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[CEDEC 2010]膨大なバリエーションをどう生み出すか。「ファンタシースターポータブル2」に見る,キャラクターメイクへのアプローチ
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オンラインゲームをプレイしたことがある人なら,キャラクターメイクの重要性はきっと身にしみているハズ。膨大なバリエーションが要求されるキャラクターメイクの仕組みについて,まず佐竹氏が解説を行った。
まずPSPo2やPSUでの実装例を見ていこう。PSPo2やPSUでは,下に掲載した画面写真のように,座標をポイントすることで,体型を変更できる方形の入力フィールドと,身長を設定するスライドバーが用意されている。これらをアナログスティックで操作することにより,キャラクターの見た目を自由に変更することができるわけだが,これはキャラクターの全身に対し,一律の伸縮(スケーリング)を行っているわけではない。例えば標準のモデルから身長を縮めた場合,頭のサイズは変わらずに,頭身が変わるというような結果になる。これは頭や手足といったパーツ(ノード)ごとに,別個のスケーリング(ノードスケーリング)で行われていることを意味している。
※記事内に掲載したスライドで使用されている画像は,すべて開発環境で撮影したものです。
ノードごとに異なるスケーリング値を持つ,この複雑なスケーリングをどのように実現しているかといえば話は単純で,これは“モーフィング”による実装が行われている。つまりキャラクターメイクのインタフェースは,それぞれ何かの数値を意味しているわけではなく,あらかじめデザインされたスケーリングサンプルとの“距離”を表していることになる。
以下の図は,キャラクターメイク画面のインタフェースが,それぞれが何を意味しているかを示したものだ。インタフェース上にある12か所の赤い点は,デザイナーによってスケーリングサンプルが設定された地点を表している。キャラクターメイク画面に表示されるモデルは,この赤い点のサンプルから,線形補間によって計算されたスケーリング値により,モーフィングを行った結果として描画されている。
この仕組みは,実は体型だけでなく,“顔つき”についても同様に行われている。ただしわずかな差でも印象が大きく変わってしまう顔のモーフィングでは,ノードスケーリングではなく,顔モデルの頂点を直接動かす“頂点モーフモーション”によって行われている。顔つきモーフィングのインタフェースを見てみよう。
インタフェースの各軸には体型とは別の意味が持たせてあるが,基本的な仕組みは変わらない。それぞれのサンプルに対する線形補間により,モデルが決定されることになる。
ただし顔つきモーフィングの実装にはもう一つ別の要素が絡んでいて,体型が顔つきに影響するという工夫が組み込まれている。体型によって決まった属性が,ポインタによって決まった顔つきにブレンドされ,より自然なキャラクターが生まれる仕組みだ。
理由はPSPの解像度では,メイクによる微妙な差がつぶれて判別できないためで,同作ではより画面映えのする数パターンのモデルを切り替える形を採用しているそうだ。右に示したとおり,遠くからみても判別しやすいよう,目のサイズが大きめにデザインされているのが特徴だ。
オンラインゲームにおけるキャラクターデザインと費用対効果
まずオンラインゲームにおけるキャラクターデザインでは,その世界観における「美形」を定義することがスタートラインであるという。作り手がすべてを用意するオフラインゲームと違い,プレイヤーが自由にキャラクターを作成できるオンラインゲームでは,種族や性別などを超えて成立する世界観の指針がまず必要とのこと。
キャラクターの個性を出していく作業は,この「美形」から引き算で行うことになる。いってみれば,キャラクターメイク画面で何も触らない,標準の状態がもっとも「美形」ということであり,プレイヤーがそれをどう崩していくか,というのが作り手側から見たキャラクターメイクと捉えることができる。なんとか美形に近づけようと努力する,プレイヤー側の意識とは逆転しているのが面白い。
またPSUでの反省から,PSPo2では費用対効果を考慮に入れたデザインを心がけたという。上下の服装を自由に組み合わせられたPSUに対し,PSPo2では上下が一体型し,キャラクターのシルエットにもはっきりと反映するようになった。また組み合わせバリエーション数が減ることで,チェックにかかる工数も減少し,費用対効果が向上している。
続いては,費用対効果の高いデザインについて,実例を挙げた解説が行われた。氏によれば,もっとも費用対効果の高いパーツとは,髪型や睫毛,眉といった「毛髪」による差別化だという。
この例では,髪型のみが違うキャラクターは別人と認識されるのに対し,服装のみが違う場合は同じキャラクターとして認識されることを示している。とくに髪型は肉体の延長線として考えられるため,このような印象になるとのこと。キャラクターの固体認識において,髪型が持つ効果がいかに大きいかということだろう。
こちらは,頭髪が顔を覆う部分の差による印象変化を示したもの。髪の量が少なく,頬の輪郭がハッキリしているほうが,幼い印象になるらしい。このような髪型の変更は,実作業で10分程度と,費用対効果が非常に高いそうだ。
髪型に限らず,帽子などの被り物も印象を大きく変える要因となる。上段左と上段右では頭身変わってくるため,印象が大きく変わる。下段左の場合は肉体の延長である頭髪のボリュームが増えたため,モデル自体は変更していないにも関わらず,顔が小さくなったような印象をうける。
目の形状は変えずに,睫毛のテクスチャのみを変更した例。髪型と同じく,モデルの変更なしでも,これだけでかなりのバリエーションを生むことができる。ただしアップになると不自然になる場合があるので,そのときはモデルの変形も合わせて行ったほうが良いとのこと。
また「毛髪」は肉体だけでなく,性格を表す要素にもなる。次は眉のテクスチャを変更した例だ。
眉の位置や形状の変更は,性格の変化を如実に伝える要素となる。同じ顔の表情バリエーションととることもできるが,我々の感覚は表情も含めてキャラクターを認識している(池谷氏は「ものまね芸人は,顔の形ではなく,表情を真似ることでネタを増やします」とわかりやすく付け加えていた)。眉だけでなく,髪型などにも性格は表れるので,よりいっそう重要なパーツといえるだろう。毛髪のほかにも,黒目のサイズや目のハイライト量,肌の色を表現するパレットの変更などは,比較的効果の大きいデザイン要素だそうだ。
膨大なキャラクターバリエーションが要求されるオンラインゲームでは,いかにして効率よくキャラクターを量産していくかがカギとなる。しかし編集可能なパラメータを増やすことは,整合性のチェックにかかるコストが増大し,多くのキャラクターが集まる広場などでは,ネットワークの帯域も圧迫しかねない。最小限のパラメータで最大の効果を狙おうというのが,今回の趣旨というわけだ。
最近ではとにかくパラメータが多い豪華なキャラクターメイクを目にする機会も多いが,このPSPo2のアプローチは,非常に効率的で,かつ日本的な方法論のように思えた。最近は面倒になって,キャラクターメイクなんか適当に済ませがちな筆者だが,次の機会にはじっくりキャラクターを作ってみるのも悪くないと思った次第である。
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