インタビュー
RPG好きの,RPG好きによる,RPG好きのためのRPG。NDS「セブンスドラゴン」を完成させた二人のRPG好き,小玉理恵子氏と新納一哉氏にインタビュー
“RPG好きが思いえがく,RPGそのもの”と銘打たれたセブンスドラゴン。本作は一体どのような経緯で制作され,どんな作品に仕上がっているのか? 今回,本作のプロデューサーであるセガの小玉理恵子氏と,ディレクターであるイメージエポックの新納一哉氏にインタビューをする機会に恵まれたので,本稿ではその内容をお伝えしていこう。
「セブンスドラゴン」公式サイト
「セブンスドラゴン」公式Blog
なぜ今「RPGらしいRPG」なのか
「セブンスドラゴン」制作の経緯
4Gamer:
本日はよろしくお願い致します。まず最初に,セブンスドラゴンにおけるお二人の役割と,代表作を教えてください。
小玉氏:
セブンスドラゴンのプロデューサーをやっております,セガの小玉理恵子と申します。代表作はRPGですと,「ファンタシースター」シリーズと,「魔法騎士レイアース」「エターナルアルカディア」などを作ってきました。
新納氏:
ディレクターをやっております,新納一哉と申します。イメージエポックに入ってまだ間もないのですが,前の会社では「世界樹の迷宮」や「超執刀 カドゥケウス」などを作っていました。
セブンスドラゴンの職業の中ではローグがお気に入りだという小玉理恵子氏。本当は“プリンス”を登場させてほしかったそうなのだが……詳細はインタビュー本文でご確認を |
RPGに対しては並々ならぬ思い入れがある新納一哉氏だが,意外にもファイターがお好きだという。本作でのファイターは,単なる“殴り要員”では終わらない強さを秘めている |
4Gamer:
なんというか,非常に贅沢なプロデューサー/ディレクターですね……。そんなお二人が,本作を制作することになった経緯などをお聞かせください。
新納氏:
色々とあるのですが,とりあえず単純に言うと,自分がユーザーとしてプレイしたくて,なおかつ市場に足りていない作品を考えたときに,「見下ろし型の2D RPGだ!」と思ったんです。それから,「題材として一番ふさわしいものは何か」と考えていたときに「モンスターハンター」も売れていましたし,みんなゲームの題材としてドラゴンが好きなのではないかと。ならば,ドラゴンのRPGを出してやろうと考えました。当時「ドラゴンクエストIX」が従来のコマンドバトルでなく,ある意味MMORPG的な方向に進むという話もあったので,「じゃあコマンドバトルのRPGがベストかな」と思ったんです。
4Gamer:
なるほど。市場のニーズに応えつつ,コマンドバトルのRPGを守りたかったと。
新納氏:
僕としては,スクウェア・エニックスさんが「我々はコマンドバトルを捨てて次の土俵に行くので,コマンドバトルは誰か違う人がやれば?」という温情を見せたのかなと思いまして,さっそく飛びつかせていただこうかと。若輩者ですが「やります!」と名乗りを上げたつもりだったんですよね(笑)。
4Gamer:
しかし,ドラゴンクエストIXも実は……。
新納氏:
ええ,結局はコマンドバトルにされたという話を聞いて,ショックでした。勝手な自分の思い込みで突っ走ってしまったわけなので(笑)。
一同:(笑)。
新納氏:
まぁ,色々と苦労はありましたが,企画自体は立ち上げ時からほとんど変わっていません。そして,「こういったゲームを許容してくれるメーカーさんってどこだろう」と考えたとき,真っ先にセガさんが思い浮かびまして。いざ持ち込んでみたら30分くらいで「いいよ,やるか!」と言ってもらえました。
4Gamer:
ちなみにその場には,小玉さんもいたんですか?
