レビュー
1万円台の市場にDirectX 11時代の幕開けを告げる2製品
ATI Radeon HD 5770リファレンスカード
ATI Radeon HD 5750リファレンスカード
» 北米市場における搭載カードの想定売価が159ドル以下。要注目の価格で登場してきた,DirectX 11世代初のミドルクラス製品2モデルを,宮崎真一氏がチェックする。新世代ミドルクラスGPUは,前世代のハイエンドGPUなどを相手に,どこまで戦えるだろうか。
日本時間2009年10月13日13:01,AMDは,世界初のDirectX 11対応GPUファミリー「ATI Radeon HD 5000」のミドルクラス市場向けシリーズ,「ATI Radeon HD 5700」を発表した。ラインナップは,「ATI Radeon HD 5770」(以下,HD 5770)と,「ATI Radeon HD 5750」(以下,HD 5750)の2モデルとなる。
第1弾となったハイエンド製品シリーズ「ATI Radeon HD 5800」(以下,HD 5800)は,DirectX 9/10世代のゲームでも高いパフォーマンスを発揮し,また,消費電力の改善にも目を見張るものがあっただけに,同一のアーキテクチャを基に,スイートスポット戦略(関連記事)で展開される新製品にも期待が高まるが,実際はどうだろうか。
今回は,AMDの日本法人である日本AMDから貸し出しを受けたリファレンスカードを使って,両製品の実力に迫ってみたい。
HD 5800比でちょうど半分のスペック
HD 4870&HD 4850の置き換えに
上位モデルであるHD 5770の「コアクロック850MHz,メモリ4.8GHz相当(実クロック1.2GHz)」という値がHD 5870とまったく同じことからしても,HD 5800シリーズをベースに,主要スペックをほぼ半減させたシリーズと見るのが正しそうである。
同時に注目しておきたいのは,HD 5770の「シェーダプロセッサ800基,レンダーバックエンド16基」というスペックが,「ATI Radeon HD 4870」(以下,HD 4870)や「ATI Radeon HD 4850」(以下,HD 4850)と同じであること。GDDR5サポートいう観点では,HD 4870が256bitメモリインタフェースになっているところが,HD 5770だと128bitというのが大きな制約となるが,それを,HD 4870比で33%高いメモリクロックでどこまで挽回できるかが争点になるだろう。
このほか,HD 5770とHD 5750の比較対象となり得る「ATI Radeon HD 4770」(以下,HD 4770),シェーダプロセッサ数216基&55nmプロセス版「GeForce GTX 260」(以下,GTX 260),55nmプロセス版「GeForce GTS 250」も交え,主立ったスペックを比較したのが表1となる。
位置づけを確認したところで,入手したリファレンスカードをまずはじっくりと見てみよう。
HD 5770リファレンスカードの外観は,HD 5800シリーズのそれを踏襲する印象だ。カード全体を覆う2スロット仕様の外排気クーラーが,カードの後方に12mmほど張り出す格好なのはHD 5870譲りだが,カードサイズ自体は実測220mm(※突起部含まず。基板の長さは同208mm)と,同241mmのHD 5850リファレンスカードよりも短い。
一方のHD 5750リファレンスカードは,卵形のフードがついた,2スロット仕様のGPUクーラーが印象的。下位モデルらしく,かなりシンプルなクーラーの構造になっている。カードサイズは実測182mm(※突起部含まず)で,HD 5770からさらに短くなった。
GPUクーラーを取り外したところが下の写真だ。両製品とも,1Gbit仕様のグラフィックスメモリチップをカードの両面に4枚ずつ搭載することで,容量1GBを実現しているのが分かる。カード表面に配置されたメモリチップの冷却はGPUクーラーでまかなう一方,裏面に配置されたメモリチップの冷却を,PCケース内のエアフローに任せているのも共通である。
なお,「ATI Catalyst Control Center」(以下,CCC)の「ATI OverDrive」から確認する限り,アイドル時の動作クロックは,省電力機能「ATI PowerPlay」により,コア157MHz,メモリ1.2GHz相当(実クロック300MHz)にまで,それぞれ下がっているようだ。HD 5800シリーズだと,コアクロックは同じながら,メモリクロックは600MHz相当(実クロック150MHz)まで下がっていたので,この点は若干ながらスペックダウンした格好である。
一方のHD 5750リファレンスカードだが,搭載するメモリチップはHD 5770と同じ。つまり,メモリチップの仕様上は,400MHz相当(実クロック100MHz)のマージンがある計算になる。
