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「ArcheAge」のドワーフ実装に向けて,ドワーフらしさを身体で学ぶために刀鍛冶を体験してきた
ヨーロッパの民間伝承に端を発するドワーフは,J・R・R・トールキンの小説「ホビットの冒険」や「指輪物語」で様々な特徴を脚色され,ファンタジー世界での存在を確立させた。その後,テーブルトークRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ」などを経て,数々のコンピュータゲームの世界にも登場し,我々のゲームライフを彩ってくれていることは言うまでもない。
そんなドワーフが,ゲームオンにてサービス中のMMORPG「ArcheAge」の大型アップデート「ArcheAge3.0」で,いよいよ実装となる。骨太のファンタジー文学をベースに持つ作品でありながら,ドワーフがいなかったことが不思議でならないが,何はともあれ歓迎すべきことだ。
ところで,このアップデートを控えた現在,運営チームは調整の日々を送っているとのことだが,実はオフラインでも準備を進めていたことをご存じだろうか。
ことの始まりは,2016年7月23日のオフラインイベント「ルシPと行く!東西島ツアー」だ。ここでルシPことArcheAge日本運営プロデューサーの石元一輝氏は,ファンとともに佐渡島へ渡り,かつて金が採れたという「佐渡金山」を見学し,砂金採り体験会にも参加している。どちらも,採掘師としてのドワーフを体感するにはピッタリなイベントだった(関連記事)。
次いで,先日の「『ArcheAgeの森プロジェクト』森林づくり体験イベント」では,箸を作るという工芸的な作業を体験し,細工師としてのドワーフの一面を体感している。その後の懇親会でもたっぷりお酒が入って,大酒飲みというドワーフのエピソードを押さえているのもポイントだ。
このように,着々とドワーフへのイメージトレーニングを重ねている石元氏。そんな氏が次に選んだのは,なんと鍛冶職人としてのドワーフの一面を体験することだったのである。
ということで,10月某日,「ArcheAge3.0」におけるドワーフ実装へのイメージトレーニングとして,東京都内の工房にて刀鍛冶(短刀造り)を体験,ならびに取材してきたので,その模様をレポートしていこう。
炎を,そして鋼を自在に操る刀鍛冶
刀鍛冶の作業を指導し,刀についてレクチャーしてくれたのは,親方と二人のお弟子さん,そしてコーディネイターの4人。事情により写真とお名前が出せないので,本稿ではこの呼び方で通させてもらえれば幸いだ。
最初に見せてくれたのは,刀鍛冶の作業に欠かせない「炭」。備長炭のように火を長持ちさせる炭ではなく,長持ちはしないが火力を出すタイプの炭だという。これを切って細かくするのが「炭切り」という作業で,弟子になって最初に覚える仕事だそうだ。しかもただ切るだけでなく,いくつかの大きさに切り分け,用途に応じて使い分けるという。
次に見せてくれたのが,刀の原材料となる「玉鋼(たまはがね)」。これは砂鉄を原料に「たたら吹き」によって作られた金属の塊だ(酸化鉄である砂鉄は,炭と一緒に燃焼させることで還元・吸炭されて不純物の少ない鉄になる)。手のひらサイズながら,見た目よりもズシリとくる重さがある。この玉鋼を叩いて平らにする「水減し(みずべし)」という作業で,刀鍛冶体験がスタートした。
水減しは,火をおこした「火床(ほど)」で玉鋼を熱し,大鎚(おおつち)で叩いて平らにする。玉鋼をできるだけ均一化する作業だ。
こちらが右手前の火床と鞴(ふいご)。右にある木でできているものが鞴で, |
作業する側にあるT字型のレバーを押したり引いたりすることで,火床に風が送られる構造だ |
