レビュー
「本気でゲームに取り組むゲーマーに向けたマウス」の改良版,その完成度を探る
ZOWIE GEAR EC2 eVo black
2010年8月中旬にZOWIE GEAR初のマウス製品として国内発売された「EC2」のリニューアル版という位置づけだが,その実力はどれほどのものだろうか。
EC2から形状そのものには変化なし
懸案だった「スクロールホイールの仕様」には改善が
さっそく,外観と握りをチェックしていこう。
重量はケーブル込みで実測約137g。ケーブルを秤からどかした参考値で94〜99g程度となっている。
もっとも,2日ほど使っているうちに身体も慣れ,現在は気にならず利用できているので,店頭で両側面の握り心地を試して「あれ?」と思っても,この点は心配ないと述べてよさそうだ。
マウス後方から向かって右側面は,軽くスカート状に広がっており,小指と薬指を乗せやすい。これにより,「つまみ持ち」や「かぶせ持ち」だけでなく,「BRZRK持ち」でも自然に指を置けるようになっている。
左右のメインボタンは上面カバーと一体型になっており,クリック感はマウスの先端部分となるケーブルの根元付近で最も軽く,前後中央部へと指の位置をずらして行くにしたがって少しずつ重くなっていく。
前後に2つ並んだサイドボタンは,マウスを握ったときに親指を干渉しないように湾曲し,位置も高めになっている。筆者を含め,指が大きな人でもサイドボタンを“誤爆”するようなことはまずないと思われ,この点はよくできている。
ちなみにサイドボタンのサイズはざっくりと実測長さ20mm,幅6mm。両ボタンの間隔は同1mmだった。
サイドボタンは,EC2比でスイッチの硬さが多少増しているものの,カチッカチッと小気味よく押せる。ボタン部分の中央だけでなく,端の部分を押しても同じくらいの力加減で入力できる点はEC2から変化なしだ。ただ,EC2 eVoのほうが「スイッチのオン/オフ感」は圧倒的に感じられるので,筆者が気持ちよく扱えたのはEC2 eVoのほうだったとは述べておきたい。
……というわけで,注目のスクロールホイールである。突然「注目の」と言われても,という読者もいると思うが,実のところEC1とEC2には,「スクロールホイールの回し方によっては入力が無視され,スクロールしないときがある」という問題――ZOWIE GEARは「仕様」としていた――があった。これがかなりの不評を集めていただけに,eVoモデルでこの点が改善されているのかは,大いに気になるところであり,かつ,改善が期待されるところでもあるのだ。
この改善により,スクロールホイールのクリック感も大きく変わった。まずEC2と比べると,スイッチの抵抗がわずかに増し,硬くなっている印象がある。ただそれはマイナス要素ではなく,指に力を入れると,EC2よりも早い段階で,カチッという音とともにクリックできるのだ。
ただ,この違いは微妙なものなので,EC2をどれだけ使い込んできたかによって,印象は変わるだろう。ほかのマウスから移行した場合は,とくに違和感もないだけに,「普通」という感想に落ち着くこともあると思われる。個人的には,愛用している「SteelSeries Ikari Optical」と比較して,ノッチごとのカチカチ感が強く感じられ,かなり操作しやすく感じた。
なお今回は,EC2 eVoとEC2とでボタンやスクロールホイールを操作したときの音を比較するムービーを作ってみたので,合わせて参考にしてもらえればと思う。
もちろん,使用する武器によってDPI設定をその場で切り替えるタイプのプレイヤーからすると,「マウスを持ち上げ,底を自分の側に向けてからボタンを押す」という面倒なプロセスが発生するのでマイナス要素になると思われるが,むしろこの仕様は,そういったプレイヤーをバッサリと切って捨て,「ゲーム中にDPI設定を弄ったりはしないものだ」と主張している感じがしないでもない。
USBケーブルは実測2m長のビニール皮膜タイプ。太さは3.5mmと太めではあるものの,布製と比べて柔らかく,クセもあまりない。USB端子は金メッキされていた |
マウスソールは大型のものが2つ。前後に貼られている。素材は公表されていないが,使った印象ではフッ素樹脂を採用した,いわゆるテフロン素材のようだ |
センサーは光学タイプ
分解して詳細をチェックしてみる
EC2 eVoは,Windowsのクラスドライバで動作する,いわゆるドライバレスな製品となっている。そのため,自宅以外の場所で使う場合にも,Windowsの環境さえ同じなら,ほぼ同じ操作性を再現可能だ。
その代わり,他社製品の多くで可能な,DPI設定のカスタマイズやボタンへのキー割り当て,LEDインジケータの光り方調整などといったことは一切できない。ユーザーが変更できるのは,DPI設定とポーリングレートの切り替えのみである。
