レビュー
DenebとPropusで何が違うのか。低価格クアッドコアをチェックする
Athlon II X4 630/2.8GHz
Athlon II X4 620/2.6GHz
» L3キャッシュを持たず,その代わり安価になったクアッドコアCPUを,Jo_Kubota氏が検証する。Denebコアのまま,L3キャッシュが無効化された個体と,はじめからL3キャッシュがカットされた個体が混在するという事実の意味も含め,状況を確認していこう。
実際,店頭価格は,X4 630が1万2000〜1万3000円,X4 620が1万200〜1万1000円(※いずれも2009年10月6日現在)と,両製品とも,クアッドコアCPUとしては安い。とくにX4 620は,2009年10月時点において,最も安価なクアッドコアCPUである。
では,これらは,ゲーム用途を前提としたとき,どういった意味を持つのか。今回は,その点を掘り下げてみたいと思う。
DenebコアとPropusコアが混在するX4 600シリーズ
X2 620のDeneb版でL3キャッシュ復活を確認
テストに当たって,4Gamerでは,日本AMDから,X4 630とX4 620の2製品について,CPU単体の貸し出しを受けている。どちらも,L3キャッシュを物理的に搭載しない「Propus」(プロパス)コアのCPUだ。
だが,市場には同時に,Phenom II X4と同じ「Deneb」(デネブ)コアを採用しながら,L3キャッシュを無効化することで“Athlon II X4化”した個体が混ざっており,この事実をAMDも認めている(関連記事)。
その個体を見極める方法についてはインターネット上でさまざまに噂されており,Denebコアを利用したものの中には,L3キャッシュを“復活”させられるものが存在すると言われているが,4Gamerでは,マザーボードベンダー関係者から,「パッケージ上に『CACYC』という刻印があるもののうち,全体の30%がL3キャッシュを復活させられる」という情報を入手。これを頼りに,パソコンショップ アークに協力をいただき,「CACYCという刻印を持ったX4 620」を,日本AMDからの貸出機とは別に入手した。
先ほど述べたとおり,4Gamerで入手した情報によると,L3キャッシュを復活させられるのは全体の30%に過ぎない(※この数字がどこまで正確かについてはなんともいえないが)。また,マザーボードによって復活させる方法は異なるうえ,非対応のマザーボードも存在するので,「このとおりやればできますよ」と断言するものでは決してないが,基本的には,BIOSから,「ACC」(Advanced Clock Calibration)の設定を変更することで,チャレンジできるようだ。
M4A785TD-M EVOのBIOSメニュー,「Advanced」に,ACCがらみの設定項目は用意されている |
X4 620で容量6MBのL3キャッシュが認識された |
- ACC:All Cores
- Unleashing Mode:Enabled
- Active CPU Cores:4 Core Operatiion
そして,今回入手した個体では,見事にL3キャッシュの“復活”に成功した。少なくとも,CPUの刻印が「CACYC」だったら,試してみる価値はありそうだ。
ただし,DenebコアのAthlon II X4でL3キャッシュを有効化できるかは運によるところが大きく,有効化できたとしても,その状態で安定運用できる保証はない。AMD,ASUS,パソコンショップ アーク,そして4Gamer編集部のいずれも動作は一切保証しないし,また,質問に対して個別に回答することもないので,この点は十分に注意してほしい。
※注意
「本来なら無効化されている機能を復活させる」というのは,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,システムに修復不可能なダメージを与えたり,CPUが壊れたりする可能性もありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません
DenebとPropusの違いを軸に
上位&下位モデルとも広く比較
以上の検証結果を踏まえつつ,今回テストに用いたCPUのスペックを並べたのが表1だ。X4 630とX620をざっくり紹介すると,基本的にはX4 605eと共通の仕様ながらも,「e」がないため,TDP(Thermal Design Power)は95Wになっている,といったところか。動作電圧の範囲が高めなのも特徴だ。
また,スケジュールの都合上,「Phenom II X4 905e/2.5GHz」(以下,X4 905e)とX4 605e,「Phenom II X3 720 Black Edition/2.8GHz」(以下,X3 720),「Core 2 Quad Q8200S/2.33GHz」(以下,Q8200S)のスコアは,先のレビュー記事から流用しているが,ACC有効化の関係で,BIOSのバージョンは異なっている(※X4 630&620は0902,それ以外は0805)。スケジュールの都合上,どうしてもスコアを取り直す余裕がなかったことをお詫びしたい。
また,スコアを流用する都合もあって,テスト対象のアプリケーションは,「3DMark06」(Build 1.1.0),「Left 4 Dead」「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4),「Race Driver: GRID」(以下,GRID)に絞っている。ただし,Left 4 Deadは,最近のシステムアップデートで,4Gamerのベンチマークレギュレーション8.1に準拠したリプレイファイルが利用できなくなったため,本作のみ,レギュレーション8.2準拠ですべてのスコアを取得し直しているので,この点もご注意を。
