レビュー
十字軍側とイスラム側でゲームシステムが一部異なる,第三回十字軍をテーマとしたRTS
キングスクルセイド【完全日本語版】
サイバーフロントから発売中の「キングスクルセイド【完全日本語版】」(King's Crusade)は,第三回十字軍をテーマとしたRTSだ。プレイヤーは十字軍側の指揮官であるリチャード獅子心王,あるいはイスラム側の指揮官であるサラディンとなって,兵士の1人単位まで仔細に描きこまれた美しい戦場での采配を執ることになる。
ゲームの全体的な外観としては,NeoCoreGamesの前作「King Arthur」に似ている部分も多いが,戦略パートは完全に別物となっており,背景世界にマッチしているだけでなく,ゲームとしてもスマートなものになっている。
第三回十字軍をテーマとしたRTS
キングスクルセイドの基本はシンプルで,クリックしてユニットを選択,さらにクリックしてそのユニットの移動先(あるいは攻撃対象)を設定するという,スタンダードなRTSそのものだ。勝利条件はシナリオによって異なるが,原則的に敵を全滅させるというものが多い。兵士は1人単位で画面上に描かれているが,クリックできる単位はあくまで部隊単位(10〜50名程度)であり,プレイヤーが同時に管理すべきユニット数は多くない。
また,1ゲームにつき1つの会戦をプレイする作品であり,RTSといっても部隊に指示を出しながら生産や資源回収の命令を発行する必要はない。戦闘と戦闘の合間に,損耗した部隊の回復や新規雇用,武器の充当などを行うようになっており,戦闘中は戦闘だけに集中できるシステムだ。
陣営は2つしか存在しない(十字軍側・イスラム側)が,ユニットの種類は多い。またユニットには陣形というものが存在し,この陣形によって他のユニットとの相性が変化したりするので,シンプルな「3すくみ」構造とは違ったゲームプレイが要求される。
ゲームの進行は歴史に忠実というよりはむしろ英雄伝的な展開であり,歴史に詳しくないとゲームが楽しめないといったことはない(無論,知っているに越したことはないが)。どちらかと言えば,ゲームを進めていく中で「当時はこんなことに苦労したのかもしれないなあ」などと歴史的な雰囲気を楽しむほうに重点が置かれている。
戦場の機微をつかめ
キングスクルセイドの戦闘は,非常に大雑把に見て3つの要素に分かれる。
最初に考えるべきは,ユニットの特性だ。ユニットには「軽装甲」や「重装甲」といった属性が存在し,同時にそういった特定の属性を持ったユニットに対する強弱が設定されている。また地形や環境(暗い,視界が悪い)との相性もあり,足場の悪い地形でこそ本領を発揮するユニットもあれば,開けた視界が確保できていてこその部隊もある。
ゲームを開始すると,軍勢が一列にずらりと並ぶ。初期配置は自由に再設定可能。この配置が結構大事なので,弓兵のように脆弱な部隊を守るような陣形を作っておきたい |
進行速度を上げると,ゲームはサクサクと進むようになる。が,陣形変更など細かいオペレーションが間に合わなくなるので,4倍速の使用は本当に移動しかしないときなどに留めておくべきか |
次に問題になるのは,陣形である。ユニットは最低でも2種類の陣形(無陣形と密集陣形)を持っている。これ以外にも陣形はあるが,基本的には陣形を組んだほうが戦闘においては有利だ――が,陣形を組んでユニットの人口密度が上がると,飛翔型の攻撃(弓やカタパルトなど)に弱くなる。
陣形は,いったん近接戦闘に突入してしまうと,もう変更できない。弓が雨嵐と降り注ぐあいだは無陣形で突撃し,近接戦の開幕直前に陣形を整える……これが一つの理想となるだろう。もちろん,迫り来る騎兵の突撃を方陣で待ち構えるといった戦術も重要だ。
マップによっては,先に防御陣地を構築するシナリオもある |
弓兵の近くには歩兵の列を用意し,敵の攻撃から弓兵を守るようにしたい。それくらい弓兵は強く,また脆弱でもある存在だ |
ちなみに,騎兵は馬の速度と突撃力を活かした蹂躙攻撃を仕掛けることもできる。無陣形のユニットに対して蹂躙攻撃は圧倒的な威力を発揮し,突入した騎兵はユニットを次々になぎ倒しながら戦線を突き抜けていく。逆に言えば,敵に騎兵と弓兵の両方がいる場合,弓兵へのケアとして無陣形を採用していると,騎兵の蹂躙攻撃で大損害という展開もあり得る。