水減しをはじめとする作業の中心となるのが火床だ。先ほど見せてもらった炭をここにくべ,火床の脇にある鞴で風を送り,火をおこしていく。十分に火がおこせたら「火造箸(ひづくりばし)」で玉鋼を掴み,火床に置いて熱していく。このときの火床の温度は,約1300度。これを大きく超えると鉄が溶けてしまうため,微調整をきかせやすい鞴が最適なのだという。
玉鋼が十分に熱せられたら,火造箸で玉鋼を取り出して「金床(かなどこ)」の上に持っていき,もう一人が大鎚で叩く。火床や鞴の前に座る場所および人を「横座(よこざ)」,大槌などを振るう人を「先手(さきて)」と呼ぶ。作業中は親方も弟子もなく,横座の指示に従わなければならない。昔は横座に座れずに終わる人も珍しくなかったという。
最初の行程の説明を受けた我々は「刀工(刀鍛冶)の仕事は,重労働なので身体をほぐしておいてください。とくに腰がやられやすいです」というお弟子さんの言葉を受けて準備運動を開始。その後,大槌の使い方のレクチャーを受け,水減しにチャレンジした。
石元氏が熱した赤く輝くような玉鋼を,筆者達が大槌で叩いていくが,これがまた難しい。作業に集中していると鎚の重さはさほど感じないが,金床に置かれた玉鋼との距離感が掴みづらく,命中させることすら困難だった。親方やお弟子さんたちは叩くたびにキーン!キーン!と澄んだ音が連続して響いていたのに比べ,我々はギンッ!ガツ!と鈍い音しか出せなかった。しかも,打てる時間は1分もない。熱が下がったところで叩くと,玉鋼が割れてしまうからだ。先手を交替しながら,何度も玉鋼を叩いて煎餅ぐらいの厚さにし,最後に水で急速に焼きを入れたところでようやく水減しの作業が終了した。
水減しでできた平たい玉鋼は,「小割り」といって小槌で叩いて割っていく。割られた玉鋼の断面を見ると,均等にグレーになっている部分や,銀色の粒子がまばらに散っている部分がある。親方はこの玉鋼の断面を見て,刀のどこに使うのか決めるのだそうだ。
積み沸かしで鋼がひと塊になったら,鋼に「てこ棒」を鍛接(たんせつ)する「てこ付け」を行う。てこ棒は,この次の行程である「折り返し鍛錬」をするときの持ち手になる部分だ。てこ棒自体も刀と同じ玉鋼でできているため,多少混ざってしまっても問題ないという。
この作業は石元氏が別の作業を行っていたため,最初に筆者が行うこととなった。まず鋼とてこ棒の先の部分を火床に入れて暖めていく。温度は,水減しの時より少し高め。これは鋼の部分を少し溶かしてくっつける,鍛接のためだ。ここで初めて鞴に触ることになったのだが,熱いわ,疲れるわの過酷な作業だった。火床の周囲の温度は41度ほどなのだが,炎からの輻射熱のおかげか,温度以上の熱さを感じた。横座に座って鞴から伸びる棒を前後に動かして火を操るのだが,早々に「腕で動かすのではなく,身体を前後に倒すように体重移動で(棒を)動かしてください」と注意されてしまった。腕だけで動かすと,早く疲れてしまうからだ。
以前,体力自慢の外国人が体験に来たときは,最初は威勢がよかったもののすぐにばててしまったという。先ほどの大槌の扱い方といい,体力の消耗を押さえて長丁場でもスタミナを維持させる身体の使い方は,長い歴史を持つ鍛冶現場の知恵なのだろう。
鋼が十分に熱せられると,炎の中に火花のようなものが舞い始める。このタイミングで火床から鋼を取り出すと,まるで巨大な線香花火のように鋼から火花が飛び散っていく。すぐに鋼を金床の上に置いて表面を少し削って不純物をはがし,白い粉(ホウ砂)を撒く。間髪を容れずに,てこ棒を押しつけて上から軽く叩くと,鋼とてこ棒が一体化した。
てこ棒を付ける作業は,岡山県の備前で年に1度だけ実施される刀鍛冶(刀工)の作刀実地研修会(刀工の師匠に弟子入りして5年修行を積まないと受けられない)の研修でも行われるものなのだが,できないとその場で「はい,さようなら。来年頑張ってね」と一発退場となってしまうそうだ。作刀実地研修会は実地試験でもあり,合格すると作刀免許(刀工の免許は国家資格)がもらえ,刀工として作刀できるようになる(免許なしに作刀すると,法律違反となる)。
