レビュー
さまざまなパラメータが複雑に絡み合う,やり込み要素満点のストラテジーRPG
キング・アーサー ザ ロールプレイング ウォーゲーム 日本語版
アーサー王と円卓の騎士達が織りなす物語は,いわゆる剣と魔法をテーマにしたファンタジーの基本だ。岩から剣(エクスカリバー)を引き抜いた若きアーサーが,ブリタニアを統一するという一連のストーリーは,ファンタジーに関心がなくとも多くの人が知っているだろう。
ウーゼル・ペンドラゴン(日本ではウーサーと表記するほうが一般的だが,ゲームではウーゼルとなっている)の死後,混乱をきわめるブリタニアに一人の王が誕生する。
争いを鎮めるため魔術師マーリンが呼び集めた諸侯の中から,ただ一人アーサーという若者が「この石より剣を引き抜きし者こそ,全イングランドを統べる真の王である」と書かれた剣を引き抜いたのだ。だがその瞬間,イングランド各地で異変が起きる。
荒野の怪物が目を覚まし,ストーンサークルの周りでは大気が音を立てて揺れた。そして,太古の妖精シーがイバラの王国から舞い戻り,鋼の鎧を身につけ,奇妙な武器を携えた巨人のような騎士が姿を現した……。
そんなシーンで始まるのが,ハンガリーに拠点を置く新たなデベロッパ,Neocore Gamesが制作し,7月2日にズーから日本語版がリリースされた「キング・アーサー ザ ロールプレイング ウォーゲーム 日本語版」(以下,キング・アーサー)だ。アーサー王と円卓の騎士達の,剣と魔法の叙事詩を,RPG要素をたっぷり盛り込んだストラテジーゲームに仕立て上げた,アーサー王ファンには見逃せない作品である。
戦力差があっても勝利の可能性がある
戦闘システムに注目
ゲームシステムは,立体的に描かれたブリタニアと,それぞれの地方が確認できるキャンペーンマップの上で軍隊を動かすときはターン制だが,ひとたび戦闘が起きるとリアルタイムストラテジーになるという,最近の作品ではよく見られるものが採用されている。
マップにヘックス表示はないものの,1ターンで移動できる距離はユニットごとに決まっている(固定ではなく地形によって増減する)。
1ターンは一つの季節を表し,4ターンで1年が経過する。ただし冬は移動ができないので,実質的に軍隊を移動させてクエストをこなしたり戦闘を行えるのは春〜秋の3ターンとなり,冬のターンでは内政をもっぱら行うことになる。この繰り返しで,ゲームが進行していくわけだ。
マップ上にいる他国の軍隊と自分のユニットが接触すると,RTSの戦闘モードに突入できる。ここで“できる”と書いたのは,オートバトルを選択していれば,戦闘をスキップして結果だけを得られるからだ。しかしオートバトルでは,かなりの戦力差がない限り高い確率で敵に敗れ,成長したユニットを失うことになるので,あまりオススメできない。
戦わずに撤退することもできるが,それでも損害が発生する。そのため,マップ上でしつこく追われているうちにどんどん戦力が削がれ,結局全滅ということにもなりかねないので注意が必要だ。
つまり,ひとたび戦闘状態になったら,戦闘モードへの移行は避けられないと思ったほうがいい。したがって,やたらと軍隊を動かすのは不利につながるため,プレイヤーは敵の動きを予想しつつ,最善の行動を決定しなくてはならないわけだ。そのへんが,本作のウォーゲームたる所以だろう。
戦闘が開始されると,まずは戦場を選ぶことになる。ちょっと珍しい仕様だが,川や渓谷,森など,通常3種類の候補が提示されるので,自軍が有利になりそうな戦場を選びたい。
マップにはまた,点在するビクトリー・ロケーション(VL)の位置も表示される。VLはこのゲームを特徴づけるものの一つで,これを占領することで敵に対して有利に戦闘を進められるのだ。
それぞれのVLが特殊な効果を持っており,例えば大聖堂を占領することでユニットの治癒が可能になったり,監視所を占領することで「雨あられの矢」という呪文効果が発動できたりするという具合だ。また,VLを占領すると敵の士気が下がるので,いかにVLを多く占領するかが勝敗を左右することになる。
戦闘モードは,まず配置フェーズから始まる。決まった範囲に限られるが,戦闘が始まる前にユニットの配置を決められるわけだ。騎兵をVLに近いところに配置して,重歩兵を最前列に並ばせ,そのうしろに弓兵を置いて……といった具合に,戦闘の成り行きを予想して配置しなければならないところは,名作シミュレーション,「クロース コンバット」シリーズを思い出させて,個人的に懐かしい。
