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徳岡正肇のこれをやるしかない! / 第14回:デジタル化された「マジック: ザ・ギャザリング」はどこまで本物か
1993年に発売された,世界初のトレーディングカードゲーム,「マジック: ザ・ギャザリング」。ライターの徳岡氏を初めとして,数多くの“ギャザラー”が誕生し,日々熱い戦いを繰り広げ,それは今も続いているのだ。
そんなマジックをテーマにしたPCゲームが6月にリリースされた,「Magic: The Gathering Duels of The Planeswalkers」なのだから,これはもうやるしかない! 果たして,デジタル化されたマジックはどのような内容なのか。あの,「火の七日間」は再び帰ってくるのだろうか?
※お断り:今回の記事は,トレーディングカードゲーム「マジック: ザ・ギャザリング」をプレイしている/いた方(しかも,割と首までどっぷり浸かった経験がある方)を前提として書かれています。「マジックってなに? 知らない」と言う方は,原稿の一部が不思議言語で書かれていることを,あらかじめご了承ください。
マジック: ザ・ギャザリング(MTG)といえば,トレーディングカードゲーム(TCG)の押しも押されもしない王様だ。1993年にアメリカのゲームデザイナー,リチャード・ガーフィールド氏によって開発されたこのゲームは,アナログゲーム世界に燎原の火のごとく広がり,現在においてもその影響は続いている――アナログゲーム最大のヒットの一つであり,デジタルゲームの開発関係者も盛んにプレイしている「ドミニオン」にも,マジックの影響は色濃く現れているのだ(「ドミニオン」の構造は,MTGの旧トーナメントフォーマットである「ロチェスタードラフト」を明らかに参照している)。
日本におけるMTGの本格的な流行は,1995年の日本語版以降,と見るべきだろう。以来15年が経過したが,いまだに安定したマーケットを維持しているようだ。
とはいえ,1994年〜1995年頃のMTG人気というのは,今から想像するのも難しいほど,恐るべきものだった。昨今では,MMORPGのアイテム課金で「○○万円使っちゃった」というのが廃人の一つのステータスになっているが,当時のギャザラー(MTGプレイヤーのこと)は1回の購入で万券を飛ばすのは当然,中には「(趣味として考えれば)車より安い」という名言を残した有名人もいるほどだ。
事実,MTGはそれくらい面白いゲームだった。日本におけるMTGの紹介者である朱鷺田祐介氏は,「MTGに触れた人は,火の七日間」を過ごすと語ったが,多くの感染者が最低でも一週間はMTG以外の話題を口にしなくなったし,MTG以外のゲームをプレイしなくなった。
MTGが最も恐ろしく,また面白いのは,「自分が使うカードパイル(デッキ)を,自分で設計できる」ことだ。最近PSP版も出た「カルネージハート」のように,自分の戦力の構造を自分で設計したうえで,その構造体を駆使して,同等の努力が施された相手の構造体とプレイスキルを競うのである。
設計と運用の双方をゲームにしたことによって,「MTG」という行為はゲームを実際に行なっている場面に限定されなくなった。ギャザラー達は,トーナメントで使用できるカードを暗記し,その組み合わせの可能性を模索した。MTGでは「楽しむためには,最低でも自分以外のプレイヤーが1人必要」という壁すらなく,へたをすると,目の前にカードがある必要すらなかったのだ。
デザイナーとしてのガーフィールド氏は「MTGのゲームデザインには,数学をあまり利用しなかった」と述べているが,そのゲーム展開において,数学的アプローチが有効に機能するのは自明だった。かくして,一部のギャザラーは関数電卓や表計算ソフトを持ち出し,自分のデッキの数学的効率を計算し,またそういった計算を容易にするためのマクロやアプリケーションも作られた。
同時に,高額の賞金のかかった公式トーナメントが大規模に開かれるようになったこともあり,MTGの理論的研究は急激に進展した(それ関係では,Zvi Mowshowitzが有名だと思うが,筆者はGeorge Baxter世代だったりする)。初期の研究書のほとんどはアメリカで書かれていたため,当時すでに存在していたカードゲームのトーナメント,すなわちポーカートーナメントのノウハウをMTGに応用するといった書籍さえ存在した。
このあたり,MMORPGでも同様だと思うが,結局のところMTGで一番恐ろしいのは,消費する金額ではない。MTGは市場として十分に成熟したため,海外からの直輸入やセカンダリマーケットの利用などにより,その気になれば金額的に強烈な負担にならないように工夫することが可能だ。