なお,X4 620については,以下,モデルナンバーの後ろに[ ]でコア名を付記し,L3キャッシュを復活させたものは,さらに「/w L3」を記す。
L3復活の効果は大きいが……
公式仕様のままだとDenebとPropusの違いはない
テスト結果を順に考察していこう。
3DMark06の総合スコアでは,X3 720とX4 630,X4 905e,X4 620[Deneb]/w L3が第1グループを形成している(グラフ1)。ほぼ“どんぐりの背比べ”だが,X3 720がトップを取っているあたりからは,コアの数よりも,動作クロックと総合的なキャッシュ容量が効いていることを見て取れよう。
X4 620[Deneb]とX4 620[Propus]は,当たり前といえば当たり前だが,スペックが同じなので,完全に同一と述べて差し支えないスコアに収まった。
グラフ2は,3DMark06から,デフォルト設定におけるCPUスコアを抽出したものだ。CPUテストは,キャッシュ容量よりもコアの数がモノをいうマルチスレッドテストの色が濃く,ゲーム用というよりは,トランスコードなどの性能を推し量る指標として見るほうが正しそうだが,ここでは,X4 630&620のスコアが全体的に良好だ。
実際のゲームタイトルから,Left 4 Deadのテスト結果をまとめたのがグラフ3だが,ぱっと見て分かるとおり,AMD製CPUに関しては,L3キャッシュの有無ではっきりとスコアに差がついている。DenebコアのX4 620におけるL3キャッシュの復活は明らかに有効で,逆にいうと,L3キャッシュを持たないことのハンデは,やはり大きい。
続いてはCall of Duty 4の結果だが,ここも,Left 4 Deadほどではないが,キャッシュの効果が大きめ(グラフ4)。とはいえ,X3 630とX4 905eのスコアを見る限り,L3を持たないハンデは,動作クロックで乗り越えられる印象も受ける。
比較的CPUのマルチスレッド性能がスコアを左右しやすいGRIDだと,X4 630とX4 620[Deneb]/w L3のスコアが並び,しかもX3 720を上回っている(グラフ5。もっとも,第1グループ,第2グループという観点では,3DMark06とほぼ同じ傾向,ともいえるが。
DenebとPropusでは
高負荷時の消費電力に違いが
消費電力もチェックしてみよう。9月18日のレビューと同じく,OSの起動後,30分放置し続けた時点を「アイドル時」,ストレステストツール「OCCT」(Version 3.1.0)のデフォルト設定におけるCPU負荷テストを30分実行した時点を「高負荷時」とし,ログの取得が可能なワットチェッカー,「Watts up? PRO」からシステム全体の消費電力を測定した。
アイドル時は,CPUの省電力機能「Cool’n’Quiet」(以下,CnQ)および「Enhanced Intel SpeedStep Technology」(以下,EIST)有効時と無効時のそれぞれでスコアを取得することにし,その結果をまとめたのがグラフ6である。
X4 630とX4 620に注目してみると,少なくとも“普通に”使う限り,アイドル時の消費電力は,DenebとPropusでほとんど変わらない。前者のほうが多少高いといえば高いが,実運用においては無視できるレベルだろう。
一方,高負荷時は,X4 630と,X4 620[Deneb]/w L3が完全に頭一つ抜け出している。表1で示したとおり,X4 630&620の定格電圧は高めなので,X4 630に関しては,その影響が大きく出たといえそうだ。X4 620[Deneb]/w L3は,言うまでもなく,L3キャッシュの消費電力が上乗せされたものと考えられる。
また,X4 620[Deneb]とX4 630[Propus]の消費電力も決して低くはない印象だ。
CPU温度はハードウェアをモニタリングできる,「HWMonitor Pro」(Version 1.06)を使用し,CPUクーラーの回転数はいずれもPWM制御させている。
X4 620[Deneb]/w L3では,温度情報が取得できなかったため,N/Aとしているが,それ以外をまとめたのがグラフ7。消費電力に違いはなかったX4 620[Deneb]とX4 620[Propus]だが,トランジスタ数の違いが影響しているのか,CPU温度は前者のほうが全体的にやや高めである。同じDenebコアながら,X4 905eはTDP 65W,X4 605eはTDP 45W,X3 720は3コアというのが効いてるようで,いずれもX4 620[Deneb]を下回るスコアになっている点も興味深い。
ゲーム用途では微妙な存在
X3 720を選ぶほうがより賢い選択か
L3キャッシュを省略することでコストを下げ,店頭価格も低いX4 630とX4 620だが,これはゲーマー向けのCPUではない,というのが,テストを終えての素直な感想である。
クアッドコアで1万円強から,という価格設定は,確かに目を引く。また,L3キャッシュの復活というのも面白いので,たとえばトランスコードなど,明らかにコア数が効くアプリケーションを念頭に,コストパフォーマンスを重視する自作派PCユーザーなら,試してみる価値はあるだろう。ただし,ゲーム用途を考えると,1万2000円前後から購入できるX3 720のほうが,バランスは明らかに優れているうえ,Black Editionならではの倍率ロックフリーというオマケもある。ゲーマーが,X3 720を差し置いてX4 630やX4 620を選ぶ理由はない,と言わざるを得ないのだ。
1万円台前半のCPUとして,必要十分なパフォーマンスは得られるため,選んで失敗したと思うことはないだろう。ただ,「買いか?」と聞かれると,正直微妙である。
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