連載
徳岡正肇の これをやるしかない!:恐ろしいほど便利な“オタ向け”キュレーションサービス「ハッカドール」にWebと情報の未来がある?
2014年の8月にサービスが始まっている「ハッカドール」の便利さにある日突然気づいたという徳岡正肇氏。氏の感じる「なぜ便利か」という部分を,開発者へのインタビューを通じて,文章化してみようというのが,今回のテーマだ。サービス開始から1年近くが経過しようとしているこのタイミングでのハッカドール考察となるが,ユーザーの人もそうでない人も,ぜひ一読を。
この手のサービスとしてはさまざまなものがあるが,ハッカドールの面白いところは,主にゲームや漫画,アニメといった,いわゆる二次元系オタク系情報に特化しているところと,ユーザーに対して強烈なまでの情報最適化をしてくるところだろう。
ハッカドールは,かなりの短期間で,ユーザーが欲しいと思う記事を持ってくるようになる。もちろん,使えば使うほど,精度も上がっていく。筆者の場合,使い始めて15分くらいで,「League of Legends」関連の記事や,PCハードウェアの記事が並ぶようになった。
インターネットのコアユーザーだと,以前からRSSリーダーを愛用しているという人も多いだろうが,RSSリーダーと比べてハッカドールが優れているのは,ハッカドールが“自力で”ニュースソースを増やしてくれるという点だ。たとえば独立系開発会社の手がけるゲームの記事が集まり始めた場合,RSSリーダーでは自分が知っているサイト(あるいは検索でひっかかったサイト)しか登録できないが,ハッカドールなら勝手に日本中のサイトから独立系開発会社のゲーム情報を持ってきてくれる。これは大変にありがたい。
……と,そんな便利なハッカドールだが,いったいどんな意図で企画され,どのような技術がこれを支えているのだろうか? 開発者であるDeNAの岩朝暁彦氏に直接聞いてみることにした。
ヒロシ(仮)デベロップ
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。最初に,岩朝さんがハッカドールというサービスにどう関わっているのかを教えてください。
立ち上げ当初からずっと関わっています。DeNAの社内では「プロダクトオーナー」と言いますが,いわゆるプロデューサー的な立ち位置ですね。サービスの方向性やロジック,画面デザインなどの総指揮を取る立場となっています。最近では(ハッカドールの)テレビアニメ化が決まったことで,IP(※Intellectual Property,知的財産権。ここでは「シリーズ」とか「ブランド」的な意味)としてのハッカドールを育てるような仕事が増えていますね。
総じて言えば,サービス全体の開発と運営を,一歩引いた立場から見ている感じですね。
4Gamer:
今年の夏でサービス開始から1年となりますが,ハッカドールの企画が立ち上がったのはいつ頃だったのでしょう?
岩朝暁彦氏:
2014年の3月ですね。立ち上げ時は自分を含めて4人のチームで,その後,6人になりましたが,小規模チームによる制作でした。
ただ,リリースの目標を2014年の夏コミに合わせていたため,進行はとてもキツかったのを覚えています。(App Storeにおける)アプリの審査などを考えると,どんなに遅くても7月末には完成させなくてはいけないわけですから,実質4か月で完成に漕ぎ着ける必要があったという。
4Gamer:
思いもよらぬ「コミケ進行」だったわけですね。
岩朝暁彦氏:
実は,ハッカドールという企画そのものが,2013年の冬コミを“発端”にしているんです。
2013年の冬コミに,DeNAは企業ブースで出展しまして,そこで非常に良い手応えを得たんですね。それまでDeNAは,コア層に向けた情報提供というのをあまりしてこなかったんですが,コミケという場に出てみたら,想像以上に良い反響があったんです。
そうなると,偉い人から「もっとそういうプロモーション活動をしろ」みたいな話が出るわけですが,そうは言っても,コミケは年2回しかないじゃないですか(笑)。
