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[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦
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印刷2010/03/13 23:13

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[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦

 先日,Autodeskの最新版CG制作ツールを紹介したばかりなのだが,それら新製品はGDC 2010にあわせて発表されたものであり,会場内でも新製品のデモが行われるなど,ツール界の巨人Autodeskはゲーム業界とは切っても切れぬ関係を築きつつある。

 さて昨今では,ゲームの画像が綺麗で当たり前。ゲーム中のプレイヤーキャラクターがモーションキャプチャのデータでリアルに動くのも,もはや当たり前。欧米ではフォトリアリスティックな表現が好まれ,技術開発に余念がない。
 ゲームのビジュアルがリアルになると,求められるものも変わってくる。
 例えば,低ポリゴンのマンガキャラなら街に「置いて」あってもそれほど不自然に感じないのだが,リアルさを極めたようなキャラが微動だにせず直立しているとしたら,それは不自然以外のなにものでもないだろう。

「Assassin's Creed II」
画像集#003のサムネイル/[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦


 ゲームにおけるリアルさの追求は,ビジュアルのリアルさを求める段階から,とうに脱却している。たとえゲーム内のプレイヤーキャラクターはそこそこ動いたとしても,NPCが単に突っ立っていたり,決まりきった挙動をランダムに繰り返していたりするだけだったりすると,すでに欧米では時代遅れ扱いされてしまうという。ゲーム性がどうしたという以前の段階で見切りをつけられてしまうのだ。

 自然な挙動のキャラクターを実現するのは,多関節体のアニメーションであったり,物理シミュレーションであったり,AIであったりする。もちろんノウハウも必要で,開発コストもかかってくる。ただでさえ高騰している開発費を抑えつつ,クオリティを上げる。そのために重要な役割を果たすのが,ゲームエンジンやミドルウェアだ。
 今回は,Autodeskでゲーム開発向けミドルウェアを統括している同社Games Technology Group Media & EntertainmentのVice PresidentであるMarc Stevens氏に,同社の最新製品について話を聞いてみた。


画像集#001のサムネイル/[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦
4Gamer:
 本日はよろしくお願いいたします。
 さっそくですが,御社のゲーム開発用ミドルウェア「HumanIK 4.5」での新機能などについて教えてください。

Marc Stevens氏(以下,Stevens氏):
 機能向上というよりは,今回は使い勝手と統合をテーマとしたバージョンアップになっています。これまでミドルウェアを利用するときには,ゲームプログラマが自分達が使うゲームエンジンとミドルウェアを統合する必要がありましたが,HumanIK 4.5では,UnrealEngine 3などのゲームエンジンに対してはAutodeskで統合部分を済ませています。これによって,格段に導入しやすくなりました。
 例えば,UnrealEngineを購入してHumanIKを使いたい場合には,UnrealEngneのアニメーションエディタの中でそのままHumanIKの機能が使用できるようになります。

4Gamer:
 なるほど,そういった部分に重点を置いていたわけですね。
 機能的な改良では,発表会で匍匐前進のデモを見ましたが,ほかになにかありますか。

HumanIK 4.5の新機能で実現された匍匐前進。手足以外の部分でもコンタクトを正確に設定できる
画像集#004のサムネイル/[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦
画像集#008のサムネイル/[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦
HumanIKを使うと,地形にぴったりフィットした立ち方ができる
画像集#009のサムネイル/[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦
HumanIKなら手足を置くべき位置がずれていても,一つのモーションを補正して対応できる


Stevens氏:
 そのほかには,「Squash & Stretch」(伸び縮み)にも力を入れました。
 背骨などは,硬い骨の間に軟骨があって,歩くと少し伸び縮みしています。これを再現することで,キャラクターの挙動がより自然になります。また,もちろん,マンガ的な表現で人間が極端に伸び縮みしたりといったものにも対応できます。
 また,Mayaの中でHumanIKのスケルトンの設定が可能になりました。これにより,Maya上だけの作業でほとんどの処理を完結させられ,使い勝手が大きく向上しています。
 ほかにも変更点はいろいろありますが,主なところは以上です。

