗り換えたくなる人も出てくるかもしれませんね……。
あと一つ聞かせてください。「MHF」のゲーム内アイテムはイベントコードをゲーム内で入力する形になっていますが,Xbox 360版とPC版で提供されるイベントコードは,互換性があるんですよね?
杉浦氏:
発売済みのパッケージなどについては対応できないものもありますが,基本的に今後発売されるものについては,Xbox 360版とPC版どちらでも利用できるようにする予定です。
- 関連タイトル:
モンスターハンター フロンティアZ
- 関連タイトル:
モンスターハンター フロンティアZ
- この記事のURL:
キーワード
(C)CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
(C)CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.