そして,キングスクルセイドにおいて“士気崩壊は伝染する”のである! 士気崩壊を起こしたユニットから一定距離にいる味方のユニットは,味方の士気崩壊により士気への悪影響を受けるのだ。このため,キングスクルセイドでは一部のユニットに攻撃を集中させるだけでなく,万遍なく敵の士気を削っておいて,準備が整ったところで一番弱いユニットを士気崩壊させ雪崩式に戦線を崩す,といった戦術も考えられる。とはいえ,実際にはあっという間に混戦になってしまうことのほうが多いが……。
ユニットの成長とマネジメント
本作では戦闘をくり返すことで,ユニットが成長していく。特定の状況を経ること特殊なスキルを得たり,あるいはRPGのように経験を積んでレベル(本作の用語では「ランク」)アップしたりという要素もある。
ユニットのランクが上がると,能力値を向上させられる。ゲームが進むにつれて基礎能力値の高いユニットも出現するので,最終的にはそういったエリートをさらに鍛えるのが理想となるが,初期配備されているユニットであっても,しっかり鍛えられているユニットには一定の期待ができる。
ユニットの管理。低難度では予算が潤沢だが,難度を上げると予算がカツカツになるので,部隊の休養ローテーションが必要 |
英雄ユニットに限らず,ユニットには特殊なスキルを付与できる。操作に自信のない人は常時発動型を選ぶと吉 |
また,ランク向上にともない,スキルの習得も可能だ。これは前述した「戦闘中に勝手に獲得するスキル」とは異なり,スキルポイントを消費して習得していく。1つのスキルのレベルを集中的に上げ,特定のシチュエーションに特化したユニットを育てていくことも可能だ。
ユニットは,経験を積んで成長する以外にも,お金を払って武器防具を強化したり,指揮官や司祭などを従軍させたりすることによって強化できる。もっとも,ユニットを構成する兵士が全滅してしまうと経験も投資もすべて天に召されてしまうので,お金をかけた部隊はそれ相応の運用を心がけたい。
勝利すると,アイテムを手に入れることもある。もっとも,ユニットのランクが足りずにアイテムを装備できない,ということも |
戦闘が終わり,経験を積んでランクアップしたユニットは,ステータスを上昇させられる。1つのステータスに対し,ポイントで上積みできる量に上限があるので注意 |
部隊の運用という点では,損害の復旧という部分も重要だ。戦闘を繰り返せば当然兵士の数は減っていく。お金をかければ兵士の再補充が可能だが,難度によってはそんなことをしていると資金がまるで回らない,ということも起こる。
ではどうするか。1つの会戦のあいだ戦場に出さずに休養させることで,ユニットは自動的に兵数を回復させていく。従って常に全軍を繰り出す大戦争を仕掛けるのではなく,予備とのローテーションを組んで軍隊全体を維持していくことが重要になる。
マップクリアによって,新しい種類のユニットが雇用できるようになることもある |
カメラを寄せると迫力あるシーンが見られる。が,ゲーム中にこんなことをしている余裕があるか,というと…… |
ユニットのレベルアップや装備の配給,およびその他のマネジメントなどは,会戦と会戦の合間にある,いわば戦略フェイズに行われる。このフェイズは非リアルタイムなので,次にどこに攻め込むかも含めて,じっくり考えると良いだろう。
「諸君は戦争経済をご存じない」
さて,キングスクルセイドの1つの大きな特徴は,「十字軍側とイスラム側でゲームシステムが一部異なる」ということだ。
おそらく,ゲームとして一般的なのは,イスラム側だろう。イスラム側はいわゆる「テクノロジーツリー」を有しており,会戦に勝利することによって得られるポイントを使って,ツリーに沿った技術向上を図れる。技術には指揮官のスキルや新しい種類の部隊,あるいは戦争全体を有利にする修正などがあり,どこを重点的に伸ばしていくかはプレイヤーの個性が出るところだ。
十字軍側とイスラム側とではユニットの強化ルールなどがまったく異なる。こちらはよく見る「ツリー型」のアップグレードルートだ |
イスラム側は一枚板なので,作戦があれこれ提示されることもない。逆に言うと,「こりゃ厳しい作戦だな」という場合でも逃げ道はない |
一方,十字軍側はテクノロジーツリーが会戦の方針と一体化している。第3回十字軍には複数の王が参加しており,またさまざまな勢力が自分の影響力拡大のために政治的な思惑を戦わせる場面もあった。
