連載
【ヒャダイン】大人になった今「ドラクエ」を冷静に思い返す2022
ヒャダイン / 音楽クリエイター
ヒャダインの「あの時俺は若かった」 |
第87回「大人になった今『ドラクエ』を冷静に思い返す2022」
ども。「三つ子の魂百まで」とはよく言ったものです。幼少期にやったゲームのことは大人になってもつぶさに覚えているのに,最近では洋楽のアーティスト名がまったく覚えられなくて困っています。幼少期にやったゲームの細かい村の名前なんかはスラスラ出てくるというのに。きっと一生忘れないんだろうなあ,なんて思いながらYouTubeで見る動画はレトロゲームと言われる昔のファミコンやスーパーファミコンのプレイ動画ばっかり。そんな中でもよく見ているのが,「ドラゴンクエスト」関連動画です。
最近夢中になって見ていたのは,「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」(以下,DQV)の,とあるプレイ動画です。仲間モンスターをスライム1匹だけに限定して,ストーリーをクリアできるのか? という検証動画だったんですね。DQVといえばモンスターを仲間にできるシステムが,シリーズで初めて導入された作品です。
きっと誰もが序盤で「スラリン」を仲間にしたのではないでしょうか。装備できるものも少なく,ステータスも決して高いといえないスラリンですから,多くの方々は途中でスタメン落ちさせたことでしょう。でも実はレベル99になると「しゃくねつほのお」というめちゃつよ技を覚えるんですよね。敵全体に150から170のダメージを与えるわざで,なんとMPの消費量が0! スライムが最強モンスターになるという夢のようなお話。さらに回復技である「めいそう」も覚える。これまた消費MPは0。
こうなったら無敵じゃん。ストーリークリアなんて楽勝でしょ? と思うかもしれませんが,そう簡単にいかないのがDQV。「やけつくいき」による麻痺というチートレベルの凶悪技を食らうと一瞬で詰んでしまうんですねえ。そしてその「やけつくいき」を吐くのは,あのにっくき……。おっと。ここから先はぜひご自身でお楽しみください!
そう。そんな動画を見ながら,敵の名前や町の名前,全部覚えているなあ……,とあらためて思ったんです。
先日,「幼少期に『ポケットモンスター』にハマった人は脳に『特化した領域』ができている」という記事をネットで読みました。数百匹のポケモンを識別できるというのは,確かにある種の特殊能力かもしれませんね。
しかしそれはポケモンだけでしょうか。「ドラゴンクエスト」シリーズでもやはり,脳に特化した領域が作られたんじゃないかと思っています。色が違うだけで別のモンスターだと識別できるようになっているのって,すごくないですか。さまようよろいは青。じごくのよろいは灰色。キラーアーマーは赤。もちろんカンダタの子分の色もピサロナイトの色も識別できます。
識別だけじゃありません。構造を見ただけで町の名前をスラスラ言えるし,なんなら主要なセリフだって暗唱できます。それと数多くの呪文。そのほとんどは日本語や英語を由来とせず,もはやどこかの外国語。例えば……,「レムオル:体が一定時間透明になる呪文」「ボミオス:相手の素早さを下げる呪文」。これらを単なるカタカナの羅列じゃなくて,意味と効果をセットにした呪文の名前だって区別してるんですよ。いやいや。本来,覚えるだけでもたいへんなのに。
それと,あいまいではあるものの,仲間になるモンスターの立ち上がり率も記憶しているし,ダンジョンごとのモンスター分布だって把握。一匹が持っている経験値やゴールドも大体覚えています。
そう。これらの情報は,人生を歩んでいくにあたってまったく役に立たない知識なんですよ。しかし経験上断言できるのは,これらを覚えるということが決してムダな行為ではなかったということ。
私はRPGで「ムダ」な知識を覚えることによって,記憶や理解といった行動への慣れができたと自己分析しています。振り返ってみると,その慣れは勉学,とくに記憶分野である社会科や英語で効力を発揮し,ずいぶん難しい文字列であってもある程度抵抗なく識別し,記憶できるようになっていた気がします。
さて。時は2022年。私ヒャダイン齢41。これまでたくさんのゲームをプレイしてきました。そんな中,ドラクエについて冷静に思い返しています。ドラクエの特徴ってなんだろうって考えたとき,やはりバトルシステムにおける「ターン制」だと思うんですよね。近年の多くのゲームって,敵味方関係なく素早さに応じてどんどん攻撃するし,逆に素早さの低いキャラクターは置いていかれたりするのですが,ドラクエは律儀にターン制を守ってくれました。
どんなに足が遅いライアンですら,順番は最後とはいえ攻撃をさせてくれました。大体のザコ戦ではアリーナと勇者とマーニャが素早く敵を一掃して,ライアンはお地蔵さんなことが多かったのですが。まあね,リアルな戦闘をイメージすると敵が攻撃されるのを待ってくれるターン制って,現実的ではないんですけどね。
しかし,私はここにわびさび的なものを感じてしまうのです。相手のターンを律儀に待つのは囲碁将棋の世界線。スピード重視でバンバン攻撃するのではなく,ルールに則って攻守を繰り広げるのって,なんか様式美が素敵じゃないですか? まあ,こちらも攻撃されるのを愚直に待っているのは若干こっけいではありますが,調和を重んじる日本人には親和性のあるシステムだったと私は考えています。
