インタビュー
最初は「逆転刑事」だった? 「逆転検事」開発スタッフに聞いた開発秘話から今後の展望まで
御剣の新ボイス録音時に困ったこととは?
4Gamer:
シリーズを通して,御剣のボイスを岩元さんが担当されているそうですが,普段の声とはちょっと違いますよね。何か一声お願いしてもいいですか?
えっ,ここでですか?
あーあー,あーあー……「異議あり!」
江城氏:
今のはけっこう良かったです(笑)。
岩元氏:
地声より3段階くらい上げたのが今の声で,採用されたのはもう一つ上の声ですね。
4Gamer:
おお,生で御剣の声を聞けて感激です。逆転検事での新ボイスがありますが,収録はどういった感じだったんでしょうか。
山崎氏:
既存シリーズからある「異議あり!」「待った!」「くらえ!」に関しては,過去の音源を使っています。御剣のボイスだと,新たに録音したのは「これだ!」の一声だけなのですが,かなり苦労しましたね。長いシリーズということもあり,昔録音したときと比べて,岩元さん本人の声が変わっちゃってるんですよ。
岩元氏:
最初の頃はタバコも吸ってませんでした……。逆転裁判3のときも,今回ほどではないですけど,声がなかなか出なくて何回もリテイクしましたね。
山崎氏:
確か「異議あり!」が逆転裁判で,「待った!」と「くらえ!」を逆転裁判3で収録したんでしたっけ。
岩元氏:
今回の収録も,とりあえずOKが出て安心していたのですが。数か月経ってから山崎君に,「やっぱり気に入らないんで大阪のスタジオまで来てください」と言われたんです。そのためだけに東京から大阪まで行って,何度も「これだ!」と叫んで帰りました……。
山崎氏:
御剣は元の声のイメージがあるわけで,それが正解なんです。妥協できるわけがないですよ。
岩元氏:
「あんたの昔の声は“これだ!”」と,何回も聞かされました。自分でも「なんて高い声だったんだろう」と愕然としましたね。
4Gamer:
ほかのキャラクターボイスも,声優さんではなくカプコンの社員の方々が担当しているとのことですが,キャスティングはどのように決めたんですか?
逆転シリーズを通して,ボイス関連はすべて開発チームのスタッフが担当しています。オーディションを受けたのは7〜8人くらいいて,僕と山崎も受けたんですが落ちてしまいました。
4Gamer:
そこはプロデューサー権限とかディレクター権限が通用しないんですね(笑)。声優ではない方が声を当てるということで,収録で苦労があったのではないでしょうか。
江城氏:
山崎のオーダーは相当厳しかったようですよ。「いやー,今のはいいですね!」と言ったあとに「では,もう1回行きましょう!」とか。「良かったですけど,もうちょっといけるんじゃないですかね」とか,そういうやりとりが4〜5回は続くんですよ。
岩元氏:
しかも,それが最終的に採用されるかどうかも分からないという。
山崎氏:
いい声が録れれば,たとえ喉が潰れてもかまわないじゃん,みたいなことも言ったりしますね(笑)。そこがプロの声優さんにお願いするのと決定的に違うところです。
個性的なキャラクター達の作り方
4Gamer:
それぞれの立場から,制作を通じて「ここだけは曲げられない!」とこだわったポイントはありますか?
江城氏:
プロデュースの立場でいうと,先ほども少し触れましたが「リアルすぎちゃダメ」という部分です。ただでさえ殺人事件などの重い事件を扱っているので,そこでさらに深いリアリスティックさを追求すると,どうしても陰惨になってしまいます。
そうならないように,大人にとってのファンタジーや,おとぎ話としての雰囲気を残しておきたいといった部分です。
逆転シリーズの魅力って,キャラクターや軽妙な掛け合いやセリフの言い回しなど色々あると思いますが,僕がこだわりたいのは「ミステリーである」という所です。僕自身ミステリーが大好きだし,謎解きをしたときの気持ちよさや,シナリオを進めてサプライズがあったときの驚きは追求したいです。
今回の舞台は法廷の外ですが,そのテーマでないと実現できないミステリー,というのに最後までこだわりましたね。
岩元氏:
キャラクターをデザインするときは,たとえプロデューサーやディレクターに気付かれなくてもいい,自分だけが知っているくらいでもいいから,強烈な個性をぎゅっと持たせたいです。それを持たせることで,キャラクターが生き生きとしたり,新たなモーションが生まれることもあると思っています。
たとえば,第3話に出てくるキャラクターの,自分の髪を切ろうとするモーションですが,これにも深い理由があるんです。語ると長くなるので割愛しますが(笑)。
4Gamer:
確かに,メインキャラから端役まで,誰もがすごくキャラが立っていると感じます。
岩元氏:
最近は,「昔にデザインしたキャラクターの方が派手で良かった」というご意見を聞くこともあるんですが,デザイナーとしてのポリシーは変わっていません。どのキャラにも,意外性や面白いと思うポイントを必ず1個は入れてます。それが成功したキャラクターは,自分にとってもずっと好きなキャラクターになりますね。
4Gamer:
逆転検事で,岩元さんの一番のお気に入りのキャラクターは誰ですか?