アイドル時の動作クロックが,コア157MHz,メモリ1.2GHz相当にまで下がるのは,HD 5770から変わっていない。
HD 5750 GPUとメモリチップ。GDDR5メモリチップは,HD 5770リファレンスカードと同じスペックのものを搭載していた | |
左から順に,HD 5750リファレンスカードに対するGPU-Z実行結果と,CCCのATI OverDrive表示内容(※サムネイルをクリックすると,別ウインドウで全体を表示します) |
“Juniper用β2ドライバ”を用いて検証
新旧ハイエンド&ミドルクラスGPUと比較
具体的な製品名など,詳細なテスト環境は表2に示した。ATI Radeonファミリーのテストに用いた「8.66.6-091006a-089804E」版グラフィックスドライバは,「Juniper用β2ドライバ」として,AMDから全世界のレビュワーに配布されたものだ。AMDからは,HD 5770&5750のレビューに当たっては,当初,β1とされるドライバも配布されていたが,それよりも,パフォーマンスの最適化が進んでいるという。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション8.2準拠。ただし,HD 5870&HD 5850のレビュー時に指摘した「『バイオハザード5』でATI Radeonのパフォーマンスが出ない」という不具合について,「英語版『Resident Evil 5』では生じない」という事実を確認できたので,今回は英語版の公式ベンチマークソフトを利用することにしている(※日本語版と英語版で,実行ファイル名などが微妙に異なり,これが,ATI Catalystの誤動作を招いているようだ)。
「日本のゲーマーが日本でプレイする環境におけるスコア」を見るという観点からすると,乖離が生じてしまうのだが,とはいえ,明らかにドライバが正しく動いていないスコアを掲載し続けるのも望ましくない。そのためバイオハザード5に関しては「『ドライバが日本語版を正しく認識できない』という問題が解決した場合の期待値」を見ることにするので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
GV-R487D5-1GD Zalmanクーラー&メモリ1GB搭載がウリ メーカー:GIGABYTE TECHNOLOGY 問い合わせ先:リンクスインターナショナル(販売代理店) 実勢価格:1万8000〜2万4000円(※2009年10月13日現在) |
ELSA GLADIAC GTX 260 V3 896MB 55nm&216SP版のGTX 260を搭載 メーカー:エルザジャパン 問い合わせ先:エルザジャパン サポートセンター TEL 03-5765-7615 実勢価格:2万1000〜2万5000円(※2009年10月13日現在) |
EAH4850/HTDI/512M/A リファレンス仕様のHD 4850カード メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 販売終了(※2009年10月13日現在) |
EAH4770 FORMULA/DI/512MD5 冷却能力重視の独自搭載版HD 4770 メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:1万4000〜1万6000円(※2009年10月13日現在) |
HD 4870を超えられないHD 5770
128bitメモリインタフェースが足かせか
前置きが長くなったが,スコアの考察に入っていくことにしたい。
グラフ1,2は,「3DMark06」(Build 1.1.0)の総合スコア「3DMarks」を比較したものだ。HD 5770のスコアは,HD 4870やGTX 260をあともう少しのところで超えられないところに位置しているが,これは一にも二にも,メモリインタフェースが128bitに留まることの制限によるものだろう。
理論上のメモリバス帯域幅を比較すると,HD 4870が115.2GB/sなのに対し,HD 5770は76.8GB/s。3分の2しかない。要するに,大きなテクスチャデータの転送が多発すると,HD 5770はパフォーマンスで不利になるというわけである。
HD 5750は,HD 4850のスコアを安定的に上回るが,GTS 250には置いて行かれ気味。ただ,4xアンチエイリアシングと16x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」の1920×1200ドットでHD 5770とGTS 250の関係が逆転する点を見る限り,「高負荷環境に強い」というHD 5800シリーズの特徴は,HD 5700でもしっかり継承されているようだ。
