レビュー
新生DHARMAPOINTから復活した「三七」,その実力やいかに
DHARMAPOINT ダーマタクティカルマウス(DPTM37BK)
そんなDHARMAPOINTの商標が,ソリッドという会社に移ったのは2016年後半のことだ。ソリッド傘下のDHARMAPOINTは,同年内にティザーサイトを立ち上げ,2017年7月には公式Webサイトもオープンして,ついに再始動後の第1弾製品である「ダーマタクティカルマウス」(型番:DPTM37BK,以下型番表記)をリリースするに至った。新生DHARMAPOINTは,ここに復活を遂げたわけだ。
DRTCM37の復刻と言うより,COUGAR 300Mのバリエーションモデル的なDPTM37BK
最初に基礎的な情報を押さえておくと,DPTM37BKは,旧DHARMAPOINTが2013年にリリースした右手用ワイヤードマウスにして,「三七」(さんなな)という愛称で呼ばれた「DRTCM37」の復刻を目指したものだ。
1つは,もともとのDRTCM37が,左右メインボタンをセパレート化していたのに対し,COUGAR 300Mはさまざまな事情――話すと長くなるので,詳細は2014年12月24日掲載の記事や2015年5月8日掲載の記事を参照してほしい――でワンピースタイプになっており,そしてDPTM37BKもワンピースタイプになっている点が挙げられる。
当然のことながら,スイッチが異なるので,クリック時に得られる感触はDPTM37BKとDRTCM37で異なる。DPTM37BKのほうが少し硬く,カチカチ感が増している印象だ。メインボタンがセパレートタイプからワンピースタイプに変わっていることも押下感には影響しているかもしれない。
なら,より近いデザインであるCOUGAR 300Mとの違いはどうかというと,DPTM37BKのほうがCOUGAR 300Mよりも軽い押下圧でボタンを押し込むことができた。つまり,ボタンの硬い順で言えば「COUGAR 300M
DPTM37BK(左)とDRTCM37BK(右)。左右メインボタンの両端部に注目すると,デザインが異なっていると分かる |
この角度から見ると,左右メインボタン部にほんのりとした凹みがあると分かる。一方,個人的に気になったのは,スクロールホイール手前側のボタンがやたらグラつくこと。写真でも右に傾いている |
まず,ワンピース型の左右メインボタンだが,先端部を見てみると,DPTM37BKはDRTCM37ともCOUGAR 300Mとも似ていない。具体的には,DPTM37BKだと,左右メインボタンの先端部は左右にそれぞれ2mmほど突き出た形状になっているのだ。
この形状により,より奥側(=前側)に指を配置できるようになるだけでなく,ボタンを押すときに自分にとってのベストな指の配置の選択幅が増えている。ただ,DPTM37BKでは左右メインボタンがワンピース型になっているため,DRTCM37に慣れていたユーザーは,乗り換えにあたって多少なりとも違和感があるかもしれない。
指を配置する場所は少しだけ凹んだ形状になっており,自分に合った指の置き場所を見つけやすくなっている。
DRTCM37やCOUGAR 300Mでは「スクロールホイール側から両側面にかけての傾斜」はあったが,「メインボタン部の凹み」はなかったので,この点はDPTM37BKが新たに採用した,今風のデザインと言っていいだろう。
左側面は,IE3.0クローンによく見られる,マウス前後から中央部にかけて凹みを持たせたデザインを採用している。というか,COUGAR 300Mと基本的には変わらないデザインだ。
DRTCM37とも形状自体は同じなのだが,DRTCM37は本体両側面がザラザラとして滑り止め効果があったのに対し,DPTM37BKとCOUGAR 300Mではよくあるマット加工になっているのが大きな違いとなる。
左側面にある凹みの上には左サイドボタンが前後方向に並んでいる。奥側(=前側)のボタンは長さが実測約19mm,幅は同7.5mmで,手前側(=後側)の長さは同約28mm,幅同7.5mm。手前側のサイドボタンのほうが長めで,サイドボタン自体は本体から実測約1.5mmほど突き出ていた。
右側面は左側面と異なり,手前側が若干膨らみ,奥側にかけて小さくなっていく。この形状は薬指と小指を乗せたりするのに向くというIE3.0クローンらしさで,DRTCM37およびCOUGAR 300Mとの間に違いはなさそうだ。
新生DHARMAPOINTの「再始動」感を高めるためにも,センサーは思い切って最新世代のものにしてもらいたかったと個人的には思う。
以上を踏まえつつ,DPTM37BKの主なスペックを下にまとめておくので,参考にしてもらえれば幸いだ
●DPTM37BKの主なスペック
- 基本仕様:光学センサー搭載ワイヤードタイプ
- 搭載センサー:PixArt Imaging製「ADNS-3090」
- ボタン:左右メイン,センタークリック付きスクロールホイール,ホイール手前×1,左サイド×2
- 最大トラッキング速度:60IPS
- 最大加速度:20G
- フレームレート:6400fps
- 画像処理能力:未公開
- トラッキング解像度:400〜4000 CPI(※3600 CPIを超える設定値はエミュレーション動作,1CPI刻みで設定可能)
- USBレポートレート(ポーリングレート):125/142/166/200/250/333/500/1000Hz
- データ転送フォーマット:16bit/axis