岩元氏:
一人選ぶなら,シーナですね。彼女は頭の中ですんなりイメージができあがって,それがぶれることなく最後まで進められました。
4Gamer:
では,逆転シリーズ全体を通じてのお気に入りは一体誰でしょうか?
岩元氏:
逆転裁判3に登場した,ゴドー検事です。
1作目の逆転裁判を作った当時,自分はまだカプコンに入社してから半年程度で,右も左もわからない状態でした。次に,逆転裁判2で初めてメインデザイナーを担当したのですが,このときもかなり苦労した記憶があります。
逆転裁判3になってようやく,キャラクターデザインでやりたいことが,自分なりに上手くできる手ごたえが得られたんですね。そのときに一番力を込めてデザインしたのが,ゴドー検事でした。
4Gamer:
江城さんと山崎さんにとっての思い入れが深いキャラクターは誰でしょう?
自分も逆転シリーズの中では「3」が好きで,第4話に登場した尾並田美散が強く印象に残っています。彼はある事件に巻き込まれてしまうわけですが,その敵役には本気で腹が立って,まさかゲームであそこまで強い感情を抱いてしまうとは,自分でも驚きましたね。
逆転検事の中だと岩元さんと被ってしまうのですが,シーナがイチオシです。山崎の机の上にラフデザインがあったのを見て,一目で気に入りました。色白でミステリアスな雰囲気の女性に惹かれるのかもしれません(笑)。
山崎氏:
僕はシリーズを通してだと,逆転裁判 蘇る逆転に登場した巌徒海慈ですね。あの狩魔 豪を上回る存在感を放ち,「こりゃ適わねー!」と思わせるキャラクターということで,制作時にかなり苦労しました。普段はニコニコとしているんですけど,突然目を見開いて強烈なことを言って,あの御剣すらヘコませてしまうところが好きです。
逆転検事のキャラクターは,自分にとってどれも思い入れが強すぎて,選ぶのに悩みますね……。あえて一人選ぶなら,一条美雲でしょうか。彼女は,最初に岩元さんと一緒に作り上げたキャラクターなんです。また,元気な女の子という設定が,今までとはちょっと違ったタイプで,御剣を主人公とした逆転検事ならではのヒロインに仕上がったと思います。
4Gamer:
キャラクターの外見もそうですが,性格も印象に残りますよね。御剣にしても決して完璧な人間というわけではなく,自分の中に弱い面も抱え込んでいて,それを一生懸命克服しようとしていたり。キャラクターの性格付けを考えるときのこだわりのポイントはどこですか?
岩元氏:
逆転シリーズのキャラクターは,2面性を持っているというパターンが多いですね。まぁ,これはミステリーというゲームシステムの性質による部分でもありますが。
御剣に関しても,強さと弱さのギャップが激しいですよね。その振り幅が大きければ大きいほどキャラクターが濃くなるのだと思っています。シリーズの第1作でああいったキャラクターが出てきたことでカラーが決まったと思いますし,後々のシリーズのキャラクターデザインの指針になっていると思います。
あとキャラクターごとに,一つ大きなコンセプトを持たせたいという気持ちはあります。たとえ名前が分からなくても,たとえば「あぁ,あの眠る人でしょ」とか「コーヒー吹く人だよね」と,シンプルに表せるような。
それが決まれば,あとはテキストとビジュアルの共同作業になります。テキストに書かれた性格からビジュアルが決まったり,逆にビジュアルを見て性格が生まれたりすることもありますね。
「逆転検事」は,「逆転」シリーズの新たな柱へ
細かい話になりますが,第2話で登場するジンク・ホワイト2世の出身国はボルジニア共和国で,過去のシリーズにも登場した国ですよね。世界観は元々きっちり作り込まれていたのでしょうか?