これを反映し,キングスクルセイドの十字軍側は,会戦が始まる前に,複数(最大4つ)勢力の「アドバイザー」の,どの意見を採用するかを決定する必要がある。そして,例えば教皇庁のアドバイザーの意見を採用すれば,教皇庁との関係が深まっていき,その関係の強さに応じてユニットなどのアンロックが行われていくのだ。このため,八方美人をやっていると,いずれの勢力からも中途半端な支援しか受けられないという事態も発生する。
個人的には,十字軍側をプレイするときの「どの意見を重視するか」というのは,面白いアイデアだと感じた。いささかゲーム的であるかもしれないが,十字軍の“一枚板でなさっぷり”がよく現れているだけでなく,政治的な理由で戦わねばならない会戦が発生するというのは,とても興味深い。同様に,軍事的には「この程度で十分」「こっちのほうが賢い選択」と思えても,得られるボーナスのことを考えると無理をしたくなるということもままあり,このあたりは政治と軍事の関係をシンプルなシステムでうまく表現していると思う。
インタフェースそのほか
RTSにおいてしばしば勝敗を分かつのは操作の機微だが,キングスクルセイドの操作系は比較的標準的なもので,慣れるのにそれほど時間はかからないだろう。
特徴的なのは視点操作で,カーソルキーで視点を動かしマウスホイールで視点を上下させるという,個人的に「Combat Mission型」と呼んでいる方式が基本となっている。筆者としてはフォーカスをコントロールしにくい(=狙ったスクリーンショットが撮りにくい)こともあって,あまり好きではない方式だ。できればマウスホイールは拡大縮小,視点変更は右クリック+マウス移動でやってくれんものかと思う。
しかしながらキングスクルセイドではW/A/S/Dにカーソルと同じ機能が割り当てられ,またQとEに視点の回転が割り振られている。これは想像以上に快適な操作系で,いかにFPS慣れが恐ろしいのかを感じさせる。部隊にはショートカットボタンを割り振れるが,これがフルキーの数字キーなので,W/A/S/Dによる視点移動と相性が良いのも魅力的だ。
一方やはり弱点もあって,マップの端に存在するユニットを指定しようとすると,そのユニットを前または横から見る視点をとらないとクリックできないことがある。カメラの後退限界があるため,カメラの高度によって(というか普通にプレイしやすい高度にすると)視野角的に「カメラの真下付近」にあるユニットが画面に入ってこないのだ。これはCombat MissionからTheatre of War,そしてキングスクルセイドに至るまで,この方式を取っているタイトルに一貫してつきまとう弱点なので,そろそろなんとかしてほしいところではある。
また,随時パッチは適用されているようだが,再現性のあるクラッシュが発生することがある。これについては,「セーブはこまめに」と言うほかない。開発会社は違うとはいえ,Paradox Interactiveが関与しているゲームなので,このあたりはある程度までの覚悟が必要な部分ではある。
問題は残るが,良作RTS
ゲームクリアまでのトータルで見ると結構なプレイ時間を必要とするが,1つの会戦に限れば長くても1時間程度で片が付くので,区切りをつけやすいのも良い。もちろん対戦モードも用意されているので,「RTSは対人ゲームだろ!」という方もフォローされている(実際にこのゲームでまで対戦をするかどうかはともかく)。
一方,ゲームがクラッシュする傾向があること,また全体的にユニットの移動速度が遅いため,会戦においてただ移動を見守るだけの時間が長くなりがちなことは大きな問題だ。敵のAIが不自然な機動を行うこともあり,防御シナリオにおいて待ち伏せをしていると,正直イライラすることもある。
個人的には,Total War的なゲーム骨格を持ちつつ,政治と戦争というテーマを自然な形でRTSの中に取り込んだことは,高く評価したい。軍事的目的と政治的目的が一致しないという状況は,数多くの戦略級のストラテジーゲームが何度も表現を試みながらも,なかなかスマートに解決できなかった課題であり,今後シリーズとしての発展にも期待したいところだ。
「キングスクルセイド【完全日本語版】」公式サイト
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