- リフトオフディスタンス:調整可能
- LEDイルミネーション:非搭載
- 実測本体サイズ:68(W)×126(D)×39(H)mm
- 実測重量:130g(※ケーブルを含む),94.5g(※ケーブル抜き)
- マウスソール:PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)
- 実測ケーブル長:約1.7m
- 対応OS:Windows 10・8.x・7
- 発売日:2017年10月6日
- 税込実勢価格:5800〜6000円程度
- 保証期間:1年間
IE3.0クローンらしい持ちやすさは変わらず
外観を押さえたところで,お次は握ったときのフィーリング確認だ。今回も「つまみ持ち」「つかみ持ち」「かぶせ持ち」といった定番の持ち方と,かぶせ持ちをベースに親指と薬指,小指を立たせるように配置する筆者独自の「BRZRK持ち」の4パターンで握ってみたので,その結果を以下のとおり,写真とキャプションでお知らせしたい。
さすがは信頼と実績のIE3.0クローンといったところで,不満のない形状だとまとめられるだろう。DRTCM37自体が持ちやすいマウスで,そこと比べても形状面の違いはメインボタン先端部くらいだから,握りやすさに大きな変化は生じていないのも当然といったところか。
シンプルなソフトウェアはほぼかつてのまま
DPTM37BKはWindowsのクラスドライバで動作するが,サイドボタンやマウスの感度を調整するには公式サイトのダウンロードページから専用の設定ツール「DHARMA CONTROL」を導入する必要がある。筆者がテストしたときのバージョンは2.1だったが,結論から先に述べると,その使い勝手は旧DHARMAPOINT時代とまったく同じで,見た目にもとくに変わったところは見られなかった。
Debounceは,意図しない連打の入力を防ぐためのもので,ms単位の時間指定を行っておくと,それより短い間隔で入った入力をカットできる。デフォルトは16ms。0〜30msの範囲を1ms刻みで指定可能だ。
操作性自体は問題ないので,ゲーマー向けデバイスに不慣れな人でも,おおむね問題なく扱えるのではなかろうか。マニュアル(※リンクをクリックするとpdfファイルのダウンロードが始まります)もあるので,何か疑問があればそちらを参考にしてほしい。
センサー周りには大きな問題あり
今となっては「古い」としか言いようのないADNS-3090センサーを搭載するDPTM37BKだが,その実力は2017年にあっても十分なものなのか。下に示したシステムとテスト条件で検証していきたい。
●テスト環境
- CPU:Core-i7 7820X(8C16T,定格クロック3.6GHz,最大クロック4.3GHz,共有L3キャッシュ容量11MB)
- マザーボード:MSI X299 TOMAHAWK(Intel X299)
※マウスのレシーバーはI/Oインタフェース部のUSBポートと直結 - メインメモリ:PC4-19200 DDR4 SDRAM 8GB×4
- グラフィックスカード:ASUSTeK Computer DUAL-GTX1070-O8G(GeForce GTX 1070,グラフィックスメモリ容量8GB)
- ストレージ:Intel SSD 600p(SSDPEKKW128G7X1,NVM Express 3.0 x4,容量128GB)
- サウンド:オンボード
- OS:64bit版Windows 10 Pro
●テスト時のマウス設定
- ファームウェアバージョン:0.02O
- DHARMA CONTRLバージョン:8.96.81
- DPI設定:400〜4000 CPI(主に800CPIを使用)
- レポートレート設定:125/142/166/200/250/333/500/1000Hz(主に1000Hzを使用)
- Windows側マウス設定「ポインターの速度」:左右中央
- Windows側マウス設定「ポインターの精度を高める」:無効
最初は,「MouseTester」を用いたセンサー性能検証だ。ここではDPTM37BKをARTISAN製マウスパッド「飛燕 MID」と組み合わせ,400
なお,筆者の「いつも」だと4000ではなく3200 CPIになるところだが,今回4000を選択しているのは,DPTM37BKは3600 CPI以上でエミュレーションによる補間が入るためだ。その状況で挙動に変化が生じるかどうかも見てみようというわけである。
その結果をまとめたものが,下に示した8枚のグラフ画像だ。いずれのグラフもY軸のプラス方向が左への振り,マイナス方向が右への振り,横軸がms(ミリ秒)単位での時間経過を示している。
青い点は実際にセンサーが読み取ったカウント。左の画像における青い波線はそれを正規化したものである。波線が滑らかで,その上に青い点が並んでいるほどセンサー性能が優れているという理解でいい。一方,右の画像における青線は,カウント同士をつないだものだ。どちらでも見やすいほうを参照してもらえればと思う。
以上,マウスの加速減速が切り替わるタイミングで,センサーがマウスの移動する方向を明らかに検知できていない挙動を確認できた。最近のゲーマー向けマウスが示しているキレイな波形と比べると閉口モノの結果で,これはまったく評価できない。
続いてはリフトオフディスタンスだ。
計測方法はシンプルで,厚さの異なるステンレスプレートを重ねていき,マウスの反応が途絶する高さを0.1mm単位で割り出すというものになる。
