レビュー
一挙に投入されたAMD製CPU×7の位置づけを把握する
Phenom II X6 1075T/3.0GHz
Phenom II X4 970 Black Edition/3.5GHz
Phenom II X2 560 Black Edition/3.3GHz
Athlon II X4 645/3.1GHz
Athlon II X4 615e/2.5GHz
Athlon II X2 265/3.3GHz
Athlon II X2 250e/3.0GHz
ラインナップのぽっかり空いていたところを埋めるモデルや,シリーズ最高の動作クロックを更新するモデルなど,位置づけとメーカー想定売価はさまざまだが,今回はこれら新CPUの立ち位置を,ゲーマー視点で確認してみたいと思う。
- Phenom II X6 1075T/3.0GHz
〜6コア,TurboCORE有効時3.5GHz,L3 6MB,TDP 125W,2万3980円(税込) - Phenom II X4 970 Black Edition/3.5GHz
〜4コア,L3 6MB,TDP 125W,1万7980円(税込) - Phenom II X2 560 Black Edition/3.3GHz
〜2コア,L3 6MB,TDP 80W,9980円(税込) - Athlon II X4 645/3.1GHz
〜4コア,L3なし,TDP 95W,1万1980円(税込) - Athlon II X4 615e/2.5GHz
〜4コア,L3なし,TDP 45W,1万3980円(税込) - Athlon II X2 265/3.3GHz
〜2コア,L3なし,TDP 65W,7480円(税込) - Athlon II X2 250e/3.0GHz
〜2コア,L3なし,TDP 45W,7480円(税込)
ラインナップの拡充を実現した7モデル
その立ち位置を確認しておく
まず唯一の6コアモデルであるPhenom II X6 1075T(以下,X6 1075T)は,Phenom II X6シリーズの最上位モデル「Phenom II X6 1090T Black Edition/3.2GHz」(以下,X6 1090T BE)と,その下位に位置づけられる「Phenom II X6 1055T/2.8GHz」の間に存在する,400MHzという動作クロックの溝を埋める製品だ。X6 1090T BEの実勢価格は2万5000〜2万9000円程度(※9月21日現在)なので,X6 1075Tの2万3980円(税込)というメーカー想定売価はやや高めか。
X4 970 BE。OPNは「HDZ970FBK4DGM」 |
X2 560 BE。OPNは「HDZ560WFK2DGM」 |
X4 645。OPNは「ADX645WFK42GM」 |
X4 615e。OPNは「AD615EHDK42GM」 |
X2 265。OPNは「ADX265OCK23GM」 |
X2 250e。OPNは「AD250EHDK23GM」 |
Phenom II X4 970 Black Edition(以下,X4 970 BE)は,クアッドコアPhenom IIとして,2010年最初の製品だ。従来製品「Phenom II X4 965 Black Edition/3.4GHz」を100MHz上回り,シリーズ最高動作クロックを更新したモデルということにもなる。
Black Editionなので,倍率固定はもちろん解除済み。もちろんそれは,デュアルコアCPUであるPhenom II X2 560 Black Edition(以下,X2 560 BE)も同じだ。
Athlon II X4 645(以下,X4 645)とAthlon X4 615e(以下,X4 615e)はそれぞれ,通常電圧版と低電圧版Athlon II X4シリーズ最上位モデル。Athlon II X2 265(以下,X2 265)とAthlon II X2 250e(以下,X2 250e)も同様だが,ただし,X2 250eは,通常電圧版の「Athlon X2 250/3.0GHz」をベースに,基本スペックを維持したまま,TDPを20W引き下げたモデルと紹介することもできる。
7製品の主なスペックは表1のとおり。いずれも9月中には店頭販売が始まる見込みだ。
ファミリー最高価格のX6 1090T BEと
1万円弱のX4 635を用意して,9製品を検証
今回のテスト環境は表2のとおり。現行製品の最高価格モデルであるX6 1090T BEと,9月21日時点の実勢価格が1万円を若干下回る程度の「Athlon II X4 635/2.9GHz」をそれぞれ用意して基準としつつ,7製品の位置づけを押さえてみたいと考えている。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション10.0準拠。ただし,CPU検証ということで,グラフィックス描画負荷が高くなる「高負荷設定」は省略し,さらに解像度も1280×1024ドットと1680×1050ドットの2つに絞った。
また,テストスケジュールの都合から,用いるアプリケーションは「3DMark06」(Build 1.2.0)と「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2),「Just Cause 2」「バイオハザード5」の4タイトルに絞っている。テスト環境にエントリークラスのCPUが含まれるため,バイオハザード5では「低負荷設定」でなく,よりCPUの性能差を見やすい「エントリー設定」を選択したことも,ここでお断りしておきたい。
なお今回,グラフは基本的にモデルナンバー順で並べたが,モデルナンバーとスコアの並びに乖離があったものについては,グラフ画像をクリックすると別ウインドウでスコア順に並べ替えたものを表示するようにしてあるので,お好きなほうでチェックしてもらえればと思う。
マルチスレッド最適化状況次第で順位が変動
予想以上にきっちりついた性能差に注目
テスト結果を順に見ていこう。まずは3DMark06の総合スコアからだ。
3DMark06はマルチスレッド処理に対応しているが,最適化されているというほどでもないため,コア数よりも動作クロックにより依存した結果になっていることがグラフ1からは見て取れよう。
