レビュー
クリス・テイラー氏の骨太RTS「Supreme Commander」がさらにボリュームアップ
スプリーム コマンダー ゴールド エディション 日本語マニュアル付英語版
「Supreme Commander」の本編とアドオンを
セットにしたパッケージが登場
SCの本編はこれまで国内で正式に発売されていなかったこともあり,ゲームの特徴について詳しくない読者もいると思われる。そこで本稿ではSCの要点を抑えつつ,SC:FAで追加された要素にも追っていきたい。
本作は,SFをテーマにしたリアルタイムストラテジー(RTS)だ。ひとくちにRTSといってもさまざまなタイプがあるが,本作の戦闘はミクロよりもマクロに寄った作りで,“大軍隊を運用する面白さ”をウリとしている。マクロ視点で大量のユニットを操るための環境が,しっかりと整備されているのが大きな特徴だ。
RTSとしては,基本的にはユニットの数を揃えて力押しするタイプだ。一度に操るユニット数は数十〜百を超え,相手が力尽きるまで絶え間なく投入し続けるのである。大量のユニットを操ることに主眼が置かれているため,単体ユニット用のアクティブスキルといったものはない。例えば「WarCraft 3」に代表されるミクロ操作(少数ユニットの精密な操作)は,本作ではそれほど求められないのだ。
ユニットは主に陸/海/空の3カテゴリに分けられ,それぞれに対応する3種類の工場で生産できる。これら大半のユニットが射撃系の遠距離攻撃を行うため,接近戦は少なく,ズームアップさせてプレイすることは多くない。このあたりも,本作をマクロ寄りと呼ぶ理由の一つだ。
各工場では,全部で3段階+αの“Techレベル”を上げることで,より強力なユニットが作れるようになる(特定ユニットのアップグレードも可能)。Techレベルを上げるには膨大な量のリソースと作業時間を要するものの,ユニットの数でよほど極端な差がない限り,Techレベルが高いものは低いものに負けない。
そのため,なるべく早くTechレベルを上げておきたいが,これを逆手に取り,相手がTechレベルを上げる前(=ユニット数が揃う前)にラッシュを仕掛ける戦術も有効である。いずれにせよ,どのTechレベルで陸海空の軍隊を整えるかを想定し,資源採集からユニット生産までを計画的に行っていくことが重要だ。
ほぼすべてのユニットが遠距離攻撃用ということもあり,通常のプレイ時はかなり引いたカメラアングルとなる。静止画像のスクリーンショットだと,その魅力が伝わりにくいかもしれない |
陸海空のユニットに対応した工場を建てて,そこで自軍勢力を生産していく。どの段階でTechレベルを上げるかが大きなポイントになる |
プレイヤーが選べる勢力は,SCで3種類,SC:FAで4種類。各勢力のバックグラウンドストーリーは後述するとして,ゲームプレイ方法や各ユニットの役割などは,基本的にどの勢力も共通している。「StarCraft」のように,勢力を変えるとまるで別のゲームになる……というほどの変化はない。
ただしユニットや建築物の総数は非常に多く,SC:FAでは1種族増えたこともあって,トータルで350種類を超えてしまった。例えば敵の探知システム一つ取っても,視覚とレーダーとで別々に用意されており,それぞれに対応したカウンターユニットが存在するのだ。また,作成に数十分を要するが敵陣を焦土と化す核ミサイルなど,プレイヤーが選べる戦術の幅はかなり広い。それだけに,ユニットの基本性能や相性関係をしっかりと把握するには,長い時間がかかるだろう。
しかもACU自身が抜群の耐久力を誇る戦闘ユニットでもあり,ゲームの中盤以降ではさまざまな武装やテクノロジでアップグレードし,最前線で盛大に暴れまわる。まさしく「Supreme Commander」(=最高司令官)と呼ぶに相応しいスーパーユニットといえよう。
少々余談だが,本作といい「Total Annihilation」といい,そして次回作として現在開発中の「Demigod」といい,基本的には数を揃えるRTSでありながら,ACUのような超強力ユニットを柱に持ってくるゲームバランスが,クリス・テイラー氏のRTSらしさなのかもしれない。
全体的に,マクロ視点のほうが操作しやすい。画面はShiftキーを押して建築予約を行っているところ。作業終了予定時刻が表示されている |
ACUが破壊されると大爆発が起こり,周囲のユニットもろとも吹き飛ばしてしまう。何から何まで豪快で,「洋ゲー」らしい雰囲気を持っている |
