レビュー
Xbox 360版「A列車で行こうHX」がベースのPC版最新作
A列車で行こう8
人気都市開発シム「A列車で行こう」の最新作が登場
A8は,2006年12月に発売されたXbox 360版「A列車で行こうHX」の移植作。PC版としては,2005年3月に発売された「A列車で行こう7」(以下,A7)の続編というポジションとなる。ゲーム画面はフル3Dで描かれており,“360度自由な方向から眺められるA7”といったほうが分かりやすいかもしれない。実際のところ,見た目がフル3Dになっただけで,基本的な都市開発のやり方などはA7から見事なまでに変わっていないのだ。すでにA7をプレイしている人であれば,A8のルールもすんなり飲み込めることだろう。
購入する列車を一覧から選べる。異なる鉄道会社の車両を同じ路線に走らせる,なんてことができるのはA列車ならでは。お気に入りの列車を見つけられるだろうか? |
ゲーム画面内のすべてのオブジェクトがフル3Dで描かれており,カメラアングルを自由に変えて,さまざまな方向/角度から自分で作り上げた都市を眺められる |
都市開発のベースとなるマップは10種類用意されており,地形はもちろん,一部地域の発展度合,初期資金の違いなどにより難度が異なる。どのマップにもシナリオや明確なクリア目標は設定されておらず,自由に都市開発できるスタイルは変わっていない。とはいえ過去のA列車シリーズと同様,資金「1兆円」を獲得することが,一つの達成目標になるだろう。
鉄道が主軸のゲームなので,登場する列車について触れておこう。本作には最新のARTDINK AR8を筆頭とするオリジナル車両の数々を含め,東日本旅客鉄道の107系100番代(上越線・両毛線・吾妻線),101系(南武支線),E233系3000番代(東海道本線)など,数多くの新規収録車両のほか,シリーズ最高の合計200車両が収録されている。さすがに登場する車両すべては掲載できないので,どんな車両が登場するのか気になる人は,公式サイトにある収録車両一覧リストをチェックしておこう。Xbox 360版のHXでは有料のダウンロードコンテンツだった車両が,すべて最初から収録されているのは嬉しいところ。
マウスの左ボタン,右ボタン,ホイールを組み合わせたマウスアクションでカメラアングルを変えられるが,キーボードも併用したほうが都市開発はやりやすい |
列車は見た目が“プラレール”なうえ,パンタグラフなども一切なし。「A列車で行こう The 21st Century」では再現されていた部分なのに,ちょっとガッカリ |
グラフィックスについては,A列車シリーズとしてはトップクラスの美しさだが,海外作品も含めた2008年のPCゲームとして見た場合,目の肥えた4Gamer読者にとって注目すべき点はあまり見当たらないかもしれない。天候などの描画は美しいが,影生成が一切なく,全体的に写実的というよりはミニチュア模型を眺めているような感覚。むしろ「A列車で行こう The 21st Century」より簡略化されてしまっている部分も見受けられるのが残念だ。WUXGA(解像度1920×1200ドット)をウリとするのであれば,もう少し高い視点から地面を見下ろすことも可能であってほしかった。
手厳しくなってしまったが,街が発展すればするほど,フル3Dで街を好きな方角から眺めるのが楽しくなってくるのは確か。視点が固定だったA7の頃を思い出しつつ,グルングルンと美しい街並を見渡そう。
A7では拡張パックだったマップコンストラクションモードが標準で収録されている。地形の編集のほか鉄道,道路,建物などの一つ一つを自由に配置可能だ |
新幹線やリニアは,大金と長時間を投じて行うプロジェクト。停滞した都市発展のカンフル剤としても使用できる。新幹線だけではなく世界中の高速列車が登場する |
見た目が変わっただけで基本的なゲーム性は前作と同じ
