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「FINAL FANTASY XV」と「KINGSGLAIVE」は,同じ世界をまったく違う表現方法で描く。田畑 端氏と野末武志氏が語る“ゲーム”と“映画”
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印刷2016/06/15 10:00

インタビュー

「FINAL FANTASY XV」と「KINGSGLAIVE」は,同じ世界をまったく違う表現方法で描く。田畑 端氏と野末武志氏が語る“ゲーム”と“映画”

画像集 No.009のサムネイル画像 / 「FINAL FANTASY XV」と「KINGSGLAIVE」は,同じ世界をまったく違う表現方法で描く。田畑 端氏と野末武志氏が語る“ゲーム”と“映画”
 スクウェア・エニックスは,米国ロサンゼルスで開催中のE3 2016に,「FINAL FANTASY XV」PS4 / Xbox One。以下,FFXV)のプレイアブルデモを出展している。また会期中の3日間は,連日FFXVに関する番組が会場から配信され,その中でゲーム本編や映像作品「KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV」などに関する最新情報が公開される。

 今回4Gamerでは,FFXVのディレクターを務める田畑 端氏と,シネマティック・ディレクターの野末武志氏に,9月30日の発売に向けて開発が佳境を迎えるFFXVと,7月9日の劇場公開が迫る「KINGSGLAIVE」について,改めて聞いた。


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FFを知らない人にFFXVをアピールするための楽曲コラボ


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。今回のE3ではFFXVのプレイアブルデモが出展されるということで,ファンも盛り上がっているかと思います。こうしたFFXVに対する期待感は,以前からじわじわ高まっていたとは思うのですが,3月31日の発表会「UNCOVERED FINAL FANTASY XV」で一気に大きく膨らんだと感じています。当事者のお二人としてはいかがでしょうか。

画像集 No.007のサムネイル画像 / 「FINAL FANTASY XV」と「KINGSGLAIVE」は,同じ世界をまったく違う表現方法で描く。田畑 端氏と野末武志氏が語る“ゲーム”と“映画”
田畑 端氏(以下,田畑氏):
 正直なところ,発表会が始まるギリギリまで忙しかったので,それ以前の空気はあまりつかめていなかったんですよ。ただ,発表会後の盛り上がりのようなものは確かに実感していますし,実際に状況もいろいろ変化しています。

4Gamer:
 パッケージの予約も好調だと聞いています。

田畑氏:
 非常に好調です。しかも日本では,まだPS4やXbox Oneを持っていないという方々が,かつてないくらいの割合で予約してくださっているとも聞きました。それって本当にすごいことですよね。また欧米でも,おかげさまで当初の目標の倍の数字を達成しています。その意味では,すごく安心しました。

4Gamer:
 となると,目標として掲げた1000万本も達成できそうですか。

田畑氏:
 今の推移を保ったままで,かつ全プラットフォーム合計なら可能性がある,という感じですね。ただ,これから発売日までに何が起きるか分かりませんから。途中,何かがへし折れるようなことがあるかもしれませんよ(笑)。

4Gamer:
 またそんなネガティブな話を(笑)。
 それではE3で公開された新トレイラーについて教えてください。今回は,世界的に有名なDJのアフロジャックさんが楽曲を手がけていますね。


田畑氏:
 アフロジャックは日本ではまだ知らない人もいるかもしれませんが,特に欧米ではとても人気のあるDJなんです。実際,先行でE3トレイラーを観たアメリカ人の業界関係者は,すごく喜んでいました。

画像集 No.002のサムネイル画像 / 「FINAL FANTASY XV」と「KINGSGLAIVE」は,同じ世界をまったく違う表現方法で描く。田畑 端氏と野末武志氏が語る“ゲーム”と“映画”
野末武志氏(以下,野末氏):
 ビヨンセの楽曲を手がけたり,自身でもグラミー賞を獲得したりと,いわば超大物なんです。

