インタビュー
“新キノスワールド”の目指す方向性とは? 開発スタッフに作業の進捗やコンセプト,ゲーム内容などについて直接聞いてみた
先日(6月26日)お伝えしたように,「キノスワールド〜騎士集結〜」へのタイトル変更や,クローズドβテスト/オープンβテストのスケジュールが発表され,サービスインに向けてついに本格的な動きを見せ始めた。
とはいえ,“新キノス”の全貌はまだまだ謎のベールに包まれている。先日,同社の代表取締役社長を務めるアンディ・クォン氏のインタビュー記事を掲載したが,同氏の発言にひととおり目を通してみても,実際にどんなゲームに仕上がりつつあるのか,まだまだイメージをつかみきれないという人は多いと思う。
今回4Gamerでは,新キノスの開発を担当している,GMO Gamesの開発スタジオである韓国Burning Hands Studioを訪ね,以下の3人に話を聞く機会を得た。
・ユン・ジェス氏(Burning Hands Studio プロデューサー)
・吉田哲朗氏(GMO Games コンポジションディレクター)
・松木善史氏(GMO Games オンラインゲーム事業本部事業本部長)
気になる作業の進捗や,新キノスの目指す方向性などについて質問をぶつけてみたので,本作に関心を持っている人や,サービスインを心待ちにしている人はぜひ目を通してほしい。
なお,先ほどお伝えしたように,本作の第1次クローズドβテスター募集が本日(7月1日)スタートしている。300名分の4Gamer読者枠を用意してもらったので,奮ってご応募を。
「キノスワールド〜騎士集結〜」第1次クローズドβテスターに応募する
「キノスワールド〜騎士集結〜」公式サイト
日本と韓国のスタッフが共同で新キノスの開発にあたる
本日はよろしくお願いします。それではさっそく質問に入りますが,ユンさんと吉田さんはそれぞれどのような仕事を行っているんですか?
ユン・ジェス氏(以下,ユン氏):
私は,プロデューサーとして新キノスの開発作業を総括しています。全体的な作業の方向性を決め,各部署に指示を与えたり,細かい点について判断したりするのが仕事です。
吉田哲朗氏(以下,吉田氏):
私は「コンポジション・ディレクター」という立場で開発に携わっています。具体的には,新キノスを,日本のゲーマーの嗜好に合うように調整する仕事です。例えば,ゲーム内のテキストや,各キャラクターの決め台詞などを一つ一つ確認し,日本のプレイヤーにとって違和感のないものに仕上げたりしています。
4Gamer:
確かに,テキストに違和感を覚えると,ゲーム全体に対する印象が変わってきますよね。
テキストのほか,ゲームの仕上がりを左右するさまざまな作業に関わっています。新キノスのコンセプトの一つに,イラストレーターである平尾リョウさんが描いたキャラを,そのままの姿でゲームに登場させるというものがあります。スタッフが制作した3Dモデルについて,そのコンセプトに沿っているか,日本のゲーマーの嗜好に合うか確認し,必要に応じて修正を指示することも私の仕事です。
また,私はプログラミングそのものの知識は持っていないんですが,例えば,日本でオープンβサービスを行ったとき,どんな問題が起きていたかといったことを,噛み砕いて伝えたりしています。
4Gamer:
吉田さんは,日本側と韓国側の橋渡し役を務めているんですね。それではユンさん,どのような体制で新キノスの開発を進めているか,教えてください。
ユン氏:
大まかには,日本のチームと韓国のチームからなっています。日本側では,平尾さんがキノスワールドのイラスト制作を担当しているほか,GMO Gamesのマーケティングチームがテキスト関連の作業などを行っています。
4Gamer:
韓国側ではどんな作業が進められているんですか?
ユン氏:
技術的な作業がメインです。具体的には,ゲームデザインなどを行う企画チームと,3Dモデルなどを制作するグラフィックスチーム,そしてサーバーやクライアント開発を担当するプログラミングチームの三つで構成されています。
吉田が担当しているのは,各チームで制作されたものをまとめ上げ,キノスワールドに魂を入れるという仕事なんですよ。
4Gamer:
なるほど,とても重要な役どころですね。
気になる開発の進捗は?
4Gamer:
開発の進捗がどうなっているか,気になっている人は多いと思います。
吉田氏:
ゲーム全体の完成度としては,80〜90%くらいです。
ユン氏:
新キノスを開発するにあたり,私達は,ゲームに不慣れな人でも直感的に楽しめる作品に仕上げることを第一の目標に掲げています。そのうえで,ストーリー性の向上やゲームバランスの調整に力を注いできました。
新キノスのストーリーは,可愛らしい見た目とは裏腹に深みのある内容となっており,かなりのボリュームがあります。長時間プレイしても飽きが来ないように,さまざまな工夫を凝らしているんですよ。
また,旧キノスではバランス調整が不十分だったので,今回は入念に作業を進めてきました。
4Gamer:
旧キノスではラグが問題となりましたが,ネットワーク周りについてはどうですか?