4Gamer:
 分かりました。
 次に「Kynapse」の新機能を教えてください。

Kynapseは群衆を自然に動かすためのミドルウェア
画像集#005のサムネイル/[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦
Stevens氏:
 KynapseについてもHumanIKと同様に,統合と使い勝手の向上に力を入れています。KynapseはAIの経路計画のためのミドルウェアです。経路探索をするには,あらかじめマップからナビゲーションメッシュという,経路探索専用に使うデータを生成する必要があるわけですが,従来はこの作業に数分かかっていました。新しいKynapseではアルゴリズムの改良によって,これが数秒で行えるようになっています。こうなると,マップの修正がほぼリアルタイムで確認できるようになりますので,作業の進め方もまったく変わってきます。
 また,ナビゲーションメッシュの可視化もできるようになりました。ゲームのレベル(ステージ)をインポートして可視化できれば,レベル作成を行っているデザイナーにも作業しやすい環境になってきます。

4Gamer:
 これまでナビゲーションメッシュはデザイナーには見えなかったんですね。

Stevens氏:
 はい。すべての情報が可視化されて,作業はやりやすくなったようです。

4Gamer:
 Kynapseの拡張はだいたいこんなところですか?

Stevens氏:
 Kynapse本体の拡張についてはあらかた説明しましたが,これ以外に実は重要なものとして,プロファイリングやデバッギングのためのツールが追加されたことが挙げられます。

4Gamer:
 プロファイリングといいますと。

Stevens氏:
 ゲーム開発では,パフォーマンスは非常に重要です。例えば,NPCが移動する場合に,どこでどれくらい時間がかかったのか,どうしてそこで時間がかかったのかなどを調べられれば,ゲームの品質を上げるのに大いに役立ちます。そこでパフォーマンスの分析ツールや,デバッグ用ツールを提供することで,ボトルネックの発見や解決を行いやすくしているわけです。

4Gamer:
 なるほど。

Stevens氏:
 このほかにも,プロダクションの統合をさらに推し進めるため,オブジェクトの挙動などのテンプレートを用意しました。これは,例えばなにかが起こったときに人の群れが反応する挙動のパターンなどです。ある程度決まりきった挙動については,あらかじめ用意されているものを選んで指定することが可能です。

画像集#006のサムネイル/[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦
Kynapseでも匍匐前進に対応
画像集#007のサムネイル/[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦
通れるところを自動的に探して自律的に行動する。荷物が動いて道がふさがったりしても,直ちに正しいパスに切り換え可能
Kynapse7は,昇り降りや複雑なパスでも正しく対応できる
画像集#010のサムネイル/[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦 画像集#011のサムネイル/[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦


4Gamer:
 このようなミドルウェアを使って作られたものとしては,最近のタイトルではどのようなものがありますか?

Stevens氏:
 HumanIKが使われた作品には,「Assassin's Creed II」があります。Assassin's Creed IIでは,NPCの役割が強化されており,主人公がミッションを達成するのをいろいろと助けてくれます。とくに壁に登るような局面では,HumanIKがよく活用されています。また,以前のバージョンではサポートされてなかった,飛んだり泳いだりといった挙動も確認できるものに仕上がっています。
 そのほかには,サッカーゲームの「FIFA 2010」でもHumanIKが活用されています。サッカーでは,プレイヤー達がさまざまな位置でさまざまな態勢,さまざまな角度からボールを蹴る必要がありますので,一つ一つに対してアニメーションを用意していたらとんでもない量になってしまいます。HumanIKを使えば,作業はずっと簡略化されます。
 また,最近Kynapseを使ったタイトルとしては,「WET」などがあります。

画像左から「Assassin's Creed II」「WET」
画像集#012のサムネイル/[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦 画像集#013のサムネイル/[GDC 2010]Autodeskゲーム開発向けミドルウェア担当者に聞く“Believable Character”への挑戦


4Gamer:
 そのほかのゲーム開発用ミドルウェアをリリースする予定はありますか?