本テストにあたって,DHARMA CONTROL側の設定値はデフォルトの16で固定。さらに「リフト機能をカット」のチェックボックスは,DRTCM37と同じく「チェックを外すと,スライダーによる設定が有効になる」ことから,ここではチェックを外したうえで,スライダーを工場出荷状態のままテストすることにした。
その結果が表1で,ARTISAN 紫電改とRazer Goliathus V2 Speed Cosmic Editionを除くと,4Gamerが許容範囲とする2mmを超える結果となった。いまとなっては残念な結果だが,DRTCM37でも標準設定のリフトオフディスタンスはおおむね3〜4mm程度だったので(関連記事),古いセンサーらしいスコアとも言えるだろう。
続いては直線補正の確認だ。ここではWindows標準の「ペイント」で線を引き,入力に対して補正が行われているかを見る。
その結果は下に示した画像のとおりで,少なくとも体感できるような補正は入っていないと言ってよさそうだ。
センサーのテストを終えたところで,メインボタンの入力遅延も確認しておこう。「マウスクリックをしてから音楽制作ソフト上のシンセサイザが音を鳴らすまでの遅延」を,DPTM37BKと,比較対象として用意したマウスとの間で比較することになる。
ざっくりとした計測方法は以下のとおりだ。
- テスト対象のマウスを定位置で固定する
- マイクスタンドに吊したRazer製マイク「Razer Seirēn」を,マウスの左メインボタンすぐ近くに置く
- Windowsから音楽制作ソフト「Fruityloops」を起動。本アプリ上にあるソフトウェアシンセサイザの鍵盤をクリックする
- クリック音をRazer Seirēnで集音しつつ,「XSplit Gamecaster」を使って,「Razer Seirēnで集音した音」と「Fruityloops上の鍵盤で鳴った音」をミックスし,映像として録画する
- 動画編集ソフト「AviUtl」で,音声をWaveファイルとして切り出す
- サウンド編集ソフト「Audacity」でWaveファイルを開き,クリック音とシンセサイザの音が出るまでの時間を計測する
- テストを連続30回行ったうえで,ブレ対策のため最初の5回をカット。6回めから30回めの平均を取ってスコアとする
比較対象として用意したのは「G403 Prodigy Gaming Mouse」(以下,G403)と,「Pro Gaming Mouse」の2つだが,比較結果のまとまった表2を見ると,最新世代のワイヤードマウスと比べて,DPTM37BKの応答速度は遅め……というより,ブレが大きいのが分かる。安定感のなさが,センサーの古さを感じさせると言ったら言いすぎだろうか?
内部構造はDRTCM37とほぼ同じだが,精度に不安も
ともあれ以下,主要なポイントの写真をお届けしてみたい。
搭載するセンサーはもちろんADNS-3090で,Avago Technologies時代の「A」ロゴも残っている |
搭載するマイクロコントローラはMicrochip Technology製の「PIC18F45J50」で,これはDRTCM37と同じ |
分解してみると分かるのは,DRTCM37とMizar&Alcor,そしてCOUGAR 300Mをごちゃ混ぜにしたものという紹介が,最もDPTM37BKの真実に近いということだ。COUGAR 300Mに最も近いという筆者の印象を覆すものにはなっていない,とも言える。
※注意
マウスの分解はメーカー保証外の行為です。分解した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。分解によって何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は筆者が入手した個体についてのものであり,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」と保証するものではありません。
「三七」はゲーマーの思い出に留まるべきだった
だが,いま筆者の目の前にあるDPTM37BKは,残念ながら三七ではない。DRTCM37にCM Stormが手を入れ,さらにCOUGARが手を入れたものをベースにしたと思われる本製品は,まさに「ごった煮」なのだ。形状が変わっていないのは本当に大きな救いで,そこは歓迎すべきなのだが,それ以外があまりにもDRTCM37とは違う。
左右メインボタンの押下感やソールは変わってしまい,それでいてイマドキのものに変わってほしかったセンサーはそのまま。しかも,チューニングのミスなのかどうか,テストで得られた波形はひどいものとなった。
リニューアルではなく,リメイクにもなっていないものに留まるくらいなら,三七は復活せずに,「日本発のゲーマー向け製品ブランド,最後のマウス」として,よい思い出であり続けるべきだったと,DPTM37BKのテストを終えて,強く思う。
2017年秋の時点で,IE3.0クローンのゲーマー向けマウスは,大手メーカーの製品が百花繚乱だ。DPTM37BKとほぼ同じ価格か,少し高いくらいの価格で,今の時代に見合った製品を購入できる。IE3.0クローンを探しているなら,そちらの選択肢を考慮すべきだろう。
新生DHARMAPOINT公式Webサイト
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