新納氏:
いえ,その時はまだ小玉さんはいませんでした。やると決めていただいたとき,セガの役員さんに「面白い人を付けてやるから待っとれや」と言われまして,それから小玉さんにお会いしたんです。
4Gamer:
そういえば開発者ブログでも触れられていましたね。その辺について,小玉さんからもう少し詳しくお聞きしたいのですが。
小玉氏:
先ほど新納さんが話していましたが,私もやはり「ドラゴンクエストIX」が通信主体になると聞きまして,「だったら,従来のコマンドバトルのRPGを作るなら今なんじゃないか」と思っていたんです。「エターナルアルカディア」以来,しばらくRPGには関わっていなかったのですが,新納さんが企画を持ち込んできたことで役員から「もう一度やってみないか」と話が来まして。「新納さんと気が合うようなら,お前にやってほしい」と,なんだかお見合いのような感じでした(笑)。
4Gamer:
面白い巡り会わせですねぇ。
小玉氏:
それで,企画自体は見た瞬間に非常に気に入ったので,やらせていただくことにしたんです。RPGを作るのは久しぶりだったので,正直ちょっと心配な面もあったのですが,「こういうゲームが作りたい!」という気持ちが明確に伝わってくる企画書で,おこがましい言い方かもしれませんが「じゃあ作らせてあげよう!」と思うことができました。
4Gamer:
なるほど。どこかレトロな雰囲気を持つ本作ですが,これは今の市場に足りないものを提示しているんですね。
新納氏:
レトロというと語弊があるかもしれませんが,昔のゲームがもっていた,わかりやすさのエッセンスを少しでも取り込みたいと思っていました。我々が子供の頃,最初に遊んだゲームが,主人公視点のポリゴンゲームだったら,子供ごころに怖い,難しいと感じたと思うんですよ。ゲームのハードルはすごく高かったかもしれない。だけど,たとえば「ドラゴンクエスト」が,緑の草原と青い海が見えていて,広く世界が見渡せるゲームだったから,安心して「遊ぼう」という気になったと思うんですよね。そういう気持ちになれる要素を入れたいと思いました。
4Gamer:
なるほど。では制作者としては,セブンスドラゴンは低年齢層でも安心してプレイできるようなゲームに仕上がっていると?
新納氏:
ゲームの内容自体は,低年齢層がプレイするには少々難しいと思うんですよ。ただ,興味を持ってもらえるとは思います。僕が小学生の頃は,RPGって大人の遊びというイメージがあって,一種の憧れがあったんですよね。なので,本作を背伸びして買っちゃうのは全然アリですし,実際遊んでみても,意外と進めるんじゃないかと思います。
4Gamer:
ニンテンドーDSというハードも,ゲーム内容的に,そして市場的にベストマッチだったわけですか。
新納氏:
ですね。あと子供って,ゲームってよっぽど一般性があるものでなければ,親兄弟に遊んでいるところを見られたくないと思うんです。とくにRPGに関してはそういう気持ちが強くなるだろうと思うので,そういった点でもDSはピッタリだと思います。
4Gamer:
その気持ち,良く分かります。個人的に「ドラクエ」は親の前でも遊べましたが,「メガテン」や「ウィザードリィ」はなんだか抵抗がありました(笑)。
新納氏:
はい,分かります(笑)。
小玉氏:
それこそ,社会にゲームが浸透してきた時代に「ドラクエ」シリーズを遊んで,それからしばらくゲームから離れていたという人達でも,楽しめる作品じゃないかと思います。操作の仕方に戸惑うところのないゲームなので,スムースに遊べるかと。
世界設定の深さと“RPGらしさ”へのこだわり
石に刺さった剣を抜いた者が,世界を救う
確かに,一目でRPGだと分かる作品ですよね。
新納氏:
「CMを見たときに,一目でRPGだと分かる作品にしよう」というのがコンセプトですからね。僕,よく友達に「何か面白いRPGない?」って質問されるんですよ。それで何かオススメすると,「あ,それRPGだったんだ」って言われることがすごく多いんです。なので,一目でRPGだと分かる作品にすれば,RPGファンは買いやすいんじゃないかと考えたんですよね。
4Gamer:
キャラクターと建物の比率や,マップの広さなどにもこだわって,意図的にファミコンっぽいグラフィックスを再現しているとお聞きしたのですが。
新納氏:
はい。ファミコンの頃のゲームって,画面の情報量がものすごく適性値に近かったと思うんですよ。人間って先が予測できないものを「選択しろ」って言われても,ピンときませんよね。ファミコンのRPGでは3手先くらいまで提示されて,そこから「選択しろ」といわれるので,何となく進む方向が分かりつつも,自分で道を選んで進んで行くような,自分で遊んでいる気になれるゲームが多かったという印象があります。
