インタビュー
「バイオハザード5」は歴代ファンも新規プレイヤーも楽しめる内容に。プロデューサー竹内 潤氏のインタビューを掲載
──「バイオハザード5」発売前日を迎えた感想を聞かせてください。
竹内 潤氏(以下,竹内氏):
前作の「バイオハザード4」がワールドワイドで高い評価を得たタイトルだったので,開発チーム一同,非常にプレッシャーを感じていました。ですから,ようやく開放される日が来たという感じです。
しかし“開放された”とはいってもネガティブな意味ではなく,開発チーム一同が自信を持っているタイトルですので,3月5日の発売日を楽しみにしています。
──「バイオハザード5」の開発はどのように始まったのでしょうか?
竹内氏:
「『バイオハザード5』はクリスの物語にしよう」と,「バイオハザード4」の開発中から構想を始めていました。今度はバイオハザード本来のストーリーに戻して,起承転結における“転”にあたるターニングポイントにしようという意気込みでした。
──本作のコンセプトを教えてください。
一つは「光と闇」というテーマです。PLAYSTATION 3とXbox 360の登場で実現可能となった,これまでCGの分野が苦手としていた“光の表現”と,そこから生み出される“影”を使った,光の射す世界が舞台のホラーを作っていこうじゃないか,と。
もう一つは,Co-opを介した「絆」というテーマです。実際にプレイしていただければ分かると思うのですが,この二つのテーマは,ストーリー面でもグラフィックス面でも,いろんなところに散りばめられています。ぜひプレイして感じ取っていただけたらと思います。
──PLAYSTATION 3/Xbox 360のマルチプラットフォーム開発で苦労した点はありますか?
竹内氏:
今回は,両プラットフォームともPCベースで開発しました。こうした開発形式は,まだまだ日本のゲームデベロッパーでは少ないと思います。
開発にはカプコンのMTフレームワークを使っていまして,皆さんが想像されるよりもイージーな状況だったのではないでしょうか。また,両プラットフォームとも現行世代機のタイトルの中でピカイチのグラフィックスに挑戦しました。「バイオハザード5」では,PLAYSTATION 3でもXbox 360でも機能の細かい部分まで使い切っています。ここまでできたのは,カプコンが開発したMTフレームワークがあってこそだと思っています。
──今回,Co-opプレイをバイオハザードシリーズに取り入れた理由を教えてください。
前作を超える,バイオハザード5ならではの部分を作ろうじゃないかと考えたのがきっかけです。そこで「二人で遊ぶバイオハザード」というテーマを掲げました。
しかし,Co-opプレイといっても今までのオンラインゲームとは違ったものにしたい。それで,どちらか片方が死んだ時点でゲームオーバーという,非常にシビアなシステムにしました。このシステムを採用することで,“協力する”というCo-op本来の意味合いが,より濃く表現できるようになったと考えています。
その一方で,二人が“協力すること”を強いる局面はあまり多くありません。私が以前携わっていた「ロストプラネット エクストリーム コンディション」でも感じていたのですが,オンラインゲームの作り方として,作り手が遊び方を指定してしまうのは,あまりよろしくない。
今回提供したのは,“遊び場”としてのゲームです。プレイヤーがCo-opプレイをしていく中で,さまざまな遊び方を発見していけるような,ゆとりあるものにしています。これらが,今までのシリーズになかった新しい遊び方になっていくと考えています。
──従来シリーズからのファンと新規プレイヤー,それぞれに対してどのような意識を持って制作したのでしょうか?
竹内氏:
前作までを体験しているシリーズのファンは,熟練プレイヤーですが,その一方で次世代機を買って初めてバイオハザードに触れるという方もいます。両者に満足していただくうえで,Co-opプレイは非常に上手く作用するのではないかと期待しています。どちらか片方が熟練プレイヤーであれば,初心者を牽引していただけるでしょう。シリーズのファンであればあるほど,バイオハザードの魅力を伝えてくれるのではないかと期待しています。
また,システムでも細かく難度設定ができます。今までの難度設定とは少し異なり,難度が高くなるほど“上手く協力しなければクリアできない”といった調整方法になっていますので,熟練者でも初心者でも満足して遊んでいただけると考えています。
──制作について,構想からの開発期間や携わった人数を教えてください。また,プロダクトマネージメントで気を使った部分はどこでしょうか?
