インタビュー
R.A.T.シリーズマウスが“中二”っぽい理由とは? ブランディングを統括する幹部に聞く,Mad Catzのブランド戦略
例えばマウスやキーボードは,独特なデザインとネーミング――日本風に言えば“中二っぽい”デザインのゲームデバイスとして異彩を放つ一方で,アーケードスティックやフライトシムコントローラは非常に堅実な作りであるなど,ブランドやジャンルごとに,その方向性は大きく異なっている。
今回4Gamerでは,そうしたブランドごとのイメージ作りや商品展開,全世界でのマーケティングを取り仕切っているという,Johnny Schmidt(ジョニー・シュミット)氏にインタビューする機会を得た。
今回は,Mad Catz,TRITTON,Saitekそれぞれのブランディングの手法から,パッケージデザインやネーミングに込められたこだわりまで聞いたので,ぜひ一読を。
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Mad Catzのブランド戦略全般を仕切るというお仕事
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずJohnnyさんの経歴から伺わせてください。
Johnny Schmidt氏(以下,Johnny氏):
私がMad Catzに入社したのは2002年1月1日で,新年を迎えると同時でした。それまではアトランタの広告代理店で,ケーブルテレビやコカ・コーラ,ホテル関係,エンターテイメント業界向けの仕事をしていたんです。その経験を活かして,製品のデザインやPR,マーケティングなどを担当しています。
4Gamer:
いただいた名刺には,「クリエイティブサービス部のディレクター」とありますが,いわゆるクリエイティブディレクターなのでしょうか。だとすると,「PRやマーケティング」からは離れた仕事のように思えるのですが。
Johnny氏:
クリエティブディレクターとは違いますね。具体的にいえば,例えば製品ボックスやマニュアルのデザイン。そして,それらを含む,Mad Catzというブランド全体のマーケティングを担当するのが,私が所属するクリエイティブサービスという部署の仕事です。
各国向けのローカライズや公式Webサイトの管理,「Evolution」「E3」といったイベントへの出展プランに,出展にあたってのコンセプト作りやデザインを考えるといったことも,私達の仕事になります。
4Gamer:
ああつまり,「企業としてのMad Catzが持つ3ブランド――Mad CatzとSaitek,TRITTONのマーケティングと,それにまつわるすべて」を統括する仕事だと。
Johnny氏:
ええ。クリエイティブサービス部の役割を一言で表すなら,「Mad Catzのブランド力を高める」ことです。ディレクターである私の仕事は,そのためのチームを統括,運営していくことです。例えば,これまでのMad Catzは安価なアクセサリー系の商品が得意分野でした。しかしクリエイティブサービスの充実とともに,現在はプレミアムな商品が伸びてきています。
4Gamer:
少し分かってきました。では,この商品をプレミアムな方向に振っていくというのも,Johnnyさんご自身の舵取りなのですか?
Johnny氏:
いいえ。そういったビジョンは,私どものCEOであるDarren Richardson(ダレン・リチャードソン)によるものです。そのビジョンを形にしていくのが,私達なんですよ。
4Gamer:
Mad Catzのブランド全体に関わる以上,けっこう大変な業務になると思うのですが,クリエイティブサービスという部署には,どのくらいの人数が働いているのですか?
