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ATI Radeon HD 4700
  • AMD
  • 発表日:2009/04/28
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未発表のミドルクラスGPU「ATI Radeon HD 4730」を検証する。これはいったい何なのか
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印刷2009/06/19 00:00

レビュー

未発表のミドルクラスGPU「ATI Radeon HD 4730」とはいったい何なのか

PowerColor AX4730 512MD5-P

Text by 宮崎真一

»  AMDの公式ラインナップに載らないまま,早ければ今週中にも搭載グラフィックスカードの販売が始まると見込まれる新型GPU,「ATI Radeon HD 4730」。果たしてこれは何なのかを,宮崎真一氏が明らかにする。


AX4730 512MD5-P
メーカー:Tul
問い合わせ先: CFD販売(販売代理店)
予想実売価格:1万2000円前後(2009年6月19日現在)
画像集#002のサムネイル/未発表のミドルクラスGPU「ATI Radeon HD 4730」を検証する。これはいったい何なのか
 COMPUTEX TAIPEI 2009の会場でTulが動作デモ展示を行っていた,「ATI Radeon HD 4730」(以下,HD 4730)搭載グラフィックスカード。本製品は,PowerColorブランドの「AX4730 512MD5-P」として,早ければ今週中にも販売が始まる予定だが,2009年6月19日0:00時点でAMDの公式な製品ラインナップに存在しないこのGPUは,果たしてどのような特徴を持った製品なのだろうか。
 今回は,Tulの販売代理店であるCFD販売から,AX4730 512MD5-Pの実機を入手したので,いくつかのテストから,その正体に迫ってみたい。


ATI Radeon HD 4830のGDDR5版?

6ピン補助電源コネクタを2個搭載


HD 4770(左),HD 4830(右)の両リファレンスカードと並べてみたところ
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 AX4730 512MD5-Pのカード長は実測243mm(※突起部含まず)。外観上における最大の特徴は,なんと言っても,6ピンの補助電源コネクタを2個用意する点だ。
 モデルナンバー的に上位モデルとなる「ATI Radeon HD 4770」(以下,HD 4770)や「ATI Radeon HD 4830」(以下,HD 4830)だと,6ピン補助電源コネクタ1個で電力供給をまかなえていることから,この仕様に疑問を感じる読者は少なくないだろう。

AX4730 512MD5-P。ミドルクラスのモデルナンバーらしからぬ2系統の補助電源コネクタが目を引く
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GPUクーラーを取り外したところ
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 なぜこのような仕様になっているのか。それを推測するヒントになるのが,PCI Express x16インタフェースの近くにシルク印刷された「LF R77F VER:1.0」という文字列だ。
 今回はスケジュールの都合で,実機を用意できていないのだが,CFD販売が公開している写真を見る限り,この基板は,PowerColorブランドから登場しているオリジナルデザイン版「ATI Radeon HD 4870」(以下,HD 4870)搭載グラフィックスカード,「AX4870 512MD5」と同じ。AX4730 512MD5-Pは,このHD 4870カード用の基板を流用している可能性が高い。
 ちなみにAX4730 512MD5-Pでは,2系統ある電源コネクタの両方に給電しないとPOST時にエラーが表示されて正常に動作しなかった。Tulいわく,最大消費電力は165Wとのことなので,同160WのHD 4870リファレンスカードより,消費電力は大きいわけだ。

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GPUクーラーを外した状態で,HD 4830リファレンスカード(写真上)とAX4730 512MD5-Pを並べたところ。電源周りをはじめとして,デザインはずいぶんと異なる
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オリジナルデザインのTul製HD 4870カード,AX4870 512MD5の写真。電源周りのデザインがAX4730 512MD5-Pとよく似ており,LF R77Fの文字も見える

 そのほか,TulやAMDに詳細を確認しつつ,HD 4730と,その上位・下位モデルとスペックを比較してみたのが表1だ。これを見ると,HD 4730が,HD 4830をベースに,メモリインタフェースを128bit接続のGDDR5へ切り替えたモデルであることがよく分かる。

※1 AMDは「Render Back-Ends」と呼ぶことも多い。また,HD 4730のスペックはTulによる
※2 HD 4730は,CFD販売によるAX4730 512MD5-Pの予想実売価格,そのほかは4Gamer調べとなる2009年6月19日時点の実勢価格
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ATI OverDriveを開いたところ。アイドル時のコアクロックはリファレンスから100MHzしか下がらない(※サムネイルをクリックすると,別ウインドウで全体を表示します)
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 「ATI Catalyst Control Center」の「ATI OverDrive」を見てみると,コアクロックは700MHz,メモリクロックは3.6GHz相当(実クロック900MHz)。省電力機能「ATI PowerPlay」は有効だが,アイドル時にもコアクロックは600MHzまでしか下がらないようだ。
 さらに,TechPowerUp製のBIOS情報表示・編集ツール「Radeon BIOS editor」(Version 1.21)を実行すると,動作電圧設定が1.263Vで,HD 4830リファレンスカードの1.1V前後に比べて高いことも確認できる。最大1.263Vというコア電圧は,HD 4870リファレンスカードと同じため,最大消費電力が高い理由の一つは,ここに求めることができそうだ。

