テストレポート
「ATI Radeon HD 4770」CrossFireX動作検証。2-wayでスコアはどこまで伸びるか
では実際のところ,2-way ATI CrossFireX(以下,CFX)構成では,どれだけのフレームレートを実現できるだろう? 先のレビュー記事で用いた,GIGABYTE TECHNOLOGY製の「GV-R477D5-512H-B」と,AMDのリファレンスカード,2枚のHD 4770カードを組み合わせて,追試を行ってみたい。
ATI Radeon HD 4770リファレンスカード |
ATI Radeon HD 4890&GeForce GTX 275と比較
先のレビュー記事とは異なるテスト環境に注意
テスト環境は表のとおりで,CFX構成のテストに当たって,CPUボトルネックの発生する可能性を少しでも減らすべく,「Core i7-965 Extreme Edition」ベースのシステムを用意している。そのため,先のレビュー記事とベンチマークスコアの互換性がない点には注意してほしい。
GTX 275カードについては,MSIの日本法人であるエムエスアイコンピュータージャパンの協力で,「N275GTX Twin Frozr」を用意しているが,本製品はメーカーレベルのクロックアップモデルであるため,テストに当たっては,動作クロックをリファレンス相当へと引き下げている。具体的には以下のとおりだ。
- コアクロック:666MHz→633MHz
- シェーダクロック:1476MHz→1404MHz
- メモリクロック:2322MHz→2268MHz
なおテスト方法は,4Gamerのベンチマークレギュレーション7.0準拠。グラフィックスドライバは,前回のレビュー記事と同様,HD 4770はAMDから配布されたレビュワー向けリリース,そしてHD 4890は「ATI Catalyst 9.4」を用いた。
また,HD 4770の検証に当たっては,シングルカードのスコアをGV-R477D5-512H-Bで,CFX構成のスコアは,GV-R477D5-512H-Bをマスターにした状態で取得することと,以下,HD 4770のCFX構成を「HD 4770 CFX」と呼ぶことを,あらかじめお断りしておきたい。
ベストケースではGTX 275すら上回る一方
まったくメリットを得られない場合も
グラフ1,2は,「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMakr06)のテスト結果をまとめたものだ。いわゆる“Pure Performance”を見る「標準設定」,4xアンチエイリアシングと8x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」とも,HD 4770のCFX構成が最も高いスコアを叩き出した。シングルカードと比べると,ベンチマークスコア向上率は約40〜70%。HD 4890と比べても,10〜20%高いスコアだ。マルチGPU動作が理想的に機能した場合に,HD 4770 CFXのスコアは3万円クラスのハイエンドGPUを上回る,というわけである。
ゲームにおいても,理想どおりのパフォーマンスを発揮できるだろうか。グラフ3,4に示したのは,「Crysis Warhead」の結果だが,端的に述べて,かなり厳しい結果だ。標準設定の1920×1200ドットでシングルカードから40%ほど高いフレームレートを示し,HD 4890のスコアと並んでいる点では評価できるが,高解像度では伸びきらず,最大でも27%程度に留まっている。
シングルカードでHD 4770とHD 4890のスコア傾向を見る限り,128bitメモリインタフェースの影響も出ているようだが,同時に,ドライバの最適化不足も指摘できそうである。
「Left 4 Dead」では,標準設定と高負荷設定で,ずいぶんと異なる結果になった(グラフ5,6)。標準設定ではシングルカードから最大で約71%という高いスコアの伸びを見せ,GTX 275もかわすほどのフレームレートを記録している一方,高負荷設定では32%に留まっているのだ。HD 4890が高負荷設定の1280×1024ドット以上でおかしな落ち込みを見せるなど,高負荷設定周りで,ドライバのチューニングが必要な印象だ。
Crysis WarheadとLeft 4 Deadの鬱憤を晴らすかのような傾向を見せているのが,先のレビューでもHD 4770が好スコアを残した「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)である。グラフ7,8で明らかなように,今回テストしたすべての条件で,HD 4770 CFXはGTX 275を大きく上回る。HD 4890に対しては「圧倒」というコトバを使ってもいいくらいだ。シングルカードと比べてのパフォーマンス向上率は52〜87%で,これには文句のつけようがない。
逆に,HD 4770 CFXにとって,悪夢のようなスコアになったのが,グラフ9に示した「ラスト レムナント」のスコアである。ご覧のとおり,CFXの効果はまったくない。CFXは,新しめのタイトルを前にすると,パフォーマンスが上がらない問題を露呈することが多いのだが,今回もそれが出てしまった格好だ。