しかし,これはあくまで刀工になれたというだけで,親方に言わせれば「自分だけが作れる刀を打てるようになるのが,刀工としてのスタートライン」だという。個性を確立できるかどうか,といったところだろうか。なるほど,もっともな話ではあるが,実はそれだけでもダメらしい。それというのも,刀の価値を左右するのは,刀の「市場」だからだ。いくら個性のある刀が作れても,市場で人気を得られないと売れない,という世知辛い話らしい。
刀も人気商売なのだなぁと変に感心してしまったが「俺は俺だけにしか打てない刀を打てるから」とか,「俺は弟子になーんにも教えないんだ」とか楽しそうに話している親方を見ていると,やっぱり好きじゃないとできない仕事なのだと痛感する。
さて,話を作刀行程に戻そう。鋼をてこ棒に鍛接させたあとは,鋼を鍛える折り返し鍛錬,心鉄と皮鉄を一体化させる「造り込み」,鎚で刀の長さに打ち延ばす「素延べ」,切っ先などを整えて刀の形に近づける「火造り」という長い行程を経て,ようやく一般的な「刀」の形になる。折り返し鍛錬は,鋼に切れ目を入れて折り返してまた鍛える,といった行程を6回ほど繰り返す作業だが,ここまでがお弟子さんの仕事で,それ以降は親方の仕事となる。ちなみに親方は,6回繰り返した折り返し鍛錬を,さらに6回ほど行うそうだ。こうした普通とは違う行程も,ほかの刀工にない個性を生み出す一因なのかもしれない。
今回の体験の前半は,てこ付けの作業で一段落。この後は,あらかじめ製作してもらった火造り後の短刀を使っての作業となる。
日本の刀剣趣味は絶滅寸前!? ゲームが刀剣趣味の危機を救う……かも?
後半の作業の始めは「銘切り」。その名のとおり,刀に自身の名前を彫る作業だ。彫る名前を朱色の墨で書き,押し当てた「銘切り鏨(めいきりたがね)」を「銘切り金鎚(めいきりかなづち)」で叩いて字をなぞるように彫り込んでいく。言葉にするとそれほど難しく聞こえないが,鏨の持ち手は四角いのに先は屋根のような形状になっているため,どこに鏨の先が当たっているのか分かりづらいし,そもそも鏨を指で持つため,せっかく書いた文字が見えないので難度はかなり高い。
また,一度彫ったところから離してしまうと,同じ場所に戻すことすら困難で,綺麗に文字を彫るなら,実質的に一発勝負となる。本番前に何度か練習させてもらったが,横座や先手とは別の意味で大変な作業だった。
銘切りを終えたら,次は刀身に焼刃土(やきばつち)という粘土を塗る「土置き(つちおき)」。最初は全体に焼刃土を塗り,次に刃の部分と切っ先に当たる部分の刀土を削っていく。こうすることで,最終工程の「焼き入れ(やきいれ)」時に,刀土が薄く乗った刃の部分に焼きが入って硬くなり,厚く塗られた棟(むね。刀の背の部分)はゆっくりと冷えていくので柔らかさも維持できる。また,どんな刀文を刀身に表すかも,土置きの行程にかかっている。
体験会の最終工程の準備を進めている間に,親方から刀について話を聞けた。親方によると,現在は刀剣趣味が絶滅を危惧されてしまうほど廃れてきているらしい。仕事柄,ゲームを通して刀剣との触れ合いがないではないが,リアルな刀剣となると早々お目にかかる機会もない。普通の人ならば,なおさら触れる機会もなさそうだ。
しかし,ここ最近は刀剣の鑑賞会や講習会に若い女性が結構来ているという。そう聞いて取材陣はみんな「アレだな」と思い至る。コーディネイターはそれに加えて,少し前にはやった「歴女」からも,刀剣趣味に流れてきているのではと分析していた。
「女性が刀剣に興味を持つようになったゲームについては分からないが,刀剣に関心を寄せてくれる人が増えるのは嬉しいことだ。鑑賞会に来てるおじさんたちも喜んでる(笑)」と親方は話してくれた。
親方自身も,30〜40年ほど前の刀剣ブームのときに刀の格好良さに惚れて,刀工の世界に飛び込んだという。もしかしたら,数年後から十数年後に,ゲームをきっかけに刀鍛冶の世界に飛び込んだ刀工の作品を見ることもあるかもしれない。
いよいよ刀造りもクライマックス! 焼き入れの具合はいかに?
