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[iPhone]ニッチ向けでいいから突き抜けよう! IGDA日本 iPhoneアプリ部会のセミナー「App Storeの現状を考える」をレポート
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印刷2009/09/01 21:47

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[iPhone]ニッチ向けでいいから突き抜けよう! IGDA日本 iPhoneアプリ部会のセミナー「App Storeの現状を考える」をレポート

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 国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)のSIG-iPhone Apps(iPhoneアプリ部会)は,「Game Devシリーズセミナー」の第1回「App Storeの現状を考える」を,Apple Store, Ginzaの3階シアタールームで8月28日に開催した。
 今回のセミナーでは,IGDA日本の代表にしてゲームジャーナリストである新清士氏と,Aeroシリーズなどの作品で知られるユードーの南雲玲生氏が,iPhone/iPod touchおよびApp Storeがゲーム業界に与えたインパクトや,ゲーム/アプリ開発の実際について計2時間にわたる講演を行った。
 iPhone/iPod touchというプラットフォームに関心を持っている人にとって興味深いトピックが目白押しだった今回のセミナーの内容を,かいつまんで紹介していこう。


IGDAとは?


IGDA日本 代表 新清士氏
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 まず最初に新氏が登壇し,そもそもIGDAとはどんな組織か,そしてその運用方法や活動実績などが紹介された。
 それによると,IGDAは,個々のゲーム開発者が楽しみながら切磋琢磨し,ゲームやゲーム産業の発展に寄与するためにさまざまな活動を行う,国際的なボランティアコミュニティとのこと。

 その日本支部にあたるIGDA日本は,複数のSIG(Special Intereset Group)で構成されており,今回のセミナーを開いたiPhoneアプリ部会もその一つとなっている。
 同部会では今後,開発者同士が交流を深めたり,App Storeの最新動向を共有したりできる場として,Apple Store, Ginzaにおいて月に1度のペースでセミナーを開催していく予定だ。
 現在,このセミナーで講演したいという人を募集しているそうなので,関心のある人はIGDA日本公式サイトのセミナー告知ページを参照し,問い合わせてほしい。

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iPhone/iPod touchというプラットフォームの成り立ち


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 続いて新氏は,ここから述べる意見がジャーナリスト個人としてのものであることを断ったうえで,現在ゲーム業界が直面している課題から説明し始めた。
 新氏はまず,「コンシューマ機が直面する危機」として,開発費の高騰により,ゲームメーカーが財政的に苦境に立たされていると述べた。

 また,ブラウザゲームなどの“軽いゲーム”や,ゲームに代わる楽しみとして,Facebookに代表される,人とのつながりを楽しめるソーシャルネットワークサービスが台頭していることを指摘。さらに,とくにアメリカでは,ニンテンドーDSを“卒業”したあと,iPod touchに移行する流れができつつあるという。
 新氏はアメリカでも今後,ゲームファンの志向が,空き時間にカジュアルな作品を携帯電話で楽しむという方向にシフトしていくと見ている。これまでアメリカでは,そのためのプラットフォームが確立されていなかったが,iPhone/iPod touchの登場により,マーケットが形成されつつあると述べた。

 新氏は,これまでの収益モデルを前提としてきた既存メーカーが,同じやり方でこの市場に参入し,収益を確保するのは困難であるとし,今こそ,「ビジネススキーム全体を変革させなければならない重要な時期」と強調した。

 ここで新氏は,App Storeへの参入に関し,パッケージ販売という形態に最適化した方法でビジネスを進めてきた既存メーカーよりも,一から収益モデルを組める新規メーカーのほうが有利だと述べた。
 ただし,App Storeは英語圏を中心とするマーケットなので,言葉の壁や市場規模の違いといった面で,日本のメーカーはハンデを負っているという。新氏は,日本のメーカーが欧米圏のマーケットで戦っていけるよう,日本のiPhone/iPod touchゲーム/アプリメーカー同士で最新情報を共有することが,このセミナーの目的の一つであるとした。

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App Storeの現状と,メーカーが目指すべき方向性


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 新氏はこのあと,海外のiPhone/iPod touchアプリ開発者向け情報サイト148Apps.bizや,モバイル端末向けの広告ビジネスを手がけるAdMobが公開しているデータをもとに,App Storeにおけるゲーム/アプリの販売動向を紹介した。
 それによると,全世界におけるiPhone/iPod touchの普及台数は約4500万台で,アプリの市場規模は1億9800万ドル/月に達するという。ただし,アジア(≒日本)での普及台数は315万台で,全体の7%ほどでしかなく,海外でのセールスこそが収益に直結するといえるわけだ。

 また新氏は,アプリの価格帯ごとの購入数の割合を示し,約2割の購入によって約8割の売り上げが出されていると述べた。新氏曰く,App Storeにおいてはマスマーケティングは必ずしも有効でなく,ニッチなマーケットを対象にアプリを提供することが重要だと強調した。