江城氏:
そんなに緻密に作りこんでるってわけじゃないですよ。先に世界観をきっちりと作り込みすぎてしまうと,それが逆に作り手にとっての縛りになることもありますし。どちらかというと,ボルジニア共和国のようなのはレアケースかもしれません。
山崎氏:
たとえば,成歩堂法律事務所がどこにあって,そこから検事局までは徒歩何分で……といったところまでは考えてないですね。それがもし,ミステリーとしてのトリックを作るうえで必要になったら,そのときに初めて考えるとは思いますけど。
4Gamer:
なるほど。
江城氏:
映画などでもそうですが,あまりに事細かに作られてしまうと,受け手側が想像する余地がなくなってしまうじゃないですか。ユーザーさん一人一人にそれぞれの“逆転”の世界を持ってもらって「自分の中ではこう思うんだ」といったやりとりが行われるのは,作り手側にとって冥利に尽きることです。なのでどこかで,ユーザーさんが入れる余地を残しておきたいですね。
4Gamer:
小物も凝ってますよね。第2話で登場したスーツケースは,なんというか……斬新でした。
山崎氏:
スーツケースのデザインに関しては,「こんなの絶対買わないだろう!」というお題で皆でデザインを出し合って,最終的にあのようなイケてない絵になりました(笑)。
あれは趣味が悪ければいいんじゃないの,と突っ走った結果のようにも思えますね。スーツケースに限った話ではないですけど,今回2Dのグラフィックス上で表現しようと考えたとき,面白い小物を盛り込もう,というのはチーム全体の考えとして自然に決まっていました。
4Gamer:
逆転検事では,それこそ重箱の隅のような部分にまでユニークな設定が詰め込まれていますが,どうしても入れたかったけど入れられなかった要素はありますか?
江城氏:
うーん……ない,ですね。スケジュールとの兼ね合いでスポイルした要素もあることはあるのですが,そういった諸々を仕切るのがプロデューサーの役割ともいえます。与えられたスケジュールの中で,できる限りのことをやったと思います。
山崎氏:
僕も今は,全力を出し尽くしたという思いが強いですね。
岩元氏:
もっともっともっと,スケジュールが欲しかったくらいでしょうか(笑)。まぁ半分冗談ですけど,作り手側にとっては,いつまでも作り続けたいという気持ちはどこかにあります。でもそんなこと言ってたら,キリがないですよね。
4Gamer:
今後の展開についての予定はありますか?
江城氏:
おかげさまで,逆転検事は“逆転裁判シリーズの続編”というだけでなく,“新しい逆転シリーズの柱”として育ちつつあります。今後どのようにファンの方々に受け入れられるかにもよりますが,反響次第では逆転検事の続編を作ることは十分ありえるでしょう。
なんだかんだ言って,制作陣をもっとも強く動かすのは,ユーザーさん達からの声なんです。リクエストが大きければ,それに対して応えてあげたいという気持ちも,当然湧き上がってくると思いますし。
4Gamer:
ということは,逆転検事を買った人が皆リクエストしたら続編もありえそうですね。
死にかけたジャンル“アドベンチャーゲーム”を生き返らせたい
4Gamer:
一方,逆転裁判シリーズの続編を期待する人も多いと思いますが,逆転裁判本編の次回作についての動きはあるのでしょうか?
江城氏:
今回の逆転検事のプロデュースは私が担当していますが,逆転裁判シリーズに関しては総合プロデューサーとして松川美苗がいます。逆転裁判シリーズに関しても,松川と連携をとりながら考えていて,「今後も展開していきたいよね」という話はしています。
4Gamer:
岩元さんは,自分がデザインしたキャラクターが,CMやマンガなどで展開されていることを,生みの親としてどのように見ていますか?
岩元氏:
大きくなると嬉しいとか嫌とか,そういうのじゃなくて,まるで他人事のように思えてしまうんですよね。逆転裁判の第1作って,本当に小さな小さな開発チームで作っていて,あの頃の雰囲気が身に染み付いちゃってるのかもしれません。
4Gamer:
となると,第1作を作っていたときは,ここまで大きなブランドに成長するとは考えてもいなかったと?
