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「FINAL FANTASY」は再びゲーム業界の最先端を目指す。田畑 端氏と野末武志氏が語る「FFXV」の展開戦略と物作りとは
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印刷2016/04/09 00:00

インタビュー

「FINAL FANTASY」は再びゲーム業界の最先端を目指す。田畑 端氏と野末武志氏が語る「FFXV」の展開戦略と物作りとは

「スカスカでもいいから」と言ってまで挑戦をうながす


4Gamer:
 それでは,体験版を遊んだ人を対象としたアンケートの結果や,さまざまなリクエストをどうゲームに反映させているかについて教えてください。世界中から意見が寄せられるわけですから,それこそ,ある人には「右を向け」,ある人には「左を向け」と言われているような状態だと思うのですが。

画像集 No.008のサムネイル画像 / 「FINAL FANTASY」は再びゲーム業界の最先端を目指す。田畑 端氏と野末武志氏が語る「FFXV」の展開戦略と物作りとは
田畑氏:
 正反対の意見が寄せられた一番分かりやすい例は,車道を右側通行にするのか,左側通行にするのかというものでした。「EPISODE DUSCAE」では左側通行にしていたんですが,アメリカ人は「車で旅をする内容なのに,左側通行じゃやる気も起こらない」と言い,イギリス人は「いやいや,世界を見渡すと,左ハンドルで右側通行の国はそれほど多くないからこれでいい」と言うんです。日本人は「アメリカンな感じだから,アメリカでいいんじゃない」みたいに,意外と柔軟なんですね。マルチカルチャーを受け入れやすいと言いますか。

4Gamer:
 自分も,最初に「EPISODE DUSCAE」をプレイしたときに「左側通行なのか!」と驚いたくらいです。

田畑氏:
 最終的に僕達は,意見の数ではなく,旅のロマンを十分に描くにあたって,アメリカ的な旅をしていく感覚がゲームに宿ったほうがいいと考えて,左ハンドル右側通行に決めたんです。それで世界の人に,このゲームの良さを知っていただこうと。オプションで切り替えられるようにしようという案もあったのですが,それも違うなと思ったんですよね。
 ですから質問の答えとしては,「意志と自信を持って決める」ということなんです。

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4Gamer:
 FFXVチームではどうなんでしょう。開発作業の中でも意見の衝突は起こりますよね。

田畑氏:
 決まるまではいろんな意見を出し合うけれども,一度決定したらそれで行く,という体制ができています。そこは今回,組織作りからきちんとやってきた部分ですね。何か不満のような発言を聞いたら,僕は「それは愚痴なのか,それとも改善すべきポイントなのか」と問います。愚痴だったらスルーするけれども,改善すべきであれば,もう一度皆で考え直そうと。ただ,今話したように,皆がさまざまな意見を交わした上で決定されているわけですから,あとから覆ることは基本的にありません。

4Gamer:
 「愚痴なのか,改善すべきポイントなのか」というのは,我が身を振り返るとなかなか痛い言葉ですね……。

田畑氏:
 また「Aも大事だし,Bも大事だけれど,両方選べない以上,FFXVにとってはほんの少しAが重いので,Aを選んだ」というようなこともハッキリ表明するようにしています。そうすることで,Bを支持していた人の理解も高まりますよね。

野末氏:
 チーム内では情報がオープンなので,皆が等しく判断材料を持っているんですよね。だから決定に対する信頼度も高くなるんです。

4Gamer:
 そういった難しい判断の中で,とくに印象深いものはありますか。

田畑氏:
 毎日のように判断していますからねえ……。一番侃々諤々したのは,オープンワールドの技術を採用するかどうかでした。

野末氏:
 ああ,あれは大変でしたね。

画像集 No.010のサムネイル画像 / 「FINAL FANTASY」は再びゲーム業界の最先端を目指す。田畑 端氏と野末武志氏が語る「FFXV」の展開戦略と物作りとは
田畑氏:
 最終的には「もし失敗したなら,それで構わない」というスタンスで,オープンワールドを採用したんですが,とにかくエンジニアを中心に猛反対するスタッフがいたんです。「ストーリー進行があるのだから,マップを切り替えてイベント主導方式でいくほうが確実じゃないですか。その上でコンテンツを充実させましょう」と。オープンワールドな作りにすることで,ゲームがスカスカになって失敗するリスクが高まる,という危惧があったんでしょう。