なお,HD 5770とHD 5750のスコア差は12〜15%。シェーダプロセッサ数が10%違い,動作クロックも異なるというスペック差を,まずまず反映したものになっている。
3DMark06のデフォルト設定である「標準設定」&解像度1280×1024ドットで実行した「Feature Test」の結果から,もう少し突っ込んで傾向を見てみよう。
グラフ3〜5は,順にFill Rate(フィルレート),Pixel Shader(ピクセルシェーダ),Vertex Shader(頂点シェーダ)のテスト結果をまとめたもの。現代的な3Dゲームのパフォーマンスに大きく影響するピクセルシェーダのスコアで,HD 5770がHD 4870やGTX 260と大きく変わらず,HD 5750がHD 4850と似たものになっているというあたりからは,AMDが,HD 5700シリーズをどう落とし込もうとしているのかが垣間見えよう。
頂点シェーダのスコアは解せないが,より負荷の高い「Complex」で大きく落ち込むあたり,「まだまだドライバレベルの最適化の余地は十分にある」くらいに解釈しておくのが正解かもしれない。
汎用演算性能を見るShader Particles(シェーダパーティクル),シェーダプログラムの実行性能を見るPerlin Noise(パーリンノイズ)のテスト結果がグラフ6,7となる。ピクセルシェーダ性能とメモリ性能がスコアを左右しやすいShader ParticlesテストでHD 5770がHD 4870に大きく置いていかれるのは,メモリインタフェースの影響にほかならない。
一方,純粋なシェーダ性能のポテンシャルを見るPerlin Noiseだと,HD 5770は,850MHzという高いコアクロック,そして800基というシェーダプロセッサ数を踏まえたスコアが得られている。
実際の3Dゲームから,まずは極端に3Dグラフィックス描画負荷の高い「Crysis Warhead」のスコアを見てみよう(グラフ8,9)。
本タイトルでは,3DMark06以上にグラフィックスメモリアクセスが多発するのだが,こうなると,128bitメモリインタフェースのHD 5700シリーズは厳しい。HD 5770が,なんとかHD 4850を上回る程度という状況で,HD 4870やGTX 260には置いて行かれしまう。
グラフ10,11は,「Left 4 Dead」のテスト結果になる。HD 5770のスコアは,3DMark06をほぼ踏襲する格好になっており,HD 4870やGTX 260にいま一歩及ばず。対するHD 5750は,標準設定でHD 4850に置いて行かれ,高負荷設定で巻き返すというスコアになっている。
HD 5770とHD 5750のスコア差は,19〜23%。開きは,標準設定のほうが大きい。
続けて,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のテスト結果をまとめたものがグラフ12,13となる。
シェーダプロセッサ(≒テクスチャユニット)の性能がスコアを大きく左右することもあり,HD 5770は,おそらく動作クロックの分だけ,HD 4870のスコアを上回っている。逆に,720基と,HD 5770やHD 4850/4870比で10%削減されているシェーダプロセッサ数の影響を受け,HD 5750のスコアは,HD 4850を下回った。
HD 5770とHD 5750のスコア差は,19〜21%である。
海外版の公式ベンチマークソフトを用いることにしたバイオハザード5だが,ご覧のとおり,ATI Radeonが極端に低いスコアになるようなことはなくなっている(グラフ14,15)。
全体的に,メモリ周りのスペックがスコアを大きく左右するようで,こうなるとHD 5770とHD 5750は不利だ。HD 5770は,HD 4870に10%前後の差を付けられ,なんとかHD 4850を上回る程度というスコアに落ち込んだ。HD 5750のスコアはHD 4770とほぼ同等だ。
グラフ16は,「ラスト レムナント」のスコアをまとめたもの。本タイトルはGeForce系が有利なスコアを示しやすく,GTS 250がHD 5770と同程度のパフォーマンスを発揮するに至っているが,ATI Radeon間で比較すると,3DMark06の結果をおおむね踏襲している。HD 5770とHD 5750のスコア差は12〜13%で,これも3DMark06とほぼ同じ。
ラスト レムナントとは逆に,ATI Radeon有利となる「Race Driver: GRID」(以下,GRID)だと,HD 5770は標準設定でGTX 260のスコアを上回る。ただ同時に,高負荷設定だと逆転され気味で,128bitメモリインタフェースの制約はここでも確認できよう。
ただ,メモリバス帯域幅は76.8GB/s対64GB/sで,上回っているはずのHD 4850に対しても,HD 5770のスコアが低めに出ているのは解せない。このあたりは,ドライバの最適化待ちになるだろうか。
