テストレポート
ファン回転数制御か,クーラー交換か。ATI Radeon HD 4850の冷却を考える
そこで今回は,
- リファレンスGPUクーラーのファン回転数を変更する
- GPUクーラーを換装する
という,二つの方法で,“HD 4850の冷却能力問題”に対応を試みたいと思う。
※注意
リファレンスGPUクーラーのファン回転数変更,GPUクーラーの換装は,いずれもAMDやカードメーカー保証外の行為です。最悪の場合,グラフィックスカードの“寿命”を著しく縮めたり,GPUを壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考に試した結果,何か問題が発生したとしても,AMDやグラフィックスカードメーカー,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
リファレンスクーラーの設定を書き換えて
ファン回転数を任意の値に固定してみる
まず,根本的な問題として,「なぜリファレンスクーラーではGPU温度があまり下がらないのか」だが,下に示したのは,TechPowerUp製のBIOS設定ツール「Radeon BIOS Editor」(Version 1.11)で,Radeon HD 4850のファン制御がどのように行われているかを表示したものだ。
ただこの回転数,ちょっと手間だが,ユーザー側で任意の値に変更可能だ。以下では,その方法を紹介したい。
(1)ATI Catalyst Control Center(以下,CCC)のATI Overdriveを有効にする
(2)CCCの上段メニューにある[Profiles]からProfiles Managerを起動する
(3)「Enter or select a profile name」以下に適当な文字を指定し,[Save]をクリックする
(4)「C:\Documents and Settings\【Windowsのユーザー名】\Local Settings\Application Data\ATI\ACE」(※Windows Vistaでは :\Users\【Windowsのユーザー名】\AppData\Local\ATI\ACE)を開き,(3)で保存したファイル名をテキストエディタで開く
ファイル(※今回の例では「Fan_60%.xml」)は \ACE フォルダ以下に置かれるが,ATI Catalystのバージョンによっては \ACE\Profile に置かれることもあるので,この点は注意してほしい |
\Local Settings 以下は隠しフォルダになっているため,Windowsのデフォルト設定では閲覧不可。フォルダオプションから「すべてのファイルを表示する」を選択しておこう |
(5)<Property name="FanSpeedAlgorithm" value="Automatic"/> という行に移り,「Automatic」を「manual」に書き換える
(6)<Property name="Want" value="【数値】"/> という行を探し,この【数値】部分を設定したい回転数に書き換える。ただし,その際の指定は百分率で行うのがポイントで,例えばファン回転数を最高値の60%で固定したいときには「60」と入力
(7)ファイルを上書きして終了し,再びProfiles Managerから「Activate」を行う
ただし,固定されるということは,高すぎるとアイドル時に騒音が耳につき,低すぎるとゲーム中などの高負荷時に冷却能力が足りずにゲームが強制終了してしまったり,GPUが壊れてしまったりする危険が生じる。参考までに筆者の主観を述べておくと,回転数60%では動作音がやや耳につくレベル,50%だとそれほど気にならないレベルだった。
定評のあるGPUクーラー
Accelero S1 Rev.2に換装してみる
従来製品となるAccelero S1(写真右上)とAccelero S1 Rev.2の比較。カードとの固定方法が変更されている |
今回試したGPUクーラーはArctic Cooling製の「Accelero S1 Rev.2」(Accelero:アクセレロ)。4Gamerでこれまで何度か行ってきたGPUクーラーのテストで非常に良好な成績を残してきた「Accelero S1」を,2007年末時点における最新世代のミドルハイクラスGPUへ対応させた製品だ。
発売時期のタイミングもあって,HD 4850に正式対応してはいないAccelero S1 Rev.2。HD 4850とHD 3850とでカードデザインがそう大きく変わっていないこともあり,リファレンスデザインのHD 4850カードとなるEAH4850/HDTI/512Mに取り付け可能だが,「問題なく」とはいかなかった。具体的には,ヒートパイプが干渉してしまい,付属のメモリチップ用ヒートシンクを一か所だけ取り付けられない。また,付属のVRM用ヒートシンクも,その形状から,HD 4850カードには取り付けられない。
テスト環境は表1のとおり。室温24℃の環境で,Cooler Master製のスチール製ミドルタワーPCケース「Centurion 530」に組み込んだ状態で温度測定を行う。本PCケースでは,前面に回転数1200rpmの120mm角ファンを搭載しており,前面から吸気され電源ユニットから排気されるエアフローを実現している。
●HD 4850リファレンスクーラー
(1)VRM上のヒートシンク
(2)GPU近辺のヒートシンク
(3)基板の,GPU真裏部分
(4)写真で示した部分のインダクタ(=コイル)
●Accelero S1 Rev.2
(1)VRM
(2)GPU直上の放熱フィン
(3)基板の,GPU真裏部分
(4)写真で示した部分のインダクタ(=コイル)
(5)写真で示した部分の,メモリチップに貼り付けたヒートシンク
なお,リファレンスクーラーのファン回転数をGPU-Zでチェックしたところ,標準状態の自動制御時にアイドル時29%(1517rpm),高負荷時51%(4865rpm)。これを踏まえ,手動設定では50%固定(4629rpm),60%固定(5837rpm)の2パターンでテストする。
ファン回転数を固定するなら50%が妥当か?
