レビュー
ライバル馬たちの血統が繋がっていく「新ワールドモード」搭載
ウイニングポストワールド 2010
コーエーは,「馬主」「調教師」「騎手」という三つの職業の視点から競馬の世界に関わっていく競馬シミュレーションゲーム「ウイニングポストワールド 2010」(以下,WPW2010)の,PC版を2月26日,PlayStation 3 / Xbox 360 / Wii / PlayStation 2版を3月25日に発売する。
WPW2010では前作「ウイニングポストワールド」のゲーム感覚そのままに,新たに2010年の新データ,さらに「新ワールドモード」がプラスされたほか,さまざまな要素の追加やシステムの改善が行われている。今回,PC版を先行プレイしてきたので追加要素を中心にレポートしていこう。
WPW2010は,前作に2010年レースプログラムと3歳馬などの最新データを追加し,人物データの能力変動などといったシステム面の進化,操作性の向上を加えた作品となっている。さらに,ライバル馬達の血統が繋がっていく「新ワールドモード」が追加されたほか,「騎手モード」では左右への進路変更も可能となった。また,前作からデータの引き継ぎが可能で,システムデータとクリアキャラクターはそのまま本作でも引き継いで使用できる。
それではWPW2010を実際にプレイしてみた感触について,さっそくお伝えしていこう。前作「ウイニングポストワールド」については,「こちら」でレポートを掲載しているので併せてご覧いただきたい。
名馬との勝負か? 強くなるライバルたちとの勝負か?
選べる二つの「ワールドモード」
本作では,まず「馬主」「調教師」「騎手」の3職種のいずれかを選択し,2年という限定された期間に,それぞれ一定の条件を達成するのが目的の「シナリオモード」が遊べる。そしてシナリオモードをクリアしたのち,そこで育成したキャラクターを使用して,より期間の長い「(旧)ワールドモード」と「新ワールドモード」を選択できるようになる。つまり3職種と3モード,合計9種類のゲームモードでプレイができるわけだ。
「新/旧ワールドモード」では一人のプレイキャラクターを選択し,同職の一人と他職の二人ずつを導入キャラクターとした,計6人で競走馬の育成やレースに挑むことになる。一人でもシナリオモードのクリアキャラクターがいればワールドモードに挑戦可能だが,クリアしていないキャラクターは,すべて能力が最低値での登場となるので,それぞれの職種で最低でも一人はクリアし,能力の高いキャラクターを揃えたいところだ。なお,「馬主」でのプレイは資金が尽きるとゲームオーバーになるが,「調教師」と「騎手」では途中でのゲームオーバーはない。
「シナリオモード」では“人の育成”が中心になるのに対し,ワールドモードでは3職種の協力体制による“馬の育成”を本格的に行えると考えるのがいいだろう。ただ,ワールドモードでは導入キャラクターに能力の変動はないが,プレイキャラクターのみ,育成馬や騎乗馬がレースで勝利したりイベントをクリアしたりすると手に入る「レースポイント」を消費することで,能力を上げられるようになっている。
「シナリオモード」で手に入れたアイテムはワールドモードに持ち込み可能。また初期の育成馬(騎手の場合は主戦馬)として3歳馬や2歳馬を選択できるほか,「馬主モード」で2年目に育てた子馬も開始直後から育成馬(主戦馬)として登録させられる。
「新/旧ワールドモード」では,それぞれの年間成績に基づき,年末に人物データ(騎手/調教師)の変動が行われるようになった。ただし,導入キャラクターのデータは変動しないので注意 |
「馬主」でプレイすると「新/旧ワールドモード」で牧場の拡張が可能になる。これにより子馬の繁養数を増加できるほか,それぞれのコースを拡張することで,より効果的な育成が可能になる |
それではいよいよ,新/旧ワールドモードの違いを見ていこう。まず「(旧)ワールドモード」は期間が1983年から2009年の計27年で,2009年が終わると1983年に戻り,永遠にループされる。各年代での名馬がライバル馬としてレースに登場し,それらと勝負しつつ,エンディングを目指す形となる。
クリアの条件は2種類あり,一つめはプレイヤーおよび導入キャラクターの馬主/調教師/騎手が,いずれも「年間リーディング」(その年最も優秀な成績を残した人物)を獲得すること。
