レビュー
さらにコア向けとなったZOWIE GEARのヘッドセット第2弾を試す
ZOWIE MASHU
2009年に登場した「HAMMER」以来となるZOWIE GEAR第2弾のヘッドセットは,世界で2番めに透明度の高い湖として知られる北海道の摩周湖からその名が取られているわけだが,コアゲーマー向けという立ち位置と「高い透明度」のイメージは,どう結びついているのだろうか。そこを意識しつつテストしていこうと思う。
質実剛健でシンプル……と思いきや
「マイクミュートボタンなし」の衝撃仕様
MASHUは,オーバーヘッドタイプのアナログ接続型ヘッドセットだ。ユニークなのは,「左耳用エンクロージャからケーブルが1本伸びる」という,よくある仕様ではなく,左右のエンクロージャから1本ずつケーブルが伸び,実測約0.4m先で1本にまとまる格好になっていること。ケーブル長は同1.1mでけっこう短いが,同0.7mの延長ケーブルが付属しており,全長は1.8m程度まで伸ばせるようになっている。
ケーブルは布巻きなどもない,ごくごく標準的なビニール皮膜で,ヘッドセット用としてはやや細め。ただ,やや硬めになっており,この硬さで強度を確保しているような印象だ。なお,接続端子はPC用としてごくごく一般的な3.5mmミニピン×2である。
HAMMERは,丈夫さがウリのヘッドセットだったにもかかわらず,インラインリモコン部だけ妙に作りが安っぽかったのだが,その反省も,今回の思い切った仕様の一因となった可能性はありそうだ。
黒と赤を基調とした本体デザイン。エンクロージャ部は赤いラインで囲まれた中央の円部分こそ金属調だが,全体的にはプラスチック感が強い |
イヤーパッドとスピーカーグリル部。イヤーパッドだけでなく,触ってみるとグリルも厚みがある |
黒く厚みのあるイヤーパッドはビロードというか,スエードっぽい布製。HAMMERはイヤーパッドを数種類交換できたりしたが,MASHUでは最初から取り付けられているイヤーパッドのみで,交換もできない。
そのイヤーパッドは,おそらく音漏れを最小限に抑えるためだろうが,肌との接触面をぴったり覆うべく,肌のラインにそって自在に形状が変化する程度には柔らかい印象だ。
イヤーパッドに囲まれたスピーカーグリル部には,けっこうな厚みのあるクッション素材が採用されている。HAMMERのレビュー時にも指摘したとおり,ZOWIE GEARはスピーカーグリルにもこだわりを持っているので,MASHUのスピーカグリルも,何らかの意図を持って厚みを持たせてあるのだと思われる。
マイクブームは“真上”まで大きく跳ね上げられるようになっている |
マイクを下げるときの下限は水平方向から見て約45度程度 |
先端のマイク孔は,内側に3つ,外側に1つ開いているが,仕様を見る限り,MASHUが採用するのは単一指向性マイクなので,外側の孔はダミーだろう。
エンクロージャとヘッドバンドをつなぐ機構部には,ZOWIE GEARのロゴがエンボス加工によりさりげなく入っている。また,幅28mmほどあるヘッドバンド部はZOWIE GEARロゴのフルバージョン入りだが,こちらも自己主張は強くない。
バンド部の長さ調節機構は,金属製で,非常にシンプル。長さ調整時のクリック感はやや強めで硬めでもあるが,なんとか片手で調整できる程度でもある。
装着感はバンド長を短めにすることでかなり安定し,しっかり装着しても,キツく締め付けられるような感じを受けないのはグッドだ。むしろ,少しバンド長を長めにすると,ヘッドバンドが頭の前後で多少ずれるような感触があるかもしれない。
スエードのような生地は,筆者は「夏場は暑苦しい」と思うが,肌触りは柔らかいので,好む人は好むだろう。
ZOWIEらしく,重低音はばっさりカット
音源の方向を特定することにひたすら注力
ヘッドセットの検証に入ろうと思うが,その前に1つ。
最近テストした「Razer Surround」が非常に優秀だったことから,担当編集との協議を経て,今回からバーチャルサラウンドヘッドフォン処理にはRazer Surroundを用いることとした。筆者のヘッドセットレビューでは,長年,Creative Technology
今回の調整結果は右のスクリーンショットで示したとおりだ。フロントとリアを少し狭めとし,サイドサラウンドをほんの少し前方寄りにして,さらにセンターはわずかに右へ寄せている。Razer Surroundのレビューでも述べたとおり,設定はあくまでも個人個人の耳の形状や感度に依存するので,この設定が万人に向くわけではない点はくれぐれも注意してほしい。