ユン氏:
当時用いていたネットワーク関連のソースコードは,すべて破棄しました。一から作り直したことで,安定性は非常に高くなっていますので,安心してください。そのほかプログラム面では,プレイヤーキャラを新しいものに入れ替える作業に,かなりの時間がかかりました。
4Gamer:
以前,クォン社長に話を聞いたとき,2009年夏にサービスインを予定しているとのことでしたが,残りの10〜20%はどんな作業になりますか?
吉田氏:
主に,グラフィックスやゲームバランスに関する細かい調整作業が残っています。また,近日中に実施するクローズドβテストに向け,各要素をまとめ上げる作業も行っているところです。
平尾さんのイラストが3Dキャラになるまで
ところで,平尾さんが描いたイラストは,どんな作業を経て3Dキャラになるんでしょうか? ざっくり教えてください。
吉田氏:
平尾さん自身,キノスワールドに思い入れがあり,またゲームに関する知識も豊富なので,ゲームの演出的な部分なども加味しつつイラストを描いてくれています。
そのイラストがゲームのキャラとして適しているか,日本のマーケティングチームが検討します。といっても,たいてい問題はありませんが。
4Gamer:
そのあと,イラストが韓国側に送られるわけですね。
吉田氏:
ええ。それを元にグラフィックスチームがモデリングします。腕のいいスタッフが揃っていますので,クオリティの高いものがスムースに出来上がってきますよ。
4Gamer:
では,ゲーム全体の方向性や仕様は,どのように固まっていくんでしょうか。
吉田氏:
まずアイデアレベルでは,GMO GamesとBurning Hands Studioの全スタッフが自由に意見を出し合っています。出された意見について,韓国側の企画チームが,彼らのノウハウに基づいて開発仕様書にまとめ上げていくんです。
4Gamer:
なるほど。どちらかが完全に主導するという形ではないんですね。
ちなみに,吉田さん自身,作業にあたって留意している点は何ですか?
吉田氏:
やはりコミュニケーションをしっかりとるということです。ディスコミュニケーションは同じ国の者同士でさえ起こりがちな問題ですよね。異なる言語や文化を持ったスタッフが集まっている職場で,スムースに開発を進めていくには,意思の疎通はとても重要だと思います。
舞台背景や各NPCの存在理由を用意し,物語に深みを
4Gamer:
ところで先ほど,ストーリーに関して,かなり深い内容になっているという話が出ましたが,もう少し具体的に教えてもらえませんか?
吉田氏:
旧キノスには,物語の背景や世界観に関する細かい設定は用意されていませんでした。一方,新キノスは,プレイを重ねるにつれ,深みを増していくようなストーリーになっています。
4Gamer:
どんな内容か気になるところです。
吉田氏:
あまり詳しくは話せませんが,物語の導入は旧キノスと同様,“生命の樹”を守るために,レイチェルがプレイヤーの力を借りにくるというものです。
新キノスでは,さまざまなNPCとの関わりを通じて,ゲームの背景が徐々に明らかにされていきます。このあたりの作り込みは,旧キノスとは大きく異なる部分なんですよ。
旧キノスでは分からなかった,各NPCの存在理由がきちんと用意されています。キノスワールドの世界には,獣人族,人間族,闇族といった種族がおり,新キノスでは,それぞれが抱えている葛藤のようなものが描かれているんです。
例えば闇族は,かつて戦争で敗れた種族であり,心に弱い部分を持っています。最初に登場するボス「デスナイト」は,彼らの心の弱さを利用し,ゲームの舞台となる世界を襲い始めました。シーズン1では,デスナイトに対し,レイチェルとプレイヤーである騎士達が立ち向かうというストーリーが展開します。
4Gamer:
なるほど。
ユン氏:
とはいえ,この戦い自体,そう単純なものではありません。シーズン2では,その裏にある物語を描いていく予定です。実は,すでにシーズン8くらいまでの話を考えてあるんですよ。
4Gamer:
かなり先まで構想が練られているんですね。
ユン氏:
シーズン1から2にかけ,7人の魔王が登場し,そのうちの一人はシーズン1に出てきます。7人の魔王を倒すと,それらを束ねる敵が現れるといった具合に物語が展開するんです。
新キノスのストーリーには結構重いテーマが用意されていますが,見た目が可愛らしいので,プレイそのものは楽しく進めていけると思います。
4Gamer:
先日,クォン社長にインタビューしたとき,コンテンツ不足に陥る心配はないか尋ねたところ,「同じコンテンツを繰り返し遊ぶことで深みを味わってもらえるようなものにする」と述べていました。
プレイヤーのコンテンツ消費速度の速さに,どのように対応するか,具体的に教えてください。
ユン氏:
十分な量のコンテンツを用意しますので,シーズン1のあいだにプレイヤーが不満を覚えることはないと思います。
吉田氏:
アイテム集めなどのやり込み要素を用意する予定です。クエストをひととおりプレイしたあとも,じっくり楽しんでもらえるでしょう。
ユン氏:
新キノスワールドを開発するにあたり,私達は,さまざまなコンテンツの“器”となる,基本的なシステム作りに時間をかけました。
器さえしっかりしていれば,クエストやキャラクターといったコンテンツの追加には,さほど時間はかかりません。プレイヤーからのリクエストにすばやく対応できる下地が整ったわけです。
ゲームシステムを極力シンプルにし
幅広い層のゲームファンが楽しめる作品に
4Gamer:
それでは次に,新キノスのサービススケジュールについて説明をお願いします。
最初のクローズドβテストを,7月10〜14日の各日18:00〜23:00まで実施し,2回めを7月24〜28日の各日18:00〜23:00に実施する予定です。
1回めのテストでは2000名の参加者を募集しますが,2回めのテストには最初のテストの応募者全員と,旧キノスのアカウントを持っているすべての人が参加可能です。
4Gamer:
最初のクローズドβテストには,どんなシステムや要素を盛り込む予定ですか?
吉田氏:
システムに関しては,チャット,パーティ,ギルドといった基本的なものはひととおり実装する予定です。クローズドβテストでは,シーズン1のクエストのうち約半分が実装されます。
ユン氏:
クローズドβテストは,主にサーバーへの負荷を検証することが目的となりますので,実施期間はあまり長くありません。用意したすべてのクエストをプレイするのは難しいと思いますよ。
4Gamer:
なるほど。それでは新キャラについて,それぞれの特徴を教えてください。
吉田氏:
1次転職で操作できるキャラは,「ファイター」「メイジ」「アーチャー」の3種類で,「シーフ」は新キノスでは2次転職以降,プレイできるキャラとなっています。
ファイターは近接戦闘型で,モンスターと直接対峙して戦うタイプで,メイジは,一歩引いた位置から魔法スキルを用いて戦う遠距離戦闘型です。もう一つのアーチャーは,メイジと同じく遠距離戦闘型ですが,文字どおり弓などの武器を使って戦うタイプとなります。
先ほどユンが話したとおり,旧キノスでのバランシングの問題を踏まえ,時間をかけて調整してきました。
4Gamer:
具体的に,どのように調整したんですか?
吉田氏:
旧キノスでの一番の問題点は,メイジが,威力の高い範囲攻撃を繰り出しながら大暴れできてしまったことです。そこで,ファイターの攻撃力と防御力を高めることで,ファイターの存在意義を大きくしました。これにより,どのキャラを選んでも,それぞれの役割を果たして活躍できるようになりました。
ユン氏:
キャラの育成に関しては,「AP」「SP」の概念がなくなったことも大きな変更点です。
吉田氏:
新キノスでは,ステータスポイントにあたるAPの概念自体がなくなりました。また,レベルアップ時に獲得できるポイントを振ることで新たなスキルを習得する,「スキルツリーシステム」を採用しています。これに伴い,旧キノスでのSP(スキルポイント)も廃止されました。
先ほど,ゲームに不慣れな人でも直感的に楽しめる作品に仕上げることを目指しているといいました。APとSPの概念をなくしたことは,その目標を実現させるための一つの策なんです。これにより,ゲームシステムについてあれこれ考えなくても,直感的に遊べるようになっています。
4Gamer:
なるほど。
吉田氏:
また,アバター性の向上も大きなポイントです。自分のキャラに装備させ,個性を発揮するためのアイテムを豊富に提供するつもりなので,楽しみにしてほしいと思います。
ユン氏:
旧キノスで提供していたアイテムは,日本のプレイヤーの嗜好にマッチしませんでした。新キノスでは,平尾さんのデザインを元に,日本人好みのアイテムを多数用意しています。
元のイラストと同じタッチで描かれた3Dキャラ
NPCを含むすべてのキャラにボイスを用意
新キノスで注目してもらいたい点はどこですか?