4Gamer:
 田畑さんがオープンワールドにこだわった理由は何だったんでしょうか。

田畑氏:
 今,このタイミングでオープンワールドではないRPGは,海外のRPGファンから「何でオープンワールドじゃないんだろう」と思われてしまいます。特にFFXVは世界を旅するゲームなので,普通にそう思われてしまうだろうなと。
 またかつて,FFがRPGの最先端だった時代がありました。FFXVで再びそこに戻ることを目指す意味でも,オープンワールド化は,とても分かりやすい近代化です。それぐらい変化がなければ「Skyrimと勝負します」と言っても説得力がない。
 だからストーリーに沿ってゲームは進むけれど,オープンワールドの技術で世界を表現する。この方針は譲れませんでした。

野末氏:
 皆で意見交換するために,プチ合宿して,そこで納得いくまで話し合ったんです。

4Gamer:
 それはいつ頃の話ですか。

田畑氏:
 2013年のE3でFFXVを発表した数か月後,ちょうどLuminous Studioチームと合流したタイミングですね。その時点でエンジニア達は,「スクウェア・エニックスのノウハウでは,オープンワールドは無理だ」と頑として聞き入れませんでした。とくに外国人のエンジニアは,そういう傾向が強かった。

4Gamer:
 「オープンワールドは無理だ」という言葉は,スクウェア・エニックスやFFシリーズに期待している一人として,寂しいものがありますね……。

田畑氏:
 それだけ世界中から技術力が低いと思われていたんです。とくに,HDゲームとして出した最初のFFナンバリングがたまたまリニアな作りだったことで,「あいつらにはオープンワールドのAAAタイトルを作る技術はない」と。
 そんな中であの体験版を配信して,ようやく「あれ,お前らこんなの作れたの?」という温度に変化したように思います。

4Gamer:
 それにしても,「失敗してもいい」とは,ずいぶん思い切りましたね。

田畑氏:
 そう言わないと,皆が自信を持って取り組めなかったからです。それで「もしダメでも田畑の責任だ」と気を楽にしてもらって,環境を整え,シームレスな世界を動的に管理できるまでになりました。でも結局,皆フィールドがスカスカなのは嫌だから……。

野末氏:
 頑張っちゃうんですよね(笑)。

田畑氏:
 「スカスカでもいいって言ったじゃん」とか言うと,「そんなの嫌ですよ」と(笑)。

4Gamer:
 やればできるのに,反対していたわけですか。

田畑氏:
 技術的にオープンワールドにすること自体が,本当に大きな挑戦ですから。ローディングシステムも,マップの設計も,既存の方法とは全然違うんですよね。僕も最初は「オープンワールドのマップって,こうやって作るのか」という感じでした。そんな状態ですから「グランド・セフト・オート」や「レッド・デッド・リデンプション」を見たら,普通は「いやオレらには無理だ」となってしまうんです。

4Gamer:
 確かにその2タイトルはすごいゲームですが……。

田畑氏:
 まあ僕も気持ちは分かります。ともあれ,そこを乗り越えて,技術的にもマップ設計ができるようになり,完全なオープンワールドではないんですけれども,シームレスな世界で自由な体験ができるというところにたどり着けました。そこまで到達したときは,本当に嬉しかったですね。

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4Gamer:
 田畑さん自身には,オープンワールドでFFXVを作れるという確信はあったのでしょうか。
 
田畑氏:
 もちろんありました。技術的には,すでに競合他社がやっていることですし,謎の技術でもありませんし。
 ただ,その技術に向き合い,きちんとゲームとして成立させるまで,開発メンバーがベストパフォーマンスを保てるかどうかは疑問でした。そこで組織をしっかりと作り,目標に向かってブレずに進むということを意識的にアップデートし続けてきたんです。つまり技術よりもマインドの問題を重要視してました。

4Gamer:
 気持ちが負けていたと。

田畑氏:
 まず,できない材料を並べてしまうんですよね。「オープンワールドにしたら,クオリティで負ける」とか「コンテンツが乗りませんよ」とか。だから「別に負けてもいいよ」「スカスカでいいよ」と言い続けたんです。

4Gamer:
 でも田畑さん自身には「やればできるはずだ」という期待があるわけですよね。

田畑氏:
 ええ,50%は。残り50%は,スカスカでいいと言った手前,完成できればそれでいいと。

4Gamer:
 FFのナンバリングタイトルでそう考えられるというのも凄いですね……。

田畑氏:
 ただ,選択する技術と,コンテンツの完成度は別だということはチーム全体で共有したいと思っていました。いい例はないかと探していたら,「ワンダと巨像」があったので,それを見せたら皆も理解してくれたようです。もちろんこれは,「ワンダと巨像」をバカにしているわけではないです。尊敬しているからこそ,例に使わせてもらいました。