実をいうと,本作の戦闘で勝利するために敵を全滅させる必要はなく,敵の士気を完全に失わせればいいので楽だ。だが逆にいえば,どれだけ自軍のユニットが残っていようと士気が尽きたら負けなので,これは大変だ。
士気はVLの占領や,自軍ユニットの減少によって変化し,またヒーローの行動や特殊能力によっても変わってくる。たとえ敵との戦力差が大きくても戦闘に勝てる可能性があるところが本作の戦闘における最も面白い部分なのだ。
戦闘で勝利すれば,敵軍の規模に応じて金貨や食糧を奪い取れ,さらに「秘宝」と呼ばれる強力なアイテムが手に入る可能性がある。
ちなみに敵のヒーローユニットは,捕虜として投獄可能。放っておけば,気の毒にもいずれ死んでしまうが,ときとして敵の王が代価を支払って捕虜の解放を求めてくる場合がある。こうした臨時収入があるのも興味深いところだろう。牢獄画面で捕虜を解放することもできるが,なんと,拷問にかけて敵の軍隊構成を白状させたりするのも可能だから驚きだ。とはいえ,拷問をしすぎると自軍の騎士達の忠誠心に悪い影響を与えるので,これまた注意が必要だ。
プレイヤーの決断が,アーサーの“モラル”を決める
ゲーム開始時,アーサーはブリタニアの最南端にあるアーブリーという集落一つを持っているだけだ。アーサーの家来として動いてくれる騎士にしても,この時点ではアーサーの乳兄弟であるケイ卿ただ一人という寂しい状況。ブリタニアの統一に向けて,これから円卓に並ぶ騎士達を集めていかなければならないのだ。
騎士達は,荒野にポツンと突っ立っているわけではなく,キャンペーンシナリオを進めたり,時折出てくるイベントに対処していくことで仲間になってくれる。
キャンペーンは全5章で構成され,円卓の騎士集めから諸国との争い,そして聖杯伝説へといった感じで,アーサー王にまつわる逸話に沿ってストーリーが展開していく。もちろん独立したイベントやクエストもたくさん発生し,物語の流れはそう単純ではない。
キャンペーンを開始すると,アーサーの養父(つまりケイ卿の父)であるエクトル卿が,ゲームの進め方や戦闘の方法を細かに指示してくれるので大助かりだ。序盤のミッションではこの指示があるため,実質的にチュートリアルとして機能している。
キャンペーンは章ごとにいくつかのクエストで構成されているが,その多くでプレイヤーが決断を迫られる場面に遭遇し,その時々の決断が後のゲーム展開に大きな影響を与える。下さなければならない決断としては,例えば兄弟で互いに争っている二人の王のうち,どちらを手助けするかという感じだ。こういう場合,たいてい一方は正義の王で,もう一方は暴君といった設定になっている。
というのも,本作には「モラルチャート」なるものがあり,それがゲームを進めていくうえでの大きな指針となるのだ。チャートには品性(正義の王か暴君か)と信仰(キリスト教かそうでないか)という二つの軸があり,使える呪文や募兵できるユニット,さらには経済効果などもモラルチャートによって変化する。
正義の王と暴君,どちらにせよ,突き詰めていったほうが得られるメリットが大きく,つまり,プレイヤーはあらかじめ正義寄りなのか暴君寄りなのかといったことを決め,徹底してそれに沿った行動を取ったほうが有利になるのだ。
ときに正義を振りかざし,たまに暴君のように振舞うということでは,いつまで経っても強力な軍隊や堅固な国家は造れない。このへんが本作の面白いところである。
さまざまなユニットを組み合わせ,死角のない軍隊を作る
軍隊に関するRPG要素は,おなじみの経験値だ。一つの軍は最大で16のユニットで構成され,各ユニットが戦闘の功績によってアビリティーポイントが得られる。
そのポイントを使ってレベルアップできるのは年に一度,冬のターンに限られている。ユニットのアビリティーは格闘,防御,弓,スタミナ,忠誠の5つに割り振ることが可能で,さらに5レベル上がるごとに特殊技能が得られるので,十分に育てたユニットは,かなり強くなってくれる。
ユニットには歩兵,槍兵,弓兵,騎兵など,いくつかの種類があり,いずれも強力な上位ユニットが存在する。上位ユニットは,まれにクエストによって入手できることもあるが,基本的に先述したモラルチャートや「研究」によって募兵できるようになる。