じゃあどうするかいうことで,「自社でコミケのような大規模イベントを開催するのは無理でも,オンラインでのコアユーザー向け情報配信ならできるんじゃないか」という考えに至ったのが,2014年の1月〜2月頃でした。
4Gamer:
上の人から「もっとやれ」と言われたことというか,当時のDeNA,そして岩朝さんの目標というのは,何だったのでしょう。
岩朝暁彦氏:
大きく分けると2つですね。1つは,現状,自分も含めたオタクカルチャーの人が困っていることを解消することです。
現在のオタクカルチャー関係情報は,カテゴリごとにサービスの細分化が進んでいて,しかも1日あたりの情報量が膨大です。自分が好きなゲームと漫画,アニメの最新情報をチェックしようと思ったら,Webサイトを少なくとも3つは巡回する必要があったりします。
4Gamer:
というか,1ジャンル1サイトってわけにもいきませんから,現実には3つ程度では絶対に片付きませんよね。
そうなんですよ。これはやはり大変だなと。
なので,そういった情報を扱っているサイトのリンク集を作るというのも,やり方としてはアリだと思います。ただ,そこから自分が必要なサイトをピックアップしていくとなると,やっぱり大変なのは変わらないですよね。
そこで,そういうオタクカルチャー向け記事のリンクが,自分に最適化された形で提供されるサービスというのを考えたんです。
当時,すでにニュースキュレーションサービスは実用化されていましたが,ハッカドールは「流行のキュレーションサービスを模倣して,オタクカルチャーに絞ったものを作ろう」という方向性で企画されたものではないというか。
4Gamer:
記事リンク集のパーソナライゼーションを突き詰めていったら,結果として,キュレーションと呼ばれるサービスの範疇に入った,と。
岩朝暁彦氏:
そういう感じです。その理由といえるかもしれないのが,もう1つの目標でして。
4Gamer:
どんなものでしょう?
岩朝暁彦氏:
僕の昔からの友人に,いわゆる隠れオタクの友人がいまして。鹿児島に住んで,鹿児島で働いてるんですが,職場ではオタクであることを隠してるんですね。仮にヒロシとしますが,ハッカドールにおけるもう1つの目的は,ヒロシ(仮)にこっそり使ってもらえるサービスにすることでした。
4Gamer:
なぜ,そのヒロシ(仮)にユーザー像を特定することが,既存のキュレーションサービスとの差別化要因になるのでしょうか。
岩朝暁彦氏:
たとえば僕の場合,何も隠してないオタクですが(笑),僕のようなオープンなタイプのオタクの場合,「オタクカルチャーの情報を手に入れる手段」をすでにいくつも持っていますよね。それこそRSSリーダーであるとか,Twitterのリスト機能であるとか。コンピュータに明るければ自分でできるでしょうし,仮にコンピュータに明るくなくとも,オープンなタイプのオタクであれば,周囲からやり方を教えてもらうこともできます。
しかし,ヒロシ(仮)の場合,隠れオタクであるうえに,コンピュータにも明るくない。そうなると,RSSリーダーと言っても「何それ?」になってしまうんです。
4Gamer:
つまり,「キュレーションサービス」という言葉すら知らないようなタイプのオタク像として,ヒロシ(仮)を設定しているわけですか。
そういうことです。「間違いなくオタクなんだけど,コンピュータの使い方を知っているわけではない」ユーザーのモデルとして,ヒロシ(仮)のことは,企画当初から,開発チームのメンバーに何度も説明してきました。
4Gamer:
その視点は重要ですね。確かに,「コンピュータ」や「インターネット」のあり方は,おそらくはフィーチャーフォンがインターネットに接続できるようになった瞬間から,急激に多様化と個別化が進みました。それまでと違って,QWERTY型のキーボードが必須だとか,インターネットに接続するにはプロバイダと契約が必要だとか,メールアドレスを取得するだとか,そういうスキルや意識がなくても,誰もが自分なりにコンピュータを使って,インターネットを利用するようになったわけで。
そうなると当然,ヒロシ(仮)さんのようなオタクというのは確実に一定割合存在することになりますよね。