目まぐるしく変化する環境に応じて
リソースの収支バランスを調整していこう
必要な建築物さえあれば採集作業そのものは自動的に行われ,多くのRTSで見られるワーカー(労働者)の類はいない。やや独特ではあるが,採集に限っては比較的シンプルな作りである。
Massを採集できるポイントはあらかじめ決められているが,Energyはどの場所でも生成できる。このように数多く建設するのが基本だ |
リソースの収支額が表示されたウィンドウには常に注目。この画面の状態だと,Massの量が秒間あたり1,そしてEnergyは秒間あたり10増えていく |
しかし,採集したリソースを運用する段階になると,途端に印象が変わってくる。本作ではユニットの生産や建築などに必要なコストが,作業開始時に一気に減るのではなく,作業終了までの間じわじわと減り続ける。少々分かりにくいが,要するにユニットの生産作業に合計で500のリソースを必要とする場合,「毎秒50のリソース減が10秒間続く」といった感じだ。
大規模な軍隊を揃えるためのユニット生産予約や,Techレベルのアップグレードといった作業では,数分〜10分近く掛かることも珍しくない。何も考えずにこういった長大なタスクを複数抱えてしまうと,MassとEnergyの「トータル収支」がマイナスとなり,それが続いてリソースが底を尽くと作業効率が著しく低下してしまう。
かといって積極的にリソースを使わずにいると,あっという間に貯蔵できる上限に達してしまい,それを超えた分は余剰分として切り捨てられる。一応,リソースを貯蔵できる上限は,対応した建築物を建てることで増やせるものの,それでも体感的にはかなり少なめだ。
ユニット生産などのタスクに応じて,リソースの収支額が減っていく。画面の状態では,Massの量にまだ余裕がありそうなので,もっと建築作業を行えるだろう |
数分以上の時間を要するタスクは,作業用ユニットで応援させると効果的だ。もっともその分,リソースも急激に減ってしまう |
実際のプレイ中は,MassとEnergyの収支額が数値として示されているので,これに常に気を配らねばならない。ユニット生産などの指示によって,収支額がリアルタイムで変化していくため,リソースが枯渇しないように,なおかつ上限に達しないように上手にやりくりしていくのだ。
しかし平常時ならともかく,ひとたび戦闘が開始されると,早急なユニットの生産を迫られたり,採集施設が破壊されたりで,収支バランスが一気に崩れることは日常茶飯事。こういった移りゆく環境に対応できなければ,勝利には程遠いのである。それにしても戦闘を重視したRTSで,リソースの運用にここまで細かな気配りが求められるタイトルは珍しいかも?
そのため慣れるまでは,満足いく軍隊を揃えることさえ難しいのだが,このバランスを自在に操れるようになればこっちのものだ。敵対勢力よりも強力な軍隊を整え,相手をほぼ一方的に叩き潰せるだろう。このゲームでは,MassとEnergyの運用バランスが戦局を左右するといっても過言ではない。
逆に攻撃時は,敵対勢力のユニットだけでなく,リソース関連の施設を破壊することがとくに重要だ。そうすることで相手はユニットの生産などのペースが乱され,たとえ表面上は大きな変化がなくとも,ボディブロウのようなダメージを着実に与えられるのである。局地戦でのカタルシスや一発逆転性といったものは少ないが,極めて戦略的なゲーム内容といえるだろう。
内政だけを見てるぶんにはやりようもあるが,いざ戦闘が始まってしまうとそうもいかない。ちょっと目を離すと,すぐにリソースが溢れてもったいないことに |
敵陣へ進攻したときは,リソース関連の建築物をきっちり破壊しておきたい。相手の内政を乱すことができれば,着実に勝利へと近づいていく |
「Forged Alliance」で新たなミッションが追加
インタフェースのリニューアルが嬉しい
その後急速に頭角を現してきたのが,旧Empire Earthのメンバーによって作られた「United Earth Federation」(UEF)。UEFはいかなる犠牲を払ってでも銀河系を再統一することを目標としており,そのあまりに苛酷な体制はさまざまな反発を生んでしまう。やがて,天才博士グスタフ・ブラックマン氏が生み出した,人間とAIの共存国家「Cybran Nation」と,“The Way”という哲学に従う教団である「Aeon Illuminate」は,UEFから独立すべく戦争を起こした。そしてUEFとCybran NationとAeon Illuminateの3勢力は,なんと千年もの長きにわたって戦争を繰り広げてしまう。