Accelero S1 Rev.2の効果は絶大だが問題も
計測地点ごとにテスト結果を見ていこう。グラフ1はCCCで表示されるGPU温度をまとめたものだ。グラフ中,ファンの回転数を60%や50%で固定した状態はそれぞれ「HD 4850 60%固定」「HD 4850 50%固定」としたが,アイドル時の温度が大きく下がっているのを確認できる。アイドル時だと,60%と50%であまり違いはなく,高負荷でのみ違いが生じているのも興味深い。
Accelero S1 Rev.2は,Turbo Moduleを装着しなくてもアイドル時の温度がリファレンスクーラーの標準状態よりも低くなったが,高負荷時はアプリケーションが強制終了してしまった。以下,すべてのグラフで高負荷時のスコアがN/Aなのはこのためである。一方,Turbo Moduleを取り付けたAccelero S1 Rev.2(※グラフ中は「Accelero S1 Rev.2+TM」)の効果は絶大。高負荷時でも50℃台であり,その冷却能力はやはり高い。
続いて,VRM(Voltage Regulator Module,グラフィックスカードの電源部)の温度を見てみよう(グラフ2)。
先ほど示したように,(GPUクーラーの構造が異なるため)リファレンスクーラーはVRM上にある銅製ヒートシンク,Accelero S1 Rev.2はVRMチップそのものの温度と,両者で測定対象が異なる。そのため,横並びで論じるのは難しいのだが,アイドル時において,リファレンスクーラーのファン回転数変更では,ここでも高い効果が得られている。
対するAccelero S1 Rev.2+Turbo Moduleの場合,むき出しのVRMは高負荷時に73.4℃と高い。参考までにTurbo Moduleを装着しない状態では強制終了直前に87.4℃と極めて高くなっており,アプリケーションが強制終了した原因がここにある可能性を窺わせる。
グラフ3は,ヒートシンクと放熱フィンの温度を比べたもの。リファレンスクーラーのファン回転数を固定したときのスコアが良好だが,それ以上にAccelero S1 Rev.2+Turbo Moduleの効果が圧倒的だ。
カード裏面,GPUの裏側に相当する部分の温度を比べたのがグラフ4だ。
ここでは,これまで以上にリファレンスクーラーのファン回転数を固定することの影響が色濃く表れているが,これはGPU自体の冷却がうまくいっていることを意味している。要するに,GPUの熱が基板にまで伝わってくる状態がかなり緩和されているというわけだ。
Accelero S1 Rev.2+Turbo Moduleは,グラフ1〜3で示したほかの測定ポイントと比べると換装の効果が出ていない。
リファレンスクーラーが覆っていないインダクタ(=コイル)の温度を測定した結果がグラフ5である。リファレンスクーラーのファン回転数変更では,60%固定だと高負荷時に76.3℃と,標準状態よりも良好な値を残すが,50%だと回転数が標準状態と変わらないため,スコアも同程度だ。
Accelero S1 Rev.2+Turbo Moduleは,Turbo Moduleのエアフローが直接当たることもあって,温度がかなり低くなっている。
最後に,メモリチップに装着したヒートシンクの温度を参考として表2に示しておく。言うまでもないことだが,リファレンスクーラーではメモリチップがヒートシンクに覆われているため,スコアは測定不可能である。
選択肢としてファン回転数固定は有意義
S1 Rev.2も効果大だが,対応製品のほうがベターか
以上,駆け足でテストを行ってきたが,冷却性能と静音性の両立を考えながらリファレンスクーラーのファン回転数を固定するのであれば,50%程度が妥当なように思われる。もちろん,冷却能力をより重視するならもっと高い回転数を指定すればいいのだが,70%程度にもなると,その動作音は騒音といえるレベルで,かなり耳障り。このあたりは試行錯誤しながら,許容できる回転数と動作音,温度のバランスをユーザーで探すことになるだろう。
これらも近々テストするつもりなので,テスト結果がまとまり次第,あらためてお伝えしたいと思う。
- 関連タイトル:
ATI Radeon HD 4800
- この記事のURL:
(C)2008 Advanced Micro Devices, Inc.