岩朝暁彦氏:
とくに僕らは,コンピュータ業界で仕事をしています。ですので,僕らの基準で使いやすさを考えてしまうと,そうでないところにいる多くのユーザーにとって本当に使いやすいものにはならないんじゃないか。そう思うんです。
たとえば――他社のタイトルですけど―――「パズル&ドラゴンズ」(Android / iOS)では,開発者が自分の奥さんにテストプレイしてもらう,「嫁デベロップ」というのが話題になったじゃないですか。その観点でいえば,ハッカドールの場合は「ヒロシ(仮)デベロップ」ということになるかもしれません。ヒロシ(仮)がテストに参加したわけではないので,厳密には嫁デベロップとは違うでしょうけど。
4Gamer:
ヒロシ(仮)デベロップがもたらした成果の一例,みたいなものはありますか。
岩朝暁彦氏:
もちろんです。実のところ,ハッカドールって,初期のテストバージョンは,ものすごくコンピュータオタク向けっぽいUI(ユーザーインタフェース)だったんですよ。見た目は「2ちゃんねる」のスレッドみたいなイメージで。
開発段階の打ち合せとかでは,「そんなサービスだと,ヒロシ(仮)は難しそうな顔して使わなくなっちゃうよ」というのを,何度も言いました(笑)。
4Gamer:
そうなると,果たしてヒロシ(仮)さんが実際にハッカドールを使っているかが,とても気になりますね。
岩朝暁彦氏:
蓋を開けてみたら,ヒロシ(仮)はガラケー使いなのでハッカドールは使えなかったというオチなんですけどね(笑)。
「アニメ,作れませんか?」
ハッカドールのTVアニメ化が決定していますが,これは最初からそういう展開の予定だったのでしょうか?
岩朝暁彦氏:
非常に簡単に言うと,かなり「ぶっつけ」です(苦笑)。
そもそも開発初期においては,ハッカドールという名前すら決まってなかったんですよ。先ほど,2014年の3月に企画とスタートさせたというお話をしましたが,記憶が確かなら,5月か6月頃,そろそろサービスの正式名称を決めなきゃいけない,ということになりまして。
それで,別件で都内を移動しながらいろいろ考えていたんですが,たしか山手線の恵比寿駅あたりで「捗るサービス……ハカドル……ハッカドール……ドールだから,女の子か!」みたいなことを思いついて,渋谷駅あたりで決めたという経緯があります。
4Gamer:
ハッカドールに女の子のキャラクターが出てくると決まるまでは,サービスの名称も含め,わずか一駅(※JR山手線外回りだと,恵比寿駅の次が渋谷駅)の間のできごとだった,と。
岩朝暁彦氏:
ですね。
ちなみにお話すると,いまハッカドールは1号2号3号ですが,初期の構想では5人いました。
4Gamer:
ほう。
岩朝暁彦氏:
その時点で,「ここまで設定決めたんなら,じゃあアニメとか作れないかな」と。だいたい6月頃の話ですね。
4Gamer:
8月中旬にリリースで,7月中には審査へ回さないといけないサービスの,アニメを制作しようという話が決まったのが6月ということですか?
岩朝暁彦氏:
ああ,いや,そこは切り分ける必要がありますね。いまお話した「アニメ」はTVアニメではなく,プロモーションビデオ的なものです。
4Gamer:
把握しました。プロモーションビデオを,6月の時点で作ろうと決めたと。ただ,それも相当に無茶な話ですね。
まったくです。TRIGGERさん(※アニメーション企画・制作会社であるトリガーのこと)に,「これこれこういう企画で,2〜3分のPVなんだけど,夏までに作れますか?」って打診してみたんですよ。そしたら「検討します」ってご返事をいただいて。
ただこれ,冷静に考えれば当たり前なんですけど,「お断りします」の大人言葉じゃないですか(笑)。案の定,翌日の朝には,丁寧な大人言葉で書かれたお断りのメールを頂戴しました。
4Gamer:
普通はそうですよね。
岩朝暁彦氏:
当たり前ですよね。
ただ,(2014年夏のコミケで発表するにあたって)プロモーションビデオはやっぱり欲しかった。そこで,何度も何度もラブコールを繰り返しまして。そのうち,TRIGGERさんから,「自分たちの好きなようにやらせてもらえるなら,引き受けます」という約束を取り付けることができました。