注目したいのはX4 970 BEの数字で,X6 1090T BEとほぼ互角。3.5GHzというシリーズ最高クロックが“効いた”ようだ。また,3.3GHz動作するデュアルコアCPUたるX2 560やX2 265がX4 645に迫るスコアを示しているのも目を引く。
X6 1075Tは,X6 1090T BEに対して順当とも,全体的に凡庸ともいえるスコアだ。X4 645は,今回基準に示したX4 635より動作クロックが200MHz高い――X4 645は,「Athlon II X4 640/3.0GHz」より動作クロックが100MHz高い製品という位置づけである――だけのスコアになっている。
続いてグラフ2は,マルチスレッド処理に最適化されたBFBC2の結果だが,3DMark06で好結果を残したX4 970 BEを,X6 1075Tが大差で逆転しているのは実に示唆的。また,2コアCPUはかなり厳しく,Phenom IIブランドのX2 560 BEが,低電圧版X4 615eにも大きく離され,Athlon II X2シリーズと同じ40fps台に低迷しているのもトピックといえそうだ。
一方,マルチスレッド処理に最適化されているものの,6コアを使い切るような設計にはなっていないJust Cause 2だと,4コア以上のCPUで,動作クロックおよびL3キャッシュの有無に応じたスコアで並んでいる。3.5GHz動作のX4 970 BEがトップで,3.2GHz動作のX6 1090T BE,3.0GHzのX6 1075Tが続き,少し離されてL3キャッシュを持たないAthlon X4,といった構図だ。
X4 645とX4 635でスコアの差がほとんどないことからは,200MHzという動作クロックの違いを“ならして”しまうほど,L3キャッシュを内蔵しないことのペナルティが大きいことをを推測できよう。動作クロックが3.3GHzで同じX2 560 BEとX2 265との間に,有意なスコアの違いが生じているのも示唆的である。
パフォーマンス検証の最後は,Intel製CPUに最適化されているバイオハザード5だが,Intel製CPUの上位モデルで主流が4コア8スレッド動作になっているためか,テスト結果はBFBC2と似たような傾向を示している。
X4 615eとX2 560 BEの力関係からすると,いまから2コア2スレッド仕様のCPUをゲーム用で使うのは厳しいか。
X4 970 BEの消費電力はかなり高い
下位モデルは低電圧版のスコアが目を引く
ログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を用い,OSの起動後,30分放置した時点を「アイドル時」,ストレステスト用のアプリケーション「OCCT」(Version 3.1.0)を20分連続実行し,その間で最も消費電力の高い時点を「高負荷時」として,各時点におけるシステム全体の消費電力をまとめたものがグラフ5だ。
アイドル時に関しては,省電力機能「Cool'n Quiet」(以下,CnQ)をBIOSから有効化した状態と無効化した状態の両方でスコアを取得しているが,基本的にはTDPと動作クロックに応じたスコアになっているといえるだろう。3.5GHz動作のX4 970 BEはさすがに高い。一方,TDP 45Wの2製品はさすがのスコアだが,よく見ると通常電圧版のX2 265も負けていない。
気になるのは,X4 645のスコアが全体的に低めであること。同系のCPUコアであるはずなのだが,高負荷時にX4 635と互角で,アイドル時は10W以上低いのだ。個体差もあるので,この結果から何かを断言するのは難しいのだが,ことによるとコアに多少の改良が施されているのかもしれない。
一方,同じBlack Editionでも,X2 560 BEの温度はかなり低い。スケジュールの都合上,スコアの取得まではできていないが,コア電圧を標準設定比+0.075Vに変更すると,4GHzでもOSが立ち上がってきたので,性能の高いCPUクーラーを用意できれば,なかなかに面白いかもしれない。
※注意
CPUのオーバークロック動作は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer 編集部も一切の責任を負いません。
7製品をテストして分かった,意外なX4 635の魅力
X4 970 BEもアリだが,X6 1075Tは微妙
X6 1075Tは,よくいえば「X6 1090T BEとあまり変わらない性能で,数千円安価」なのだが,Black EditionでもあるX6 1090T BEを差し置いて選ぶだけの魅力には欠けている。
1万円台前半以下の5製品について話をするなら,基準として示したX4 635が,1万円弱(※2010年9月21日現在)で購入できるという事実も手伝って,最もバランスに優れるという結果になってしまった。マルチスレッド性能を左右するL3キャッシュが搭載されないこともあって,Athlon II X4のスコアはどうしても伸びきらないという弱点を抱えているのだが,そうなると,X4 645をわざわざ選ぶより,X4 635にしておいたほうがコスト面で幸せになれそうなのだ。
消費電力のデータを見る限り,X4 645では何か改善が入っている可能性もあるので,それに期待するのはアリだろうが,X4 635がダメというわけではない。7製品と比較したことで,X4 635の魅力が再認識されたとは言えるかもしれない。
一方,2コア2スレッド処理のCPUは,そろそろゲーマーが新規に選ぶ選択肢から外れそうな気配が,とくにX2 560 BEのスコアから感じられる。さらに低電圧版は,そもそもゲーマーを対象にしたCPUではないので,積極的に選ぶ必要性は感じられない。まあ,このあたりは,AMD 8シリーズなどのグラフィックス機能統合型チップセット搭載マザーボードと組み合わせて,(規約上許可されたタイトルで)2アカめに使うPC向けと捉えるべきだろうか。
いずれにせよ,AMDのCPUは,AM2+パッケージ以降で下位互換性を維持してきているため,一昔前のマザーボードでも(メーカーが対応してくれれば)BIOSのアップデートで最新モデルに載せ替えられるのが最大の魅力だ。AMD製のデュアルコアCPUあたりを使っていて,最近,CPUパワー不足を感じている人にとっては,ラインナップが拡充された今回は買い換えのいいタイミングかもしれない。