構想からは4年くらいかかっています。ずっと「北京オリンピックまでに出す」といってきたのですが,とうの昔にオリンピックは閉幕してしまい,本当にお待たせして申し訳ありませんでした。
開発人数は,そのときの状況に応じて変動するのですが,カプコン内部だけでも最大120人ほどにまで膨れ上がりました。非常に大きなプロジェクトでマネージメントは難しかったのですが,極力セクションを分けて進捗をクリアにできるように構成していました。
しかし,それが過ぎてしまうと逆にチーム全体で同じ方向に向かうのが難しくなります。そこで今回,プリプロダクションとポストプロダクションを明確に分けて,それぞれの管理を徹底するというやり方を採用しました。
たとえば,デモシーンの制作は,従来どおりの手法だと開発と同時進行だったのですが,今回は思い切ってかなりポストプロダクション寄りにしています。そういった形で管理を楽にしています。
──開発予算管理についてはいかがですか?
竹内氏:
どちらかというと,今回は(制作費用が)予算を超えちゃったかなという感じです。まだまだ100%達成はできていませんので,今後も引き続き取り組んでいきます。ただ,他社さんが「バイオハザード5」と同等のものを作ったらもっとかかるかも? とも思います。この結果は,カプコンの取り組み方ならではという気がしますね。……とはいえ,ビックリするくらいかかっていますけれども(笑)。
──開発中に「これは苦労した」というエピソードがあれば,教えてください。
竹内氏:
シェバの設定は早々に決まったのですが,なかなか顔を可愛く作れず,かなり苦労しました。デザイナーがいろいろとパターンを作ったのですが,ある時期なんかは,関西で有名な女性の芸人さんに似ていて「これはまずい」となったこともあります(笑)。
最終的には“目力”を上手く表現できて,非常に魅力的なキャラクターに仕上がったと思います。そこに至る過程では「竹内は女性(の容姿)に厳しい」といわれるほど厳しいチェックを入れさせてもらいました。
──発売日にあたって,何か公開できる新要素は?
ファンからの要望に応えた「マーセナリーズ」モードが搭載されています。これはクリア後,一定の条件を満たすとプレイできます。
加えて,発売日からダウンロードコンテンツとして「マーセナリーズDUO」を配信します。これはマーセナリーズでCo-opプレイができるというものです。二人でプレイしますので,さらに遊び込む要素が多くなると思います。
もちろん,PLAYSTATION 3とXbox 360の両方で提供します。これは無料です。そこは関西企業ですから,サービス満点という感じで(笑)。
また,ほかにも仕掛けはあるのですが,それは追って発表していきます。やはり最近のゲームビジネスの中では,ダウンロードコンテンツが大きなポジションを占めていますし,プレイヤーさんからの要望も多い部分ですから。今後も何かしら提供できるようにと考えています。とはいえ,衣装だけといった感じになってしまうと少し寂しいですから,より楽しんでいただけるようなものにしたいですね。
──PLAYSTATION 3版とXbox 360版でなにか違いはありますか?
えー,チップが違います。あ,それはハードの話ですね(笑)。真面目な話をすれば,チップが違うので出力映像やゲームの処理はどうしても若干異なってしまいます。しかし,こっちはこの部分がいい,その代わり,あっちはあの部分がいい,といったように,どちらが良い悪いということはないといえます。正直,調整には苦労しましたけど(笑)。
パッケージとしては,PLAYSTATION 3版はハイブリッドBlu-rayでメイキング映像が入ります。Xbox 360版は初回特典ではありますが,サウンドトラックCDが同梱されます。また,Xbox 360版を購入していただいた方には,メイキング映像をダウンロードコンテンツとして提供します。
──体験版と製品版で,違いはありますか?
竹内氏:
本当にわずかではあるんですが,体験版をプレイした人の声をもとに,製品版に調整を加えています。ノーマル難度のエイミングなどを調整していますので,体験版をプレイした方なら「お,ここか」と分かっていただけるかと。けっこう細かい部分なんですが,あちこちいじってますので体験してもらえればと思います。
体験版のダウンロード数も非常に好調で,プレイヤーさんの反応も上々です。海外ではRun-and-Shoot(移動しながらの発砲)ができるか否かで議論も起こりましたが,製品版をプレイした方の印象はだいぶ違うようです。「Run-and-Shootはなくていい,これが『バイオハザード5』の操作だ」という意見をいただいています。何より,前評判の時点で皆さんの期待の高さはかなりのものでした。
──「バイオハザード」シリーズは,操作体系が独特ですが,それについての反応はどうでしょう?