ハッカドールのメンバーが5人から,今の3人に減ったのは,このときのことですね。TRIGGERさんとの打ち合わせで,「(プロモーションビデオの尺が2分になると決まった時点で)この尺だと,ちゃんと見せられるのは3人が限界」という意見をいただきまして。
4Gamer:
それで3人になったと。
サービスの擬人化,という観点でいえば,「初音ミク」という大御所がいます。ハッカドールではサービスを3人のキャラクターに仮託していますが,個人ではなくグループにしたのは,どういう理由なのでしょう。
岩朝暁彦氏:
ハッカドールは,オタクカルチャーを専門に扱うとはいえ,実際にカバーする範囲はとても広くなっています。アニメ1つに絞っても,アニメが持つ情報の幅って,ものすごく広いじゃないですか。
そうなると,1人のキャラクターが,オタクカルチャーを行き来するすべての情報に精通している……とまではいかないにせよ,情報を提供できるくらい詳しいというのは,キャラクターとして破綻してしまいます。
4Gamer:
ああ,それで当初は5人という構想だったんですね。多いほうがよかったと。
岩朝暁彦氏:
ですね。
そんなこんなで無事,PVはリリースにあわせて作っていただくことができました。
そうしたら,ありがたいことに,今度はアニメとか漫画とかの業界で,ハッカドールが大変に注目を集めるようになりまして。業界人の間で,ハッカドールユーザーが急激に増えたんですね。
4Gamer:
そこから,横のつながりでTVアニメ化につながっていった感じですか。
岩朝暁彦氏:
というか,我々の側では,そういうデータを基に,「ハッカドールを使って,いろいろできそうだよね」と盛り上がっていたくらいだったんですが,昨年の10月頃,トリガーさんから「TVアニメ化のご提案」っていう書類が届きまして。現在,2015年10月の放送を目指して,アニメの仕事が急激に増えているところです(笑)。
ハッカドールを支える技術
4Gamer:
さて,少し技術的なことを伺いたいと思います。
ハッカドールの持つ精度と速度は素晴らしいと思うのですが,基本的には,どのような構造になっているのでしょう?
岩朝暁彦氏:
本当に「基本的には」というお話ですと,ユーザーのデータと記事のデータをつきあわせて,一致度が高いものを提供する,という構造になっています。
4Gamer:
ユーザーのデータというのは?
ユーザーの過去の行動から得られた情報ですね。どの記事を選んだかはもちろんですが,それぞれの記事が掲載されているサイトにどれくらい滞在したかとか,さまざまデータから「このユーザーは何がツボか」をスコアリングしていくわけです。
4Gamer:
さまざまなデータというのは,つまり,記事のデータですか? インターネット上で公開されている記事に対して,フラグみたいなものをハッカドール上で立てているということでしょうか。
岩朝暁彦氏:
「記事のデータ」というのは,Webに存在するさまざまな記事を見境なくクロール(crawl,ここでは「巡回」の意)したうえで,それぞれに対して与えるスコアだとお考えください。このスコアのことを,我々は記事の「オタクスコア」と呼んでいます。
当然のことながら,見境なくクロールすれば,一般的なニュース記事はもちろんのこと,アダルト関連や著作権法上問題のあるものといった望ましからぬ記事,まったくユーザーの役に立たない記事というものも引っかかりますが,これらは,オタクスコア判定によって,ほぼ全自動で弾いています。
そのうえで,「ユーザーのツボ」と「オタクスコア」のデータを比較して,マッチング度の高いニュースをユーザーに配信するというのが,基本仕様ですね。
ハッカドールには,「ホシイ」「イラナイ」というボタンが用意されていて,これを使うと,「ハッカドールがその記事を集めてきたこと」に対してユーザーが直接的に評価できる機能がありますが,これはどの程度まで記事収集の方向性に影響を与えているのでしょうか?