鉄道収入で儲けを出すための基本は,“多くの乗客”を“長い距離”輸送すること。「住宅地」−「オフィス街」といった具合に,大勢の鉄道利用者が狙えるところに列車を走らせるのがポイントだ。周りが田んぼだらけという無人の地域でも,駅の周辺にマンション,オフィスビルや運動施設,娯楽施設などを建設していけば鉄道利用者を増やせる。あとは発展状況に合わせて,複線化したり同時に走行させる列車の編成を増やしたりと,臨機応変に対応していけばよい。
線路は前作同様にシングルクロス,ダブルクロス,クロッシングなど多種多彩なポイントが利用可能だ。ポイント設定で複雑な列車の行き来をコントロールする |
資材置き場が満杯で資材が置ききれなくなると,資材工場の売り上げも落ちる。鉄道収入が急に減ったと思ったら貨物列車の売り上げをチェックしてみよう |
複数の列車を走らせるためには「ダイヤ設定」が必要になる。列車,駅,駅ホーム,そしてポイントなど,それぞれの項目において,細かい調整が可能なのは前作同様だ。ただし,前作の拡張パック「A列車で行こう7 ダイヤ・コンストラクション」のような詳細設定はできない。まさかA8のダイヤ・コンストラクションが出るのか? などと心配してしまうが,これはできれば標準機能として用意しておいてほしかった。
ただし,A7のレビューのときにも触れているが,A列車では時間の流れ(タイムスケール)が現実に即してはいない。これはA8でも同様で,例えば隣接する駅に列車が到着するまでに数時間,一度発車した列車が戻ってくるのが翌日なんてのはザラで,一日のうちに一定区間を何往復もするような運行はできず,数分単位でダイヤを設定する意味はあまりない。
そんな状況なので,筆者はダイヤ設定を行うのは,貨物列車を平日の17時に走らせる場合くらいで,ほかの旅客列車などについては,複線にして往復させるだけだったり,環状線で大量の電車を走らせっぱなしだったりという状況だ。結局,ダイヤ設定しなくても運行できるような方法を取っている。
乗客を乗せた列車の売り上げは,駅から駅までの距離が長いほど上がるため,できるだけ大人数を乗せて長い距離を走らせるような路線を築くといいだろう |
大量のスペースが必要な資材置き場を,地上に作ってしまうのは土地の無駄。地下を資材置き場として利用するのが基本だ。エキチカを有効活用しよう |
マンションやオフィスビル,娯楽施設,高層ビルといった子会社経営も重要で,子会社を建てることで列車の乗客数が増えるし,子会社自体の売上も収入として計上される。ただし,子会社が増えるのは資産が増えることになるため,子会社を増やしたぶん資産税を支払わなくてはならなくなる。
都市の発展には「資材」が必要になる。資材は従来作と同様,資材工場や港などから資材置場へ搬送された後に使用可能になる。自社だけでなく他社も資材を利用するため,需要に見合った資材を搬送する必要がある。しかし,資材の需要と供給を両立させるのは難しい。というのも,活性化の進んだ地域では他社が遠慮なしに資材を使ってしまうためだ。他社が資材を使えば資材の売り上げとして収入は得られるものの,自社の子会社を建てたくて資材を溜めているのに,他社が片っ端から建設に使ってしまうのは頭に来るなぁ(それもIIIからの定番仕様だけど)。
こんな感じで,まずは発展させたい地域に資材を運び入れ,住宅や子会社を建てて駅周辺を活性化させ,新たな土地に駅を建てて列車を走らせる……というのを繰り返して都市を徐々に広げていく。まぁ,言葉で言うほど簡単ではなく,軌道に乗るまではかなり難しい。一つのマップで何十年,何百年遊んでもかまわないのだから,少しでも黒字が出ているのであれば,そのまま何も作業をせずに数年間放置し,資金が増えていくのを見守りつつ過ごすこともときには必要だ。
地域の活性化が始まると「道路」が自動で敷設され,住宅や他社の子会社が建ち始める。自社で使いたい土地は線路を敷くなどして場所を先取りしておこう |
ゲーム開始からすでに28年経過しているが,ノンビリと都市開発を行ってきたせいか,まだまだ更地も多い。納得できる都市になるまでマイペースで進めていこう |
赤字での倒産が復活!
経営者の手腕が問われる税金対策はどうする?