二つめは,一つめの条件を満たしたうえで,リーディングを獲得した導入キャラクターによって協力状態(所有馬主,厩舎,主戦騎手のすべてが導入キャラクターである状態)になっている生産馬が,「年度代表馬」をとること。これにより,「グランドエンディング」となる。
年度代表馬に選ばれるには,もちろんその年で数々のGIレースに勝利しなければならない。ライバル馬が強い年代では相当に強い競走馬を育成していかないと難しいだろう |
「新/旧ワールドモード」では,より高度な育成知識と配合理論を求められる。「競馬資料」でニックスファイルを眺めるなどして,独自の血統を構築していこう |
実際にプレイしてみると,ワールドモードの難度はかなり高いのが分かるだろう。とくにグランドエンディングなど,相当のやり込みと競馬への知識,細かい調整が必要になるが,それだけに最高の達成感を味わえるのではないだろうか。
また,「新ワールドモード」は期間が2010年〜2029年の20年間で,ループはしない。そのあいだに起こるさまざまなシナリオをクリアしていくのが目的となる。ライバル馬達も血統を受け継いでいくシステムを搭載しており,シナリオも血の継承に関わるものが多い。プレイヤーが競走馬の血統を継承して競走馬を強くしていくのと同様に,多くのライバルや友人が登場し,彼らも第一線で活躍する名馬を育てあげていくストーリーが中心となる。
ただし,すべての馬は架空馬であり,一部のシナリオに関わる部分を除いて実在の競走馬は登場しない。導入キャラクターと力を合わせ,ライバル達に勝てる競走馬を作り上げいくのだ。
どちらから進めても問題ないのだが,大まかに言うと,実在の名馬達を相手にしたいのなら「(旧)ワールドモード」を,新シナリオを楽しみつつライバル達と戦っていきたいのなら「新ワールドモード」をプレイしていくのがいいだろう。
新シナリオについて,ネタバレにならないよう“さわり”だけ紹介しよう。主人公(プレイヤー)は小学校の同級生である女性「天城綾」と出会う。彼女は現在,馬主となって,ある競走馬をダービーで勝利させることを生きがいとしていた。もともとは他界した彼女の父が,度重なるケガを乗り越えて奇跡とも呼ばれる復活劇を成した名馬「トウカイテイオー」に感銘を受け,その血統でダービーを獲ることを目標としていたのだ。父の遺志を受け継いだ彼女も馬主となり,「トウカイテイオー」の血統を継ぐ競走馬をダービーに出馬させる。だが彼女の馬は,英雄と呼ばれた名馬「ディープインパクト」の産駒に敗れてしまい……といった感じで,メインのシナリオが進行していく。
主人公のライバルは天城綾だけではなく,「ディープインパクト」の血統を継ぐ競走馬を取り巻く人々,さらにそのほかのライバル達が,GI,さらには海外での勝利を目指している様子がうかがえる。彼らは時にはレースで勝負を仕掛けてきたり,時にはパーティで競馬について議論を戦わせたりしつつ,物語に深く関わってくる。シナリオモードだけでは味わえなかった,競馬を取り巻く人々の深い部分まで感じることができるのが,新ワールドモードの特徴だ。クリスマス会やホワイトデーなどの一般的なイベントも発生し,ライバルや身内と親睦を深める場面も見られる。一部のイベントでは,レースに勝利することで子馬を一頭もらえるといった,攻略に役立つものもあるようだ。
筆者としては「新ワールドモード」は全体として,もう一歩踏み込んだゲーム性が欲しかった。せっかく血統を繋いでいっても20年という区切りがあるため,どうしても目的がシナリオをクリアするだけのために育成している感じで,最強馬を育成してやるぞ! といった気持ちになりにくい。またシナリオ自体も,レースで勝利するか否かといった単調なものが多かったり,選択肢があるものも毎年同じ内容だったりで,盛り上がりには少々欠けるのだ。
まったく新しいモードというよりは,シナリオモードを20年に引き延ばした感じが強いので,競走馬よりもWPWの登場人物が好きだ! という人なら,「旧ワールドモード」よりこちらのほうが楽しめるだろう。昔からのウイニングポストファンである筆者としては,どちらかというと逆に人的要素が一切なく,競走馬育成のみに専念できるようなシンプルなモードも欲しいところ。
ライバル達は独自の目標や野望を持って競走馬を育成し,さまざまな局面でプレイヤーに勝負を挑んでくる。レースに勝利することで,彼らより自分の競走馬のほうが優れていることを示してやろう |