岩朝暁彦氏:
「ホシイ」「イラナイ」のような,ユーザーが明確な意図をもって選択する行動に対しては,「重み」が大きくなるように設計しています。そういう意味では,ユーザーがどれくらい長時間サイトに滞在したかというのも,重みづけとしては上位にあります。
4Gamer:
長時間サイトに滞在しているということは,高確率で,その記事を読んでいるのであろう,と。
岩朝暁彦氏:
そういうことです。一方で,「その記事にアクセスした」こと自体には,さほど重みを与えていません。誤タップ・誤クリックで,たまたまその記事に触ってしまっただけかもしれませんし。
こういった重み付けを適切に行っているため,ユーザーが意図的に「ハッカドールを混乱させてやろう」としても,なかなか騙されてくれないようになっていると思います。
4Gamer:
確かに,自分もサービスを使い始めた当初,試しにいろんなサイトに無差別アクセスしてみたり,「イラナイ」と判断した記事と同じ傾向のサイトにわざとアクセスしてみたりしましたが,想像より「ズレ」が発生しませんでした。
岩朝暁彦氏:
そういう実験,やっぱりやりますよね? 僕自身も,テストが始まったときには,最初にそれをやりましたよ(笑)。
4Gamer:
お話を伺っていると,フィーチャーフォン時代でDeNAが培った,ビッグデータを用いたユーザーの動態測定の応用というか,それそのもののような印象を受けるのですが。
岩朝暁彦氏:
ご指摘のとおりです。データの処理はHadoop(※複数のサーバーで実現する分散処理システムのこと。DeNAは以前からユーザーの行動ログをHadoopで解析してきている)を間借りして使っている状態です。
また,ユーザーや記事のスコアリング技術には,DeNAの専門エンジニアが関わっています。
4Gamer:
ハッカドールを利用し始めるにあたって,自分の好みに関するデータの入力を,けっこう細かく求められますが,やはりあれも活用されているのでしょうか?
岩朝暁彦氏:
そうですね,最初のニュースを選別するにあたって利用しています。
ですが実のところあれは,「これだけ詳しく入力したのだから,正確に集めてくるのだろう」「○○というニュースを集めたいんだよ!」という,ユーザーの期待感を高めるための仕掛けでもあったりしますが。
4Gamer:
私がハッカドールへ登録したときには,そのとき流行していたアニメのタイトルなどがずらずらと並んだりしていましたが,質問事項はそのときどきでアップデートされているという理解でいいですか。
岩朝暁彦氏:
最も基本的な質問は固定ですが,細かなジャンルや作品に関する質問事項は,動的に変化します。とはいえ最初の選択肢は,完全に自動というわけではなく,ある程度まで人力による選別を行っていますけれど。
4Gamer:
ここからいくつか,使っていて気になったことを聞かせてください。
まず,英語や中国語などといった外国語のサイトは,意図的に回避しているのでしょうか?
岩朝暁彦氏:
意図的,というのとは少し違います。
現状,ハッカドールが使っている「記事のオタクスコア測定システム」は,日本語の記事しか解析できないんです。なので,日本語以外の記事だと,自動的にオタクスコアが0になってしまい,選抜されなくなるというわけです。
「ハッカドールは日本語しか読めない」と理解していただくのが,最も適切ですね。
4Gamer:
もう1つ。現状,扱っている情報はオタクカルチャーの中でも,いわゆる二次元がメインとなっています。
ですが,たとえばカメラや鉄道,野球やアイドルなど,ハッカドールが扱ってくれたら便利そうなジャンルは他にもたくさんあるように思います。ハッカドールがこれらを扱わない理由は,技術的なものなのでしょうか。
岩朝暁彦氏:
技術的な理由ではないですね。オタク界隈には「混ぜるな危険」という概念がありますが,それに従った判断です。
なので,ハッカドールの仕組みを使って,(DeNA社内で)別の誰かが野球やアイドルを扱うサービスを立ち上げてくれる分には,それでいいと思っています。
4Gamer:
自分としては,ハッカドールの精度には大変満足しているのですが,それだけに不満を感じる部分もあります。くに,「こういう記事はいらない」と何度も指定しているのに,そういった記事を持ってくることが結構あるような気がします。これは,何が原因なのでしょうか?
原因としては3つ挙げられます。
1つめは,システム上の問題です。現状,「○○が好きだ」というデータは,記事の選別に対して機能させやすいんです。でも「○○は,いらない」というデータを上手く反映させるのは,とても難しいんですね。
2つめは,意図的にそうしている部分もあるという側面です。
4Gamer:
意図的にそうしているというのは,どういう意味でしょう?