NVIDIA製GPUに有利なスコアが出やすい「Company of Heroes」の結果をまとめたのがグラフ10,11だ。
事情が事情だけに,GTX 275にはずいぶん離されているが,シングルカードと比べると,スコア向上率は26〜61%。1680×1050ドット以上なら,標準設定・高負荷設定を問わず,6割前後のスコア引き上げを実現しており,加えてHD 4890も安定的に上回っている。Call of Duty 4ほどではないにせよ,CFXは有効に機能していると述べていいだろう。
ゲームベンチマークの最後は,ATI Radeonに有利なスコアの出やすい「Race Driver: GRID」(以下,GRID)だ。グラフ12,13に示したが,高解像度を中心に,GTX 275およびHD 4890に大きな差を付けている。シングルカードと比べたときのスコア向上率は11〜49%だった。
なお,標準設定の1024×768ドットでHD 4890のスコアが大きく落ち込んでいる理由は分からないが,CPUボトルネックと,ドライバソフトウェアにある何らかの問題が複合的に作用した可能性はあると思われる。
HD 4770のメリット・デメリットが
強調されるCFX動作時の消費電力
先のレビューでも指摘したアイドル時の消費電力の高さは,CFX構成時においても当然のことながら懸念材料となるわけだが,実際のところはどうなのか。今回も,レギュレーションに従い,ログを取得できるワットチェッカー,「Watts up? PRO」を利用して,システム全体の消費電力を測定してみる。
OSの起動後,30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点をアプリケーションの実行時とし,各時点のスコアをまとめた結果がグラフ14だ。
まず,アプリケーション実行時の消費電力は,HD 4890と同レベル。GTX 275と比べてもおよそ20〜30W低く,40nmプロセスで製造されるGPUであるというメリットが遺憾なく発揮されている。
同時に,アイドル時における消費電力の高さも,シングルカード時以上に目立ってしまった。2枚差しなのでやむを得ないといえばそれまでだが,少々厳しい値なのは確かだ。
GPUクーラーが異なるので,あくまで参考程度になるが,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」としつつ,アイドル時ともどもGPUの温度を計測してまとめたのがグラフ15である。
テスト時の室温は24℃。PCケースに組み込んでいない,バラック状態で,「HWMonitor Pro」(Version 1.05)から計測したもので,HD 4770 CFXのスコアは,マスターカードのものだ。
すぐ近くに熱源(=スレーブカード)があることもあって,高負荷時におけるHD 4770 CFXのスコアはさすがに高め。PCケース内の冷却さえきちんとしていれば,とくに問題のない値だが,PCケース内の冷却に気を配らないと,長時間のゲームプレイ時に,少々不安を残す値でもある。
ちなみにファンの動作音は,HD 4770と比べて,HD 4770 CFXのほうが大きくなる。また,GV-R477D5-512H-Bが搭載するGPUファンの回転数が一定なのに対し,リファレンスカードだと自動制御される仕様になっているため,最悪の場合,ファン回転数が上がったり下がったりを交互に繰り返すことになってしまい,人によってはストレスが溜まりそうだ。CFXを前提とするなら,ファン回転数固定のカードで揃えるなりなんなりの対応が必要かもしれない。
不安定さとアイドル時の消費電力がハードルになるも
理想的に動作したときのコストパフォーマンスは劇的
CFXが理想的に機能した場合には,GTX 275やHD 4890といった,3万円クラスのハイエンドGPUを置き去りにできる。しかも,シングルカードのレビュー時に指摘した価格の問題も,安価な選択肢の登場によってクリアになりつつあり――5月中旬時点では,どの店でもほぼ完売状態で,ほとんど手に入らないという,別の問題もあるが――,がんばって探せば,導入コストは2万円台前半。ゲーム中(=3Dアプリケーション実行時)の消費電力がまずまずのレベルに収まっているあたりも,大変魅力的だ。
ただ,“CFX伝統”の,「新作ゲームタイトルへの弱さ」および「一部のゲームタイトルで生じるパフォーマンスの低さ」が,今回も払拭されていない点は,指摘しておく必要がある。また,HD 4770が抱える数少ない問題点の一つである「アイドル時における消費電力の高さ」が,2枚差しによって増幅されてしまうのも痛いと評せざるを得ない。
これら明らかなマイナスポイントを許容できるかどうかで,HD 4770 CFXの評価は大きく変わってくるはずだ。許容できる人にとっては,疑いなく,極めてコストパフォーマンスの高い構成といえるだろう。
同時に,こういった留保なしで勧められるうになるためにも,AMDのドライバチームには,ゲームにおける動作の安定性向上に向けた,より一層の努力を期待したいところである。
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