田畑氏:
 彼はFFシリーズの大ファンで,過去にはFFVIIIやFFXの曲を16bit風にリミックスしたりもしているんですが,以前ライブのために来日したとき,スクウェア・エニックスに「FFXVをプレイしてみたい」というリクエストをくれたんです。
 僕らとしては,そんなビッグネームが来ても何もおもてなしできないぞ,と困ってしまったのですが,彼は「いや,何も気を遣わなくてもいいから」「アフロジャックではなく,本名のニックとしていくから,プレイできればそれでいい」と。
 実際遊びに来てもらいましたが,彼はずっとフロアの片隅で開発バージョンのFFXVを遊んでいたんです。僕らも「そろそろ仕事に戻っていい?」みたいな感じで(笑)。

4Gamer:
 ただの熱心なFFファンじゃないですか(笑)。

田畑氏:
 そうなんですよ。ただ,彼の遊び方は極めてディープかつコアで,スタッフにいろんなことを質問したり,逆にいろんな話をしてくれたりしたので,僕らにとっても有意義な時間でした。また彼は「KINGSGLAIVE」や,そもそもFFXVが目指す方向性についても,すごくエキサイトしてくれたんです。

4Gamer:
 ちなみにアフロジャックさんは「KINGSGLAIVE」について,どんな感想を抱いていたのでしょうか。

田畑氏:
 映像にちりばめられている歴代FFシリーズのエッセンスに気づいてくれました。

野末氏:
 映像を作った身としては,素直に嬉しかったです。アフロジャックはFFシリーズに詳しいので,「これはかなりコアなファンじゃないと分からないだろう」という部分にも気づいてくれたんですよ。メチャクチャ興奮してくれて,本当に“FF好きのニック”でしたね。もう普通に熱心なFFファンと話しているのと何も変わらない。

田畑氏:
 彼はFFXIIIも何度かクリアしているそうなんです。「どこが面白かったか」と尋ねたら,「成長していくのが楽しい。その過程を自分でいろいろ変化させられるのがいい」という答えが返ってきました。

4Gamer:
 日本人の感覚に近いですね。

田畑氏:
 そうなんです。「欧米のゲームにはコツコツ積み上げていくものがない」とか言い出すんですよ。アフロジャックはオランダ人ですが,欧米では少し珍しいタイプのゲーマーだと思います。
 ともあれ,そういうことがあって,世界中にいるFFシリーズファンとアフロジャックファンを融合して,一緒に盛り上げられるような取り組みができないかという話になったんです。もっと前からそういう話自体はあったんですけど,会ったことで具体化しました。

4Gamer:
 具体的に企画として動かしたのが,このタイミングだったわけですね。

田畑氏:
 はい。ちょうどE3で公開するトレイラーの楽曲を準備するタイミングだったので,彼にお願いしてみました。彼も二つ返事で「OK,それやろう」と快諾してくれました。当初は16bitでピコピコやろうと考えていたらしいんですが,僕らは「今回はそっちじゃないから」と(笑)。彼は昔のFFシリーズにも詳しいんですよ。

野末氏:
 田畑よりもはるかに詳しいんです。

画像集 No.004のサムネイル画像 / 「FINAL FANTASY XV」と「KINGSGLAIVE」は,同じ世界をまったく違う表現方法で描く。田畑 端氏と野末武志氏が語る“ゲーム”と“映画”

4Gamer:
 16bitですか。それはそれで聴いてみたかった気もします(笑)。

田畑氏:
 そんな感じで,このコラボレーションは非常にフレンドリーなものなんです。仮に,ビジネスとしてタイアップしようというオファーだったら,実現しなかったと思いますよ。1ファンとして,かつアーティストとしてより良いものにしたいという強い気持ちがあったからこそのコラボです。

4Gamer:
 出来上がった楽曲を聴いて,どう思われましたか。

田畑氏:
 いつものFFという感じではないですし,良いスピーカーを使って,空間を音で包み込むような環境で聴くと,意図するところがしっかり伝わる仕上がりになっています。やっぱり,彼が作る音楽はクラブミュージックですから,そういった場で,全身で音を感じながら踊れるようになっているんです。
 実を言うと僕は途中までPCのしょぼいスピーカーで聴いていたので「ここ何かおかしくない?」みたいな指摘をしていたんですけど,あるとき「しまった! 彼はハコのプロだった!」と思い出して(笑)。実際,彼はライブで聴かせることを前提にして曲を作っていたようです。

