レビュー
「占領されたアメリカ」をテーマにした,近未来FPS
ホームフロント【完全日本語版】
――近未来,カリスマ的指導者の登場により朝鮮半島の統一を成し遂げた北朝鮮は,近隣のアジア各国を軍事的に併合,大朝鮮連邦を成立させた。2027年,大朝鮮連邦は衛星からのEMP攻撃によってアメリカの通信/ライフラインを破壊し,電撃的にアメリカ侵攻作戦を成功させた。いまやアメリカの半分は大朝鮮連邦の支配下にあり,そんな中,主人公はアメリカ解放を目指すレジスタンスの一員として,激しい抵抗戦争に身を投じることになる。
これがTHQが満を持して全世界で展開する新作FPS,「HOMEFRONT」の設定である。日本では,PC版が「ホームフロント【完全日本語版】」としてサイバーフロントから,またPlayStation 3版およびXbox 360版の「HOMEFRONT」(以下,ホームフロント)がスパイクからリリースされている。というわけで,今回はこの,いろいろな意味での話題作を紹介したい。
「ホームフロント【完全日本語版】」公式サイト
「HOMEFRONT」公式サイト
まるでアクション映画のようなFPS
タイトル画面 |
実写を使ったオープニングムービー。ゲームのバックグラウンドが手際よく語られる |
キーバインドは自由に設定変更できるので,歴戦の猛者であれば,プレイの前に自分なりに設定しなおしてしまうのもいいだろう。
ストーリー展開はスクリプト制御によるものが中心で,敵の「湧き」はほぼ固定されている。敵の兵士はしっかりグレネードなどを使ってくるので,難度そのものは低くはないが,何度かやり直すうちに最適の進行ルートを発見できるだろう。途中でビークルを操縦するといったシーンもあるが,操作に困ることはあまりない(事前にマニュアルを見ておいたほうがいいかもしれないが)。
基本的にストーリーは優れたもので,さすが映画「地獄の黙示録」の脚本を担当したジョン・ミリアス氏が監修しているだけある。もちろん,ミリタリーマニア的にはいろいろ突っ込みたいところもあると思うが,そもそもの設定からして上記のごとくなので,あまり深く考えないのが礼儀というものだ。物語の展開は起伏に富み,ダラダラと銃撃戦を繰り返すようにはなっていない。
多彩なアクションが用意されているのも注目すべき点だろう。現代〜近未来を舞台としたFPSはどうしても「リアルっぽさ」を重視するあまり,結果としてプレイヤーが取る行動もリアル感のあるもの――しゃがんで移動し,伏せて撃ちの繰り返し――になりがちだ。
ホームフロントは映画的なリアリティを重視しており,それも戦争映画というよりはむしろ,アクション映画でよく見られるシーンや展開を積極的に取り込んでいる。レジスタンスらしく弾薬も厳しめなので,弾薬の補給しやすい敵の銃を奪って使うといった状況が自然に生まれるのも「それらしい」。
リアリティという点について追記するなら,発砲音や着弾音には賛否があると思うが,環境音は全体に素晴らしい出来だ。とくに重砲支援の発射,着弾音や,重砲の弾着修正を行う無線交信などは,自衛隊の総合火力演習などに行ったことのある方なら「そうそう,こういう感じ」と胸が躍るのではなかろうか。筆者は躍りまくりました。
「侵略を受けるアメリカ」というモチーフ
FPSとしてはある意味,標準的なホームフロントだが,上記のように,設定は非常に奇抜だ。とはいえ,飛び抜けて奇抜かと言えば,そこまででもない。
実のところ,「アメリカ本土が他国に侵略される」というのは,アメリカで一定の人気を持つ物語だ。デジタルゲームに限っても,筆者の脳内をざっと検索しただけで「Day of Defeat」(ナチスにアメリカが侵略される),「World in Conflict」(ソビエトにアメリカが侵略される),「Call of Duty: Modern Warfare 2」(ロシアにアメリカが侵略される)など,なかなかのビッグタイトルが揃っている。
この傾向は実はアナログゲームにも見られ,ウォーシミュレーションゲームやTRPGの黎明期にも「ナチス/ソビエト/日本に侵略されたアメリカ」というテーマを持つタイトルがあった。さらに,これが映画ともなれば「インディペンデンス・デイ」(宇宙人にアメリカが侵略される)など,日本に限らずアメリカもまた宇宙人の侵略先として大人気だ。
そもそもアメリカは,建国の際に独立戦争を経験しており,つまり「超大国によって不当に抑圧されてきた状況から反乱を起こして建国,独立した」という歴史を持っている。「他国に侵略,占領されたアメリカを解放する戦い」が一定の人気を持つのは当然だし,ホームフロントの中でも「これは新しい世代による独立戦争である」といった表現がされている。ホームフロントはその「独立を勝ち取るべき相手」こそユニークだが,話の構造そのものはありふれているのだ。