A7では,赤字経営でもなんの制限もなく都市開発が続けられたが,A8では資金繰りに注意して都市開発を進めないと簡単にゲームオーバーになってしまう。やはり倒産があるのとないのでは,あったほうが俄然面白いし,やり応えもあるのだが,難度は格段に上がっており,経営に慣れた人でも軌道に乗るまでは油断しないほうがいいだろう。
しっかり計画を立てて都市開発を行ってきても,税金の支払いで膨大な赤字を計上することも多い。現実の会社経営と同様,「税金対策」は本作でも必要になる。A8には消費税,所得税,資産税という3種類の税金があり,鉄道収入や子会社収入が増えれば支払うべき税金も自ずと増えていく。
12月31日に消費税,所得税,資産税が確定し,5月1日まで順番に支払っていく。資産税は年々莫大になっていくもので,支払い時点で赤字になりやすい |
自社物件が増えてくると,どれが自社物件なのか分かりにくくなるが,オプションの「自社物件に着色する」を選ぶと青色で表示されて分かりやすくなる |
名前 | 確定日 | 支払日 | 税率 |
消費税 | 毎月月末確定 | 翌月1日に支払い | 株式売却を除く売り上げに対する5% |
所得税 | 毎年12月31日確定 | 翌年4月1日支払 | 利益に対する10% |
資産税 | 毎年12月31日確定 | 翌年5月1日支払 | 資金を除く資産合計に対する5% |
税金の「確定日」と「支払日」を見れば,税金対策をどうするかが見えてくる。たとえば子会社を多数抱えていると資産税が膨大になるため,確定日の前日である12月30日あたりで,すべての子会社を売ってしまうという手がある。これで資金が増えるし,翌年5月1日に支払うべき税金は確実に減少する。ただし子会社の売り上げ収入はなくなるわけで,どちらがより儲かるかを見極める必要はある。
納税までのイヤな緊張感や,赤字になったときのピンチをどう切り抜けるかなど,このあたりがA列車で行こうシリーズの面白さであることは,過去のシリーズをプレイしてきた人はよくご存じだと思う。
評価額が上がりやすく購入時の数十倍で売れるコンビニやオフィスビルは,どんどん建設しておいて損はない。高くなったころを見計らって売却するとおいしい |
赤字のまま対策しないでいると倒産してしまうので,借入金または子会社売却で資金を黒字に戻そう。ゲームオーバーになると今までの苦労が水の泡に…… |
筆者は子会社売り上げも重視しているため,赤字が出てから必要な分だけ子会社売却で調整する方法を採っている。資産税の支払いを終えた5月2日から12月31日までは,資金の許す限りひたすら鉄道網を広げ,子会社建設を繰り返す。とくに,建設は安価で売却は高額になりやすいコンビニやオフィスビルなどは,土地が空いているところにどんどん建てておく。そして税金が確定する12月31日を過ぎてから,資産税を支払う5月1日までは都市開発作業は休止して,支払うべき税金を貯める期間にしている。
毎月1日の消費税,4月1日の所得税は支払いも難しくないのだが,5月1日の資産税の支払い時には赤字になってしまうことも少なくない。そこで赤字を解消する分だけ,オフィスビルなどを売却していくのだ。税金の支払い用にオフィスビルなどを数多く建てて育てておくというのは,なかなか使えるテクニックなので,税金を支払うたびに会社を潰している経営者は試してみてほしい。
一気に都市を大きくしようとすると失敗しやすいので,時間がかかりすぎると思うくらい,ゆっくりと資金を貯めながら都市開発を行っていくのがいい。たぶん,最初は思うように都市開発が進まずに経営破綻することも多いと思う。しかし,鉄道経営や子会社経営でコンスタントに黒字を計上できるようになり,税金対策もうまくできるようになってくると,本作は俄然面白くなってくる。
まとまった資金が必要ならば銀行から借り入れることも可能だが,1年または2年で返却しなければならず,自転車操業になりやすいので最終手段にしたい |
証券取引所での株取引は,安いときに買い,高いときに売って儲ける。ただし高騰しても思ったより上がらず,前作のような驚くほどの儲けはない印象だ |
インタフェースに慣れれば面白いのだが……
都市の育ち方を確認しながら,焦らずゆっくりじっくり都市開発を行っていけば,資金「一兆円」を達成するのも夢ではない。何十年かかっても構わないのだから,少しでも黒字が出ていたら,都市開発を数年間放置して資金調達に走るのも手だ |