吉田氏:
なんといってもキャラですね。元のイラストと同じタッチで描かれた3Dモデルが画面上で動き回るオンラインゲームは,私の記憶する限り,新キノスだけです。
キャラクターが可愛らしいので,例えば,冒険したり敵と戦ったりせず,ほかのプレイヤーと交流するだけでも楽しめる作品だと思いますよ。
また,ゲームを長時間プレイできない人もたくさんいると思うんですが,そのようなプレイヤーについても考慮して設計しています。まとまった時間がとれないという人や,ちょっとした空き時間にゲームを楽しみたいという人にも,ぜひ遊んでほしいところです。
松木氏:
プレイヤーキャラはもちろん,すべてのNPCに,声優によるキャラボイスを用意している点が大きなウリです。セリフはキャラごとに数パターンずつ収録されていますので,そのキャラに会うたびに異なるリアクションが返ってくるんですよ。
4Gamer:
キャラボイスの充実は,日本のゲームファンにアピールしそうですね。
松木氏:
本作で主人公(=プレイヤー)は,伝説の騎士として,レイチェルに異世界へと連れてこられたという設定です。
最初は,伝説の騎士であることをその世界の人々に信じてもらえないんですが,クエストをクリアすることで信頼されるようになり,NPCの話し方が少しずつ変化していきます。そのあたりにも注目してほしいと思いますね。
4Gamer:
それでは最後に,キノスワールドのファンや,4Gamer読者へのメッセージをお願いします。
ユン氏:
旧キノスでは,プレイヤーの皆さんに申し訳ないことをしたと思っています。優れた要素をいくつも備えた作品でしたが,それぞれの完成度が十分ではありませんでした。
私は,オンラインゲームで本当に重要なのは,基本がしっかりしていることだと思っています。新キノスにはあえて複雑な要素は盛り込まず,シンプルな操作で爽快なアクションを楽しめることを目指してきました。プレイを重ねるにつれ,ストーリーの奥深さを味わってもらえると思います。
吉田氏:
当時,旧キノスを遊んでいたというプレイヤーから,今でも応援のメールをいただいたりしており,とても嬉しく思っています。
旧キノスは私達自身が開発していたわけではありませんので,できることに限界がありました。自社開発作品となったことで,プレイヤーからのリクエストにすばやく応えるための環境が整いましたので,ファンと一緒にキノスワールドというゲームを作り上げていきたいと思います。
また私自身,もともとオンラインゲームが好きでこの業界に入りました。キノスワールドを通じて,もっとこの業界を盛り上げていきたいと思っています。
松木氏:
キノスワールドについては,オープンβサービスを休止していることや,初めての自社開発タイトルということで,マイナスからのスタートだと認識されていると思います。しかし,新キノスのクオリティは,そのマイナスを補い,さらにプラスに転じさせるだけのものがあると思っています。まずは一度プレイして,どんなゲームか確かめてください。
それから,レイチェルの声を演じている宮崎羽衣さんが,キノスワールドのオープニングアニメの主題歌を歌っています。この歌が,8月26日に発売される宮崎さんのファーストアルバムに収録されることになりましたので,こちらもぜひ注目してください。
4Gamer:
ありがとうございました。
今回のインタビューの前に,限られた時間ではあったが開発途上版をプレイさせてもらえたので,その印象をお伝えしよう。
グラフィックスに関しては,吉田氏も述べているように,平尾リョウ氏によるイラストが3Dとなり,画面上を動き回る様子は目を引くものがあった。この点を楽しみにしている人も多いと思うが,しっかり期待に応える出来といえそうだ。
そのほかの点では,本作のウリである軽快なプレイフィールに磨きがかけられ,旧キノス以上にテンポよくゲームを進められた。このインタビューに合わせて用意されたバージョンとのことで,十分評価できる段階にはなかったが,βテスト以降,ゲームに触れるのが楽しみである。
また,このインタビューとは別に,Burning Hands Studioを訪れていたアンディ・クォンGMO Games代表取締役社長に,少しだけ話を聞く機会があった。
これまで,開発にかなりのコストをかけてきたであろうことは容易に想像がつくし,ビジネスとして成功させるために,同社がどのくらいの数字を目標に据えているか気になるところだ。
クォン氏に,キノスワールドで目指している同時接続者数を尋ねたところ,「1万人を目標としています」と答えてくれた。
これまでのインタビューでクォン氏は,キノスワールドについて,「GMO Gamesが成功するのならばうちだって」と,日本のゲーム業界を活性化させることが狙いだと話している。
今後,βテストやサービスイン以降,キノスワールドがゲームファンの心を捉え,業界にインパクトを与えていくか,注目していきたいと思う。
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キノスワールド〜騎士集結〜
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