竹内氏:
まず意識するのは「バイオハザードを作る」ということなんです。「ロスト プラネット」なら「TPSを作る」,「ストリートファイター」なら「格闘ゲームを作る」というように,ジャンルを意識するのですが,「バイオハザード」にはそういったジャンルではない“バイオハザードのファン”がいます。「バイオハザード」として面白くしようと考えた場合に,FPS/TPSライクな操作体系にしようとは,あまり考えませんでした。
ただ今回は,いくつか「操作タイプ」を用意しています。これは新しく入ってきた方,とくに映画の「バイオハザード」シリーズを観て初めて本作に触れるという方を意識した配慮です。
──画面構成や演出について,意識した点を教えてください。
今回,16:9の画面表示にこだわって,“画角”ありきで作っています。Co-opモードでも16:9のまま二画面分割になります。これはゲームの随所でいろんなアクションイベントや演出が入るのですが,すべて16:9の中に収まる部分に隠してあります。
たとえプレイヤーの皆さんが気づいていなくとも,無意識のうちにそれらを見ています。そうした部分が,恐怖の演出につながっているんです。なので,画面をジックリ見ると分かっていただけるかもしれません。
──体験版では,全般に弾薬が手に入りにくいという印象を受けたのですが。
竹内氏:
今回は,「弾薬が少ないと感じるくらいでいこう」という考えがまずありました。また,弾薬が潤沢にある状態というのは,今のバイオハザードの作り方だと上手く表現できないんです。
加えて弾薬を消費しやすく作っているという部分もあります。武器の種類を多くしたので,「新しい武器を買った! 早く使いたい!」となりますよね。しかし,それをやると弾薬が足りなくなるという,非常にずるい罠が張ってあります(笑)。なので,“強い心”を持ってプレイしてください。
──ポリタンクなど壊せないオブジェクトがありましたが,それらの存在意義はあるのでしょうか?
竹内氏:
体験版では十分にお見せできなかったのですが,壊せないオブジェクトをどけると,弾薬などが見つかる場所があるんです。演出的に,ガサガサと物をどけながら何かを探すという部分を入れてみたかったんですね。これからプレイしてもらって,どういった評価をいただけるだろう,というところです。
賛否両論があったのですが,製品版をプレイしたときに新鮮さを失わないようにということで,ああいった形の体験版にしたという意図があります。
──何度も繰り返して遊べるような要素は?
実績解除など,細かく用意しています。また収集アイテムも,全部集めようとすると「これイジメだろ!」と思えるようなものもあります(笑)。けっこう楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。
──Co-opモードだと気になると思うのですが,クリスとシェバで能力差はありますか?
竹内氏:
基本的にはありません。Melee,すなわち近接攻撃はシェバのほうが派手でバリエーションも多いですが,それはある程度ゲームに慣れてくると分かると思います。
──武器の種類はどのくらいあるのでしょうか?
前作よりも多く,数十種類あります。同じ種類でも細かい違いがありますし,マーセナリーズモードでしか使えない武器も用意していますので,バリエーションを楽しめます。
私のお気に入りは,実は隠し武器のような扱いなのですが,従来からのファンでしたら「ああ〜」というようなものです。「確かにシリーズには登場していなかったけれども,あって当然」というような銃です。数年前からデザインが上がっていたものなので,私も皆さんの反応が楽しみです。
──武器のカスタマイズについてはどうでしょう?
竹内氏:
プレイしていくうえで,皆さんが好きな武器が出てくると思います。また今回は,一回プレイしただけではすべての武器をカスタマイズすることは無理なようにしています。これは繰り返しプレイしていただくモチベーションを高める要素ですね。
ショットガンが好きな方とマシンガンが好きな方では,プレイスタイルが異なります。そうした方々がオンライン上でCo-opプレイを繰り広げるのも楽しいと思います。
──本作で初めてシリーズに触れる人に向けた,バイオハザードらしさとはどのような点でしょうか。
竹内氏:
カプコンのゲーム全般にいえるのですが,バイオハザードも楽しさと同時にストレスを与える作りになっています。“恐怖”というストレスと,その解放のバランスが取れていないとバイオハザードらしくありません。ストレスを除去するのではなく,楽しんでいただくことを心がけています。
──シリーズを初めてプレイする人へのアドバイスは?
