連載
【ヒャダイン】南米大陸に上陸して「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の素晴らしさを再認識からのどこでもドア
ヒャダイン / 音楽クリエイター
ヒャダインの「あの時俺は若かった」 |
第73回「南米大陸に上陸して『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の素晴らしさを再認識からのどこでもドア」
ども。年末年始に長期の休みをいただけたので,南米大陸へ行って参りました! もちろん一人で!
ペルーのリマ,クスコ,マチュピチュ,そしてアルゼンチンのブエノスアイレス,メンドーサといった具合に,バタバタと周遊してきました。途中で風邪を引いたり高山病になったりと修行のような旅でしたが,普段は絶対に見ることができない風景の連続で,とても意義のある旅になったと思っています。
さて。今回の旅,一番のネックは飛行機。移動に24時間以上かかるんですよね。もちろん乗り継ぎですけれど。なので機内で聴く音楽も重要になってきます。僕は飛行機の騒音が疲れを起こすと考えているので,寝るときもノイズキャンセリングイヤフォンを着けています。
そこで大切なのが選曲。旅行の雰囲気にぴったり合う曲として,これまではパット・メセニー・グループばかり聴いていたのですが,今回は「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(Nintendo Switch / Wii U。以下,BotW)のサントラをプレイヤーに転送して出発。これが大正解でした。
BotWは,ゲームの世界をリンクが自由自在に歩き回るオープンワールドゲーム。BGMの音数が少なく,研ぎ澄まされています。それが自分の旅行の情緒を2倍にも3倍にもしてくれたんですね。
さて。サントラが素晴らしいのは当然として,実際に自分の目でマチュピチュ遺跡やインカの博物館,アンデス山脈やぶどう畑などを見て感じたのが,「BotWすげえ……」ってことです。僕はBotWを何年もずっとプレイしているので,自分の中ではもう一つの日常と言ってもいいぐらい,ゲーム内であらゆる大自然を歩いてきたことになります。歩くどころか登ったり滑ったり。
ゆえに南米の素晴らしい情景に感動しつつも,「あれ,これ既視感あるな」という場面がたくさんあったんです。「ここで敵と戦ったことがあるな」とか「似たところで野営したな」とか。それほどまでにBotWの情景描写は細かく正確で,芸術性の高いものだったんですね。
実は似たようなことを一昨年から去年にかけての年末年始,南アフリカ,ジンバブエ,ボツワナを旅した時にも感じました。広大なサファリや果てしない木々の先に見える地平線,テーブルマウンテンから見る360度の景色などなど,本当に貴重な体験でした。
しかし! これも自分の中では厳密な意味での“初めて”ではなかったような気がするんですよね。似たようなサファリをリンクとして駆け抜けた経験がありますから(動物を弓矢で射りながらね)。なので「新鮮!」ではなかったのは事実です。
まあ,この手の既視感が一番強かったのは,今回乗り換えで一泊したニューヨークだったんですけどね。3年ぶりに行ったんですが,昨年プレイした「Marvel’s Spider-Man」がマンハッタンを緻密に模したものだったこともあって,3年ぶりっていうよりこの間来たよなぐらいの感覚で,スタスタ歩いていました。
こういうのって,ゲームが生んだ弊害だと思う方もいるかも知れません。確かに視覚的には既視感がありますが,匂いだったり音だったり空気だったり……。さらには自分の体調,人との出会い,食べたものの味などなど,ゲームでは経験できないこともたくさんあるからです。実際に行くことには確実に意味があって,既視感なんてちっぽけなものなんです。
むしろ僕は,弊害どころか利点しかないと思っています。BotWはVRモードにも対応しているので,自分の視界すべてをゲームの大自然内にワープさせてしまえるわけです。片道24時間の飛行機に乗らなくても,高山病に苦しまなくても,風邪でお腹を壊さなくても,何より大金を払わなくても一瞬でその世界に飛べるんですね。最高じゃないですか!
そしてこれを考えたとき,「あ,これ,どこでもドアじゃん!」と思ったんですよ。先日,NHKの「ドラえもん」特番に出た時,疑似的にどこでもドアを体験させてもらいました。例えばどこでもドアに向かって「北海道の牛舎にいきたい」と語り掛けると,音声が認識され,何秒後かに扉を開けるとでかいスクリーンにその動画がドドーンと表示されて,まるでそのまま入って行けそうな感覚になるんです。もちろん入れるわけじゃないんですが。ただ,こういうものとオープンワールドゲームって,どこかでつながっているような気がするんです。
でね。やはり5Gだよな,と思うんですよそこで。5Gの大容量瞬速サービスが始まったらオープンワールドゲームももっと可能性が広がることでしょう。もっと果てしない世界へとシームレスに没入できるわけです。BotWのようなファンタジーの世界もそうだしMarvel’s Spider-Manのような実際のニューヨークの風景を模したものもそうだし,それがスマホやウェアラブルだけでぱぱぱっと体験できちゃう世界がすぐそこなわけですよ。
これってもう映画「レディ・プレイヤー1」の世界ですよね! 現実世界と仮想世界が混在する未来。こうなったらもはや,どこでもドアすら憧れではなくなるわけですよね! その場にいながらどこでも行けるのは当然,大前提としてあるもので,そこから何をするのか,という考え方ができるようになるわけですから。
こういう常識の上書き,なんか経験したことあるなあと自分の経験を見つめ直したら,「テレビ電話」だったり「YouTube」だったり「サブスクリプション型配信サービス」だったりが思い浮かびました。今まであり得ないものとして考えられていて,ファンタジーの代名詞だったものが軽々とクリアされていき,結果,常識が上書きされていくんですよね。
1枚3000円のCDを買うのが大変で,FMのオンエアを録音したりCDショップの試聴機でいろんなアーティストの楽曲を聴くのが当たり前だったあの時代を忘れて,今では定額で聴き放題のサブスクでガンガン音楽を聴いてるんですよ。常識なんて上書きされて当然のものなんです。
PlayStation 5の発売も発表されて,5Gも登場するし,ますますゲームと現実の境目がなくなってくると思います。「ゲームは子供とオタクがやるもの」と思っている勢もどんどん姿を消していく思うので,ポジティブにこの変化を活かして豊かな生活を送っていきたいなあと感じています。
火山や深海,果ては宇宙までもまるで経験したかのような肌感を持つゲームがガンガン出てきたら嬉しいな,と思いながら今日もBotWをちょこちょこやっております。楽しい時代だ。
■■ヒャダイン(音楽クリエイター)■■ ヒャダイン氏は,漫才コンビEXITときつねのユニットの楽曲「L.O.K.F」をプロデュース。「ラストオーダーで帰りましょフォー」というアンチアルハラソングだそうです。 |
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