4Gamer:
 そうなると,一度は整った環境の中で聴いてみたいですね。

田畑氏:
 ええ。ただ最終的には,スマートフォンやPCで聴く人も楽しめるようなミックスをお願いしました。

4Gamer:
 楽曲のコラボと言うと,Florence and the Machineによる「Stand by Me」のカバーをFFXVのテーマソングに起用していますよね。原曲は同名映画の曲としても知られていますが,FFXVの“男4人の旅を描く”というコンセプトや,キャンプで4人が火を囲むシーンなどで,その映画が思い起こされたので,ピッタリの選択だと思いました。

田畑氏:
 変化球じゃなく直球で来た,という感じですか?(笑)。

4Gamer:
 ただ,その映画のイメージが強い曲でもあるので,テーマソングにするにはいろいろと難しい面もあったと思うのですが。

田畑氏:
 もちろん,そこはいろいろ考えました。だからこそ原曲ではなく,今のアーティストにモダンな曲としてカバーしてもらったんです。


4Gamer:
 どこがというわけではないのですが,FFっぽいアレンジという印象を受けました。

田畑氏:
 FFっぽく感じられるかどうかは人によると思いますが,確かに独自の世界観を持ったアーティストですよね。フローレンスは「そうした自分の長所を出した曲にすればいいんだろう」と考えてくれたようです。僕自身は,それがオールディーズではなく,モダンな音として響けば大丈夫だろうと考えていました。

4Gamer:
 ちなみにあの曲は,FFXVで使うためにカバーしてもらったんですか。

田畑氏:
 そうです。こちらはアフロジャックのケースとは違い,最初からFFXVというコンテンツと,Florence and the Machineというアーティストの正式なコラボとして企画しました。

4Gamer:
 有名な楽曲のカバーをテーマソングに選んだのは,田畑さんが以前のインタビューでおっしゃっていた「多くの人にアプローチする」という狙いがあるのではと思うのですが。

田畑氏:
 まさにそのとおりです。やはり「Stand by Me」は誰もが知っている曲ですから,今まで“FF”と言われても何とも思わなかった人達が,これを聴くことで反応する可能性が生まれますよね。そこは,正直言って狙っていたところです。
 また「Stand by Me」が流れた瞬間,ある種のとっつきにくさが緩和されると思うんですよ。何となくですが,「物語性を帯びた旅なんだろうな」と感じてもらえるんじゃないかと。

4Gamer:
 ノクトの置かれている状況に歌詞を当てはめてみると,あるときは一緒に旅する3人の仲間に対する気持ちになったり,またあるときは父親のレギス王に対する心情になったりして,しっくり来ます。

田畑氏:
 おっしゃるとおりです。ただ,歌詞がはまるというのは,理由としては一番めではなかったです。まずはモダンな「Stand by Me」が欲しかった。そのあと歌詞をよくよく読み込んでみたら,ピッタリ当てはまる内容だったので,具体的に企画にしたという感じです。

4Gamer:
 なるほど。ではちょっと音楽の話から離れて,「UNCOVERED」での発表直後に第1話が公開されたアニメシリーズの「BROTHERHOOD FINAL FANTASY XV」の反響はいかがでしょう。

田畑氏:
 予想よりも,かなり良いですね。日本での反響はだいたい予想していたとおりなのですが,海外の反応が非常に良いです。
 もちろん日本のアニメが海外でニッチな人気を誇っているのは知っていたんですけれども,FFシリーズのファン以外にも,これまでFFに興味がなかった人達がかなり観てくれているみたいです。
 またゲーマー層も,ゲームのキャラクターを表現する手段としてアニメを受け止めているという,ちょっと興味深い結果が出ています。