変更方法は製品ボックスのマニュアルではなく,製品ボックス上とZOWIE GEARの公式サイトに書かれているので,この点は注意が必要だが,まとめると,変更方法は下記のとおりとなる。
- マウス後方から向かって手前側と奥側,両方のサイドボタンを押しながらPCと接続→125Hz
- マウス後方から向かって奥側のサイドボタンを押しながらPCと接続→500Hz
- マウス後方から向かって手前側のサイドボタンを押しながらPCと接続→1000Hz
言うまでもないことだが,レポートレートを変更する前には一度EC2 eVoとPCとの接続を解除する(=USBケーブルをPCから抜く)必要があるので,その点はお忘れなく。ゲーム側の仕様によって125Hz設定が必要だとか,PCのスペックがあまり高くないため,できるだけPCへの負荷を下げるべく500Hzしておきたいという人は憶えておくといいだろう。
このほか主なスペックを下記のとおりまとめてみたので,参考にしてもらえればと思う。
●EC2 eVoの主なスペック
- ボタン数:6(左右メイン,センタークリック機能付きスクロールホイール,サイドボタン×2,DPI切り替え)
- トラッキング速度:60IPS
- 最大加速度:20G
- トラッキング解像度:450/1150/2300DPI
- フレームレート:6400fps
- 画像処理能力 非公表
- レポートレート:125/500/1000Hz
- リフトオフディスタンス:1.5mm
- 実測サイズ:約67(W)×122(D)×42(H)mm
- 実測重量:ケーブル込み約137g,ケーブルを秤からどかした参考値94〜99g
と,いうわけで,分解してみよう。今回はEC2も分解し,2製品を写真で比較してみたい。操作感が異なる以上,スイッチ類が異なるのはまず間違いないと思われるが,そのあたりを重点的にチェックしてみたい。
なお,写真の並びはいずれも左がEC2 eVo,右がEC2となっている。
※注意
マウスの分解はメーカー保証外の行為です。分解した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。分解によって何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は筆者が入手した個体についてのものであり,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」と保証するものではありません。
マウスパッド15製品との相性をチェック
一部製品を除いて相性は良好
分解写真でも判明しているとおり,センサーが変更されたことで,当然のことながらEC2からは挙動が変わってくる。
そこで,現在世に出ているマウスパッドとの相性を確認してみることにした。テスト環境と条件は下にまとめたとおりだ。
●テスト環境
- CPU:Core i7-860/2.8GHz
- マザーボード:GIGA-BYTE TECHNOLOGY GA-P55A-UD4(BIOS F15)
※マウスはI/Oインタフェース部のUSBポートと直結 - メインメモリ:PC3-1333 DDR3 SDRAM 4GB×2
- グラフィックスカード:GIGA-BYTE TECHNOLOGY GV-N560OC-1GI(GeForce GTX 560 Ti,グラフィックスメモリ容量1GB)
- ストレージ:Western Digital Caviar Green(WD10EADS,容量1TB,Serial ATA 3Gbps)
- サウンド:オンボード
- OS:64bit版Windows7 Ultimate+SP1
●テスト時のマウス設定
- ファームウェアバージョン:メーカー未公開
- DPI設定:450/1150/2300DPI(※主に1150DPIを利用)
- レポートレート設定:1000Hz
- Windows側マウス設定「ポインターの速度」:左右中央
- Windows側マウス設定「ポインターの精度の高める」:無効
今回用意したマウスパッドは全15製品で,4月14日に掲載した「SteelSeries Kana」のレビュー時から,新たにARTISAN「隼XSOFT」のLサイズを追加している。またリフトオフディスタンスは,メーカー公称の1.5mmをオーバーしないかをポイントとし,厚さ1mmの1円玉を2枚重ねた状態でも反応するかしないかを調べている。その結果はそれぞれの使用感をまとめたコメントの最後に【 】書きで○/×表記を加えたので,参考にしてほしい。○なら2枚で無反応に,×なら2枚でも反応したという意味だ。
●ARTISAN 隼XSOFT(布系)
相性はかなりよく,気持ちのいい滑りを体感できる。急停止も難なく可能だ。【○】
●ARTISAN 疾風SOFT(布系)
隼XSOFTと比べると布地に抵抗感があるものの,滑り自体は良好。だが,100%の再現性はないながらも,ときおりネガティブアクセルのようなものが感じられた。【○】
