レビュー
往年のガンダムファン大歓喜!――PS3で見た「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」があまりに面白かったので唐突に紹介してみる
物語の舞台は,1988年に上映された劇場版アニメ「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の3年後の世界。いわゆる「宇宙世紀」物の最新作として,満を持して展開されるガンダムシリーズの新章である。
また本作は,全国5都市でのプレミアレビュー(イベント上映)や「PlayStation(R) Store」による先行配信,そしてBlu-ray Disc&DVDの全世界同時発売など,公開にあたって複数のチャンネルで一挙に展開する戦略が採られているなど,ビジネス的なチャレンジを行っているタイトル。アニメ産業を引っ張るリーダー役として,その成否が注目される作品でもある。
かくいう筆者も,そうしたビジネス(プロモーション)展開の網にかかる形で,PlayStation(R) Storeで配信されていたバージョンを鑑賞した。事前情報ゼロで,たまたま見かけてとくに期待もせずに見始めたわけなのだが,いざ見てみると,これがかなり面白い!……というか,ジェガン格好いいよジェガン!
鑑賞が終わったあとの記憶は定かではないのだが,気が付いたら制作元であるサンライズに連絡をして,「記事,書きたいんですけど」と一方的なお願いをしていたのであった。いやー,ガンダムってやっぱり良いものですね。
というわけで,唐突にではあるが,OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)「機動戦士ガンダムUC」の紹介をしていこう。「ゲームじゃないじゃん」とか突っぱねないで,ぜひ読んでみてほしい。
最近であれば「ガンダムネットワークオペレーション3」や「ガンダムアサルトサヴァイブ」といったゲームも発売される(された)わけで,ここでガンダムの世界観に触れておけば,きっとそれらのゲームを数倍楽しめるはず。PlayStation(R) Storeで先行配信されたということは,ゲーマーがゲーム機で入手可能なOVAなんですよ!――という感じでもある。……ちょっと強引な気はするけど。
ともあれ本稿では,よりガンダムゲームを楽しむためにガンダムUCを紹介しつつ,併せてガンダムの魅力についても触れてみたい。
※以下の文章には,物語上のネタバレが含まれます。ご注意ください。
「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」公式サイト
公式サイト内のプロモーション映像はこちら
【ストーリー】
宇宙世紀0096年。『シャアの反乱』から3年、工業コロニー〈インダストリアル7〉に住むバナージ・リンクスは、オードリー・バーンと名乗る謎の少女と出会う。戦争の火種となるビスト財団とネオ・ジオン残党組織『袖付き』による、『ラプラスの箱』の取引を止めようと行動しているという彼女に対し、協力するバナージ。しかし、同じく取引の阻止のため乗り込んできた地球連邦軍と『袖付き』との戦闘により、コロニーは戦場と化してしまう。オードリーを探して戦火を走り抜けるバナージは、『ラプラスの箱』の鍵となる純白のモビルスーツ、『ユニコーンガンダム』と運命的な出会いを果たす。
『ラプラスの箱』とは何か、それが抱く秘密とは何か……。宇宙世紀100年の呪いが、解かれようとしていた。
「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の3年後が描かれる,宇宙世紀シリーズの正統な新章!