消費電力の低さは抜群
HD 5750はHD 4770さえ下回る
序盤で示した表1でも示したとおり,公称最大消費電力はHD 5770が108W,HD 5750が86W。HD 4770の同80Wほどではないにせよ,かなり低く抑えられている。また,AMDによると,3D描画負荷のかかっていない状態では,順に18W,16Wと,HD 5850の27Wから,さらに消費電力が下がっているという。
このあたりの実態を確認すべく,ログを取得できるワットチェッカー,「Watts up? PRO」を利用してシステム全体の消費電力を計測してみることにした。テストに当たっては,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時としている。
その結果はグラフ19に示したとおり。アイドル時の消費電力は,確かにHD 5850よりも低くなっていることが分かる。また,各プリケーション実行時の消費電力も,若干のバラツキがあるとはいえ,HD 5770は概ね250W前後でGTS 250以下,HD 5750にいたっては,同じ40nmプロセス技術を採用したHD 4770よりも低いという,かなりインパクトのあるスコアになっている。
HD 5800シリーズは,その消費電力の低さが大きな魅力となっていたが,それはHD 5700シリーズでもまったく変わらないと述べていいだろう。
最後に,3DMark06を30分間連続実行させた状態を「高負荷時」として,アイドル時ともども,GPU-ZからGPUの温度を取得してみよう。GPUクーラーが異なるため,横並びの評価にあまり意味はないが,「HD 5700シリーズのリファレンスクーラーがどの程度の冷却性能を持っているか」の目安にはなるはずである。
室温は22℃。システムはPCケースに組み込まない,いわゆるバラック状態で計測したスコアになるとお断りしつつ,結果をグラフ20にまとめた。
数字だけ見ると,HD 5770がGTX 260を上回るなど,高負荷時を中心に,HD 5770のスコアが高いように思われるが,高負荷時に76℃なら問題のない範囲。ただ,あえていえば,カードサイズが小型化した影響で,クーラーの冷却能力は多少低下しているようだ。
また,基板背面に置かれたメモリチップの冷却に懸念が残るのも確かである。
妥当な3D性能と消費電力,DX11対応が魅力
2万円以下という条件でこれから選ぶならHD 5770
以上のテスト結果を踏まえるに,HD 5770の3D性能は,総じてHD 4870と同等か若干低い。前世代のハイエンドクラスを置き換えるという,新世代ミドルクラスとして,非常に分かりやすい位置づけの製品である。しかしその一方で、HD 4850/4870/4890のユーザーが買い換えても,得られるパフォーマンス面のメリットはあまりないのも事実だ。
HD 4850以上のHD 4800シリーズや,GTX 260あたりを使っているユーザーが,パフォーマンスを求めてDirectX 11世代へ移行するのであれば,HD 5850以上を選ぶべきだろう。それほどまでに,HD 5850とHD 5770の隔たりは大きい。
とくにHD 5770は,ミドルクラスらしいクセはあるものの,パフォーマンスはHD 4870と同等レベルで,DirectX 11対応を果たし,消費電力は大幅に低減と,魅力的な部分が大きいからだ。HD 4770,HD 4850,HD 4870,GTS 250,GTX 260を,これから購入しようと考えていたのであれば,HD 5770を候補に入れて再検討すべきだといえる。
当初の店頭価格は2万円台前半になる見込みだが,年末に向けて,2万円を割り込み,北米市場における店頭価格に近づいていくはず。そうなれば,相応に魅力的な選択肢となるだろう。
HD 5750は,HD 4770とHD 4850の間でスコアがややブレるものの,こちらも「前世代のミドルクラスを置き換える」存在としては,間違っていない。1万円前後かそれ以下で販売される例が珍しくなくなったHD 4770が強力なライバルとなってしまうが,HD 5750の流通量が増し,価格が1万円台前半まで下がってくると,消費電力やDirectX 11対応を武器に,HD 4670や「GeForce 9600 GT」,あるいはそれ以前のグラフィックスカードから買い換えるに当たっての安価な選択肢として,浮上してくるはずだ。
いずれにせよ,1万円台から購入できるDirectX 11対応GPUが登場してきたことは,コストパフォーマンスを重視するゲーマーにとって,大きな福音である。上位モデルともども,安定した市場への供給がなされ,店頭価格がこなれていくことを望みたい。
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