むしろホームフロントは,この「第二次独立戦争」というアメリカでは比較的使い古された物語を,現代の技術を活用しつつインタラクティブな娯楽作品として完成させたというところを評価すべきだろう。定番のテーマを手堅くかつ面白い作品として成立させるというのは,想像するほど簡単なことではない。
マルチプレイはやはりFPSの華
ホームフロントのマルチプレイは,原則として2つのモードに分かれる。「グラウンドコントロール」と「チームデスマッチ」だ。前者はマップ上の所定の地点を占領することでポイントを稼いでいき,一定得点に先に到達した陣営が勝利するというルール。後者は相手陣営のプレイヤーを倒すごとに得点が得られ,その得点が一定を越えた陣営が勝利するというもので,いずれもFPSでは一般的なルールだ。
ホームフロントではこれに加えて「バトルコマンダー」というシステムが用意されており,これはグラウンドコントロールやチームデスマッチのオプションとして利用できるもので,バトルコマンダーがオンになっていると,プレイヤーはAI指揮官からクエストを与えられ,それを果たすことで優位が確保できるのだ。
近年のFPSらしく,ホームフロントはレベル制が採用されており,レベルが上昇するにつれてさまざまな特殊能力や使用可能な装備がアンロックされていく(特殊能力が18種類,特殊装備が13種)。また特定の武器を用いてのキル数に応じて,それぞれの武器で利用できるアタッチメントがアンロックされていき,武器のカスタマイズの枠が広がることになる。
用意されている武器は,アサルトライフル6種,LMG/SMGが4種(LMGとSMGは同一カテゴリにまとめられている),スナイパーライフル2種,ショットガン1種となっている。やや少ない印象もあるが,アタッチメントによってアサルトライフルをスナイパーライフルのように使うこともできるので,見かけより使える武器は多い。
さて,レベル制でアンロックシステムと聞くと,「オンラインでほかのプレイヤーと互角に戦うためには,レベル上げをしなくてはいけないのではないか」という疑念がよぎるかもしれない。しかし,出会い頭の戦いこそ武器や特殊能力の影響が大きい印象があるものの,計画的に行動する限りにおいては,戦術や基本的な立ち回り,あるいはエイム精度の差などで決着がつくことが多い。
さまざまなビークルやドローン(ロボット兵器。特殊装備に含まれており,全部で4種)が使えるのも特徴だ。装甲車や戦車はもちろん,ヘリも利用でき(全5種類),その制圧力はさすがだ。一方,乗り物が出てくるFPSにありがちな「マップに置かれている乗り物に,先に乗った人の勝ち」という状況は,ホームフロントには存在しない。
ホームフロントのマルチプレイには,「バトルポイント」という概念がある。これは経験点とは別に,キルやキルアシスト,あるいはグラウンドコントロールなら占領によって得られるポイントで,プレイヤーはこのバトルポイントを消費することで乗り物を利用したり,あるいは対戦車ロケットや航空支援といったものを使ったりできるのだ。
バトルポイントは全員共通の初期値が決まっており,レベルとは無関係だ。Call of Duty系列では同様な概念が「キルストリーク」(敵兵を連続キルしていく)として存在したが,これは途中で自分がやられるとリセットされる。ホームフロントのバトルポイントはリセットされないため,例えばグラウンドコントロールでがんばって占領に努めれば,それによってバトルポイントが得られ,より強力な兵器を使うことができる。
このほか,ホームフロントのマルチプレイはさまざまな工夫が施されており,既存のマルチプレイをよく研究したうえで講じられた改善点には,なるほどと感心させられることも多い。
短縮されていくゲームのプレイ時間
とはいえ,ホームフロントに問題がないわけではない。
まず挙げられるのは,シングルプレイのシナリオがいささか短いことだろう。筆者は最初Xbox 360版でプレイを始め,ゲームパッドでFPSをプレイするのに慣れる時間も含めてクリアまで8時間程度を要した。のちにPC版をプレイしたところ,敵の出現パターンやマップのクリア手順を把握していたこともあって,4時間ほどでエンディングに到達している。
長いか短いかと聞かれれば,やはり短いと答えるのが妥当だろう。ホームフロントのストーリー展開は長編映画に似た部分があり,ゲーム一般のシナリオとして見れば短めであるのは事実だ。