さて,最後にどうしても触れておきたいことが二つほどある。まず,シリーズを通してチュートリアルやヘルプは弱い部分だったが,これはA8でも同様で,最近のゲームではまずお目にかかれないほど初心者に厳しい。チュートリアルは一応用意されているが,ゲームとは別に起動するヘルプを読むという形であり,本作で初めてA列車デビューを飾るという人が,すんなりプレイできるとは思えないのだ。ほかの都市開発シムでは当たり前に搭載しているような“プレイしながら覚えていけるチュートリアル”があったら,誰でも簡単に基本操作を覚えられるであろう。このあたりは改善してほしいところである。
最初は何もなくても,駅の周辺に道路や住宅が現れ始めたら発展の兆しあり。資材を搬送して建物が建ち並ぶようならば,どんどん自社物件を建てていく |
列車追跡モードでは,選択した列車を外部視点のまま追跡表示してくれる。カメラアングルを変えたりしてお気に入りの列車を眺めてみよう |
それともう一つ。都市開発シムにおいて肝心要となるインタフェース(操作性)についてだが,非常に使い勝手が悪く,A7よりかなり退化してしまっている。
理由はおそらく,ゲームパッドでプレイするように開発された「A列車で行こうHX」のメニュー周りを,ほぼそのままマウスで操作しようとしているからだろう。A7では情報,列車,鉄道,建設といったメニューは,それぞれが個別にウインドウ化されていて同時に開けることができたし,配置も自由に変えられた。しかし,本作ではそれぞれを同時に開けず,位置も画面左上に固定となっている。
とくに使い勝手が悪いと感じたのが列車ウインドウだ。前作では列車ウインドウの中で列車の運行状況や詳細のほか,マップ中の列車の追跡なども可能だったが,本作では列車ウインドウの中では運行状況の確認しかできない。列車追跡は“画面右上”にあるツールバーの中の列車追跡を押すと,“画面右下”に列車追跡リストが表示され,列車選択後に追跡ボタンまたは車窓ボタンを押すことで追跡できるという具合。前作では一つの画面の中でできていたことを,わざわざ分けて複雑にしてしまったのはなぜだろう。
列車の運転席に近い視点で都市を走れる車窓モード。とはいえ,真正面しか視点がないため周りを見渡せない。周りをキョロキョロしたかった |
セーブボックスが40か所用意されており,小まめに都市状況を保存しておける。しかし上書き保存ができず,必ず前データを削除してから保存する必要がある |
また建造物を選ぶときも,前作ではグラフィックス付きで建物一覧が表示されたが,本作ではテキストリストの中から選ぶと建物が表示されるスタイルになっており,大きな建造物になると全体像はマップ中にカーソルを合わせないと確認できない。グラフィックスで一覧表示された中から建物を選択したほうが,はるかに直感的で分かりやすいのに残念だ。
このほか,マップ内の建物にカーソルを合わせると物件情報が表示されるが,前作では建物の詳細が表示されたのに,本作では物件名しか表示されず困ってしまった。実はこれ,オプションの中に詳細まで表示させる項目が用意されていた。最初から表示してあったほうが便利だと思われる部分が,デフォルトでは表示させないようになっているのは謎だ。「詳細は表示させないでほしい」という要望が多かったのだろうか。
正直,重箱の隅をつつけばまだいくつかは出てくるのだが,とくに気になった点に留めておく。操作に慣れるのに時間はかかったが,慣れてくるとやはり都市造りに夢中になってしまうのは,A列車シリーズが持つ魔力といえるだろう。
「遊びやすさ」を最重視するのは,今どきのゲームではとくに当たり前ともいえる部分。「本当は面白いのに,遊びにくくて残念」などと思ったのは,実に数年ぶりのことである。もしパッチなどで改善可能であれば,今すぐにでも直してもらいたいほどであり,期待したいところである。
建物の選択はテキストから選ぶ方法になっており,正直使いづらい。前作のようにグラフィカルで必要資材も分かりやすい一覧から選べたほうが絶対に便利だと思う |
列車に関する情報表示や設定は列車ウィンドウの中だけでできたほうがよかった。設定ウィンドウを分けることで,逆に使い勝手が悪くなっている |
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