 新氏は最後に,今後App Storeにおいて目指すべき方向性などについて語った。その一例として紹介されたのが,大ヒットアクション「Rolando」などで知られるNgmocoの戦略だ。
 同社はRolandoのリリース後,さほど時間が経たないうちに「Rolando 2」「Rolando 3」の開発を発表。その後,Rolandoのアップデートを定期的に行い,追加マップを提供し続けた。これにより,Rolando 2のリリースまでのあいだも,ファンの心をつかみ続けることに成功したといえる。ちなみに今後は,Rolando 3が発売されるまでのあいだ,Rolando 2のアップデートが継続的に行われるようだ。

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 新氏はもう一つ,同社が推進するプラットフォーム化戦略にも言及した。これは「Plus+」という,Xbox Liveに似たソーシャルネットワークシステムを,広くiPhone/iPod touchアプリメーカーに提供するという戦略だ。
 Plus+を採用したゲームでは,プレイヤー同士がスコアやアチーブメントの数を伝え合ったりして交流できる。このPlus+を普及させ,より多くのプレイヤーを囲い込むことがNgmocoの狙いである。

 また新氏は,海外のiPhone/iPod touchメーカーが行っているように,さまざまなコンテストに積極的に応募することを勧めた。
 例えば,インディ系メーカーによるモバイル端末向けゲームのコンテスト「Independent Games Festival Mobile 2009」では,7部門のうち6部門でiPhone/iPod touch用ゲームが受賞しており,それを機にさらに売り上げを伸ばしていると述べ,講演を締めくくった。


ユードーは,ニッチ向けでもいいからオンリーワンを目指す


ユードー 南雲玲生氏
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 次にステージに上がったのは,ユードーの南雲玲生氏だ。南雲氏はまず,App Storeを子供のときに遊んだというアマチュア無線に例え,「世界に向けてアプリを配信/販売でき,すぐに結果が分かる」ことに感動を覚えたと話した。
 ユードーといえば,2008年にヒットを飛ばした音楽ゲーム「Aero Guitar Ex」「Aero Synth」「Aero Drum」のメーカーで,0.99ドル(115円)のゲームを集めた“1$-GAMES”シリーズや,シンセサイザーシミュレータ「VOCODER SV-5」,録音アプリ「RECTOOLS」でも知られている。

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(写真左)現在開発中の,iPhone 3GS専用版「RECTOOLS」。従来のバージョンでは最大8トラック同時再生可能だが,iPhone 3GS専用版は最大32トラックの同時再生機能を備えているという。南雲氏は,「かなりマニアックなアプリですが,すべて私の趣味でやっています」と説明していた。なお,iPhone 3GS専用版は約50ドルでリリース予定とのこと (写真右)カーディガンズや,Maroon 5といったアーティストをフィーチャーしたピアノ演奏アプリも手がけている
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 南雲氏によれば,ユードーは「誘導」に由来する社名で,ゲームを使って多くの人を誘導することを目指しているという。
 同社ではこれまで,今でいう拡張現実(AR)の概念をいち早く取り入れたという携帯ゲーム「なびんちょ」や,ナムコ(当時)の懐かしいゲームのCD-ROMがおまけとして付いている,「ゲーム伝説」といういわゆる“食玩”などを手がけてきた。
 また,ニンテンドーDS用ソフト「健康検定」では,カーナビや携帯電話,書籍などのクロスメディア展開を行った実績もある。

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南雲氏の長男(7歳)による,iPhone/iPod touchゲームのアイデアスケッチ。iPhone 3GSの32GBモデルを持たせているという。子供の何気ない発想に,基本に立ち返ることの大切さをあらためて思い知ることもあるそうだ
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 そんなユードーを率いる南雲氏は,「企画書はいらない」「資本金は$99とMacBook」「世界がマーケット」の三つが,App Storeの魅力だと語った。
 知られているように,iPhone/iPod touchのアプリを開発するにあたり,事前に企画書を提出する必要はない。Appleの規約に則った内容であれば,自由な発想で開発できる。南雲氏は,斬新なアプリが続々と登場する背景には,この気軽さがあるのではないかと話した。

 ユードーでは,MacBookやMacBook Proを用いて開発が行われている。どこでも好きな場所で開発できる,出先で開発中のアプリをプレゼンテーションできるといったメリットがあるという。南雲氏は,「こんなことは,コンシューマ機用ゲームの開発では考えられません」と述べた。


世界のApp Storeで展開するために


 ここから南雲氏は,世界を相手にビジネスしていくためのポイントについて説明した。
 南雲氏は,販売されているアプリの数が6万5000本を超えているともいわれるApp Storeでは,他社よりも秀でることがとても重要だと考えているという。そのために,「ニッチでもオンリーワンになる」べく取り組んでいるそうである。

 続いて,無料版のアプリに関し,南雲氏は「無料版のアプリから有料版へ誘導することは,基本中の基本」と話した。ただし,体験できる機能や要素を絞り込みすぎると,かえって悪い印象を与えかねないのではないかと述べた。
 下のスライドでは,ユードーにおける,無料版から有料版への“誘導成功率”が紹介されているが……。