最大の問題は,消費される時間である。MTGには,MTGだけで24時間を使わせるパワーがあり,対戦相手や,カードがなくても,脳内をMTGモードに切り替えることができる。MTGを「麻薬的な魅力」と評する声は常に存在するが,その表現は正しいだろう。
かくして,少なからぬプレイヤーは,生活の節目ごとにMTGから離れていくことになった。お金ではなく,時間的に「もう続けられない」ことが明白になるのだ。「すっぱり辞めなくても,自分が自由に処分できる時間にあわせたMTGとの付き合い方を選べばいい」というのはまったく正論なのだが,そんなことが可能だったら,人は廃人になどならないのである。
さて,MTGは実に多様な展開を見せたが,一つだけ空白地帯が存在した――MTGのPCゲーム化である。
これまでも,MTGをモチーフとしたゲームが発売されたことはあった。だが,そのほとんどは「MTGをモチーフとしたゲーム」であって,原典からは割と遠かった(例外はDC版)。
また,オンラインでMTG対戦ができる「Magic Online」(MTGO)が存在するし,同人レベルで作成された対戦ソフトもいくつかあるが,それらはすべて対人戦が基本であり,AI相手にソロでプレイすることはできなかった。
そんな中,2009年にXbox LIVEアーケードで発表された「Magic: The Gathering Duels of The Planeswalkers」(DotP)は,「ほぼMTG」といえるルールと,シングルでプレイ可能なAIを備えていた(ネットワークで対戦もできる)。
そして2010年6月,ついにDotPがPCにも移植された。まさに連載のタイトルどおり,元ギャザラーなら「これをやるしかない!」わけだ。製品としては英語版しか存在しないとはいえ,それが問題になるギャザラーなんてほとんどいないだろう。
……さて,力強く紹介しておいてアレだが,先にはっきりさせてしまうと,DotPはあまり「マジック」ではない。以下,どこにどんな問題があるのか,箇条書きにしてみよう(パッチで修正されていく可能性があるので,あくまで2010年8月現在顕在化している問題と考えてほしい。また,細かに見ていけば,これ以外にも問題はあるだろう)。
・デッキが構築できない
いわゆるプレコンデッキが用意されていて,それを使うことしかできない。プレコンデッキは10種類オーバー(DLC込み)が存在し,それぞれ勝利するたびにカードがアンロックされていくが,「アンロックされたカードをデッキに加える/デッキから抜く」ことはできても,デフォルトでデッキを構成しているカードをサイドに落とすことはできない。
土地の枚数は,投入したカードの枚数に応じて自動的に決定される。土地を絞ったり,増やしたりすることもできない。
・フェイズに省略がある
なかでもエンドフェイズが存在しないのが痛い。タップアウトしているならともかく,マナが十分に足りている状態でターンエンド(のように思える相手のメインフェイズの終わり)に《Unsummon》や《Boomerang》を打っても,その場で必ず再プレイになる。
・インタフェースは改善を要する
パッドを前提としているのか,操作性が良くない。パラドゲーのプレイヤー(筆者)をして操作性が悪いと思わせるのだから,どれくらいかは推して知るべしだ。ネット対戦もあるため,行動起点の受付はリアルタイムで進行するが,少しでも油断すると自分の望むスペルやエフェクトを使うタイミングを失う(アタックフェイズ前のメインフェイズが特に飛びやすい気がする)。
一方,ボタンを押すまでゲーム進行が完全に停止するシーンもある。すべてにタイマーをつけるか,すべてを完全停止するか,どちらかが望ましかったと思う。
さて,先に悪い点を列挙してしまったが,ならばDotPは今回も「MTGをモチーフにした」タイトルに過ぎなかったのかと聞かれれば,実はそうでもないように思う。
とりあえずDotPには,DC版にあったような露骨なツミコミは感じられないし,極端に運に作用される効果を持ったカードも見当たらない。カード1枚1枚はMTGの基本に則ったもので,懐かしいカードも少なくない。
またデッキを組む要素があまりないというのも,これが「シールドよりはちょっとマシ」程度の,ほぼリミテッドだと理解してしまえばさして問題にはならない。一応,アンロックされたカードの取捨選択で,ある程度までデッキの強さが変わるので,努力する意味がまったくないというわけでもない。
むしろDotPは,「しばらくMTGから離れていたプレイヤー」にとって,必要十分にMTGだと言えるだろう。筆者の場合,購入後24時間のうち20時間くらいプレイしたと思う。それくらい,いろいろなことを思い出させてくれるゲームなのだ。