4Gamer:
 コンテンツを詰め込まなくとも,作りようでいくらでも素晴らしいゲームになり得るという好例ですよね。実際,海外でも高く評価されていますし。

田畑氏:
 目的地に向かって移動するだけで世界が感じられるんですよね。皆もあらためて「ワンダと巨像」の魅力を再確認しました。
 あと,「ゼルダの伝説 時のオカリナ」も,世界が感じられるゲームですね。今のゲームと比較すれば,決して豊富なコンテンツではありませんでしたが,それでも馬に乗ってシームレスで生きた世界を駆け回ってるだけで夢中になれました。

4Gamer:
 今の時点で思い描けるFFXVの完成形は,当初田畑さんが考えていたとおりのものになっていますか。

田畑氏:
 「ここは絶対」と思っていた部分は,すべて実現できそうです。


“思想”を実際の開発作業に落とし込み,高い開発力を維持する


4Gamer:
 野末さんは,田畑さんがオープンワールドを推していたとき,「できないかも」とは思いませんでしたか。
 
田畑氏:
 野末はビビんないから(笑)。

野末氏:
 やればできるだろう,と思っちゃうんですよね。あまり後先考えないというか。

画像集 No.009のサムネイル画像 / 「FINAL FANTASY」は再びゲーム業界の最先端を目指す。田畑 端氏と野末武志氏が語る「FFXV」の展開戦略と物作りとは

田畑氏:
 「FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN」を作った経験が大きいと思うんですよ。あれは,あらゆる逆風をはねのけてやらなければいけなかったプロジェクトだったんです。社内にああいうものが成立する環境がない中,長編のCG映像を作り上げた。そのあたりで,「FFXVも行けるだろう」と考えたんじゃないかと。

4Gamer:
 一度修羅場をくぐると……という感じでしょうか。

田畑氏:
 そういうことです。そして,そういう人物がチームにいると心強い。だから野末には,FFXVチームで一緒にやってもらいたかったんです。

野末氏:
 僕がまだヴィジュアルワークスに在籍していた頃から,「これは一緒にやらないと無理だろう」という設計になっていましたしね。

田畑氏:
 具体的には,野末のチームが持っていたプリレンダリングの技術を,どうやってリアルタイムレンダリングに落とし込むか,ということに取り組んだんです。その延長で,FFXVのゲームエンジン開発をしていきましょうと。その最初の成果が,2013年のE3で公開した映像でした。

4Gamer:
 今回発表された「KINGSGLAIVE」の映像は,プリレンダとリアルタイムレンダという違いこそあれ,FFXVと同じ方向性の技術を使っているという認識でいいでしょうか。

野末氏:
 もちろんです。それが一番重要なことですから。これは今までもずっと同じで,基本的な考え方,つまり“思想”があって,それをどうやってゲームに落とし込むかということに取り組んでいます。

4Gamer:
 “思想”ですか。

野末氏:
 僕は以前,「Agni's Philosophy」というプロジェクトに携わっていましたが,あれは単に技術を見せるものではなく,「こういう作り方をすると,こういうものになる」という“思想”だったんです。
 僕らはまず,ああいった部分を先に作り,それをリアルタイムレンダリングに落とし込んでいきます。たとえばグローバルイルミネーションという技術でも,本来の計算方法を「こういう現象と,こういう現象がある」という感じで分解すれば,もっと軽い処理方法で似たような効果を再現できるわけです。

画像集 No.011のサムネイル画像 / 「FINAL FANTASY」は再びゲーム業界の最先端を目指す。田畑 端氏と野末武志氏が語る「FFXV」の展開戦略と物作りとは

田畑氏:
 最初に最高峰の映像をプリレンダリングで作り,次に計算で端折れる部分を探し出して,実機のリアルタイムレンダリングの映像に落とし込んでいく,ということですね。

4Gamer:
 そのノウハウは,FFXVにも活用されていると。

野末氏:
 そのとおりです。今の時点でも,やろうと思えば「KINGSGLAIVE」みたいな表現をリアルタイムレンダリングで再現できると思いますよ。もっとも,それを実現するためには,さらに1年くらい必要かもしれませんけれど。