4Gamer:
 キャラクターを表現する手段,ですか。

田畑氏:
 アニメだと,日常を描きながら物語を走らせられるんですよ。たとえば第1話では,ノクトが料理に入っている野菜を避けながら会話を続けるシーンがありますけれども,あれをゲームで再現しようとすると,どうしても操作が入ってしまうので,連続性を持たせて物語を成立させるのは難しいんです。
 でもアニメだと,あの距離感を保ったまま物語を続けられるんですよ。「KINGSGLAIVE」だとそういったゲームでは描けない部分をハイエンドで見せていますが,「BROTHERHOOD」では一番キャラクターに近い日常の部分を見せているので,ゲーマーは新鮮に感じるんじゃないでしょうか。

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「KINGSGLAIVE」はセリフがなくとも感情が伝わる映画的表現を目指した


4Gamer:
 それでは,劇場公開が迫っている「KINGSGLAIVE」についても教えてください。ヒロイン・ルーナの声優をFFXVと変えているのには,何か理由があるのでしょうか。

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野末氏:
 まず前提から説明すると,「KINGSGLAIVE」では,ゲーム的表現ではなく映画的な表現というアプローチを試みています。そのためモデリングもより感情表現にフォーカスして,記号的な要素を徹底的に排除していますし,また英語版のボイスにはモデルとなった俳優を起用しています。

4Gamer:
 「UNCOVERED」のステージにも登場したアーロン・ポールさんレナ・ヘディさんといった方ですね。

野末氏:
 そして日本語版は,英語版の吹き替えという位置付けなので,主要人物のボイスは,基本的に洋画の吹き替えを担当する方にオファーしています。たとえばレギスの日本語ボイスは,英語版でレギスを演じているショーン・ビーンさんの吹き替えを数多く担当している磯部 勉さんにお願いしました。

4Gamer:
 なるほど。

野末氏:
 最初の質問にお答えすると,そうした前提を踏まえて「KINGSGLAIVE」のルーナ役は忽那汐里さんにお願いしています。ルーナはお姫様でありつつもすごく芯が強くて,ノクトを守るためなら自分の命がどうなってもいいという人物です。映画的な表現を考えた場合に,そういった人物を表現できて,かつ映画女優として高い実績のある忽那さんが最適であると判断しました。

田畑氏:
 忽那さんは,オーストラリア出身で英語のネイティブスピーカーなんですよ。だから英語版の演技を観て何を表現しているかを理解した上で,日本語吹き替えができるんです。そこも大きいです。

野末氏:
 まとめると,「KINGSGLAIVE」の日本語ボイスは,コンセプトをより深く理解してくださる方にお願いしているというわけなんです。

田畑氏:
 FFXVと「KINGSGLAIVE」は表裏を成す存在ですが,それぞれ独立したものとして,ゲームはゲームとしての表現を,映画は映画としての表現を突き詰める。その違いを,今だからこそできるアプローチとして実現するのも面白いんじゃないかと思っています。
 その中でルーナは,それぞれのコンテンツの立ち位置をより明確にし,かつお互いをブリッジするキャラクターなんです。FFXVと「KINGSGLAIVE」のルーナは,ボイスだけじゃなくキャラクターのモデリングも違うんですよ。

4Gamer:
 確かに雰囲気が違います。

「FFXV」(上)と「KINGSGLAIVE」(下)のルーナ
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野末氏:
 実はアーデンのモデリングも違うんですよ。衣装が強烈なせいか,あまり話題にならないのですが。

田畑氏:
 FFXVと「KINGSGLAIVE」の双方に登場するキャラクターでモデリングが同じなのは,レギスくらいですね。これは意図的にやっています。

4Gamer:
 お二人が考えるゲーム的な表現と映画的表現の違いについて,少し説明してもらえますか。

野末氏:
 昨今ではゲームの表現力がどんどん上がっていますし,実際にFFXVでもかなり豊かな感情表現を実現できています。しかし細かい表情のディテールまでは表現しきれないので,ボイス,つまり声優さんの演技で補っているというのが実状です。