Johnny氏:
ここサンディエゴ本社に14人,海外の支社に8人というメンバーで仕事をしています。イギリス支社にいる2名はデザイナーで,英語版のパッケージやマニュアルのデザインを担当しています。そして中国支社――正確には中国に4人,香港に2人という構成なのですが,彼らはローカライズの担当です。
4Gamer:
ということは,我々がよく目にしている日本語版製品ボックスのローカライズも,中国支社で行われているわけですか。
Johnny氏:
いいえ,日本語へのローカライズは,英語版をベースに日本で制作されています。そういう意味では「日本を除く,非英語圏のすべてのローカライズ」というのが正しいですね。そして本社のチームがそのすべてを統括し,Mad Catzブランドとしての戦略を決定する役目を担っています。
Mad Catz,Saitek,TRITTON――それぞれのブランドイメージ
4Gamer:
先ほど話の出た,Mad CatzとSaitek,TRITTONという3つのブランドについて。細かくコンセプトを聞かせてください。とくにSaitekとTRITTONは,Mad Catz傘下となって久しいですが,どう変わったのか,あるいは今後どう変わっていくのかがとても気になります。
SaitekとTRITTONは,もともとのロゴやブランドイメージなどをあえて残してる部分があります。ただ,ブランドの立ち位置という意味では,どちらも大きく変わりましたね。
まずSaitekについてですが,Mad Catz傘下となる前は,フライトシム用のインタフェース群であるPro Flightシリーズのほか,Cyborgブランドのマウスやキーボード,ヘッドセット,さらにはチェス用コンピュータである「Saitek Mephisto Chess Challenger Chess Computer」など,さまざまな製品を展開していました。しかし現在は,Pro Flightシリーズに特化したブランドとなり,その過程において,それ以外のラインナップは終息させています。
4Gamer:
マウス系の製品はCyborgブランドとして分離されたのち,Mad Catzブランドに吸収されましたね。またヘッドセット関係も,現在はTRITTONブランドに集約されています。ではTRITTONはどうでしょうか。
Johnny氏:
TRITTONは,Mad Catz傘下となったことでSaitekよりも大きく変化したと思っています。現在発売されている製品は「AX 180」(※日本未発売)を除いてMad Catzとなってからのものですし,オレンジをベースとしたロゴや製品ボックスも,我々が新たに用意したデザインです。
4Gamer:
そういったブランドの統廃合,あるいはブランドイメージや扱う製品ジャンルの変更といった部分に,クリエイティブサービス部はどういう形で関わっているのでしょうか。
Johnny氏:
もちろん,そういう大きな決定を我々だけで行うわけにはいかないので,ほかの部門と一緒に考えて決めていきます。開発やマーケティング,マネジメントの部門と同様に,クリエイティブサービス部はブランディングの立場から意見を述べ,検討するんです。
4Gamer:
いまお話いただいた内容のよい例がR.A.T.シリーズのマウスではないかと思うので,その点について聞かせてください。
R.A.T.シリーズは,外観の格好よさが高く評価される一方,コアなPCゲーマーからは「ゴテゴテして使いにくい」「重い」といった不満も挙がっています。そういった人達に話を聞くと,RazerやSteelSeries,ZOWIE GEARといったブランドを選んでいたりするわけですが,その点はどう考えていますか。
Johnny氏:
おっしゃることは分かりますよ(笑)。
ただMad Catzブランドは,今挙げられたほかのブランドとは,目指すところが少し違うんです。
例えばキーボードの「S.T.R.I.K.E. 7」には,非常に多くのギミックが搭載されていますが,S.T.R.I.K.E. 7の液晶パネルに用意されたランチャー機能を「そもそも液晶パネルごと無駄」と思うか,「視覚的に分かりやすくて格好いい」と思うかは,捉え方の違いによりますよね?
4Gamer:
ええ。ただ,価格が高い製品は,どうしてもターゲットがコア寄りになるとも思うんですが。
Johnny氏:
その「コア」という部分に議論があって,コアゲーマーの全員がシンプルな使い勝手を求めているわけではなく,ガジェット的な面白さもあったほうがいいと考えている人もいます。そしてMad Catzブランドは,そんな幅広い嗜好に応えるべく,幅広い製品ラインナップを取り揃えることで,ブランド力を向上させてきたのです。
ちょっと考えてみてほしいのですが,ガジェット好きな層のニーズに応えるような製品は,SaitekやTRITTONからは出てきていないでしょう?