アムロとシャアが戦った「シャアの反乱」のその後の物語……という時点で,劇場版アニメをリアルタイムに見にいった身としては,すでに心の琴線に触れまくりなのであるが,本作は,ガンダムシリーズの本流たる宇宙世紀シリーズの世界観を非常にていねいに描いている作品だ。
作中の随所に挿入される「ネオ・ジオン」「ロンドベル」「ファンネル」,そして「ニュータイプ」など,その懐かしいフレーズを耳にするたびに「ああ,宇宙世紀シリーズなんだなぁ」と実感させられ,スペースコロニー内の情景や随所に散りばめられた“ガンダムらしさ”を見るにつけ,ガンダムという作品の持つ奥深さが感じられる内容になっている。
4Gamerはあくまでも“ゲームメディア”であるので,ここで作品のストーリーや映像のなんたるかについて語ることはしない。ただ,一つだけ本作の魅力――とくにその「シリーズ正統」の正統たるゆえんを語るならば,やはり本作中におけるモビルスーツ戦の重厚感と演出の素晴らしさこそが,一つの“証”になっているのではないかと思う。
なかでも,物語の冒頭で描かれるロンドベルのジェガン部隊と,それを迎え撃つ重モビルスーツ「クシャトリヤ」の戦いは圧巻だ。本作を劇場,あるいは自宅で見た人の中で,その細やかな演出と映像の迫力に度肝を抜かれたという人は多いのではないだろうか。筆者も,本作の映像を初めて見たとき,以前に「逆襲のシャア」を見たときのような「おおおおおおっ……」という感覚を体験した。
クシャトリヤがファンネルを射出するシーンや,そのファンネルから必死に逃れようとするジェガンの様子。そしてそのジェガンが,ビームを受けて四肢をもがれながら爆散する様や,ファンネルの砲火をかいくぐってビームサーベルで切りかかる様たるや……!
これはもう,「まずは映像を見てくれ」としか言いようがないのであるが,その重量感あるモビルスーツの挙動,戦術性の感じられる無駄のないアクションには,年甲斐いもなく心ときめいてしまった。正直な話,そのあまりの格好良さに,再び“ガンダム熱”が再燃してしまったほどである。
冒頭10分の映像を作った時点で,当初の制作予算のすべてを使い切ってしまったという噂があるくらいなのだが,それも納得のクオリティである。とにかく,細部にわたる映像へのこだわり具合が凄まじいのだ。
―――キャラクター紹介―――
ミコット・バーチ:アナハイム工専の学生で,バナージの友人。バナージに好意を寄せている |
マリーダ・クルス:「袖付き」と呼ばれる反政府組織に所属し,MS「クシャトリヤ」を駆る女性パイロット。階級は中尉 |
フル・フロンタル:「袖付き」と仇名されるネオ・ジオン残党の首魁。「シャアの再来」と呼ばれ,MS「シナンジュ」を駆る仮面の男 |
あらゆる細部が説得力を持って描かれる,ガンダムの世界観とは
一般的には,「アムロ・レイ」や「シャア・アズナブル」などの魅力的なキャラクターや,彼らの織りなす人間ドラマ,あるいはモビルスーツの格好良さなどが挙げられることと思うが,ガンダムブランド全体として見た場合,その「世界観の奥深さ」は,その魅力を語るうえで欠かせない要素だといえる。
では,世界観の奥深さとはなんだろう。思うに,それは単に「細かい設定がごちゃごちゃあればいい」ということではない。例え架空の世界の話であっても,人間の感覚として納得できうるだけのリアリズムがそこにあるべきであり,それが世界観というものの良し悪しを決める重要なファクターであり,肝なのではないだろうか。
思えば,20年以上前に公開された「逆襲のシャア」も,そうしたリアリズムを感じさせる演出が非常に光っていた作品であった。泥臭い政治劇や人間ドラマもそうした演出の一つであったと思うが,それ以外にも,モビルスーツの細かい動きやギミックの数々には,その節々から「モビルスーツとはこういうものだ」「それを操作するインタフェースはこうだ」「宇宙空間でのモビルスーツ戦とはこういうものだ」――そんな富野監督の思いが感じられたものである。
「逆襲のシャア」における,モビルスーツ隊の出撃から戦闘に至るまでの描写を例に挙げると,
・最初は,モビルスーツの推進剤(燃料)を温存するために
サブフライトシステムに載って出撃
・敵部隊との遭遇前にサブフライトシステムを切り離して身軽に
・遠距離戦では,まず双方の陣営共にミサイルを撃ち合って牽制