竹内氏:
シリーズの伝統で申し訳ないんですが,いっぱい死んでください。また大きなポイントとして,敵との距離感があります。死んで距離感を身体で覚えてください。実は体験版には,序盤の壁となる難しいステージを意図的に収録しました。体験版を乗り越えられれば,製品版ではもっとこのゲームを楽しめると思います。
──開発過程でボツになった案は?
Co-opプレイを作っていく中で,コンビネーションやツープラトンみたいな,何か協力することで技が出せるようにしようとか,システム的にフォーメーションが組めるようにしようとか考えたのですが,あまり上手くいきませんでした。
先ほど少し触れましたが,システム的に協力させようとすると,遊び方が固定されていくんです。どうしても用意された遊び方をしようという方向にいってしまうんですよね。それでは設計者の意図した遊び方しかできませんから,よろしくない。
そういうシステムよりも,相手の位置を考えずに手榴弾を投げてしまって,「おいおいおい! 今投げるなよ!」というようなプレイのほうが逆に楽しいんです。オンラインゲームって,こういうものだよねって。そこで銃の受け渡しなど,プレイヤーの皆さんが絶対やりたいであろうこと以外は,思い切ってすべて外したゲームデザインにしました。
──ゾンビをプレイヤーキャラとして使ってみたいという要望については?
竹内氏:
シリーズを開発するうえで,必ず出る議論です。ただ,バイオハザードシリーズは“恐怖”をテーマとしていますので,ゾンビを操作するのは少し外れてしまうと考えています。カプコンには別のラインナップもありますし,今後も「バイオハザード」シリーズでやることはないんじゃないかな,と思います。
──ゴア表現についてはどのようなポリシーだったのでしょうか。
開発当初から首が飛ぶ,体がバラバラになるという表現は避けようと考えていました。怖いということは,ゴア表現と等号で結ばれるものではありません。チェーンソーで切られるシーンでも,死亡が確定した時点でクリスの足元しか映らず,そのあと倒れていくシーンになる。こういった表現のほうが,かえって怖いんじゃないかと思うんですよね。
バイオハザード5でも,最初に出てくるオッサンがごにょごにょ……というシーンがありますが,そこはあえて見せずに,カメラを振ってキャラクター二人の表情で見せています。今回は表情を細かく作り込んで,それで感情が分かるようにしているので,そういった部分を見てもらうことで,より怖いものを想像させるようにしています。
──海外市場に向けた意識は?
竹内氏:
バイオハザードシリーズは非常に海外の評価が高いのですが,あまり意識してしまうとシリーズの本質から外れてしまいます。そこで「シリーズとして面白い」と開発者自身が思えるようなものを目指しました。
ただ,劇中のボイスにはこだわりました。まず,英語でしゃべっている部分がおかしいと,英語圏の方の没入感を削いでしまいます。また英語はもちろん,スワヒリ語はネイティブの方にお願いしました。とくにシェバに関しては,スワヒリ訛りのある英語を再現できる方を起用し,違和感のないリアリティを出しています。
──以前登場したジルの墓の意味はなんなのでしょう? またシリーズの登場人物達が出てくることはありますか?
竹内氏:
お墓が出ているということは,ストーリー上では重要なポジションを占めているという意味です。登場するかどうかはまた別の話ですが,ジルはストーリー上「キーウーマン」ということでいろいろと……これ以上は実際にゲームをプレイして確かめてください。ほかの登場人物についても,まだ発売日前ですから内緒ということで。
――最後に,バイオハザード5を楽しみにしている人達にメッセージをお願いします。
今回,シリーズ当初から続いていたクリスとウェスカーの因縁が結末を迎える……のではないか? というストーリーになっています。シリーズのファンはそうした部分にも期待してください。
バイオハザード5からプレイされる方は,“絆”という非常に重いテーマに注目していただければと思います。クリスとシェバ,ウェスカーとエクセラ,クリスとウェスカーといった関係に注目してストーリーを追いかけるだけでも,まったく損はないゲームになっているんじゃないでしょうか。
また,オンライン対応にはなりましたが,インターネット接続環境が整っていないと遊べないということもありません。二画面分割で一緒に遊んでいただけるオフラインCo-opモードも用意しましたし,もちろんシングルでも遊べます。いうなれば“全方位隙なし”になっているはずです。本当に皆さんの期待に応えられる内容になったと思っていますので,ぜひ手に取っていただきたいです。よろしくお願いします。
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(c)CAPCOM CO., LTD. 2009 ALL RIGHTS RESERVED.
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