レビュー
遅れて登場したHD 5800シリーズの最下位モデルは,絶妙の“スキマGPU”となれるか
XFX RADEON HD 5830 1GB DDR5 HDMI DISPLAYPORT PCI-E 2.1(HD-583X-ZNFV)
リリースから約1か月が過ぎようとしているタイミングではあるが,Pine Technologyの販売代理店であるシネックスの協力により,XFXブランドの「XFX RADEON HD 5830 1GB DDR5 HDMI DISPLAYPORT PCI-E 2.1」(型番:HD-583X-ZNFV,以下型番表記)を試す機会が得られた。そこで今回は,新製品のパフォーマンスと立ち位置をまとめ,PCゲーマーが手を出す価値のあるGPUなのかどうかを考察してみたい。
HD 5850からシェーダプロセッサ数を削減
その一方で消費電力&カードサイズは大きく
シェーダプロセッサ「Stream Processing Unit」(以下,SP)数は1120基。ATI Radeon HD 5800&5700シリーズは,80SPで1基の「SIMD Engine」を構成するので,SIMD Engine数は14基ということになる。HD 5850は18基,HD 5770は10基なので,見事“真ん中”に収まっているわけだ。
このほか,競合の「GeForce GTX 275」(以下,GTX 275)も含めたスペック比較は表1にまとめたが,動作クロックがHD 5850を超える800MHzである一方,メモリ出力周りを司るROP(Rendering Output Pipeline,またはRaster Output Processor,AMDはRender Back-Endともいう)数はHD 5770と同じ16基に抑制。しかも,公称の最大消費電力はHD 5850を超えてしまっているという,なんとも後から追加された中間モデルらしい,いろいろな事情が透けて見えるスペックになっている。
外部出力インタフェースは4系統 |
GPUクーラーは,片面8枚実装のメモリチップと接触しておらず,アクティブなエアフローによって冷却する仕様だ。また,電源部にも小型のヒートスプレッダが取り付けられている |
Radeon BIOS Editorから「Fan settings」をチェックしたところ |
HD-583X-ZNFVは,容量1GBのGDDR5チップをグラフィックスメモリとして搭載。外部出力インタフェースはDVI-I×2,HDMI×1,DisplayPort×1で,DisplayPort出力を含めた場合は,最大3画面出力を実現する「ATI Eyefinity」も利用可能だ。
GPUクーラーは2スロット仕様の内部排気仕様。銅製のGPU接触部から2本のヒートパイプが伸びて,扇状に広がった二つの放熱フィンを貫き,その中央に72mm角相当の冷却ファンを搭載する。
TechPowerUp製のBIOS設定ツール「Radeon BIOS Editor」(Version v1.25)でチェックしてみると,ファンの回転数は,GPU温度が55℃を超えるまでは22%で抑えられ,そこから102℃まで,温度が上がるにつれて回転数も上がる設定になっているようだ。
実際に聞いてみた筆者の主観になることを断りつつ書き進めると,3Dアプリケーションを実行してGPU温度が上昇し,ファン回転数が60%程度まで上がると,多少なりとも風切り音が耳につく。ただ,バラック状態で「多少耳につく」程度なのも確かだ。PCケースに組み込んでしまえば,まずもって問題ないのではなかろうか,というレベルの動作音である。
なお,「ATI Catalyst Control Center」の「ATI Overdrive」によれば,アイドル時の動作クロックは,コア157MHz,メモリ1.2GHz相当(実クロック300MHz)まで低下していた。
AMDから入手した“HD 5830対応版Catalyst 10.2”で検証
仮想敵・GTX 275との比較も実施
テスト環境は表2に示したとおり。HD 5830とHD 5770の搭載カードを用意するのは当然として,2010年3月23日時点の店頭価格が比較的近い,GTX 275も用意している(※HD 5830が2万4000〜3万円程度,GTX 275は市場在庫が少なめだが,おおむね2万4000〜3万1000円程度)。
テストに当たっては,CPUがボトルネックとならないよう,「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」を用意した。ただし,テストするタイミングなどによって「Intel Turbo Boost Technology」の効果に違いが出てしまうのを避けるため,同機能はBIOSから無効化している。
ATI Radeonのテストに当たって利用したグラフィックスドライバ「8.703-100210a.095560E」は,AMDの公式Webサイトからダウンロード可能なもの。バージョン表記からすると,「ATI Catalyst 10.2」をベースに,HD 5830への対応を実現したものという理解でよさそうだ。
なお,テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション9.0準拠。また,とくに断りのない限り,文中,グラフ中とも,GPU名で表記を行う。
「HD 5770以上HD 5850未満」の順当な性能
ただ,高負荷&高解像度では弱みを見せる
まずは,グラフ1,2の「3DMark06」(Build 1.1.0)の結果から見ていこう。HD 5830のスコアは「標準設定」の1280×1024ドット時にHD 5850の約12%引き。しかし,高解像度になったり,4xアンチエイリアシングと16x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」を選択したりするとスコア差は広がっていき,最大では24%までギャップが大きくなる。
ROP数が16基同士で同じHD 5770に対しては安定して5〜9%の差を付けているので,「ROP数が上位モデルの半分」というハンデは決して小さくない印象だ。
GTX 275との比較では,わずかに低いレベルに留まった。
続いて,3DMark06のデフォルト設定,標準設定の1280×1024ドットにおける「Feature Test」から,Fill Rate(フィルレート),Pixel Shader(ピクセルシェーダ),Vertex Shader(頂点シェーダ)のテスト結果をまとめたものがグラフ3〜5。
Fill Rateを見ても,HD 5850と比べて,テクスチャユニット数が2割強削減され,ROP数が半減した影響は小さくない。一方,Pixel ShaderのスコアはGTX 275と同等レベルの,Vertex Shaderは,コアクロックの高さを武器に,HD 5850を上回るスコアをそれぞれ示せている。
