連載
【ヒャダイン】ゲームとのディスタンス
ヒャダイン / 音楽クリエイター
ヒャダインの「あの時俺は若かった」 |
第76回「ゲームとのディスタンス」
ども。緊急事態宣言が発出した時の自粛期間もそうでしたし,最近でも仕事がポコっと空いた期間に浮かんでくる感情。「あ,俺やることない」。
いや,本当は曲を書いたり体を鍛えたりピアノの練習をしたり英会話の練習をしたりと,やるべきことはいっぱいあるんですよ。だけど何故か浮かんでくる感情,「あ,俺やることない」。
そんなときにスポっと入るのがゲームなんですよね。ゲームでオンライン対戦をやっていると1時間なんてあっという間。最低3時間はやってしまいます。後半になってくると,「そろそろ目が痛いし,やめなきゃなぁ」と思ったりするんですが,「次勝ったらやめよう」と誓いを立てて,いざ勝ったら「うっひょー! きもちいい!!(脳汁ぷしゃーー!!)よし,あと一戦いくかー!」と続けてしまいますし,負けたら負けたで「くそ!! 次勝つまでやめられない!」と,勝っても負けても無限ループが続くわけです。
つい最近も,「連ちゃんパパ」というパチンコをテーマとしたほのぼの絵柄の鬼畜コミックが話題になっていましたが,ああいう感じなんですよね。脳汁ぷしゃーー状態がクセになると,その間は食欲も忘れるしトイレだって我慢できちゃう。
で,厄介なのはゲームをどうにかこうにか終わらせたあとの罪悪感です。「ああ,またやっちゃった」という後悔はもちろん,眼精疲労,肩こり,頭痛といった具合にフィジカルへの負荷もかかってきます。ついでに,これだけの時間があればあれができた,これもできた……という無為な後悔が自分を責め立てて,なんだか自分自身のことが大嫌いになっていきます。
そしてそんな大嫌いな自分を忘れるために,またゲーム機の電源を入れてしまう始末。
でね。冷静かつ客観的に考えてみたわけですよ。これ,自分の中で何が起きているんだろうと。
そこで自分を実験材料にするような観点でゲームに潜ってみたんですね。そして導き出した自分なりの結論なんですが,現実逃避というより「自己逃避」。
具体的に言いますと,ゲームをしている最中は現在進行系の前山田健一もしくはヒャダインをすべて忘れてます。自分の現状,明日への不安,孤独などはもちろん,コロナのことも忘れられる。コロナのせいで動きにくくなっている自分自身のことを忘れられるんですよ。
もしかしたら読者の皆様の中には「ヒャダイン,お前は恵まれた立場にいるのになぜ自己逃避なんてする必要があるんだ」と思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし,人には人それぞれの地獄があるのです。人間40歳にもなったら,抜け出せないほど重いものの一つや二つ,抱えていて当然ではないですか。そこに手を差し伸べてくれるのがゲームなんですね。
一方で僕はこの40年間,ゲームにたくさんのことを教えてもらいました。日本の地理は「桃太郎電鉄」で覚えたし,「ファイナルファンタジー」シリーズの魔法名は英語学習の入り口としてとてもいいものだったと思うし,RPGでストーリーメイキングのことも学んだし,何より素晴らしい音楽に触れることができたのもゲームのおかげです。
そんな恩義のあるゲームだからこそ,自己逃避のためになんて使いたくないって思ったんですよね。もっといい付き合い方をしたい。だってゲームは本来素晴らしいものなのですから。
なのでセルフリハビリをすることにしました。段階的に。まず第一弾,最も強いものとして,“兵糧攻め”を決行です。ゲーム機自体を戸棚に隠してしまいました。もちろん自分が隠しているわけですから場所は分かっています。しかし,「あ,俺やることない」って瞬間に,わざわざそこから出して配線し直すという行程が,なかなかのハードルになると考えたからです。
大体3日くらい兵糧攻めをします。最初の2日くらいはつらいのなんのって! 手持ち無沙汰すぎて何をして過ごせばいいのか思い浮かばなくて,ゲームのことばっかり考えてしまう。だけど3日を過ぎるとゲームなしの生活が少し自分の中のスタンダードとして定着してきます。
そこでゲーム機を取り出し,配線し直し,次のステップとしてゲームをする時間を完全に固定することにしました。僕の場合だと朝の8:00〜9:00の1時間限定です。理由は,夜だとなし崩し的に続けてしまうからです。朝ならその後の予定に響くから,やめるしかない。
そして何より「あ,何もやることないな俺」と思ったときにゲームをやらず,Netflixを見てインプットに徹することにしました。時間つぶしのためだけにゲームを使っちゃいかんのです。そんな生活が1週間くらい続くと,不思議や不思議。ゲームへの渇望感はかなり減るもんなんですね。
僕の場合はこんな具合に自分でコントロールしましたが,そうでないケースだって多々あるでしょう。僕が上に書いたような罪悪感に毎日苦悶しながら,自己逃避のために何かに没頭して時間をただただ潰している方もきっと少なくないでしょう。
自粛期間中,不用意に出歩いたり,外で遊んだりする人が責められました。パチンコやパチスロに出かける人は「欲望に弱い無責任な人々」として槍玉に上げられたりもしていました。感染リスクを高める行為を擁護するつもりはありません。ありませんけど……もし,現実から目を背けたい気持ちがその行動につながっていたのだとしたら,その気持ちだけはとてもよく分かります。
自分なりにいろんな問題と折り合いをつけるため(もしかしたら時間稼ぎにしかならないかもしれないけど),自己逃避をすることだって,生きていくうえでの一つの手段だと思うんです。
同じようなことを思ってる人がいるかもしれない。未曾有の新型コロナ感染拡大で,精神的に,もしかしたら経済的にもズタボロになっている人に,逃避しなきゃ死んじゃうよって感じている人に,コントロールの仕方とか向き合い方の話だけじゃなくって,「僕も逃避したんだよ」って伝えたかったんです。
同じ悩みを持ってる人がいる,それが誰かに伝わって,傷の深さを慮る気持ちとして少しでも広がってくれたら嬉しいです。
■■ヒャダイン(音楽クリエイター)■■ 2020年7月8日発売された,ももいろクローバーZの佐々木彩夏さんのソロアルバム「A-rin Assort」。全15曲が収録されているのですが,初収録曲を含め8曲がヒャダイン氏の楽曲です。ヒャダイン氏はこの件について,「ありがたやー」とコメントしていました。 |
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