岩朝暁彦氏:
ユーザーが嫌いだと判断しているニュースでも,何度か提供しているうちに,ユーザーの嗜好が変化していくことがあるんです。最初は嫌いだと判定していた作品が,好きに変化するというのも,珍しくありません。
これはオタクカルチャー全体にあることだと思いますが,どうしてもこの領域には,「食わず嫌い」が多くなります。これに対しハッカドールは,「あのジャンルが好きな人であれば,潜在的にこのジャンルも好きなはず」というデータを基に,あえて提案しているんですね。
4Gamer:
本当はこっちも好きでしょ,と,広い範囲から勧めてくることがあるわけですか。
岩朝暁彦氏:
そういうことです。
そして3つめは,圧倒的に強いニュースの存在ですね。
ものすごく人気のあるアニメやゲームの場合,どうしてもその作品のニュースがレコメンドに引っかかりやすくなります。これは最初に挙げた「○○は,いらない」の難しさにも通じる部分ですが。
いずれにしても,今後の改善課題として把握しています。
4Gamer:
ハッカドールはWeb版のリリースされていますが,アプリ版とUIや仕様がいろいろ異なっています。これはなぜでしょうか?
岩朝暁彦氏:
モバイルアプリ版は,いわばスキマ時間での利用を前提としています。朝通勤する電車の中,ランチタイム,家に帰ってベッドに横になったとき,みたいな感じですね。なので,更新タイミングもその3つにあわせています。
更新頻度が高いとサーバーへの負荷も高まるんですが,エンジニアの皆さんが頑張ってくれて,マッチング処理などを高速に行えるようになっています。リアルタイムはまだ無理ですが,2分に1回の更新が可能となりました。
とまあ,ここまではいい話なんですが,僕としてはWeb版のインターフェースや画面デザインは,まだ固いなあ,と感じています。ページを開いた時のワクワク感に欠けるな,と。
4Gamer:
現状は,ほぼほぼRSSリーダーの画面ですよね。
岩朝暁彦氏:
そうなんですよ。僕としては,「このデザインだと,ヒロシ(仮)は一発で閉じちゃうよ」と主張しています。
4Gamer:
UIもサービスそのものも,まだまだ改善していく予定である,と。
岩朝暁彦氏:
もちろんです。特に現状,「速報」みたいなものをプッシュで通知できないか,と考えています。モバイルでも,決まった時間に更新して通知するんじゃなくて,その人がとくに欲しがるであろうニュースが出てきたら,そのときにプッシュで通知する……そんな仕組みのほうが,もっと使いやすいんじゃないかと思うんですよ。
尖ったコンテンツを愛する人のために
4Gamer:
改善予定のお話が出たところで,技術面以外でも今後の展望などを伺いたいと思います。
岩朝暁彦氏:
そもそもハッカドールって,「尖ったコンテンツを応援する」のが目的なんですよね。
現状,オタクカルチャーにおいては,とにかく情報量が多くて,結局ものすごい宣伝費をかけて宣伝した作品だけが生き残る権利を得る,みたいな状況があるじゃないですか。
4Gamer:
ええ。
岩朝暁彦氏:
でもそうやって宣伝されない作品の中にも,特定の個人には,ものすごく刺さる作品が埋もれているかもしれない。
ハッカドールのことを僕は,そういうコンテンツにユーザーが触れられる接点として考えています。そういう形でユーザーが自分の「好き」を見つけるお手伝いをし,またコンテンツを応援する,それがハッカドールの意義なんです。
それに,ヒロシ(仮)もそうなんですが,何が好きかっていうのは,実は本人すらちゃんと把握できてないことがあります。それくらい,世の中にはオタクコンテンツやジャンルが多いですから。
4Gamer:
確かに,自分も「○○についてどう思いますか?」と聞かれても,「○○が何かは知ってますが,それ以上のことは何も言えません」としか言えない件って結構たくさんあります。
岩朝暁彦氏:
そういう中に,もしかしたら,ものすごくハマるコンテンツがあるかもしれないわけですよ。ハッカドールは,「自分は何が好きか」にユーザー自身がだんだん気づいていく,そんなサービスでもあるわけです。
4Gamer:
現状,ユーザーの反応としては,どうでしょうか?