なお,Razer Surroundは,Razerの統合ツール「Synapse 2.0」によって最新版へアップデートされるため,Razer Surroundのバージョンはテスト時点での最新版だ。バーチャルサラウンドスピーカー設定以外は初期設定のままにしてある。
そのほかテスト環境は表のとおりだ。
一方,中高域には,歪むまではいかないレベルで,軽いピーク感がある。もっともこのピーク感は,安価なインナーイヤフォンにありがちな「低域がなく中高域がやたら強くて,ジャリジャリした音に聞こえる」というものではない。密閉式ヘッドフォンということもあって,そもそも音はタイト(※音のキレがいい)で,ブライトな(※どちらかというと低弱高強で華やかに聞こえる)音質傾向でもある。
結果として,その音は「音楽を聴くに堪えない」というレベルにはなっていない。重低音が弱いものの,高域はきれいで,かつ密閉型らしい,ソリッドな印象だ。
面白いのは,右から左へ定位が移動するようなタム回しで,タムの定位がやたらと分かりやすい点。このあたりは,ゲームのサウンドにつながる特性と言えるだろう。
というわけでゲームでの試聴だ。Razer Surroundを有効にしたうえで,シンプルなサラウンドサウンドの代表として用いる「Call of Duty 4: Modern Warfare」と,今日(こんにち)的な音を出すゲームの代表として用いる「Battlefield 3」で試聴してみると,
- 重低域が弱い分,高域が相対的に強く聞こえるため,定位がよりはっきりする
- 重低域が弱い分,映画的なゴージャス感がなくなる
ことが分かる。
つまりどちらも重低域が弱いことによる効果というわけだが,まずはポジティブなほうから見てみると,Razer Surround自体が「音源がどの方向から鳴っているのか」を分かりやすくしてくれるのだが,それとMASHUを組み合わせると,音が鳴った方向をピンポイント特定できるようになる。「音を情報として活用する」うえで,このテスト結果はなかなか衝撃的だ。
音が「点」で聞こえるというのは,コンテンツ制作者の意図とは異なるかもしれないが,一にも二にも音源の方向を瞬時に把握することが求められるFPSなどでは,非常に重要だろう。
これは当然のことながら,Razer Surroundのようなバーチャルサラウンドサウンド機能を使わずにゲームをプレイするときにも,場所の感覚を掴みやすいということでもある。
また,HAMMERのレビューでも述べたとおり,感情を刺激する重低音――重低域で鳴る音は迫力や恐怖などを感じさせる効果がある――を弱めることで,プレイヤーの感情の起伏を抑え,ストイックに粛々とプレイを進めていくことに貢献する意図もあると思われる。
続いてネガティブなほうだが,重低域が弱いため,映画のようなゴージャスなサウンド体験を求めようとすると,MASHUはとたんにダメなヘッドセットとなる。
ただこれは,音源を「点」で把握することを目指した副産物でもある。ZOWIE GEARとしても,MASHUを使って「サラウンドサウンドに包み込まれるような感覚が得られない」と文句を言うような人は,初めからユーザーとして想定していないのではなかろうか。
いずれにせよ,ゲームをプレイしたときに受ける全体的な音の印象は,厚みも広がりもないが,クリアで,音源の定位が「点」で飛び込んでくる感じになる。ザラザラした音はしておらず,聞き苦しさもないので,長時間のゲームプレイに堪えられないということはないはずだ。
「とにかく伝わること」を重視したマイクは
「ハイファイ」など二の次
さて,ZOWIE GEARによれば,マイクの周波数特性は100Hz〜10kHz。それを踏まえて下のグラフを見てほしいが,典型的な中高域強調型形状になっている。3.5kHz付近をピークに,2kHz〜13kHzくらいまでが大きな山となり,一方で低域は60Hz付近から下で一気に落ちるという計測結果からすると,公称値よりも周波数特性は良好ということになるだろう(※1.5kHz付近の落ち込みは出力に用いているスピーカーのクロスオーバーポイントによるものなので,気にする必要はない)。
最近の筆者は,サウンドデザインの仕事とは別に,スマートフォンや携帯電話の周波数特性を測ったりする機会も多いのだが,その経験を踏まえて書くと,MASHUが示しているこのテスト結果は,スマートフォンや携帯電話の典型的な周波数特性に近い。