Shader Model 3世代における汎用演算性能を見る「Shader Particles」(シェーダパーティクル)や,長いシェーダプログラムの実行性能を見る「Perlin Noise」(パーリンノイズ)も,総合スコアをおおむね反映した結果になっているといえる(グラフ6,7)。ただ,どちらでもHD 5830がGTX 275に大きな差を付け,最新世代のアーキテクチャを採用したGPUらしいところを見せている点には注目しておきたい。
では,実際のゲームアプリケーションを前にすると,どういった特性を見せるのか。グラフ8,9に示した「Crysis Warhead」のテスト結果だと,HD 5830はHD 5850比で8割強のパフォーマンスを発揮。GTX 275には若干置いて行かれるが,グラフィックス描画負荷が高まるにつれ,その差は縮まる。
続いてグラフ10,11は,「Left 4 Dead 2」のテスト結果だが,端的に述べて,傾向は3DMark06と同様。グラフィックス描画負荷が高まるにつれ,HD 5830とHD 5850のスコア差は8%から22%へと拡大していく。
興味深いのは,HD 5830のスコアが標準設定でGTX 275のそれを上回るのに対して,高負荷設定では逆転されていること。HD 5830の持つROP数がATI Radeon HD 5700シリーズと同程度という足枷は,グラフィックス描画負荷が高い状況において,やはり大きい。
一方,Crysis WarheadやLeft 4 Dead 2と同じFPSでも,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)だと,HD 5830のスコアは奮わない。本タイトルは,シェーダプロセッサ,そしてテクスチャユニットの性能がスコアを左右しがちなので,HD 5830のスコアは,HD 5850とHD 5770のちょうど中間に入ってもいいようなものなのだが,実際は,“HD 5770+α”程度のスコアしか示せていないのである。
ドライバの最適化がまだ進んでいないのか,ROPユニット数の制限によるものか,この数字だけで断言するのは難しいが,この「アプリケーションによってパフォーマンス傾向が大きく変わる」といったあたり,ハイエンドGPUのモデルナンバーが与えられているものの,実際にはミドルクラスGPU的な特徴を持ったGPUだといえそうだ。
「バイオハザード5」の結果をまとめたグラフ14,15は,全体として3DMark06と似た傾向。HD 5850より8〜15%低く,HD 5770より11〜17%高いというあたり,存在意義から見たとき,HD 5830のスコアは見事というほかない。
「ラスト レムナント」のスコアは,Call of Duty 4と同様(グラフ16)。HD 5850&GTX 275には大きく置いて行かれている。
最後に「Colin McRae: DiRT 2」(以下,DiRT 2)から,グラフ17,18はDirectX 9モード,グラフ19,20はDirectX 11モードでのそれぞれテスト結果になるが,いずれにおいても,HD 5830はHD 5770+α程度のスコアしか発揮できていない。
なお,DirectX 9モードのグラフで,GTX 275のバーの色を変えているのは,不可解なスコアが出たためだ。どうも,「AMBIENT OCCLUSION」が有効になっていない印象を受けるので,ATI Radeonと比較するのはお勧めしない。場合によってはベンチマークレギュレーションを改訂する必要もあるだろう。
HD 5850とほぼ同じ消費電力のHD-583X-ZNFV
カード仕様の違いを加味すると,消費電力はやはり高い
本稿の序盤で紹介したとおり,HD 5830の公称最大消費電力は175Wで,HD 5850の同151Wより高い。では,実際にはどの程度増えているのか。ログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計測して,比較してみよう。
テストに当たっては,OSの起動後,30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時と設定。その結果をまとめたものがグラフ21になるが,アイドル時,アプリケーション実行時とも,HD 5830の消費電力はHD 5850とほぼ同じである(※厳密に言えば,前者のほうが若干高めだが)。
かつて,「ATI Radeon HD 4730」(以下,HD 4730)というGPUが,「ATI Radeon HD 4870」をベースに,大幅なスペックダウンを経て登場し,モデルナンバー上の上位モデルよりも高い消費電力値を示したことがあった。あれと同様,今回のHD 5830も,「HD 5850の下位モデル」というよりは,「HD 5870をベースに,(HD 5850としては製品化できないASICを)スペック引き下げによって良品としたGPU」と見るほうがより正しそうだ。
なお,Pine Technologyは,HD-583X-ZNFVの利用にあたり,定格出力が500W以上の電源ユニットを推奨している。
最後にグラフ22は,室温20℃のテスト環境においたバラック状態におけるGPU温度をチェックしたものだ。ここでは,3DMark06の30分間連続実行時を「高負荷時」として,アイドル時ともども,GPU-Zからスコアを取得した。
GPUクーラーが異なる以上,横並びの比較にはまったく向かないため,あくまでも参考値として見てほしいが,HD-583X-ZNFVのGPUクーラーは,GPUを問題なく冷却できているといえよう。
いまならHD 5830よりもHD 5850を選びたい
HD 4730よりは意味があるので,価格が下がれば……
さらに,2010年3月23日時点の話をすると,ブランドや搭載クーラーを問わなければ,HD 5850カードが2万8000円程度から購入できる点も,HD 5830には不利だ。さすがに大勢は3万円超だが,それでも価格差は3000〜5000円。このクラスのGPUを考えているなら,少し予算を足してHD 5850を選ぶべきだ。
HD 4730ほどの“どうしようもない感じ”はないので,課題は一にも二にも価格設定。2万円台前半,できれば,HD 5770の高価格モデルを“喰う”レベルまで実勢価格が下がって,そのときにまだ現行製品であれば,魅力も出てくるだろう。
- 関連タイトル:
ATI Radeon HD 5800
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