とはいえ初めてパッドでプレイしたホームフロントをクリアするのに,約8時間必要だったという事実もある。ホームフロントが初めてのFPSになるプレイヤーにとってみれば,あるいはこれは適切なボリュームなのかもしれない。また多くのゲームが数時間以上プレイされない現実を鑑みれば,クリアに4〜8時間“も”かかるゲーム,という見方があり得ることにも注意が必要だろう。個人的には,FPSはRTS同様マルチプレイ主体のゲームだと思っているので,マルチプレイが楽しければシングルプレイはこの程度でも構わないような気もしている。
むしろホームフロントには,FPSのマルチプレイ制作の難しさが見られる部分がある。
事前のムービーなどでも有名なシーン。とにかく展開の密度は濃く,激しい |
誰がなんと言おうと,レジスタンスといえば地下トンネル。異論は認めない |
これを「そのプレイヤーが,バトルポイントのことを理解する努力を怠った」とするのは簡単だが,それではやや的を外しているようにも思う。FPSでマルチプレイに参加するプレイヤーは,乱暴に言ってしまえば,「敵を撃ち倒す」ためにやってくる。プレイヤーの望みは一刻も早く戦うことであり,「敵を倒したことでどんなメリットがあるかを理解し,そのメリットをどう活用するか前もって考えておく」ことなど,ほとんどの場合,考えていないはずだ。
Call of Duty系のキルストリークが受け入れられたのは,主従関係がはっきりしており,いったんゲームが始まってしまえば選択の余地がないからだろう。ホームフロントのバトルポイントは,ビークルを利用することにも使えれば,ビークルを破壊する個人携帯兵器(RPGなど)を使用することにも使える。プレイヤーはバトルポイントというシステムを理解したうえで,常に3つの選択肢(個人装備×2,ビークル×1)から取捨選択をしなくてはならない。「とにかく有利になるから使っておけ」というシステムではないわけだ。
もちろん,戦術的にはホームフロントのバトルポイントのほうが秀逸だ。けれどそのことが,ゲームにとって必ずしも良い結果をもたらすとは限らない。
ゲームと表現
総じて,ホームフロントは最近のFPSとしては水準以上の完成度を持っている。ゲームとして独創性に欠けるといった批判や,細かなモーションやAIの挙動などに不自然な印象を受けるといった批判はあるかもしれないが,前者については,あまりにも独創的なFPSは,その独創性ゆえに受け入れられない危険性がある(ホームフロントのマルチプレイは,まさにそのリスクを踏んでいる)こと,後者はわずかな瑕疵が気になるほど全体として完成していることを指摘しておこう。
個人的に大きく注目したいのは,アメリカを占領する敵として,大朝鮮連邦が選ばれたということだろう。現代〜近未来を舞台としたFPSは,どうしてもセンシティブな表現を含む。例えばElectronic Artsの「Medal of Honor」(PC/PlayStation 3/Xbox 360)では,発売直前になって「タリバン」が「敵対勢力」(Opposing Force)に変更された。この“Opposing Force”という表現は,「Call of Duty: Modern Warfare」シリーズにも見られるものだ。
ホームフロントは,その初期段階では,中国軍がアメリカを占領するというシナリオが構想されていたという。しかしゲームの市場が世界に広がり,国際市場で販売することで制作費を回収することが前提となった昨今,それは危険な賭けとなってしまった。かくして選ばれた「悪役」が,架空の大朝鮮連邦というわけだ。
ゲーム開発の規模が大きくなるにつれ,映画の予算を越える作品も珍しくなくなった(NHKが放映した番組でも,大規模開発ゲームの最新作として,ホームフロントが取り上げられていた)。それだけゲームを遊ぶ人が増え,ゲームに関わる人も増えたということだ。必然的に映画と同様,ゲーム開発者が社会と折り合いをつけていかなければならないシーンは増えていくだろう。その一方で,そうした面倒な折り合いをつけることなく,自己の「表現」を守るため,小規模なマーケットで展開されるゲームも増えていくだろう。
ホームフロントは,そんな変化の渦中にある作品の1つといえるかもしれない。個人的には,祖国を守るために「ナチスゾンビ」や「敵対するエイリアン」を撃ち倒すゲームばかりにならないことを望んでいる。もちろんそういうゲームはそういうゲームで,大好きなのだが。
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