当然のことだが,種付けはとにかく奥が深い。ちょっと秘書に話を聞く程度ではすべてを把握するのは難しいはず。配合評価を開くと,ある程度数値で示されているので,参照しながら血を繋いでいくといいだろう |
ゴール前の混戦を回避しよう
「騎手モード」では左右の方向変更が可能に
自分で競走馬に騎乗できる「騎手モード」では,一部の操作方法が変更されている。簡単に説明すると,騎手モードではレース進行が3段階に分かれており,スタート時は「発馬」の強さを選択,道中では騎乗馬の位置取りと,「タイミングウインドウ」を合わせて「特殊技ポイント」を確保,そして最後の直線で叩き合いとなる。
「タイミングウインドウ」は水色の部分に合わせてボタンを押すことで,気力を増加させられる。その内側だと減少,外側だと失敗となる。ゲージは気性が荒い馬ほど速くなり,穏やかな馬ほど遅くなる |
ライバル馬が前方にいると当然進むことができず,左右にいると身動きがとれなくなってしまう。後方から勝負をしかける場合は,慎重に前へ進む道を選んでいく必要がある |
WPW2010は「最後の直線」で,「左右の進路変更」が可能となった。これにより,「差し」「追い込み」の戦法をとった際に馬群へ突入するなど,悪いレース展開を回避できるようになったのである。この段階は,体力を使ってスピードを上げる「追い」や「ムチ」,気力を使っての「見せムチ」や「追いムチ」と特殊技の使用,さらには視点を変更して,ほかの馬の位置取りの把握など,かなり操作の必要が多かった局面だ。これに左右への移動も加わることで,より一層難度が上がり,瞬間的な判断力が必要となっている。ちなみに左右の移動には,体力も気力も消費しない。
調教時に騎乗させる人は,助手や騎手から選択できる。人脈を広げて乗ってもらえる人物を増やしておくと,より効果的な調教が可能だ。能力だけでなく体力や気力,馬体重にも気をつけておこう |
プレイヤーの相馬眼能力が上がってくると,より詳細な競走馬のデータが把握できる。適性の高いレースを選んで出馬させられるし,どういった順番で調教していこうかという方針を立てやすくなる |
「調教師モード」では,毎週の調教の際に「オート調教」が可能になった。名前のとおり,これにチェックを入れると自動的に最適な調教が選択されるようになる。もちろん気に入らない内容だったらプレイヤー側で変更可能だ。調教師ですべてを「オート調教」にしてしまうと,何をしているのか分からなくなるので,筆者はメインで育てている競走馬だけは自分で内容を選択し,ほかの競争馬はオートに頼った。やはり管理馬が多くなってくると手が回らない部分もあるので,便利でうれしいシステムの追加といえるだろう。
「名馬カード」を使えば競馬の歴史を覆せる?
あの大逃げの名馬を育成して逃げさせてみた
本作には,実在した歴代の名馬を実際にレースさせたり,種牡馬や繁殖牝馬として種付けを行ったりできる「名馬カード」が存在する。
「名馬カード」は,その“対象馬”を相手にプレイヤーの育成馬や騎乗馬がレースで勝利したときに稀に入手できるほか,一定の条件(牡馬三冠達成など)をクリアしたときにランダムで得られる。スキルの「名馬カード」を所持していたり,レースで大差をつけたりすると獲得の可能性が高くなるようだ。
対象馬は,もちろん名馬だけありレースでは強く,最初のうちはなかなか勝てない。名馬カードは,手持ちの競走馬がGIレベルで勝利できるようになった頃から,「シナリオモード」や「(旧)ワールドモード」を周回していくうち徐々に集まってくるだろう。
特定の「名馬カード」が欲しいと思ったら,対象馬の次走を情報コマンドで調べ,同じレースに育成馬を出場させなくてはならない。どうしても欲しい名馬がいる場合は,騎手に「名馬カード」のスキルを持たせ,「(旧)ワールドモード」で育成した主戦馬を同じレースにぶつければ,手に入れやすいだろう。
「競馬資料」から名馬列伝を見ると,過去の名馬達の略歴が参照できる。競馬ファンなら,それらを眺めているだけで1日をつぶせるほどのデータ量がある |
ツインターボのカードを手に入れるまでに,同じ年代の名馬のカードがたくさん手に入ってしまった。「メジロマックイーン」のカードには少し目移りしたり |
