連載
【ヒャダイン】音楽クリエイター38歳が異世界に転生したら実世界での仕事がままならなくなった件について
ヒャダイン / 音楽クリエイター
ヒャダインの「あの時俺は若かった」 |
第68回「音楽クリエイター38歳が異世界に転生したら実世界での仕事がままならなくなった件について」
ども。近年,ラノベやアニメで“異世界転生もの”がはやってますねえ。どいつもこいつも転生転生。でも,実は僕も大好きなジャンルなんです。
万年ジャージ姿の引きこもり高校生が異世界に飛ばされて大活躍するなんて最高じゃないですか。恋なんかしちゃったりして。サラリーマンが生まれ変わったら幼女になって軍を率いることになるなんて最高じゃないですか。あー。異世界行きてー。
というのも。年が明けてから激務忙殺でゲームの一つもできない状況だったのです。せいぜい少し空いた時間でポケモン実況動画を観るくらい。「デビル メイ クライ 5」(PC / PlayStation 4 / Xbox One)を買ってはみたものの,封を開けることができていません。
グギギと思いながら曲を作ったりTVに出たりしているのですが,どうにもこうにもストレスが溜まりまして「異世界に行きたい!」となったんですよ。デビル メイ クライ 5を開封しようかとも悩んだのですが,この忙しい状況だと,新しい情報を頭に入れられるだけのキャパシティもないんです。アウトプットに勤しんでいる時期は,インプットまでしちゃうと脳みそが爆発するというか。
なので呪われたかのようにすでにクリアした「Marvel’s Spider-Man」と「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(Nintendo Switch / Wii U)をプレイしておりました。
でね。このところ異世界転生ものを見ると,けっこう多いんですよ。オーバーキルもの。要するに,異世界に行ったら自分の能力値が高すぎて周りが超ザコ,だけどもおごることなく戦って生きて恋をしてワーイ,みたいな。ゲームでいうと「強くてニューゲーム」的な。
自分自身の中にある劣等感を一切排除してスキがないまでに強い自分で世界を生きていくという。まあ,人によっては「それって楽しいの? できないことができるようになるから人生楽しいんじゃないの?」と言うかもしれません。ごもっとも。人生のだいご味はトライアンドエラーからのレベルアップによる達成感だとは思いますよ。
でもね! 強くてニューゲームって超楽しいんだよ! 初回プレイでは苦労していた場面やボスも瞬殺できるし,何より過去の自分を超えた気分にもなれるし万能感が半端ない。
あ,強くてニューゲームというのは何かといちおう説明しますと,一度クリアしたゲームをクリアした状態の強さ,ステータスのまんま再度一から始められるというシステムのことです。この言葉自体が初めて使われたのは名作「クロノ・トリガー」らしいのですが,そのシステム自体はさらに昔からあったようです。
最初から強いので序盤の敵はオーバーキルすぎるくらいのオーバーキル。あんなに手こずったボスさえもチョチョイです。
で,なぜ自分はこんなに強くてニューゲームが好きなんだろう,ハイスペックでの異世界転生ものが好きなんだろうと熟考してみました。
正直,今の実世界での仕事はめちゃくちゃ楽しいです。とてもやりがいがあるし,なかなかほかの人が見られないような景色も見せてもらっています。曲を聴いてたくさんの人が笑顔になっているという便りもあり,自己実現はできているんだと思います。
でも最近とくに思うのが,やればやるほど自分のできないことが見えてくるってところ。焦りだってあります。ミュージシャンのくせにこの歳にもなってあんなこともできないのか,とか,今はいいけど将来つぶしがきかないぞ,とか。
20代の頃はあれもやってやるこれもやってやる,と鼻息が荒かったのに,今ではあれもできないしこれもできない,と溜息が多い始末です。それってものすごく大きなストレスだと思っていて,自分で自分を責め続けるわけですから心が休まる暇がないんですよ。
しかし,めちゃくちゃ忙しくしているときは,そんなことすらも考える暇がない。ひたすらアウトプットし続ける毎日なので,少しそういった不安がよぎったとしてもタスクにふっとばされていく。でも,少しだけ手が空いたとき,デカイ仕事が片付いたとき。ふと立ち止まると無能感が吹きすさぶんですよねー。
そんなとき,強くてニューゲームは僕の心をガッチリキャッチして離しません。強レベルのまま序盤のストーリーをクリアしていくうちに,今の音楽経験値,社会生活経験値のまま20代前半の上京したての僕,本当に何もできずにクソみたいな曲を必死に作っていた僕,築40年の6畳の部屋の僕に戻るかのような気分になれるからです。
その万能感たるや!! あのコンペもこのコンペも通るよ(それはどうかは分かりませんが……)! あのときバカにされたディレクターに一泡吹かせてやれるぞ! などなど。過去の負の遺産を全部チャラにしてくれる,そんな感じ。今ほのかに抱いている不安なんて吹っ飛んでいくわけです。
そんな思いを込めながらクリア度100%になったMarvel’s Spider-Manでパンツ一枚のピーターが,初回プレイ時の序盤で苦労した敵をバッタバタなぎ倒していくわけですよ。爽快爽快。そうなるとこっちの世界のほうが居心地良くなっちゃって,気付けば5時間くらいぶっ続けでプレイすることもしばしば。
そうなると実生活での各種〆切りがガンガン迫ってきているのもシカトしたくなるし,あと何より恐ろしいのが「こっちの世界でこんなに万能なんだから,実世界に戻ったとしてもバリバリ仕事できるでしょうよ」という妙な自信がわき上がること。そしてさらにゲームに時間を費やしていくわけです。
しかしまあ現実はそんなに甘くないわけで,ちょっと疲れたなーとゲームを一休みすると,実世界ではあれやれこれやれと大騒ぎです。見たくもない現実が「お帰りなさーい」とニヤニヤしながらにじり寄ってきます。すぐに「ああ,異世界にまた転生したい」とゲーム機の電源に手が伸びますがグッと我慢。これを人は社会性と呼ぶのでしょう。
そうして実社会のほうに体を順応させていくわけです。実際そっちに戻るとそれはそれでめっちゃ楽しいんですよ。ご飯もお酒もおいしいし,友達は楽しいし。でもなーでもなー……。
そんな僕の手元に,先程「ウォッチドッグス 2」(PC / PlayStation 4 / Xbox One)のソフトが届きました。サンフランシスコのオープンワールド……。天才ハッカー……。さてと。異世界に転生してきますか,ね。おい仕事しろ。
■■ヒャダイン(音楽クリエイター)■■ 花粉症対策に去年の夏前から舌下免疫療法を始めたというヒャダイン氏。今春はほぼ花粉症の症状が出ずに済んでいるそう。長い期間が必要となりますが,気になる方は病院で相談してみるといいかもしれません。 |
- 関連タイトル:
Marvel’s Spider-Man
- この記事のURL:
キーワード
(C)2018 MARVEL (C)Sony Interactive Entertainment LLC Developed by Insomniac Games