4Gamer:
 そういった,最先端の技術を吸収しつつ,実際のタイトル開発に取り組むメリットは何でしょう。

野末氏:
 映像に関して言えば,プラットフォームに依存しなくなるということです。これは大きなメリットですね。

田畑氏:
 これまでは,一つのプラットフォームに向け,何年かかけて一番効率の良い開発手法に特化していき,次世代のプラットフォームが登場すると,また新たな開発手法を見出して効率化していくというサイクルでした。
 しかしコンシューマ機に採用されるGPUには,基本的にその何年も前に実用化されたPCの技術が使われているわけです。そうであるなら“思想”となるプリレンダリング作品を制作し,その時点のPC用ハイエンドGPU向けのリアルタイムレンダリングに落とし込むということを続けていれば,プラットフォームの世代交代ごとに開発手法を探るという手間がなくなります。

4Gamer:
 なるほど。長年PCゲームに取り組んでいた海外のデベロッパが,2000年代にコンシューマゲームで台頭してきた理由もそこにありそうですね。

田畑氏:
 そうですね。開発手法の話をもう一つすると,独立系で長く継続しているスタジオは強いんです。たとえば「グランド・セフト・オート」の場合,ほぼ同じ顔ぶれのチームが開発手法に磨きを掛け,チームとしてノウハウや新たな技術を蓄積しています。
 逆にスクウェア・エニックスのような企業では,一つのプロジェクトが終わったらチームを解散し,スタッフはそれぞれ別のプロジェクトに関わるようになります。この形では,開発手法に磨きをかけ,常に最新技術にリーチしていくことが困難なのです。

4Gamer:
 コジマプロダクションの小島秀夫監督が「常に最新の技術にアプローチしていないと,取り残されて二度と追いつけなくなる」という旨の発言をしていますが,今の2つのお話は,それと同じ感じですか。

田畑氏:
 ええ,そのとおりだと思います。チームとしてのピーク性能を保てなくなるんですよね。また,これはあくまで仮の話ですが,現在トップクラスの開発力を持つNaughty Dogと,あまり技術のないスタジオが合併してチームを統合したら,技術力が平均化されてしまい「アンチャーテッド」のようなクオリティを保つのは難しくなるかもしれません。

4Gamer:
 ちょっと話が戻りますが,さきほど野末さんが話されていた“思想”の話にもつながるような気がします。つねに高い目標を設定するという。

田畑氏:
 ええ,そういった組織作りを意識してきました。最終目標がきちんと定まっていれば,環境が変わっても動じませんから。皆も次第に目標作りが上手になっています。

4Gamer:
 そうやって,チーム全体のピーク性能をどんどん上げていくと。

田畑氏:
 ピーク性能の向上に関しては,コンピュータが進化し続けるかぎり取り組むことになります。
 ですから,チームとしては展開力を強化することを意識したほうがいいんじゃないかと考えています。今はFFXVに取り組んでいますが,その中で実力を付けて頭角を現してきたスタッフもたくさんいますし,「KINGSGLAIVE」のようなものを作れる環境も整いましたから,新規IPにも挑戦したいですね。もちろんFFシリーズのナンバリングのような,本流にも取り組んでいきますが。
 ともあれ,当面はFFXVを全力で完成させなければなりません。

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4Gamer:
 それでは発売日も決まり,こうして田畑さんと野末さんの話を聞いて,FFXVに対する期待が高まっている人達に向けてのメッセージをお願いします。

野末氏:
 僕達クリエイターに至らない部分があり,この10年くらいの間に日本のゲームに興味を失ってしまった人達もたくさんいらっしゃるかと思います。かつてのPlayStationやXboxプラットフォームのゲームでは,新作が出るたびに映像を始めさまざまな部分に進化を感じられましたが,それを牽引していたのがFFシリーズでした。僕自身は映像作りがメインなので,FFXV,そして「KINGSGLAIVE」では,映像で多くの人が再びFFシリーズに興味を抱いてくださるような表現に挑戦しています。少しでも興味が湧いたなら,ぜひ新しいFFに触れてみてください,

田畑氏:
 4Gamer読者の皆さんはゲームに詳しい人が多いと思うのですが,FFXVはそうした人達から「優れたゲーム」と評価されるものを目指しています。また皆さんのそういった評価は,日本のゲーム市場を覆う閉塞感を破る支援にもなります。
 FFXVはようやく発売日を発表できるところまで来ました。ここからは,今の予想できる範囲に着地するのではなく,予想を超える結果を目指して最後まで物作りを進めていきます。皆さんの期待に添うFFXVに仕上げ,世界に逆襲しようと考えていますので,ぜひご支援をお願いいたします。

4Gamer:
 ありがとうございました。

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