もちろん,スマートフォンや携帯電話を使った通話においては,ネットワーク上で圧縮や変調がかかるうえに,サンプリング周波数は8kHzで,実質的に4kHz以上の周波数帯は聞こえなかったりする。MASHUのように下限が60Hzといったこともないが,2kHz〜4kHz付近の「プレゼンス」(Presence)と呼ばれる帯域が大きく盛り上がったMASHUの周波数特性が,最近のモバイルデバイスによく見られる特徴なのも確かである。
MASHUの周波数特性がスマートフォンや携帯電話のそれに近い理由は,なんとなく分かる。スマートフォンや携帯電話のマイクというものは,雑踏など,ノイズの多い環境でも,とにかく何を言っているのかが伝わる音質傾向に調整されているのが大半だからだ。要するに,ゲーム大会やLANパーティといったノイズまみれの場所や,あるいはネットワーク品質が悪く,変調がひどいような環境であっても,「何を言っているのかはとりあえず伝わる」という方向を目指したのだろう。
テストにあたって,録音レベル自体はピークに達しないよう設定しているので,「それでも大きな声で入力したときには3.5kHz前後の山で歪みが生じやすい」ということだと思われる。マイクは常時有効で,音量レベル調整もできないため,読者がMASHUを使うときは,サウンドデバイス側で入力レベルを若干下げ気味にしたほうがいいかもしれない。
なお,単一指向性マイクではあるが,実際に声を録音してみると,意外とノイズはがっつり乗っており,あまり単一指向性のメリットは感じられない。中高域の「サー」というノイズはMASHUのマイク周波数特性どおり強調され,また下のほうでも60Hzくらいまで出ているので,低周波ノイズも,極端ではないものの案外残っている印象だ。
ただ,もちろんネットワーク品質にもよるが,大抵の場合,この程度のノイズはネットワーク上で“丸められて”しまい,それほど気にならなくなるはずなので,大きなマイナスポイントにはならないと思われる。フレンドなどに伝わる声は,無線機越しのような変調があるものの,その分聞き取りやすくなる,といったイメージをしておくといいかもしれない。
「いい音」や「快適さ」を排除し,実用性に特化
ZOWIEのヘッドセットはさらなる“ガチ”志向へ
MASHUというヘッドセットの本質は,とどのつまり,冒頭で紹介した「インラインリモコンがない」というところに帰結する。ブランド第1弾として登場したHAMMERのような「捻ったり押しつけたりしても壊れない堅牢さ」「イヤーパッドの交換機能」という,分かりやすい特徴は影を潜め,ヘッドフォン出力に重低域の迫力はなく,やたらと高域寄りで,マイクの入力品質もスマートフォンや携帯電話より多少マシな程度。単にテスト結果だけを並べるなら,万人にオススメできるような要素はないと言い切ってしまってもいいだろう。ヘッドセットに,使いやすさであるとか,一般的な意味における音質の高さを求めているのであれば,MASHUは選択すべきではない。
よって,ZOWIE GEARに共感できるコアゲーマーからすると,MASHUは,音がクリアで,音源の場所を特定しやいヘッドフォンと,悪条件でも自分の声を仲間に届けられるマイクを持つ,優れたヘッドセットとなる。要は「刺さるか,刺さらないか」なのだ。刺さる人には間違いなく刺さる製品であり,MASHUを購入の選択肢に入れるかどうかで,“ガチ度”が分かるという,そんな製品だとさえ言えるかもしれない。
ZOWIE GEARのMASHU製品情報ページ(英語)
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■マイク特性の測定方法
マイクの品質評価に当たっては,周波数と位相の両特性を測定する。測定に用いるのは,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(ADAM製「S3A」)を,SBX 20の前方30cmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をSBX 20のアレイマイクへ入力する流れになる。
PAZのデフォルトウインドウ。上に周波数,下に位相の特性を表示するようになっている