・モビルスーツ同士が接近しあうと,第二次世界大戦の空中戦
さながらの乱戦状態に
・退却するときは,シールドを構えながらスラスターで後方に移動し,
一定の距離が空いたら反転して離脱
世界観の“奥深さ”や“確かさ”というものは,そうした細かい説得力の積み重ねによって作り上げられるものではないだろうか。そういうものが意識的に(あるいは無意識的に)感じられたからこそ,ガンダムの世界観に浸ることができ,またその魅力に取り憑かれていったのだと思う。
翻って最新作となるガンダムUCも,そうした説得力が随所で感じられる作品に仕上がっている。
物語冒頭におけるクシャトリヤの発進シーンにしても,モビルスーツがどういう状態で格納されており,また出撃時にどういうステップを踏むのか。コックピット内部の様子や起動の過程,さらに細かいところに目を向ければ,クシャトリヤの戦術モニタ画面に表示される「RGM-89」と「Unknown」の文字(※)。ガンダムの世界を表現する,その情報量とこだわりには,舌を巻くことしきりである。
客観的に見て,本作は,非常に映像的な質(作画,構図など)の高い作品である。しかし,なによりもそのクオリティが,「ガンダム」の世界観を表現するために駆使されているという点が,本作の大きな魅力となっているのは間違いないだろう。
※旧式のジェガンはデータがあるので識別できるが,新型機は情報不足で識別できない。つまり「未確認の敵機が追ってきた」という演出を,こういう細かいところでも行っているわけだ
成長したミネバ・ザビの姿に,過去作品の名シーンを見る
宇宙世紀シリーズの正統な続編と位置付けされるガンダムUCでも,ヒロインのオードリー・バーンことミネバ・ザビを筆頭に,往年のガンダムのファンであれば,懐かしさを感じるキャラクターが登場する。
ミネバ・ザビというのは,ガンダムシリーズにおける敵方「ジオン公国」の中枢を担ったザビ家の最後の生き残りで,正式な名を「ミネバ・ラオ・ザビ」という。いわゆる王女的なキャラクターだ。
テレビシリーズ本編では,あまり表立った活躍はしなかったものの,一時期は傀儡君主としての役割を押しつけられたり,ジオン/ネオ・ジオンの崩壊と共に逃亡を余儀なくされたりと,その人生はかなり波瀾万丈。そんな人生振り回されまくりの女の子が,紆余曲折を経てついにヒロインとして登場した作品,それがガンダムUCなのである。
これはおそらく,往年のガンダムファンの多くが抱いた感覚ではないかと推測するのだが,本作でそんなミネバの凛々しい姿を目にしたとき,筆者の頭によぎったのは,「機動戦士ガンダム」におけるドズル・ザビの玉砕シーンであり,あるいは「機動戦士Zガンダム」におけるクワトロとミネバの謁見シーンであった。つまり,過去作品の数多の名シーンと共に,「ああ,随分と立派になって……」という何とも言えない感慨深い感情が湧き起こったのである。
もちろん,これはガンダムの持つ長い歴史があってこその感動(?)なわけで,他の作品でおいそれと真似できる類のものではない。筆者がほかにこの種の感動を味わえたのは,それこそ「スター・トレック」くらいなものだろうか。
ともあれ,筆者はこのミネバの姿に伝統的な「ガンダム」の正統性を感じ,また同時に,新しい「宇宙世紀シリーズ」の始まりを感じたのである。これも,ガンダムの持つ“奥深さ”の現れだと言えよう。
……なんだか長々と書いてきてしまったが,ともかくガンダムUCは,往年のガンダムファンにはぜひとも見てほしい作品である。
今回公開された第一話は,小説でいうところの2巻分を60分という短い尺に詰め込んでいるため,一見さんではちょっと分かりづらい描写が含まれるのは否めない。しかし,それでも「小説の映像化」という意味では,とてもうまくまとめてられている作品に感じられる。
何よりも,宇宙世紀の持つ空気感やモビルスーツの躍動感が肌で感じられるのは,映像化された最大のメリット。ガンダムファンにとってはこの上ない喜びのはずだ。
「最近はガンダムから遠ざかっていた」という筆者のような人はもちろんだが,重厚感溢れる「宇宙世紀シリーズ」に触れる入門用の作品としても,本作を強くお勧めしておきたい。
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