さて,ここでこのターン制が自分の人生にどんな影響を及ぼしたのか冷静に考えてみます。自己分析すると,私ヒャダイン,元来人の話をあまり聞かずにガンガンしゃべってしまう傾向があるんですね。とくに好きなジャンルのオタ語りをするときなどは,相手の返事やあいづちを無視しがちです。
しかしドラクエが教えてくれたこと。そう。ターン制。会話はターンなんですね。どんなに相手の返答がぼやけていようが,意味をなさないものに聞こえようが,ターンはある。自分一人がマシンガンのようにしゃべっているのはいけない。そんなことを教えてくれたと思うのです。
もしたくさんしゃべりたいのであれば,ターン制を壊すのではなく,キラーピアスやはやぶさの剣を装備すればいいだけの話です。会話の主導権を握りたいのなら,星降る腕輪を装備して先陣を切ればいい。そしてちゃんと相手にターンを渡すことにより,コミュニケーションが生まれるということを,ドラクエは教えてくれました。
さらに冷静に思い返すドラクエ2022。「メタル系」という存在って,ドーパミン分泌促進機ですよね。プレイ序盤はメタルスライム,そして中盤ははぐれメタル,終盤はメタルキング。出現したときのスペシャル感って半端なくないですか? 時が止まるっていうか,プレイしている現実世界の時間まで止まる感覚。
冷静さを欠きそうになる自分を律しながら,事務的に装備を毒針に変えたり,聖水をぶっかけたりドラゴラムを唱えたり銀のタロットをめくったりパルプンテを唱えたりたたかいのドラムを叩いたり。それでも圧倒的な素早さにより逃げられた瞬間,膵臓のあたりがジュワーッと悔しさで滲む感覚。一方で不意のかいしんのいちげきによって掃討できた瞬間の大脳が痺れるあの感覚。人生初のドーパミン体験と言っても過言ではないと思います。
比較するのもアレなんですが,よくパチンコのリーチやフィーバーでドーパミンがドバーッと出るって言うじゃないですか。私,あれがよく分からなくて。何度か社会勉強としてパチンコを体験したのですが,リーチやフィーバーが来てもシラーっとしちゃって。あっそ。て感じだったんです。単純に相性が悪かっただけかもしれませんが,なんでだろうって考えたとき,すでにリーチの比じゃない強いドーパミン体験をしてるからじゃないかなあ……と勝手に自己分析しています。
幼少期の趣味がメタル狩り。「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」では,ガルナの塔での綱渡りポイントでメタルスライムを狩りまくり。「ドラゴンクエストIV 導かれし者たち」では,王家の墓の入り口ではぐれメタル狩りまくり(ダンジョン内じゃないから馬車メンにも経験値が入るのです)。DQVではグランバニア山の洞窟ではぐれメタル狩りまくり……といった具合にメタル狩りに青春のプレシャスタイムを費やしていたんですね。
そこでも変なジンクスというか,攻略本のメタルモンスターのページを凝視していたらエンカウントしやすい,みたいなルールを勝手に作っていて,DQIII終盤のリムルダール周辺ではずっと攻略本を開きっぱなしにして愚直にうろちょろしていました(実際はダースリカントばっかり出てきたのですが,ザラキで殲滅していたのでそこは脳内カウントの対象外だったようです)。
主人公補正が確実に存在することはなく,現実はつらいものであることを教えてくれたのもドラクエだったと思います。
DQIIIの主人公,ストーリー終盤で実父に逢うも認識されずに死に際を看取り,元の世界に帰れず最後は行方不明になります。
DQIV,エンディングで「導かれし者たち」は故郷に帰っていきますが勇者は荒廃した故郷へと。最後に元通りになったような演出がありますが,それは勇者の幻想かもしれない。そんなに「死」は都合よくないだろうという諦念みたいなものすら感じます。
DQV。幼少期に目の前で実父を炙り殺され(しかも自分が原因で),青春期は奴隷として過ごし,結婚して子供を授かるや否や嫁が石にされ,自分も意識があるまま石にされ,子供の可愛い時期の子育てをサンチョ任せにせざるを得ないという。さらには実母に逢うや否やまた目の前で魔王に消滅させられるという。
主人公だからって幸せになれることが保証されていない。ましてや世界の主人公なのかどうか分からない自分自身が,この先にどうなるかなんて分からない。正常性バイアスなんてないんだという現実の厳しさを説いてくれるのも,ドラクエの魅力だと思います。
ああドラクエ。愛おしいドラクエ。たくさんのことを教えてくれてありがとう。そして私を形成してくれてありがとう。これまでもこれからもずっと愛しています。このシリーズがいつまでも続くように,そしてずっと我々に教えをくれますように。1プレイヤーとしてずっとずっとお慕い申し上げます。
■■ヒャダイン(音楽クリエイター)■■ 現在,ヒャダイン氏が毎週火曜日にレギュラー出演しているABCテレビ「おはよう朝日です」では,ヒャダイン氏が手がける新テーマソングのボーカリストオーディションを実施中です。「番組を視聴できる地域に在住または出身の方のみが対象ですが,ご興味のある方はぜひご応募ください」とのことです。 |
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- ライター:ヒャダイン/前山田健一
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