試用したAX4730 512MD5-Pが搭載するGPUチップ(左)とメモリチップ(右)。メモリチップは,Qimonda製の1Gbit品「IDGV1G-05A1F1C-40X」を4枚で,容量512MBを実現していた。メモリチップの仕様上は,400MHz相当(実クロック100MHz)分の余裕が残されている
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 もう一つ興味深いのは,AX4730 512MD5-Pのコアクロックが700MHzであるにも関わらず,ブート時のそれがなぜか750MHzに設定されている点。ここまでの状況証拠からすると,リファレンスコアクロックが750MHzとなっているHD 4870用設定の名残といった印象である。

Radeon BIOS Editorのクロック&コア電圧テーブル(左)。アイドル時のコアクロックが600MHzにしか下がらないことや,コアクロックが1.263Vで固定されていることを確認できる。ブート時を示す「Clock info 00」のコアクロックが750MHzになっている点にも注目してほしい。右は,グラフィックスBIOS情報を表示させたところ。「RV770CE」という文字を読み取れる(※いずれも,サムネイルをクリックすると別ウインドウで全体を表示します)
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 640基というシェーダプロセッサの数からして,HD 4830のGDDR5版という印象が強いHD 4730。しかし,AX4730 512MD5-Pに関していうと,基板設計やグラフィックスBIOSの仕様からして,むしろ,GDDR5メモリに対応したHD 4870をベースに,機能削減を行ったモデルと紹介したほうが実態に近そうである。


HD 4730は専用ドライバを利用して検証

Radeon HDシリーズ内での位置づけを探る


 さて,テスト環境は表2のとおり。今回は,モデルナンバーで上位となるHD 4770,HD 4830それぞれのリファレンスカードを,AMDの日本法人である日本AMDから入手。また,下位モデルとなる「ATI Radeon HD 4670」については,筆者私物となる玄人志向ブランドの「RH4670-E512HWS」を使うことにした。

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 注意してほしいのは,「ATI Catalyst 9.6」がAX4730 512MD5-Pをサポートしていなかったため,本製品のテストに当たっては,Tulから提供された,「ATI Catalyst 9.5」ベースの専用ドライバ,「8.612-090428a-080932C-ATI」を用いる点だ。比較対象となる3枚のグラフィックスカードには,もちろん何の問題もなく2009年6月版ドライバをセットアップできたこともあり,HD 4730とそれ以外では,ドライバのバージョンが異なる点をあらかじめお断りしておきたい。

 テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション7.0準拠。ただし,テストスケジュールの都合で,「Left 4 Dead」と「Company of Heroes」は省略し,1024×768ドット解像度での検証もカットした。
 なお以下,とくに断りのない限り,文中,グラフ中ともグラフィックスカード名ではなく,GPU名で表記を行う。


まさに「モデルナンバーどおり」となる

極めて順当なHD 4730のスコア


 グラフ1,2は,「3DMark06」(Build 1.1.0)の結果である。端的に述べて,HD 4730のスコアはあまり高くない。スペックだけ見れば,HD 4830と同程度か,それ以上のスコアを発揮してもおかしくないのだが……。

 この理由は,RV770コアが持つ,メモリコントローラ周りの仕様に求めることができそうだ。西川善司氏による解説記事にもあるとおり,RV770(=ATI Radeon HD 4800)は,64bitメモリコントローラを4基搭載することで,256bitというメモリバス幅を実現している。また,Render Back-End(レンダーバックエンド)は,メモリコントローラ1基当たり4基がペアとなることで,計16基を実装しているが,HD 4730ではメモリバス幅が128bitのため,4基あるメモリコントローラのうち2基しか使われず,いきおい,16基用意されたRender Back-Endも,利用されるのは8基だけということになる。これが,HD 4730のパフォーマンスが上がらない原因であることは,まず間違いないだろう。

※2009年6月19日16:50
 HD 4730のパフォーマンスが上がらない要因についての考察を追記しました。

 ただいずれにせよ,モデルナンバーどおりに並んでいるのは確か。また,4770と4730の間にあるスコアの開きを見ると,“十の位”の違いを反映したスコアにもなっている。

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 一方,スペックどおりのスコアを示したといえるのが,グラフ3,4に示した「Crysis Warhead」のテスト結果だ。ここで,HD 4730とHD 4830は,解像度や描画負荷設定を問わず,ほぼ同等のスコアを示している。

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 グラフ5,6に示した「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)では,また少し様相が異なる。HD 4730は,全体的にHD 4830を下回るスコアになっているが,その差は3DMark06のときほど大きくない。同時に,HD 4670との差は,3DMark06だと20%に届かなかったのが,ここでは30〜35%だ。