Stevens氏:
 現時点では,当社はいわゆる“Believable Character”の実現に注力しており,今後なにかのミドルウェアを出すことになったとすると,おそらくキャラクター関係のものになるでしょう。それくらいキャラクター関係の技術には大きな関心を持っています。
 これは,それだけゲーム内でのキャラクターの重要性について強く認識しているからです。当面はキャラクター作りのサポートに重点を置いた展開をしていきます。

4Gamer:
 分かりました。では,こういったゲーム用のミドルウェアについての,日本のゲーム業界での反響はいかがでしょうか。

Stevens氏:
 我々が日本でゲーム用ミドルウェアの販売を開始して,ようやく1年という段階ですので,まだまだデータは少ないんですが,それでもいくつか分かったことはあります。まず,日本のゲームランタイムに関する需要ですが,従来の日本のゲーム会社は自社開発が中心で,ミドルウェアを使う習慣はなかったということがあります。しかし,これもだんだん変わりつつあると思います。日本のゲーム開発者が置かれている状況はアメリカのゲーム開発者とそうは変わらないでしょう。つまり,クオリティの高いゲームを作るために必要な要素がどんどん複雑化してきているということ,そして制作コストを下げるように圧力がかかっているということです。
 最近では,すべてを一から作ることは現実的でなくなりつつあります。徐々に,優れたミドルウェアを導入しようという流れに変わっていくのではないでしょうか。
 守秘契約がありますので,現在のところ,私達の製品を評価しているメーカーなどに関する詳細はお話しできませんが,再びインタビューの機会があれば,日本での実績についてもコメントできると思います。

4Gamer:
 すでに日本の何社かとは話をしているということでしょうか。

Stevens氏:
 はい。今は興味を持っていただいている段階です。採用されるまでには,デモなどでの製品紹介,製品評価といった長い道のりを経ることになりますが,ともあれ,いくつかの企業とコンタクトを続けていることは事実です。

4Gamer:
 それは楽しみですね。では,最後に日本のゲーム開発者へのメッセージを一言お願いします。

Stevens氏:
 私は,以前はSoftimageで15年にわたって日本のゲーム開発者と関わってきましたので,日本の会社とは強いパートナーシップを感じています。私達は,ミドルウェアだけでなく,ゲーム開発に関わるすべての側面で,日本の開発者の力になれると確信を強めています。ゲーム開発のパートナーとして,Autodeskをよろしくお願いします。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。


 3ds Max,Maya,Softimageと,3DCG業界の標準ツールを3種類も抱えるAutodeskが展開するミドルウェアとはいえ,国内では順風満帆というわけにはいかないようだ。
 HumanIKは,パターンアニメーションでは適応できない状況にもうまく人体の動きを適応させるためのミドルウェアで,Kynapseは,群衆を自在に操るための軽量のミドルウェアである。キャラクター一人を扱うか,大勢のキャラクターを扱うかの差はあるものの,人間の挙動を高度に再現するという意味では,同社の方向性にブレはない。

 もしかすると,キャラクターがゲームにとって非常に重要な要素であるがゆえ,ミドルウェアの導入をためらっているメーカーもあるのではないだろうか。
 とはいえ,Assassin's Creed IIやFIFA 2010といったタイトルを見る限り,HumanIKの性能は非常に高そうだ。これに対抗する技術の開発にかかるコストを考えると,ミドルウェアの導入はむしろ必然であろう。海外市場を狙うなら,ほぼマストフィーチャーとなりつつあるキャラクターAIを,日本ではどこが最初に手を出すかは,個人的に注目している点でもある。今後の発表に期待したい。
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