田畑氏:
 たとえば,ファミコンやスーパーファミコン時代のゲームにおける感情表現は,映像的な部分が3,テキストが7くらいでした。それがFFXVだと,キャラクターの身体表現が6〜7,残りをボイスで表現しています。そこを「KINGSGLAIVE」では,身体表現だけで感情を表現することを目指しています。

4Gamer:
 セリフがなくとも,たとえば目の動き一つで感情を伝えると。

田畑氏:
 はい。それをゲームでやろうとすると,かなりハードルが高いんです。専用のシーンを作り,さらに分かりやすくなるよう前後の文脈を用意して,初めて伝わるという感じですから,突発的にやっても全然伝わらないんですよ。
 それはゲームを遊んでいる人達が,視覚だけですべてを理解しているわけではないからです。ボイスやセリフ,ユーザーインタフェースなど,すべてを含めてゲームを楽しんでいるので,いくら表現力が上がったと言っても,そういう部分はまだまだ映画にはかなわない。

野末氏:
 とくに目を使った感情表現がまだまだですね。これはFFXVに限らずゲーム全般に言えることで,個人的にはもう少し目回りの表現が増してくるといいなと思っています。

4Gamer:
 最近だと,「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」は,おっしゃるようなセリフを必要としない感情表現がかなり良くできていると感じました。

野末氏:
 ああ,確かにあれはいいですね。

田畑氏:
 「アンチャーテッド」のコンセプトは,「KINGSGLAIVE」に近いのかもしれません。初めて触れる人でも,“ゲーム”という先入観を持たずに楽しめるよう作られていますよね。遊びの提供にしても,雰囲気の作り方にしても,あるいは絵の表現にしても。不要なゲームの文法や昔から引きずっている余計なものを,徹底的に振り切った作りになっていると感じます。

4Gamer:
 ゲームを知らない人が,誰かのプレイを横から見ていても楽しめると思います。

田畑氏:
 ところがFFシリーズだと,それが難しい。たとえば,ちょっと変わった話し方をするキャラクターがいたり,2D時代からのお約束になっている部分が多かったりするんです。そういった,ファミコンやスーパーファミコン時代に生まれた文化を,FFXVでは,「アンチャーテッド」ほど振り切らずに,モダンな表現にすることに努めました。
 逆に「KINGSGLAIVE」では,FFシリーズのお約束を完全に振り切ってしまったわけです。

4Gamer:
 FFXVはこれまでの流れを継承した「シリーズ最新のFF」であり,「KINGSGLAIVE」はそれとは全然異なる「まったく新しい流れのFF」であるということでしょうか。

田畑氏:
 そういうことです。それがひいては,僕らの考えるゲーム的な表現と映画的表現の違いというこになります。

4Gamer:
 なるほど,「KINGSGLAIVE」が,FFを知らない層にアプローチするための作品だということがよく分かりました。


ゲームを作るだけなら必要ない“人間らしさ”の表現を追求した


4Gamer:
 それにしても「KINGSGLAIVE」に出てくるキャラクターは,本当に実写と見まごうばかりです。これまでにも“実写並み”と称されるCG映像は数多くありましたが,「すごい」と思って見ていても,どこかに「でもやっぱりCGだよな」と思う部分がありました。それが「KINGSGLAIVE」だと,事前の知識がなかったらCGだと気づけないのでは,という感じなんです。

田畑氏:
 生きてるって感じますよね。

「KINGSGLAIVE」に登場するアーデン
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4Gamer:
 CGを“人”だと思えるようになる境界線はどこにあるのでしょうか。

野末氏:
 今回はモーションアクターにもこだわって,イギリスの舞台俳優を起用したんです。そのため,人間らしさとCGの良い部分の双方がうまく引き出せたんじゃないでしょうか,
 あとは,やはり表情ですね。フェイシャルキャプチャと,それを受け止めるリグにこだわったことが,表現力を高めたと考えています。