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 続いて,「ラスト レムナント」の結果をまとめたのがグラフ7となるが,全体的な傾向は3DMark06に近い印象を受ける。

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 最後にグラフ8,9は,「Race Driver: GRID」(以下,GRID)の結果で,どちらかというと,Crysis Warheadと近い傾向だ。HD 4730は,HD 4830とほぼ同じスコアを示し,HD 4770からはきっちり置いていかれる。

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消費電力が最大のネック

HD 4830より20W程度は高い


 補助電源コネクタが2個必要で,最大消費電力が165Wというあたりから“イヤな予感”はするが,実際のところ,消費電力はどの程度だろうか。
 OS起動後,30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時とし,ログを取得できるワットチェッカー,「Watts up? PRO」から,消費電力を計測。その結果をまとめたのがグラフ10である。

 アイドル時から見てみると,HD 4730は,コアクロックが100MHz下がるだけで,コア電圧は低下しないため,164Wという,突出して高いスコアになってしまった。HD 4770やHD 4830と比べて,40W前後高い計算だ。
 アプリケーション実行時でも,HD 4730が突出する傾向は変わらず。アプリケーション実行時の消費電力が低いHD 4770と比べて40W前後,HD 4830と比べても20W前後は高い。

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 GPUクーラーが異なるため,あくまで参考程度となるが,GPU温度も念のためチェックしておこう。
 3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,アイドル時ともども,CPUID製のモニタリングソフト「HWMonitor Pro」(Version 1.05)から,GPU温度を計測した結果をまとめたものがグラフ11である(※GPU-Z 0.3.4では温度データを取得できなかった)。
 室温は24℃。PCケースに組み込まない,いわゆるバラック状態でテストした結果だ。

Radeon BIOS Editorから,ファン回転数設定をチェックしたところ(※サムネイルをクリックすると,別ウインドウで全体を表示します)
画像集#015のサムネイル/未発表のミドルクラスGPU「ATI Radeon HD 4730」を検証する。これはいったい何なのか
 というわけでグラフを見てみると,HD 4730は,高負荷時でも66℃。搭載するクーラーはArctic Cooling製で,「Accelero L2 Pro」をベースとしたOEMモデルのようだが,その冷却能力は申し分ない。
 筆者の主観になることをお断りしつつ続けると,動作音は決して「静音性が高い」といえるレベルではないものの,「Core 2 Duo E8500/3.16GHz」の製品ボックスに付属するCPUクーラーよりは静かな印象を受ける。ちなみに,BIOS設定を見る限り,55℃を境にファンの回転数が上昇するようで,65℃付近では59%あたりの回転数に収まっているようだ。

画像集#028のサムネイル/未発表のミドルクラスGPU「ATI Radeon HD 4730」を検証する。これはいったい何なのか


消費電力の高さを考えると……

1万円以下なら価値が見い出せるか


 AX4730 512MD5-Pの性能は,総じて,HD 4830と同じか,それを多少下回る程度とまとめられるだろう。ATI Radeon HD 4700シリーズの新製品として見ると,HD 4770との大きなスコア差はまったく妥当で,モデルナンバーどおりの実力は発揮できているといえる。

 ただ,それを歓迎できるかは話が別だ。ミドルクラスの新製品として,圧倒的に高い消費電力を見過ごすわけにはいかないからである。AMD関係者によると,今後,6ピンコネクタが1系統の製品が出てくる可能性もあるようだが,ATI Radeon HD 4700シリーズらしい「アプリケーション実行時における消費電力の低さ」は,RV770コアを採用するHD 4730には期待できない。

画像集#014のサムネイル/未発表のミドルクラスGPU「ATI Radeon HD 4730」を検証する。これはいったい何なのか
 AX4730 512MD5-Pは,1万2000円程度で発売となる見込みだが,1万〜1万5000円という価格帯には,ATI RadeonだけでもHD 4770,HD 4830,HD 4850というモデルがひしめき合っている。そんな状況にあって,わざわざ選ぶだけの魅力をHD 4730が持っているかというと,残念ながら疑問符が付くというのが正直なところだ。
 実勢価格が1万円を下回るようになると,消費電力を無視できる人にとっての選択肢として浮上する可能性はあるので,あとは,HD 4770の流通量が回復するのと,どちらが早いか,といったところである。

 40nmプロセス技術の採用など,技術的な先進性を持つHD 4770。そんなHD 4770の品不足を受けて,ATI Radeon HD 4800シリーズの流れを汲むGPUでありながら,あえてATI Radeon HD 4700シリーズのブランド名が付けられた結果がHD 4730なのだとすると,「『GeForce 8800 GT』以降(のミドルクラスGPU)はブランド名を変えているだけ」とNVIDIAを批判していたAMDにとって,なんとも皮肉な話だと言わざるを得ない。

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