PAZを動作させるのは,Sony Creative Software製のサウンド編集用アプリケーションスイート「Sound Forge Pro 10」。スピーカーからの信号出力にあたっては,筆者が音楽制作においてメインで使用しているAvid製システム「Pro Tools|HD」の専用インタフェース「192 I/O」からCrane Songのモニターコントローラ「Avocet」へAES/EBUケーブルで接続し,そこからS3Aと接続する構成だ。
Avocetはジッタ低減と192kHzアップサンプリングが常時有効になっており,デジタル機器ながら,アナログライクでスイートなサウンドが得られるとして,プロオーディオの世界で評価されている,スタジオ品質のモニターコントローラーだ。
測定に利用するオーディオ信号はスイープ波形。これは,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号である。スイープ波形は,テストを行う部屋の音響特性――音が壁面や床や天井面で反射したり吸収されたり,あるいは特定周波数で共振を起こしたり――に影響を受けにくいという利点があるので,以前行っていたピンクノイズによるテスト以上に,正確な周波数特性を計測できるはずだ。
またテストに当たっては,平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして取得する。以前行っていたピークレベル計測よりも測定誤差が少なくなる(※完全になくなるわけではない)からである。
結局のところ,「リファレンスの波形からどれくらい乖離しているか」をチェックするわけなので,レビュー記事中では,そこを中心に読み進め,適宜データと照らし合わせてもらいたいと思う。
用語とグラフの見方について補足しておくと,周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測したデータをまとめたものだ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表せる。これら高域の音や低域の音をHz単位で拾って折れ線グラフ化し,「○Hzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,4Gamerのマイクテストでもこの範囲について言及する。
周波数特性の波形の例。実のところ,リファレンスとなるスイープ信号の波形である
上に示したのは,PAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「音圧レベル」もしくは「オーディオレベル」という)を示す。また一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。
ただ,ここで注意しておく必要があるのは,「音声チャット&通話用マイクだと,15kHz以上はむしろリファレンス波形よりも弱めのほうがいい」ということ。15kHz以上の高域は,人間の声にまず含まれない。このあたりをマイクが拾ってしまうと,その分だけ単純にノイズが増えてしまい,全体としての「ボイスチャット&通話用音声」に悪影響を与えてしまいかねないからだ。男声に多く含まれる80〜500Hzの帯域を中心に,女声の最大1kHzあたりまでが,その人の声の高さを決める「基本波」と呼ばれる帯域で,これと各自の声のキャラクターを形成する最大4kHzくらいまでの「高次倍音」がリファレンスと近いかどうかが,マイク性能をチェックするうえではポイントになる。
位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省きたいと思う。PAZのグラフ下部にある半円のうち,弧の色が青い部分にオレンジ色の線が入っていれば合格だ。「AntiPhase」と書かれている赤い部分に及んでいると,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)状態で,左右の音がズレてしまって違和感を生じさせることになる。
位相特性の波形例。こちらもリファレンスだ
マイクに入力した声はチャット/通話相手に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要となるわけだ。
- 関連タイトル:
ZOWIE(旧称:ZOWIE GEAR)
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