さて,体験会もいよいよ最後となる焼き入れの作業に入った。これは先ほど土置きをした刀を火床で加熱したあと,水に入れて急冷させる作業だ。この作業を行うときは工房の明かりをすべて消してしまう。刀身の温度を目で見極めるためには,暗闇の中で行うのが一番というわけだ。そのためもあってか,ここの火床は鞴ではなく機械で風を送り込む仕組みになっていた。鞴は鍛える時ほどは,温度を上げなくてもいいということもあるようだ。
作業は火をおこした火床の中に,火造箸で刃を上にした刀身を入れ,炎で加熱する。刀身が赤くなってきたら,風を送るスイッチを切って刀身全体を奥に突っ込む。その後,13〜18秒ほど経ったら1/3ほど引き抜く。これをさらに2回繰り返して火床から刀身を完全に引き抜き,一気に水の中に入れて急速冷却させる。このとき,水の中では鉄が膨張や収縮を繰り返しているため,火造箸を通して手に振動が伝わってくる。この過程で,日本刀独特の「反り」ができるのだ。熱が水で冷えたときに出る音と振動が止まったら,水から刀身を引き抜いて作業終了となる。
この焼き入れの作業をもって,今回の刀鍛冶体験会は終了となった。本来ならば,このあとに粗砥ぎをする「鍛冶砥ぎ(かじとぎ)」や,研ぎ師による「研磨」などの作業を経て「刀」が完成するのだが,今回の内容はあくまでも初級コースということで,刀鍛冶らしい作業をピックアップして体験するというところに留まった。
大抵のゲームでの鍛冶といえば,クリックひとつ,ボタンひとつで作業は完了してしまうが,実際にやってみるとそれぞれの作業は繊細で,かつ全身を使うハードな作業だった。慣れない作業とはいえ,全行程に7時間もかかったほど。しかし,その過程で刀工がどういった職人で,どのような技を持っているのか,その一端を目の当たりにできた貴重で楽しい体験だった。
筆者自身,鞴を操りながら火床の炎を見ていたら,「なんか炎を見ながらニヤニヤしてますよ」と周りの人からツッコまれてしまった。まるで危ない人のようだが,楽しかったのだからしょうがない。
本稿を読んで刀剣や刀鍛冶に興味を持った読者がいるのなら,博物館や鑑賞会で刀剣を見たり,また全国でたびたび行われている刀鍛冶の実演のイベントなどに参加して,刀や鍛冶というものを体感してみてほしい。きっと,ゲームからでは得られない貴重な体験が得られるはずだ。
最後に,ArcheAgeにおいてドワーフは,鍛冶をはじめとする生活コンテンツにまったくボーナスはない,という。……あれ? それじゃ今回の取材って? とツッコミを入れたくなる新情報を挟んで本稿を締めくくろう。
「ArcheAge3.0」アップデート第2弾「オーキッドナの憎悪」特設ページ
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