もう一つグラフィックスの面でいうと,昔は砂漠と森を1チップで表現できたんですが,時代が進むにつれて「砂漠と森の中間が欲しい」という話になってきて,それを繰り返して行くうちにどんどんマップが広くなっていって……。
4Gamer:
確かに,RPGのグラフィックスがリアルになっていくにつれて,記号的なオブジェクトが許容されなくなり,ゲーム内世界がどんどん広くなっていった……という印象は,一ゲーマーとしても感じます。
新納氏:
はい。デザイン優先で,ゲーム性に不都合が多いものが増えてきたように思います。本作ではデザイナーさんに「砂漠と森の中間部分は欲しいけど,比率はファミコンにしてくれ」と,かなり無理を言いました(笑)。
4Gamer:
そういったこだわりも,一定年齢以上のゲーマーにとって“懐かしさ”を感じさせる一因なんでしょうね。
話をゲーム性の部分に戻させてもらうと,製作者側の意図としては,ある程度誘導しつつも,進め方はプレイヤーに委ねる,というものを想定しているわけですか。
新納氏:
そうです。「普通はこっちを選ぶだろうな」という選択肢を提示しつつも,プレイヤーは「せっかくだから,俺はあえてこの扉を選ぶぜ!」みたいな感じで。要所要所で「北に行け」って言うんですけど,そこで素直に北に行かない人は絶対いると思うんですよね。それでも,ゲームは進行するようになっています。まぁ,パーティが全滅するのはプレイヤーの勝手ということで(笑)。
小玉氏:
入った瞬間,ドラゴンと遭遇して全滅するようなダンジョンも至るところにありますからね(笑)。でも,それも無駄な経験ではないと思いますよ。「ドラクエ」で言うならば,橋を渡った瞬間に敵が強くなって,「ここはまだ来ちゃいけない場所だったか……」と悟るような。
そういえば,ドラゴンに奪われた土地にはフロワロという美しい毒花が咲き誇るという,興味深い世界設定も印象的ですが,その辺にもこだわりがあるのでしょうか?
新納氏:
やはり“絵として”のこだわりでしょうか。RPGファンには情感を大事にする人が多いと思うんですよ。だから,無骨なドラゴンが襲ってくるだけではなく,「ドラゴンと何か」というキーワードにしなければ,きっとビジュアル的に成立しないだろうなと考えました。本作では“美しさ”の方向で攻めてみようと,花をテーマにすることに決めたんです。
4Gamer:
ブログでも小玉さんが書かれていましたが,花が咲き乱れると世界が滅亡してしまうという設定には,本当に女性的感性,美しさを感じますよね。
小玉氏:
はい。咲き乱れる花は美しいものですが,怖さも感じることがあると思います。暗闇の中で,花が光っているように見えたら怖いじゃないですか,フロワロって美しいけれどそういう怖さを持つ花だと思うんですよね。それに,ドラゴンが出てきたからっといって,世界中が毒の沼だったら絵的には美しくないですし。企画書のトップページから,花は咲き乱れていましたね。そのエキセントリックさに一目惚れしました。
新納氏:
ただ,世界中に花が咲き乱れるという絵を,どう表現したらいいか分からなくて,デザイナーは相当苦しんでました。プログラマーにも,「世界の全チップに花が咲くんですよ」って言ったら「それどうやってやんの?」って(笑)。この部分はキーワード的に入れたために,ものすごい苦労を生み出しました。ハード的に苦しい部分もあって,詰めが甘い部分も残ってしまったので,「世界中が○○になる」というネタは,いつかもう一度チャレンジしてみたいです。
4Gamer:
人類が滅亡寸前という世界観はかなりハードですが,キャラクターデザインは非常に可愛らしいところも印象的ですね。
新納氏:
滅亡寸前だからといって,おどろおどろしい感じにはしたくなかったんですよ。現実の地球もそうですが,結構危ないはずなのに,みんなのんきにしてるじゃないですか。そういう雰囲気も出していきたかったので,キャラクターは可愛くしました。
4Gamer:
では町の人々も,世界が滅びそうだからといって悲観的になっているというわけでもないんですか。
新納氏:
はい。国の偉い人はヤバイヤバイと騒いでいるのですが,下々の人達は「まぁ,誰かが何とかしてくれるんじゃない?」みたいなことを言ってます。自分の生活に追われている人のほうが多い,というイメージですね。
小玉氏:
だから,プレイヤーのパーティが頑張ってドラゴンを倒して,フロワロを消しても,町に行ったらそれを知らない人もたくさんいます。
4Gamer:
ある意味リアルですね(笑)。
新納氏:
そういう話が好きなんです(笑)シナリオの人と話すときに,自分のシナリオ観を説明する際に良く使う例があるんですよ。石に剣が刺さっていて,その剣を抜いた人が魔王を倒せる,という設定の話です。ある村人がその剣を抜いて魔王を倒すんですよ。でも,それはたまたまその村人に剣を抜く“少しだけのやる気”があっただけ,ほかの村人は「俺はどうせ勇者じゃないから」「俺には無理」などと考えて,最初から抜こうとしなかっただけなんです。やってもいないのに「抜こうとしたが抜けなかった」とか。つまり僕の中では“やる人がやった”だけであって,勇者の血族や魔法なんて関係ないんですよ。「なんて夢のない人だ!」とか笑われたりします(笑)。
4Gamer:
でも,“選ばれし勇者”でなくても,少しだけ勇気があれば世界を救えるというのは,考えようによってはリアルですし,考えようによっては夢もありますね。
新納氏:
ですね。そういう考えが自分の根底にあって,セブンスドラゴンはそういうゲームにしたつもりです。大統領が主人公達を選ぶときに「誰しも必ず輝く」というセリフをいうんですが,それは「誰がやっても,やれる。主人公達は特別じゃない,俺はその機会を与えてやっただけだ」というイメージだったりします。
4Gamer:
だから,新納さんの手がけるRPGには,特定の主人公がおらず,キャラクターメイキングで自分の分身を作り出せるシステムになっているんですね。
新納氏:
そうです。群衆劇にしたかったという想いがあります。
4Gamer:
聞けば聞くほど,新納さんらしいRPGですね……。設定にも力が入っていますし。
新納氏:
今回,設定には力を入れました。シナリオ作家さんと良くお話をするんですが,「新納さんは理系だから,それっぽい設定書けないでしょ」って言われたんですよ。それで「なにおお!」と奮起して,今回は書いてみました。でも,「結局新納さんはSFになるからな」「理系はいつもSFにするんだよな」「やっぱり神話は書けなかったか」とか言われてしまいました(笑)。
小玉氏:
確かに神話はないかも(笑)。
新納氏:
ないですねぇ。魔法の存在が書けないんですよ僕は。
4Gamer:
新納さんの作品では,シナリオに大きなどんでん返しがあって,それに期待しているユーザーも多いと思うのですが,本作ではどうなんでしょう?
新納氏:
はい。これからプレイする人もいるでしょうし,詳しい内容については話せませんが,本作でも用意してありますので,期待してください。
プリンスとギャンブラー?
職業への熱すぎるこだわり
今回は職業が7種類ということで,「世界樹の迷宮」と比べると若干数を絞った感じですよね。
新納氏:
職業については,制作上の都合ですね。ちびキャラを沢山描かなければいけないゲームなのですが,職業を一つ増やすと,絵が60枚くらい増えるんですよ。なので,プレイヤーがどういう職業を求めているのか,絞り込むのにすごく悩みました。
ただ僕の中では,もし次にRPGを出すならば,3職業に絞ってみようという気持ちもあります。3職業4人パーティーで,絶対重複する職業が出てくるというのも,何かソソるものがあるんじゃないかと。
4Gamer:
確かに,それはそれで面白そうですね。パーティ編成にすごく悩みそう。
新納氏:
でも,正直こういうゲームは「セブンスドラゴン」で最後だろうなと思います。“2”が作れないゲームを作ってしまいました。原画の作家さんにかけるコストや,そのアニメーションを作る2Dスタッフのコストがあまりに高くて……。もう1本やると言ったら,みんな嫌がるだろうと思います。1度限りのネタですね。
4Gamer:
そんな……。もしも次回作があるのなら,ブログで小玉さんが書いていた“プリンス”が登場するのかと,楽しみにしていたんですが……。
新納氏:
3Dで良ければ次回作があってもいいとは思っているんですけどね。モタさんの描くちびキャラって,3Dですごく映えるデザインなんですよ。なので,可愛いキャラクターを3Dでやればいいんじゃないかというのが,今の自分の考えです。それならアクセサリーを付けて,自分なりのカスタマイズもできるし,今風なのかなと。ただ,そうするとDSじゃ厳しいので,やるなら時期を待つ必要がありますね。
小玉氏:
プリンスは激しく拒否されたんですよ……。
新納氏:
小玉さんにプリンスを入れろと何度もいわれて,次回作をやるなら“ギャンブラー”をいれようかなと思ったりもしました。
小玉氏:
先日も「“プリンセス”がいるんだから“プリンス”がいても良いんじゃないの!?」という話をちょうどしていて。
新納氏:
そのとき僕は,男でカッコイイ職業なら,プリンスより“ホスト”が良いと言ったんですよ。でも,ホストだと職業にはしづらいので,それっぽい感じの延長として,ギャンブラーが良いんじゃないかと。
小玉氏:
そうそう! やっぱり「X-MEN」の“ガンビット”でしょうと。
新納氏:
そこで意見が一致しました(笑)。
4Gamer:
趣味が渋いですね……!