プレイヤーはそんな中,いずれかの勢力の指揮官となり,この永遠とも思える戦いに終止符を打つべくACUに乗り込む,というわけだ。ここまでがSC本編のストーリーである。
このようなストーリーであるため,SC:FAのシングルプレイ用キャンペーンでは,打倒Seraphimが最大の目標となる。各シナリオの冒頭部では,最初にUEFをはじめとした3勢力の中から好きな勢力を選べるが,どれを選んでもストーリーに大きな変化はない。SCの経験者にとっては,使い慣れた勢力でプレイできるのは助かるといったところか。
新たに本作のキャンペーンを始めようという人の場合,最初にいきなりSC:FAに挑戦するのはお勧めできない。というのも,SC:FAはアドオン(拡張版)であるため,SCのプレイが前提となっており,難度がすこぶる高いのだ。しかもSC本編の経験者ならご存じのとおり,シナリオが終了したと思いきや,そこからマップがさらに広がって新たな指令が下されるなど,シナリオ1本あたりのボリュームもかなりのものがある。おそらく初プレイの場合,シナリオ1本のクリアに3〜4時間は掛かってしまうだろう。
SC:FAのキャンペーン冒頭にも,ごく基本的なチュートリアルが用意されているが,初心者は素直にSC本編のキャンペーンから始めるか,あるいは「スカーミッシュ」(対CPU戦のフリープレイモード)で,本作の独特なリソース採集→生産→戦闘の流れを,じっくりと学習したほうがいいだろう。
しかし,そんな些細な不満を吹き飛ばしてくれるのが,SC:FAで一新されたユーザーインタフェースだ。下の画面を見てもらえば一目瞭然だが,SC:FAでは項目ごとにインタフェースが独立しており,必要に応じて最小化が行えるようになったのである。しかも,4種類用意されたUIはいつでも切り替え可能で,これが非常に扱いやすい。
かつてのSC本編は,仮に1024×768ドットの解像度でプレイすると,画面の下3分の1がこれらのウィンドウで占められてしまっていた。個人的にこの前時代的なUIにはがっかりさせられたものだが,SC:FAではこの不満が完全に解消された。この使いやすいUIであらためて,SC本編のシングル用キャンペーンをプレイしてみたくなってしまったほどである。
不必要なウィンドウをすべて最小化すると,画面内はとてもすっきりする。もうSC本編のUIには戻れないかもしれない |
SeraphimにおけるTechレベルなどの進化体系は,基本的に既存の3勢力と一緒。すんなりプレイできる一方,少々物足りなさもある |
ハードルは高めだが良作なので
RTSプレイヤーにはぜひ挑戦してほしい
GPGnetの機能としては,ロビーチャットや実力に応じたマッチングサービスはもちろんのこと,人気マップのランキング集計や,フォーラムへのアクセス,アップデートを始めとしたサポート,さらにはMODや凄腕プレイヤーのリプレイファイルのダウンロードといったものまである。GPGnetはマルチプレイを楽しむための,ありとあらゆる環境を詰め込んだという印象だ。
とはいっても,我々日本人プレイヤーの視点で見た場合,言語などの問題でこのGPGnetを存分に利用しにくいのは残念である。日本ではRTSの人気がけっして高いとはいえず,しかもリソース運用の難しさや膨大な種類のユニットなど,はっきりいって本作はかなり人を選ぶタイトルだ。
個人的には,「Total Annihilation」から脈々と受け継がれる,本作の骨太のゲームデザインはとても気に入っているのだが,日本市場を冷静に見れば,やはり受け皿が小さそうなタイトルであるのは致し方ない。
日本での盛り上がりには期待が難しいが,作品としての実力があることは確かだ。各ユニットの細かなギミックなど見どころ満載で,ドイツ産のミリタリー系RTSとはまた違った意味で,職人気質を感じさせてくれるタイトルである。コアなRTSファンは,ぜひとも一度プレイしてほしい。
北米やヨーロッパの人達にとっても本作は難しいのか,Tech1〜2で決着が着くゲームが多いようだ |
本作に興味を持った人は,公式サイトのプロモーションビデオを一度見てもらいたい。画面写真だけでは伝わらない魅力が見つかるはずだ |
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