実際にどんなプレイができるか,一例を挙げてみよう。筆者の好きな馬で,「ツインターボ」という名馬がいる。彼は大逃げの名馬であり,スタート直後から猛ダッシュし,とにかく逃げる。駆け引きなんか気にせず,全力で我が道を行く……そんな競走馬だった。もちろん最後の直線でバテて差し切られることも多かったし,GI勝利はなく,ほかの名馬に比べると実績的には見劣りするが,ターフを一人占めするかのような雄姿に惚れたファンも当時は多かったのではないだろうか。「ライスシャワー」「シスタートウショウ」といった強豪GI馬を相手に,大逃げで逃げ切った1993年のGIII「オールカマー」などは,本当に壮快な逃げっぷりだった。
……と,つい熱く語ってしまったが,要はこの「ツインターボ」の「名馬カード」を手に入れ,出場が叶わなかった「日本ダービー」で大逃げを披露し,できれば勝ってしまおうという計画を立ててみたのだ。
まずは,ツインターボの名馬カードを入手しなくては話にならない。そのために「騎手モード」でスキル「名馬カード」を取り,ついでに大逃げしても最後の直線で抜かれないように「二枚腰」と「追いムチ」のスキルを持った,「ツインターボ」専用の騎手を育成。続いて「(旧)ワールドモード」にて,ひたすらツインターボと同じレースに出場し,大差をつけて勝利し続ける。実はこの部分が鬼門で,勝利しても,ほかの競走馬のカードが手に入ったり,そもそもカードが手に入らなかったりで,取得には長い時間を費やしたが,なんとか目的のカードをゲットした。
もちろん選択する戦略は大逃げ……だが,どうしても「トウカイテイオー」と,鞍上の武豊が目に入ってくる。いくら距離を広げても,軽く追いついてこられる気しかしない |
国内最高峰のGIレース「日本ダービー」で圧倒的に後続馬を引き離して,観衆の視線をすべて集めてやった会心の1枚。もちろんこのあとの展開は見せられませんがね…… |
ここからが本番。成長型が「遅い」なので,早めの完成が必要となる「朝日杯」や「皐月賞」は諦め,ダービー優先出走権の得られる「青葉賞」に的を絞って無事に出走権を確保。そして念願の「日本ダービー」へ出走だ。ダントツの本命馬「トウカイテイオー」がいたことに今さらながら気付いて少し焦ったが,ツインターボにとってはどうでもいいこと。
「出馬・強」でゲートを出てからは,とにかくスピードを出すために体力が尽きるまで「気合」を連打。狙いどおりに馬群を置いてきぼりにし,見事に大舞台で大逃げを披露できた。レースは残念ながら向こう正面で追いつかれて,奮闘むなしく最下位……となってしまったが,筆者的には大満足のSSが取れたのでよしとしよう。ちなみに勝利馬はもちろん「トウカイテイオー」だった。今度はツインターボを種牡馬とし,凱旋門賞を本気で取りにいける大逃げ馬を育てることにしたい。
気軽に競馬ゲームが多角的に楽しめる作品
ただし一部のプレイヤーには向かない側面も?
本作は,競馬ゲーム初心者でも,競馬業界に関わる三つの職種を遊びながら覚えていけるし,競馬に関する情報を名馬列伝や用語辞典ですぐに引き出せるので,この世界への入り口としてはお手頃なタイトルだ。3職種の能力育成,各アイテムの入手,名馬カード収集,全タイトル制覇など,やり込み要素も幅広くある。
だが「新/旧ワールドモード」に入っていくタイミングは,それらの要素をすべてクリアしてからが理想なので,そのためには何度もシナリオを周回する必要がある。そのため,遊んでいて「早く競走馬を集中して育てていきたい,でも登場キャラクターの能力が物足りない」といったジレンマを感じる部分がある。人間の育成よりも,競走馬の育成を楽しみたいプレイヤーにとっては,テンポが悪く感じるかもしれない。
とはいえ,あれもこれもしたい欲張りなプレイヤーにとっては,うってつけのタイトルだ。例えば,2年の不振を脱却し「天皇賞(春)」を勝利して奇跡の復活を果たした直後,ファン投票一位で大舞台「宝塚記念」に出馬するも第3コーナーで競走中止,種牡馬となれずにこの世を去った名馬「ライスシャワー」。彼の血を継承し,その子供を鍛え抜き,騎乗してターフを駆け抜けたい……といった欲張りな願望も,本作でなら叶えられるのである。さまざまな競馬ゲームを作り上げてきたコーエーのノウハウが詰まった作品であり,マルチプラットフォームで五つのハードという選択肢があるので,競馬ゲームに興味がある人は購入を検討してみてはいかがだろうか。
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