新納氏:
でもギャンブラーだったら女の子も出したいので,男専用じゃあないですけどね(笑)
4Gamer:
単純にプリンスとプリンセスにしなかったのは,やはり新納さんなりの深いこだわりが?
新納氏:
あります。プリンスにはあんまり興味がなくて(笑)。僕は一般的なオタクゲーマーだと自負しているので,プリンス×2,プリンセス×2よりは,プリンセス4人のほうが100倍受けるだろうと(笑)。自分の気持ちに正直にやりましたね。
4Gamer:
もっとこう,職人らしいゲーム論的なこだわりを期待していたのですが……(笑)。
小玉氏:
新納さんとはもう一度プリンスについて語り合う必要があると思います。私の考えているプリンスと新納さんのプリンスは絶対違いますから! 私の思っているプリンスは,単に世継ぎの若様というわけでなく,お城を抜け出して町を歩き,市中を自ら見回って,悪漢が出たらレイピアで戦うとか……。
新納氏:
わかりました。
小玉氏:
わかりましたか。
新納氏:
それは「SIMPLE2000シリーズ THEプリンス」として出しましょう。
4Gamer:
意外な新企画が!
小玉氏:
じゃあもうギャンブラーでいいです! ギャンブラーでいいので,元々は亡国のプリンスみたいな感じで……。
新納氏:
はいはい分かりました。じゃあそれで。
4Gamer:
……少々予想とは違いましたが,職業について深いこだわりがあるのは分かりました。では,戦闘システムへのこだわりについてはどうでしょう。
新納氏:
戦闘については,分かりやすいのが一番だと考えています。ターン制のコマンドバトルというのは基本として,スキルに関してはスキルツリー制を採用しました。やはり,みんな「どのキャラクターが強い,この技が強い」という相談が大好きなんだと思うんですよ。そこは徹底していこうと思っていましたので。
4Gamer:
プレイヤーの好みによって伸ばし方が違ってきますね。
できれば3派閥くらいに分かれて,延々と議論してくれたら美しいなと思います(笑)。その点に関しては,アクションRPGの名作「ディアブロ」が本当に凄いと思うんですよ。あの高みに僕もいつかいってみたいです。10年後くらいに……。
4Gamer:
実際にプレイしてみると,戦闘のテンポが早くて,レベル上げも快適ですね。
小玉氏:
意外と,レベルを上げようと意識することは,あまりないかもしれませんね。フロワロを踏み消している間に,気がついたらレベルが上がってるので。
4Gamer:
そういえばフロワロは踏んで消せるんですよね。これって,3D RPGのマッピングにも通じる,地味な楽しさを感じてしまったのですが。
新納氏:
あれは“プチプチ”のつもりで作りました。プチプチを全部潰したくなる気持ちです。ただ,フロワロはそこら中に咲いているし,踏むとLIFEも減るので,延々と潰すのはしんどいかもしれませんね。
4Gamer:
公式サイトで聴いた感じでは,BGMも凄くRPGらしいですよね。
新納氏:
楽曲に関してはすごくややこしいオーダーをしました。これは「世界樹の迷宮」のときからそうなんですけれど,まず「口ずさめる曲にして下さい」というのが第一。あと,コアファンが喜ぶのではなく,「みんなが好きそうな曲をハイクオリティで」とお願いしました。
4Gamer:
みんなが好きそうな曲,ですか。
新納氏:
はい。で,「みんなが好きな曲ってどんなのだろう」って,コンポーザーの古代さんと相談したんですよ。たとえば「ロマサガ」の伊藤賢治さんや,植松さんや,ほかにもゲームを10本くらい例に挙げたりしました。果ては,同人ゲームの曲の話なんかもしましたね。もう全ジャンル,人気があるゲームミュージックやそれ以外も含めて,なんで受けているのか,なぜいいのか,延々と相談しました。
4Gamer:
なんと,同人ゲームの曲にまで話が及んでいたんですか。
新納氏:
はい。正直な話をすると,今はコンシューマよりも売れる同人ゲームがあったりするので,垣根を分ける必要はないんじゃないかと僕は思っています。