そんな先の話どころか,ゲームとして発売するかどうかも分からないといった状態でしたよ(笑)。
逆転裁判はディレクターの巧にとっても,初めての自分発案のオリジナルタイトルだったんです。自分達がプレイして「面白いと思うんだけどねぇ……」と思ってはいても,客観的に見たらどうなのかなと聞かれると,いまひとつ自信が持てなくて。開発中はそんな葛藤の繰り返しでした。誇張でもなんでもなく,ここまで続くとは夢にも思ってませんでしたよ。
4Gamer:
今では,法廷や法律をテーマにしたゲームが数多く発売されています。いわばライバルに追随される立場としてはどのように考えていますか?
江城氏:
あまり他社さんのタイトルに対して,ライバルという意識は持っていないですね。もちろんプロデューサーとして,より売上を伸ばしたいという気持ちはありますが,ライバルがこうだから逆転検事もこうしよう,みたいな考え方は持たないようにしています。大事なのは,目線を誰に向けるかなんです。その先にあるのはライバルではなく,遊んでくれるプレイヤーであるべきでしょう。
山崎氏:
僕は開発者であると同時に,アドベンチャーゲームの一人のファンでもあります。もし,逆転シリーズに影響を受けたタイトルが出てきてくれて,その結果アドベンチャーゲームというジャンルが活発になってくれれば,ファンとして嬉しいですね。
岩元氏:
アドベンチャーゲームって,一度は死にかけたジャンルだと思うんです。僕も学生の頃からずっとアドベンチャーゲームが好きだったので,面白く作ってくれて活性化するのなら,こんなにありがたい話はないですよね。
逆転シリーズに携わってからは作り手という立場なので,プレイヤーとして純粋に遊べてないんです。なにしろやる前に全部ネタバレしちゃってますから(笑)。
4Gamer:
それでは最後に,逆転検事をこれから遊ぶ人に向けてメッセージをお願いします。
江城氏:
逆転シリーズのファンの方々には,今までの法廷バトルとはまた違う形で,現場で捜査する面白さというものを感じ取っていただけると思っています。シリーズを知っているうえでの小ネタも沢山あるので,きっと楽しんでもらえると思います。
逆転検事は,主人公を捜査するというところでアクション性があって,アドベンチャーゲームとして少々毛色が違っています。それでいてアツい駆け引きを楽しめる,ほかにあまりないタイプのゲームに仕上がっています。逆転シリーズで遊んだことがない方でも,ぜひともプレイして楽しんでいただけたら嬉しいです。
従来のシリーズを大切にしながら作っているので,懐かしいアイツらに会える! という面白さがあります。シリーズ経験者にとっては,安心して手に取っていただけるのでは,と思っています。
逆転シリーズ未経験の方々に向けてですが,推理モノって小説とかドラマとか色々な媒体がありますが,ゲームでしか実現できない面白さもあると思うんです。逆転検事では,自分で解いていく快感を大事にしながら作っているので,ドラマや小説とは違った面白さを味わえると思います。ぜひ,一度遊んでみてください。
岩元氏:
経験者に向けては,逆転シリーズの世界観を用いた新たなビジュアル上で,自分が面白いと思っているものを表現できたと思っています。逆転シリーズの雰囲気が好きでしたら,今回の逆転検事もきっと気に入ってもらえると思います。ぜひ手に取ってみてください。
逆転検事は,ちょっとアクがあるかもしれませんが,食べてみたら美味しくて,その後ろにも上質なシリーズ作品が沢山あります。初めてプレイする方には,逆転検事をきっかけに過去のシリーズを遊ぶということも幸せな入り方だと思いますし,できればそうしてもらいたいと思いながら作りました。よろしくお願いします。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
とはいえ逆転検事は,逆転シリーズの経験者も未経験者も楽しめるように作られている,完成度の高いアドベンチャーゲームだと思う。スピンオフ作品のため,ストーリー的にはナンバリングタイトルから独立している部分もあるので,手を出しやすいところもある。インタビュー中にも話が出たが,公式サイトには“WEB体験版”が用意されているので,まずはプレイしてみることをお勧めする。
今回のインタビューで,開発陣の逆転シリーズに対する深い愛情や,変えるべきところは変え,残すべきところは残す絶妙なバランス感覚が,それを実現させていたとあらためて実感した。逆転裁判,逆転検事共に,今後のさらなる展開に期待したい。
「逆転検事」公式サイト
「逆転検事」Web体験版
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