4Gamer:
言われてみれば,あの中二っぽい(“ジュブナイル”な)格好よさというか,ガジェット風味を強調したデザインは,ほかではあまり見かけませんね。
Johnny氏:
一方で,R.A.T.シリーズの中にも,「R.A.T. 3」のようにシンプルなラインナップもあるんですよ。ガジェット風味のデバイスが際立っている分だけ,ラインナップ全体を通じてシンプルなものが少なく見えてしまっているのではないかと思いますね。
あるMad Catzブランドの製品があって,それ1つがすべてのセグメントをカバーするかといえば,必ずしもそうではありません。けれどもブランド全体としては,すべてのゲーマーをカバーするつもりで展開していきます。
4Gamer:
よく考えたらゴリゴリのコアゲーマー向けアイテムであるアーケードスティックもMad Catzブランドですしね。
ところで,そのMad Catzブランドにおける新製品ですが,それこそS.T.R.I.K.E. 7やR.A.T. 3のように,最近は「.」の多い製品が増えていますよね。たいそうタイプしにくいのですが(笑),あれには何か意図があるのでしょうか。
Johnny氏:
ああ,キーボードだと確かに打ちにくいかもしれませんね(笑)。基本的には「他社製品との差別化」と考えていただければと思います。ネーミングだけでなく,パッケージデザインを白に統一しているのも,差別化の一つです。ほら,PCゲームデバイスの製品ボックスって黒いものが多いじゃないですか。
4Gamer:
確かに……。では,製品ロゴで数字や,「R.A.T. M」の「M」が上付き文字になっているのも同じ理由ですか?
Johnny氏:
R.A.T.には「R.A.T. 7」や「R.A.T. 9」,R.A.T. Mなどがあって,この数字やMの部分はシリーズ名ではないわけです。それを普通に書いてしまったら……クールじゃないでしょう?
4Gamer:
iPhone 4とかiPhone 5みたいなAppleのやり方はクールじゃないと?(笑)
Johnny氏:
まあ,そういうことですね(笑)。
4Gamer:
そろそろ時間がなくなってきたので,最後に,Mad Catz,Saitek,TRITTONのそれぞれのブランドについて,Johnnyさんのイメージを教えてください。製品デザインからパッケージ,ボックスデザインまでを含めてです。
Johnny氏:
まずSaitekですが,一言でまとめるなら「Reality」(リアリティ)でしょうか。SaitekのPro Flightシリーズは,フライトシミュレーターを愛好するゲーマー達だけでなく,本職のパイロットが練習用に使うこともあるそうです。つまり,Saitekのユーザーはリアリティを求めている。そういったものが,パッケージや製品デザインに反映されているんです。パッケージに空が描かれているのも,その一つですね。
4Gamer:
次にTRITTONはどうでしょう。
Johnny氏:
一言か……。(熟考して)Oh,XXXX(くそっ),出てこないな。二言でどうでしょう?
4Gamer:
もちろん,どうぞ(笑)。
Johnny氏:
今考えるので,もうちょっと待って下さい(笑)。……よし,思い付きました! 「Unfair Advantage」(アンフェアアドヴァンティッジ,比類なき優位性)。例えば,FPSで敵が後ろから近付いてきたときも,TRITTONを使っていれば一聴で瞭然です。そういった優れた機能が,そのままブランドイメージにつながっています。
4Gamer:
おお,なるほど。言い得て妙ですね。では最後に,Mad Catzはどうでしょうか。
Johnny氏:
これは「All about the Game」(オールアバウトザゲーム)ですね。情熱的なユーザーのために,ゲームに対するすべてを盛り込み,ユーザーのことを考えぬいて作り込んでいく。Mad Catzとはそういう会社であり,ブランドだと考えています。
4Gamer:
Mad Catzのロゴが黄色いイメージのものから,プロチームのロゴでもある三本爪に変わりましたが,これもブランドイメージと何か関係があるのでしょうか。
Johnny氏:
ええ,まさに。新しいロゴは,このAll about the Gameというポリシーの下で,我々の立ち位置を明確にするために変更されました。
例えば,格闘ゲームのトーナメントプレイヤーのことを考え抜いて作った「Mad Catz Arcade FightStick Tournament Edition」や,コントローラをカスタマイズしたいという欲求を具現化した「Mad Catz MLG Pro Circuit Controller」「Pro Controller for Xbox 360/PC」。これらの製品が示すのは,我々Mad Catzが,世に溢れたスタンダードに追従するのではなく,次の世代のゲームデバイスを提案していくという姿勢です。ユーザーが本当に求めている製品を実現することが,我々の義務なのです。
4Gamer:
今後のMad Catz製品に期待しています。本日はありがとうございました。
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