●ARTISAN 飛燕MID(布系)
かなりの抵抗感がある一方,滑りそのものは疾風SOFTと同様に良好。ネガティブアクセルはとくに感じられなかった。【○】
●DHARMAPOINT DRTCPW35GR(ガラス系)
ナイトメア。カーソルが飛び飛びになってしまって,マトモに操作できない。【○】
●DHARMAPOINT DRTCPW35RS(布系)
抵抗感が強く,滑りは弱め。その代わり,急停止させやすい。【○】
●Razer Goliathus Control Edition(布系)
滑るような感覚は得られないが,操作感自体は良好だった。【○】
●Razer Goliathus Speed Edition(布系)
隼XSOFTと似た感覚の滑り具合で,快適に操作できる【○】
●Razer Ironclad(金属系)
「ソールが擦れる」ような印象を若干受けるものの,滑り自体は良好。かなり高速でマウスを動かしたときに限っては,ネガティブアクセルが発生しやすかった。【○】
●Razer Scarab(プラスチック系)
抵抗感がある。高速で動かしたとき,ネガティブアクセルのような反応を感じることがまれにあった。ただ,再現性を確認できなかったため,「ネガティブアクセルが発生する」とは断言できない。【○】
●Razer Sphex(プラスチック系)
「サラサラとした」と表現するのが適切かどうか分からないが,わずかに抵抗感がある。操作自体は快適に行える。【○】
●Razer Vespula(プラスチック系,両面)
両面とも良好な操作感を得られる。これといった問題は感じない。【○】
●SteelSeries 9HD(プラスチック系)
抵抗感は感じるが,操作性自体はよい。【○】
●SteelSeries QcK(布系)
布系パッドにしては若干重い抵抗感がある一方,的確なエイミングができた【○】
●ZOWIE G-TF Speed Version(布系)
滑りは良好。ただし,高速で動かしたときに盛大なネガティブアクセルが発生した。ローセンシで操作をするプレイヤーだと,かなりの“ハードモード”になるだろう。【○】
●ZOWIE Swift(プラスチック系)
ザザザとした抵抗感がある。その分,的確なエイミングができた。【○】
ARTISANの「疾風SOFT」とRazerの「Razer Scrab」で感じられたネガティブアクセル(風の挙動)は「こうすると発生」とまでは言えないため,テスト環境依存の現象かもしれないが,注意はしておいたほうがいいとは思われる。
リフトオフディスタンスはご覧のとおり,今回テストした15枚のマウスパッドすべてで2mm以内に収まっている。1.5mmという公称値内で厳密に収まっているかどうかは断言できないものの,優秀だとは評してよさそうだ。
なお,直線補正は「ない」と公式に発表されているが,これは「ZOWIE AM」と同じセンサーを採用しているためだろう。実際に操作してみても補正は無効化されているか,限りなく少ない印象を受ける。
IE3.0クローンとしてかなりのレベルにあるEC2 eVo
カスタマイズ性の低さが気にならないなら買い
そこで,店頭でも1台購入してきて,すべてのテストをやり直した。今回お届けしたのは,店頭で購入してきた製品版での評価になっている。
ともあれ,他社製品でよく見られるような設定用ソフトウェアや,カスタマイズ可能な追加といったギミックがほとんど何もないのは人を選ぶだろう。個人的には,「USBコネクタの抜き差し」というレポートレート変更法を面倒だとも感じる。ただ,俗にいう「IntelliMoues Explorer 3.0クローン」としては上々であり,EC2でZOWIE GEARが到達したかったのであろうレベルに,EC2 eVoはようやく到達した印象を強く受けるのも,また確かだ。
また,ネットカフェやオフライン大会など,自宅以外でゲームをプレイする機会の多い人にとっては,面倒なセットアップや専用ソフトウェアのインストールが不要というのも,おそらくメリットになると思われる。
本稿の中盤で述べたとおり,筆者は長年,ゲーム用のマウスとしてSteelSeries Ikari Opticalを使用してきているが,いよいよ乗り換えるときが来た気がしている。レビュー用の貸し出し機が初期不良というあたり,品質管理には不安が残るため,購入したらまずは,上で掲載したムービーと動作音を比べてみてほしいと思うが,それはそれとして,価格と,専用ソフトウェアによる細かな調整が行えないという点が気にならなければ,買って損はしないはずである。
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- 関連タイトル:
ZOWIE(旧称:ZOWIE GEAR)
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