日本,そして海外のゲーム市場に対する想い
新規タイトルが売れる環境を作っていきたい
ところで新納さんは,現在のゲーム市場についてどうお考えでしょうか。本作のような作品が足りていない,というお話は聞きましたが,もう少し突っ込んだ意見を聞かせていただきたいなと。
新納氏:
やはりデベロッパにお金がなく,打つ手が少ないというのが問題でしょうか。“今あるタイトル”という枠の中で商売をしていて,流行っているものしか売れない。市場分布図を見ると,尖っているところとまったく何もないところで,完全に市場のグラフの形が出来上がってしまっているんですよ。僕としては,“何もないところ”をほじくり返さなければまずいのではないかという気持ちがあります。だから,ダンジョンRPGもそうなんですが,なるべく何もない場所に切り込んでいきたいなと思っています。ジャンルもさまざま,クオリティも玉石混淆,というのが自分がお客さんの立場で望む市場です。
4Gamer:
確かに,セブンスドラゴンや世界樹の迷宮のような作品は,今のプレイヤー達にとって逆に目新しく映ってしまうところもあるかもしれないですね。やはり,現在のゲーム市場に対しては,昔からのRPG好きとしては違和感を覚えますか?
新納氏:
そうですね。僕が「こんなの普通じゃん」って思うものも,いざ発表してみると,凄く注目されたり議論されたりするんですよ。「ファミコンの頃だったらこんなゲーム注目されないよ」って思ったりします。そういうところでは,今の市場はアンバランスなのかなと思ってしまいます。
4Gamer:
では,海外市場については如何でしょうか。日本との違いなど,何か思うところなどありますか?
新納氏:
海外のプレイヤーは,また違った目でゲームを評価してくれますね。「超執刀 カドゥケウス」を例に出すと,日本ではぜんぜん売れませんでした。でも,海外だとかなり長くリピートがかかっていて,全世界での売り上げは数十万本なんですよね。
4Gamer:
それは凄いですね……。
新納氏:
海外のレビューなんかを見ていると,「新しいゲームを評価しなければ,我々のゲーマーとしての責務が果たせないのではないか」みたいな空気があるんですよね。だから新しいゲームが出たらとりあえず遊んで,冷静な判断を下してくれるんです。それで評価が高かったら,みんな買ってくれると。週に2千本みたいなリピートなんですけど,ずっと売れ続けているんですよ。海外はそういうところが面白いですね。
4Gamer:
面白いものは面白いと,ちゃんと評価してくれるのは,作り手としては有り難いでしょうねぇ。日本は“斬新でないとダメ”“オリジナリティこそが重要”“ストレスを感じさせるのは禁物”という傾向が少なからずあって,それがある意味“縛り”として機能し,結果的に難しい市場になっているような印象もあります。それを意識するあまり,ある意味とがった作品は作りづらいというか。
新納氏:
そうなんですよね。ただ,自分はそこで「海外のほうが芽があるので海外を狙おう」とは思わないんです。僕は国内の市場を何とかしたいんですよ。自分がこうやってゲームを作っていられるのも,やはり国内のゲームメーカーとプレイヤーのおかげなので,その方たちに恩返しがしたいんです。新規タイトルで10万本売れるようなゲームをなんとか作っていきたいです。「なんだ,新規タイトルでも,それなりに売れるじゃないか」という空気を作れれば,ほかの人達が企画書を出したときに通りやすくなるはずなんですよ。自分なんかより良いゲームを作れる人は山ほどいるはずなので,彼等がもうちょっと自分の作りたいゲームの企画書をかけるようにしたいんです。で,そのゲームを僕が楽しめれば嬉しい(笑)。
小玉氏:
新納さんとも良く話すのですが,私達が作ったゲームを遊んだ人に,「私はこういうのが作りたい」「俺ならこうする」という風に出てきてほしいんですよ。私の場合,「ファンタシースター」を遊んでくれた人がセガに入ってきて,一緒に“4”を作ったりしているんです。なので新納さんがおっしゃったように,これからは若い人達の企画を一緒に通していくような仕事ができたら嬉しいですね。
4Gamer:
では最後に,読者に対してのメッセージをお願い致します。
小玉氏:
私の作ったものがゲームを遊んだ後にも会話の種になればいいなと,常々思っています。私の場合,仕事関係で海外の方と良くお会いするのですが,仕事の話では全然盛り上がれないんですよね。でも,そんなとき誰かが「そういえば「D&D」は遊んだことある?」って話を始めると,凄く盛り上がるんですよ。言葉は通じないことも多い仲なのですが,「D&D」の話なら共通の単語で話が弾みました。それは,すごくうれしい体験でした。
なので,セブンスドラゴンも学校や職場,ネット上で共通の話題になって盛り上がれるような,そんなゲームになればいいなと思っています。あと,発売後もブログや公式サイトは続けて行きますし,ユーザーの皆様と一緒に楽しんで行くつもりです。
新納氏:
僕個人が一ゲームファンとして,こういうゲームを遊びたかったので。もし同じ気持ちの方がいたら,是非楽しんで下さい!
4Gamer:
本日はありがとうございました。
とはいえ,両氏が自信満々に語ったように「ひと目でRPGだと分かる」「世界観,システム,グラフィックス,音楽にこだわった」「戦闘が快適な」「議論に値する」作品に仕上がったことは,一プレイヤーとしても十分頷けるところだ。
もう少し個人的な感想を述べるならば,セブンスドラゴンは実に遊びがいのあるRPGだった。職業は7種類で上級職も存在しないが,スキルの延ばし方によって職業の特徴が大きく変化するため,単に複数種類の職業を組み合わせるだけでは,満足のいくパーティが編成できないのだ。各キャラクターのスキル取得ルートをある程度立てたうえで,弱点を補い合うような,あるいは組み合わせることで戦術が広がるようなパーティ編成を(こだわりのあるRPGプレイヤーとしては)考える必要がある。
グラフィックスや楽曲の秀逸さは言わずもがな。丁寧なドット絵が独特の世界観をうまく演出しており,古代祐三氏が手がけた「みんなが好きそうなハイクオリティな曲」が,プレイを大いに盛り上げてくれる。
その反面,モンスターとのエンカウント率がかなり高めに設定されていたり,いわゆるオートバトル機能が搭載されていなかったり,世界中に咲き乱れるフロワロを踏むたびにダメージを受けたりと,人によっては“ストレス”として受け取れる要素も存在する。スキルツリーをはじめとする各種情報の見せ方も,親切なゲームに慣れ親しんだ人にとっては,若干不親切に感じることもあるかもしれない。
しかし,2D RPGらしい2D RPGを求めてセブンスドラゴンを遊び始めた筆者としては,本作は間違いなく“楽しい”RPGだし,安易に遊び手に媚びず,こだわりを貫き通したゲームデザインからは,頼もしささえ感じてしまう。
そんなRPGらしい,そしてなにより新納氏らしい作品であるセブンスドラゴンは,発売初週から好調なセールスを記録。新納氏の「新規タイトルで10万本売れるようなゲームをなんとか作っていきたい」という目標も,すでに達成されたものと思われる。国内のゲームメーカー/ゲーマーに対する恩返しとしては,誇っていい結果を出したというわけだ。
「3Dで良ければ次回作があってもいいとは思っている」「もし次にRPGを出すならば,3職業に絞ってみようという気持ちもあります」など,インタビュー中に興味深い発言をしていた新納氏。そういったアイデアが形になるのは当分先だろうが,それがどのような形で,どのようなジャンルのゲームになるとしても,議論に値するタイトルに仕上がることは間違いないだろう。次回作にも大いに期待したい。
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