AI相手のシングルプレイやネットワーク対戦だけでなく,懐かしの「Magic: the Puzzling」が用意されていたり,ネットワーク対戦では3人戦/4人戦をはじめとする双頭巨人戦といった多人数フォーマットも用意されており,遊べるコンテンツはなかなか多い。DLC第一弾も発表されており,今後に期待できそうなところも魅力だ。
せっかくなので,どんなデッキが用意されているかも紹介しておこう。以下はMTGを知っている人でないととくにワケが分からないと思うが,ギャザラーの言語とはそんなものだと思って流していただければ。
・Claws of Vengence
白緑赤コントロールっぽいデッキ。除去多めで,クリーチャーは単体で場が仕切れるもの……と言いたいが小粒系も多い。売りは最大アンロックで2枚入ってくる《Wrath of God》。
・Hands of Flame
赤単ゴブリンバーン。しかし,アンロックが進むと《Shivan Dragon》とか《Kamahl, Pit Fighter》とかが混じり始める。大型クリーチャーで大逆転することもあって,そういう爽快感はあり。特定のデッキに対し赤ティムが凶悪。
・Wings of Light
白単ウィニー。《Glorious Anthem》がパワフル。フライヤーと,CIPでのライフゲインも多め。特定のデッキ相手に《Pacifism》がとても効く。
・Teeth of Predator
緑単クリーチャーデッキ。並べて《Overrun》でほぼどんな相手にも勝てるし,3ターン目の《Troll Ascetic》から《Blanchwood Armor》でゲームが終わる相手も多い。6マナ6/4とかが乱舞する,楽しくも懐かしいデッキ。
・Thought of Wind
青単フライヤー。カウンターの密度が高く,アンロックを進めるとドロー能力も大幅に強化される。ほかのデッキは全体に《Giant Growth》や《Unholy Strength》といった個体強化系カードが多いので,相対的に《Unsummon》や《Boomerang》の価値が上がっている。
・Eyes of Shadow
黒単ハンデス。《Megrim》や《The Rack》が入っているほか,《Underworld Dreams》まで入っていてアセる。AI相手なら,このデッキがアンロックされさえすればラスボス以外はほぼ楽勝。どうもAIは「選択的にディスカード」の場面でランダムディスカードしているように見えるので,《Mind Rot》が1マナ多いHymnになってしまっている。
・Ears of the Elves
緑黒エルフ単。《Coat of Arms》に《Elvish Champion》と,実に念のいったデッキ。普通ならファンデッキ扱いだが,このフォーマットではそこまで弱くない。
・Scales of Fury
赤黒緑ドラゴンデッキ。どう見てもファンデッキだが,カードアドバンテージに特化したカードが濃く,意外と戦える。大技を決めて勝てるので楽しい。ただし《Persuasion》に対しては弱い。
・Mind of Void
青白ミル。《Wall of Air》が強いデッキ。でも立ち上がりで振るわずそのまま沈むことも多い。このデッキに限らず多色ランドが存在しないので,緑が絡まない多色デッキは,全体に色事故で即死する危険性が強い。
・Cries of Rage
赤緑ウィニーバーン。正統派のアグロデッキ。事故った相手をほぼ確実に殺し切れる速度と打撃力がある。装備品とかも入っている。
・Relics of Doom
青黒アーティファクトウィニー。ハマると最速だがハマらなかったときの絶望感は異常。クリーチャーがことごとくアーティファクトなので,除去を《Terror》に依存したデッキには,とくに強い。
ルール処理やデッキ構築の問題を考えると,現役MTGプレイヤーにDotPはオススメしづらい。というか現役な方々は,そんなヒマがあったら本物のカードでプレイするか,MTGOといった方向に進んで。
一方,「MTGか,昔はハマったなあ」という方であれば,DotPは割と危険なゲームだ。金額的には本編とDLC一つを合わせて15ドル程度,財政的負担の軽さは比較にもならない。だが,時間の消費されっぷりは,往年のMTGそのものだ。
DotPの唯一つらい点が「デッキを構築できない」というところだろう。DotPにハマっても,かつてのように「道を歩きながらデッキを考える」ことにはならない――もちろん,このDotPを機会としてMTGの世界に復帰しない限りは。
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