田畑氏:
 つまり顔のどこを動かすと,連動してどこが動くのか,といった仕組みを徹底的に突き詰めていったんです。

野末氏:
 実は表情で人間らしさを表現することについては,かなり長い時間をかけて研究しているんですよ。

4Gamer:
 それは,行き着くと人間の骨格や筋肉の構造を再現することになりませんか。

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田畑氏:
 ええ。だからメイキング映像を見ると,結構グロテスクですよ。「ホモ・サピエンスってこうやってできてるんだ」と思いますね(笑)。

野末氏:
 さすがに,すべての筋肉ではありませんが,動きに直接関わる筋肉はしっかりシミュレーションしています。

4Gamer:
 「KINGSGLAIVE」ほどこだわっていないゲームでも,開発作業の映像を見ると,目玉がちゃんと丸く作ってあったりして,「見えるところだけ作っているわけじゃないんだな」などと思ったりしますが,そういうことをさら突き詰めていったと。

野末氏:
 実は眼球って,まん丸じゃないんですよ。

4Gamer:
 な,なるほど。そういう細かいところまで見ていると。

田畑氏:
 野末達ムービーチームは,「本当の眼球の形はどうなのか」「目の膜はどのくらい光を反射しているのか」というところまで研究しているんですよ。人体だけではなくて「この轍(わだち)だと,クルマの重さはどのくらいで,タイヤのサイズはどのくらいか」とか。
 ゲームのデータだけ作っているアーティストだと,そこまでやらないんですよ。それは,ゲームだとそこまで表現できないので,必要ないからです。でも「KINGSGLAIVE」のような映像では,そこまで描けてしまう。だから野末達はこだわるんです。

4Gamer:
 そこまでやって,「まだ足りない」と思うところはあるのでしょうか。

野末氏:
 それはもう,日々課題が出てきます。また眼球を例にすると,CGやゲームの場合,たいていは眼球の中心に可動点を置きます。しかし実際の眼球は,複数の筋肉が引っ張り合うことで微妙な動きを実現しているわけです。今は,そのあたりのシミュレーションをもう少し掘り下げたいですね。そういった課題は尽きないです。

4Gamer:
 あの映像を見ると「これ以上どこを改善できるんだ」と思いますが,もっと自然な表現を追求できる余地があるんですね。

田畑氏:
 その自然さがある段階に到達すると,人間にはできない演技,CGでなければ不可能な演技を実現できて,実写映像を凌駕したと言えるようになるのかなと。
 「KINGSGLAIVE」は,何とか実写と同じ土俵に上がらせてもらえたかなというところですが,今後はその上でCGでなければ実現できないオリジナリティを付加していくことになるでしょうね。

4Gamer:
 たとえば将棋や囲碁の世界では,AIが人間のプロ棋士に勝つ段階まで来ていますけれども,それと同じようにCGモデルが人間の演技を超える日が来るかもしれないということでしょうか。

田畑氏:
 そういうことです。たとえばハリウッド俳優の若い頃のデータがあれば,その人が年老いたとしても,若いままの姿で最新の映画を制作できるわけです。
 僕らは今後のCGについて,単にきれいになるだけではなく,今できないことを実現できうるような方向に進化するんじゃないかと考えていますし,実際に僕らがやりたいこともそれなんです。

4Gamer:
 そういった技術による“人間らしさ”の表現と,その将来的な可能性に関する話は,ロボット工学の考え方に通ずるものがありますね。

田畑氏:
 僕らも日々そんな話ばっかりしてますよ。「技術がここまで行かないと,これは実現できないよな」とか。
 おそらく,誰もがCGを本当に人間だと思えるようになるには,「KINGSGLAIVE」よりもう1段階上に行く必要があるでしょうね。