この研究も,多くの条件が重なって開発が早くなったり遅くなったりするので,けっこう複雑だ。もちろん,上位のユニットは募兵の金額も維持費も高額になる。
軍隊を維持するには金貨と食糧が必要なので,それが底をついてしまえば兵士達は空腹になり,士気が大きく下がり,戦闘での活躍も期待できなくなってしまう。
というわけで,金貨と食料を十分に確保することが重要な課題になるため,征服した土地の管理も必要。研究したり,兵士を集めたり,土地を管理したりと,中盤以降にプレイヤーにのしかかる仕事はハンパではないのだ。王様もつらいのである。
ちなみにヒーロー(騎士)のレベルアップは,通常ユニットよりちょっと複雑で,戦闘だけでなくクエストでも経験値が得られ,さらにレベルアップによって新しい呪文や能力を手に入れたり,アビリティーポイントも通常ユニットにはない「リーダーシップ」や「統治」「魔法」などになる。ヒーローはまた,秘宝によっても能力強化ができたりするので,このへん,RTSよりRPGに詳しい人のほうがテキパキ進められそうだ。
円卓に加わった騎士は,独立した軍隊を持つことになる。軍隊には必ずヒーローユニットが必要(ヒーロー不在の軍は移動できなくなる)だが,一つの軍隊に2人以上のヒーローがいても構わない。
ヒーローはその戦闘力もさることながら,特殊能力を持ち,強力な魔法が使えるため,ヒーローが多いほど強力な軍隊になるのだ。ヒーローを集結させれば戦闘で勝利する確率が飛躍的に向上する代わりに,各地で勃発するイベントに対応できなくなることにもなるので悩みどころだ。
少数の強力な軍隊を持つか,多数の軍隊を用意すべきかは,よく考える必要がある。軍の分割は可能だが,新兵を補充するために数ターンを要するので,これまた注意が必要。
そんなヒーロー達だが,なかなかの曲者でもある。「忠誠心」のパラメータがあるため,いともあっさりアーサー王を裏切ったりするのだ。忠誠心は征服した土地の領主に任命したり,宮廷の貴婦人と結婚させたり,あるいは戦闘やクエストで活躍させることで高められるが,ヒーロー自身が持つモラルとアーサー王との相性という,いかんともしがたい部分によっても左右されるからやっかいだ。
例えばアーサー王がキリスト教と正義に寄ったモラルを持っている場合,キリスト教に帰依しておらず,暴君寄りの騎士とは反目し合うのである。余談ながら,同じ軍隊に異なるモラルのユニットを混在させると,軍隊の士気が下がるという点もお忘れなく。
かなり複雑なシステムだが,やりこみ度は高い
そんなこんなで,キング・アーサーでは,さまざまなパラメータが複雑に絡み合っているため非常に奥が深く,筆者にしても,10日程度のプレイではゲームの全体像が掴めていないのが本当のところだ。やりこみ要素がたっぷり詰まっていることは間違いないが,逆に言えば初心者向きのゲームではないという印象も受けた。
アーサー王,騎士,ユニットだけでなく,騎士と結婚させる貴婦人にまでもパラメータがあるため,やがて管理しきれなくなる。戦闘とクエストと内政を同時に考えるのはかなり大変で,内政を行えるのが冬ターンに限られるのは,そういう理由によるのかもしれない。
年代記は,アーサー王の伝説にまつわる知識の宝庫だ。ゲーム中で分からない用語が出たら,ここを調べてみよう |
戦闘に勝利すると,敵が持っている金貨や食糧だけでなく,運が良ければ秘宝が手に入ることも |
とはいえ,それなりのゲーム経験があり,アーサー王伝説に興味があり,なおかつじっくりやり込みたいというゲーマーにとっては,これ以上のものはないくらいのタイトルだ。一つのゲームを長く楽しみたいというプレイヤーに,ぜひお勧めしたい。ちなみに,4Gamerには英語版のデモ版を掲載しているので,ゲームの雰囲気を知りたいという人は,ぜひお試しを。さあ,この夏はブリタニアで剣と魔法の世界にどっぷりと浸かってみよう。
「キング・アーサー ザ ロールプレイング ウォーゲーム 日本語版」公式サイト
アーサー王伝説をベースにしたファンタジー要素満載のRTS
「King Arthur」のデモ版を掲載
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