非常に良い反応を,たくさん頂いています。良いというか,強い反応,と言うべきですね。
リリース前に,ハッカドールを社内でテストしたときにも,すでにこの兆候はありました。こういうテストでは,そこまで具体的な反応が返ってくることはあまりないんですが,ハッカドールのときはテストした社員から,「感動した!」みたいなメールをもらいまして。
リリース後も,ユーザーからは「良い」「悪い」に留まらず,具体的な要望や改善案など,とても熱量の高い反応を頂いています。なかには「課金してください!」みたいなリクエストもありますね。
4Gamer:
そういえば,ハッカドールのマネタイズは……。
岩朝暁彦氏:
現状,マネタイズプランはありません。モバイル版だと,記事をいくつか読むとエンドカードとしてCGが獲得できますけれど,あれも1枠いくら,みたいな商売はしていません。
4Gamer:
それはなんというか,すごいですね。
岩朝暁彦氏:
尖ったサービスであることは自覚していますが,その尖り方がフィットするユーザーさんなら,楽しんでくれるはずです。そういう形で,いろんなコンテンツが生きていける場を提供することには,大きな意義があると思うんです。
もしかして:日本のGoogle
「尖ったコンテンツを愛する人が集まる場所を目指す」という言葉に含意されているとおり,ハッカドールがどのように便利かは,人によって異なる。しかし,どう使っても,ハッカドールはとにかく便利だ。
そういう場合でも,ハッカドールを使えば,数日のうちに,自分の「おすすめ」ニュースは独立系開発会社のゲームやSteamの新作情報で埋まるようになった。もちろん完璧ではないのだろうが,とりあえずハッカドールをチェックしておけば,大きな見落としが起こることはない。
そのうえで,ハッカドールというサービスが成功しているという意義は,果てしなく大きいように思える。
まず最初に,ビジネスという側面。
マネタイズの仕組みを持たないハッカドールだが,ハッカドールがDeNAにもたらしている「直接数字にならない利益」は,ちょっと想像できない規模になるはずだ。DeNAはハッカドールを通じて,いま――文字どおり,数時間から1日単位での「いま」――のオタクが,何に注目し,何を好み,何を嫌っているのかの統計を蓄積できるからである。
しかもDeNAは,そのデータを基に自社コンテンツを制作したり,版元(ないしパートナー)としてコンテンツを管理したりできる。
だがこんな話は,もっと大きな側面に比べれば,微々たる話題だったりもする。
日本はさまざまな事情から,検索エンジンをほぼすべて海外に依存してきた。
かつては単なるリンク集の延長だった検索エンジンも,今日(こんにち)では「人力で管理することは不可能になったWeb上のコンテンツを,人間が管理できるようにするための,人工知能」と呼べる存在になってきた。そしてハッカドールは,あくまでも二次元コンテンツ専門ではあるものの,「日本産の,次世代型検索エンジン」として,ちゃんと機能している。
実のところ,従来型の検索エンジンは,最適な検索ワードをユーザーが把握している必要がある。加えて,ユーザーが入力した検索ワードや,検索ワードの組み合わせによって,得られる情報の品質に大きな差が発生しうるという弱点がある。というか,いまや,相当に錬った検索ワードを入力しない限り,狙ったとおりの検索結果を得られないことのほうが多い。
これと比較すると,ハッカドールは従来型検索エンジンよりも,平均値で見れば優れた品質の情報が収集できる,とすら言えるのだ。もちろん,従来型の検索エンジンも同時に必要にはなるが。
次世代型の実用的和製検索エンジンが二次元コンテンツ限定というあたり,なんともいえない気持ちになれるが,しかし,ここには確実に未来がある。
果たしてこれがどのように成長し,変化し,また日本における「インターネット」にどのような影響を与えていくのか,今後とも便利に使わせもらいたい――もとい,観測していきたいところだ。
ハッカドール公式Webサイト
Google Play:ハッカドール
App Store:ハッカドール
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