 ユードーでは,アプリ内広告にも取り組んでいる。無料版を含め,ダウンロード数が80万回を超えているという「PianoMan」では,自社タイトルだけでなく,AdMobを経由して他社のアプリの広告も表示される。また,最新アプリの情報や,ランキングを表示するなどし,アプリをくり返し使ってもらえるようにしているとのこと。
 このように,ユードーではユーザーの動線作りを心がけており,もちろん,実際にどの広告がどくらいクリックされたかといった分析も行っているそうだ。

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 次に南雲氏が紹介したのは,ファミリーコンピュータなどに採用されているPSG音源のシミュレータ「8Bitone MICRO COMPOSER」の事例だ。
 この作品は,Gizmodoで紹介されたことで海外で大きな話題を呼び,YouTubeで公開していたムービーの視聴回数が,一気に数万回に跳ね上がった。なお,ユードー側から連絡したわけではなく,南雲氏の個人ブログに掲載された情報を元にした記事だったという。

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 メーカーにとって,アプリの価格をどうするかは悩ましい問題だろう。
 右のスライドは,とある時点でアメリカのApp Storeのランキングに入っていたアプリについて,価格ごとの本数をまとめたもの。これを見る限り,0.99ドル(115円)または2.99ドル(350円)に価格設定されているアプリが多いことが分かる。ユードーのアプリも,主にこの価格に設定されているとのこと。
 ここで南雲氏は,3.99ドルのアプリがとても少なく,4.99ドルのアプリが比較的多いことを指摘し,5ドル札で買える範囲ということで,どちらの価格でもあまり違いを感じないのかもしれないと考察した。

 なお,前述の8Bitoneは9.99ドルに設定されている。南雲氏は,「安いアプリが多い中で,よいものについては適正な価格に設定したい」との考えを示した。


ユードーが犯した三つの失敗とは


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 続いて南雲氏は,これまで犯してしまった三つの失敗を告白した。
 一つめは,無料版と有料版をApp Storeに同時にアップロードしたところ,無料版のほうがやや早くリリースされ,旧バージョンの有料版より新バージョンの無料版のほうが機能が多いという状況になってしまったこと。リリースのタイミングをメーカー側がコントロールできない,App Storeならではのアクシデントといえるだろう。
 二つめは,先日PianoManをアップデートしたところ,ユーザーインタフェースのフローに良くない部分があり,世界中のユーザーから不評を買ったことだ。
 この件に関して同社は,練習曲を3曲プレゼントする「ごめんなさいキャンペーン」を行うことで対応したという。ユーザーからの意見や要望を受け,迅速に対応できることも,App Storeの利点の一つだろう。

 そして最後の失敗は,8Bitoneに関するもの。南雲氏が8Bitoneのことをブログに掲載したのは完成直後だったため,海外で話題となったときには,実はまだリリースされていなかったそうだ。南雲氏は,「もし,このときにリリースされていれば,もっと売り上げが伸びたはずだ」と話した。

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 タイミングがずれたとはいえ,海外のブログなどで紹介されたことが,8Bitoneの人気を後押したことは間違いない。南雲氏は,「言葉の壁はハンデとなりますが,強いコンセプトや商品力があれば,値段が高くても世界中の人に喜んでもらえるのではないか」と述べ,ニッチ向けでいいから他社より秀でることの重要性を説いた。

 南雲氏は,ユードーの次のミッションとして,「世界一の音楽アプリメーカーになる」ことを目標に掲げていると述べた。ユードーが目指しているのは,自社のアプリを使って作品を生み出す人々にとってのインフラを提供していくことだという。
 さらに,2009年末に「凄いゲーム」を開発することが明らかにされた。この作品は,同社の持つ音楽処理技術を用いた大作とのことで,どんなゲームか気になるところだ。
 そのほか,iPhone/iPod touch用に開発したゲームを,家庭用ゲーム機へ移植する計画もあるという。

 Aeroシリーズをはじめとするゲームのみならず,録音アプリなどの,どちらかといえばニッチな分野で,着実に世界のiPhone/iPod touchユーザーを魅了しつつあるユードー。もちろん新作ゲームも含め,同社の今後の展開に注目したい。


 新氏によるゲーム業界全体あるいはApp Storeの現状の考察や,ゲーム/アプリ開発を実践している南雲氏の解説は,すでにApp Storeに参入している人や,これから乗り込んでいこうと思っている人にとって,とても参考になる内容だったと思う。
 上で紹介したように,IGDA日本 iPhone部会では今後,iPhone/iPod touchの開発者同士が有益な情報を共有するための場としてセミナーを行っていく予定だ。App Storeの最新動向や,開発関連情報を入手したい人は,次回以降,奮って参加してみよう。

 なお次回は,9月14日に開催され,iPhone/iPod touchアプリ開発用ミドルウェアを提供しているCRI・ミドルウェアの幅朝徳氏と,大ヒットを飛ばした「スペースインベーダー インフィニティジーン」でディレクター兼グラフィックスデザインを担当した,タイトーの石田礼輔氏の講演が行われる予定だ。詳細は,IGDA日本公式サイトの告知ページで確認してほしい。
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