4Gamer:
 そうやって映像を良くするための課題が日々出てくる中,「今回はここまでやる。これ以上は次に回す」といった線引きをどこに置いているのでしょうか。

野末氏:
 映像でもゲームでも,制作にあたっては予算の都合もあれば締切もありますからね……。

田畑氏:
 「ここまでにできないものはダメ」という判断を下さざるを得ないんです。

野末氏:
 現実的な話で面白くないかもしれませんが,限られた中でベストを尽くしているということです。

田畑氏:
 また「KINGSGLAIVE」は社内だけで50人,全体ではその何倍もの人数で制作していますからね。そうなると,そのマネジメントだけで時間や労力を含めたコストが相当なものになりますし,いろんな作業が並行して進められるよう,デリケートな配慮が要求されます。
 ですから効果とセットでない限り,たとえば僕や野末の一存だけで,その状況をひっくり返すようなことはできないんです。「やっぱり,ここは鼻血を出すシーンを入れよう」とかね(笑)。

野末氏:
 自主制作なら,それができるかもしれませんけどね。商業ベースだと個人がやりたいことよりも,誰に観ていただくか,観てくださる人達にどう感じてほしいかを考えなければなりません。

4Gamer:
 以前のインタビューでは,そうやって培った映像のノウハウをゲームにも活かしていくとおっしゃっていましたけれども。

田畑氏:
 そのとおりです。映像で実現した表現を,ゲームのリアルタイムレンダリングに落とし込んでいきます。

野末氏:
 ムービーチームが作っている映像は,絵画で例えるとデッサンみたいなものなんです。そこからゲームに持っていったり,ほかの方向性を模索したりすることが本来の目的なんですよ。


発売ギリギリまで,ゲームの快適さを上げる


4Gamer:
 さて,FFXVも発売まで3か月と少しというところまで来ました。マスターアップに向けて開発も佳境ですね。

田畑氏:
 うーん,そうなんですが,今どきはマスターアップの後にDay-1パッチというものがありまして……。

4Gamer:
 あぁ,そういえばそうでした。ただ,Day-1パッチには賛否両論あるようですが。

田畑氏:
 今やAAAタイトルとなると,Day-1パッチは避けられないというのが実情なんですよ。ですから一度マスターアップしたあとも,不具合の修正や最適化が不十分なところの見直しなどで,発売日直前のギリギリまで開発を続けていると思います。

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4Gamer:
 ゲームの仕上がりは,最後の追い込みで決まると聞いたことがありますけれども。

田畑氏:
 確かにそのとおりではあるんですが,HDゲームでかつFFXVの規模となると,最後の2〜3か月で内容がが大きく変わるということは,まずありません。それでも限られた時間の中で,スタッフ一人一人が一つでも多く何かを改善することで,遊んだときの快適さが少しずつ向上していきます。今僕らがやっているのは,いかに自然に遊べるか,いかに楽しいと思ってもらえるか,というところの作業ですね。

4Gamer:
 分かりました。「KINGSGLAIVE」は7月9日公開ですが,海外でも劇場公開が決定したようですね。

田畑氏:
 はい。欧米ではSony Pictures Entertainmentがパブリッシャとなります。ただ「KINGSGLAIVE」のビジネスモデルは,あくまでもデジタル配信によって多くの人にさまざまなデバイスで鑑賞してもらうことがメインになっています。劇場公開は,その認知を広めるためのプロモーション的な位置付けですね。

4Gamer:
 それでは最後に,E3で公開されたトレイラーや最新情報を受けて,FFXVや「KINGSGLAIVE」に対する期待をさらに高めた人達に向けて,あらためてメッセージをお願いします。

田畑氏:
 「UNCOVERED FINAL FANTASY XV」以降,皆さんから生まれる熱気のようなものを感じています。今回のE3ではPS4とXbox Oneの試遊版を出しましたが,より確かな形でFFXVが期待に応えられるものだと伝えられたんじゃないかと思っています。この熱気がより広がるよう,これからもE3とはまた違った形で体験を提供していきます。

野末氏:
 このインタビューが掲載されるころには,「KINGSGLAIVE」はマスターアップしているはずです。今回はFFにとらわれず,いろいろなアクションを取り入れたエンターテイメントに仕上がっているので,洋ゲーファンや映画ファン,ゲームから離れてしまった大人の方にも楽しんでいただけます。知らない間にFFワールドに引き込まれていると思いますので,ぜひ先入観なく鑑賞していただけると幸いです。

4Gamer:
 ありがとうございました。

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