レビュー
ついに登場するNehalem世代のCPUは,Core 2以来の衝撃をもたらす存在なのか
Core i7 965 Extreme Edition/3.20GHz
Core i7 920/2.66GHz
» 「Nehalem」マイクロアーキテクチャを採用するIntelの新世代ハイエンドCPU,「Core i7」。長らく続いたLGA775時代に終わりを告げ,LGA1366へとCPUパッケージを変更した新製品は,L3キャッシュやトリプルチャネルDDR3の搭載,ネイティブクアッドコア化がトピックだが,果たして「Core 2」以来の衝撃をPCゲーマーにもたらす存在となるだろうか? 宮崎真一氏が検証する。
4Gamerでは正式発表に先駆けてIntelのCore i7評価キットを入手することができたので,さっそく第1弾製品群の実力をチェックしてみたい。
Turbo Modeを積極利用する形で実現する
Core i7のオーバークロック
今回入手したレビュワー向け評価キットに含まれていたプロセッサは,シリーズ最上位の「Core i7 965 Extreme Edition/3.20GHz」(以下,Core i7 965)と最下位の「Core i7 920/2.66GHz」の2製品。入手していない「Core i7 940/2.93GHz」,そして現行製品となるCore 2ファミリーのシングルソケット用最上位モデルと,そのスペックを比較したのが表1になるが,Core i7シリーズの3モデルは,Extreme Editionとそれ以外で,動作クロックとQPI,倍率ロックフリーか否かを除くと,同一の仕様といっていいだろう。
別記事で説明されているように,Core i7では,CPU各コアの動作モードをそれぞれ動的に変更可能だが,このとき“使っていないコア”分だけ余ったTDPの余裕を使って,TDPの枠内で動作クロックを引き上げるようになっている。例えば,Core i7 965の場合,定格動作クロックとなる3.20GHzはベースクロック133MHzの24倍設定で実現しているが,Turbo Modeが適用される状態では,最高で1コアが26倍設定(3.46GHz),2〜4コアが25倍設定(3.33GHz)で引き上げられる。もちろん,すべてのコアが引き上げられるかどうかは負荷状況やTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)の余裕,電流量など,複数の要因によって決定されるが,Turbo Modeが有効な場合,最高では1コアが「規定倍率+2」倍,残る3コアが「規定倍率+1」倍で動作する可能性がある。
重要なポイントは,これがIntelの保証範囲内であること。筆者が入手したCore i7 965以外でもサポートされ,Core i7 920でもやはり同じ挙動を示す。しかし,Intelとしては,この動作倍率を仕様として公表するつもりはないようで,今後の製品で,急に引き上げられたり,あるいは引き下げられたりする可能性もあるようだ。
つまり,「Core 2 Extreme QX9650/3GHzの動作倍率を変更し,4GHzで常用する」などといった,定常的に高い倍率で動作させるようなオーバークロックを行えなくなった代わりに,負荷に応じて可変する動作クロックを規定以上に引き上げることはできるようになっているというわけだ。
もちろん,Core i7 965と同920では,ベースクロックを引き上げる手法でのオーバークロックも可能だった。ただ,Core i7 965の定格電圧動作時に試した限り,ベースクロックを133MHzから150MHzへ引き上げただけでBIOSすら立ち上がってこなかったことを考えると,この手法は動作倍率の高いCore i7においてあまり有効でない可能性がある。
今回は時間の都合もあり,オーバークロック耐性を見たのはCore i7 965だけだが,リファレンスクーラーを取り付けた状態で,Turbo Modeの倍率設定を適当に変更してみると,30倍(4GHz)ではBIOSは起動するものの,Windowsの起動中にブルースクリーンとなってしまった。29倍に落としてみても状況に変化はなかったのだが,コア電圧を1.35Vまで高めると,4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0で採用したアプリケーションベンチマークがすべて完走。リファレンスクーラーを用いたテストなので断言まではしないが,印象として,Core i7 965のオーバークロック耐性は,Core 2ほどには高くない印象だ。
なお,今回のテストでは2コア分を29倍に設定,残り2コア分を24倍に設定している。少なくとも1コアだけを上げたのではオーバークロックの恩恵を受けられなかったため,2コア分を高めてみたのだが,このあたり,どういう設定が最適なのかについては,あらためてテストする必要がありそうである。
※オーバークロック設定は自己責任であり,オーバークロック設定の結果,いかなる問題が生じても,筆者や4Gamer編集部,販売店,メーカーは一切その責を負いません。また,今回のオーバークロックテスト結果は,筆者が検証した個体についてのものであり,すべての製品が同じくオーバークロック可能であると保証するものではありません。
SLIへの対応も果したX58チップセット
しかしIntel純正マザーボードは非対応
X58 I/O Hub。エンジニアリングサンプルであることを示す「ES」の文字が刻まれている |
メモリスロット |
拡張スロット構成 |
X58チップセットの詳細は別記事に詳しいので,本稿ではマザーボードそのものを見ていくことにするが,CPU内蔵のメモリコントローラがトリプルチャネルアクセスに対応するため,DIMMスロット3本が同色でまとめられており,分かりやすい。また,Intelによれば,同社独自の「Intel Flex Memory Technology」により,4本すべてのDIMMスロットメモリモジュールを装着しても,トリプルチャネルアクセスで動作するという。
2本のPCI Express x16スロットはいずれもPCI Express 2.0 16レーンとして動作。2-way ATI CrossFireXをサポートする。NVIDIAは,X58チップセットでNVIDIA SLI(以下,SLI)を利用可能にすると発表しているが,利用できるのはNVIDIAによる認証を受けたマザーボードだけ。事実,DX58SOに「GeForce GTX 280」搭載カードを2枚装着し,別途用意したSLIブリッジコネクタを利用しても,SLIは利用できなかった。
ICHにはIntel 4シリーズチップセットで採用されているICH10Rを引き続き採用。X58とはIntel独自のDMIで接続されているが,このあたりはIntel 4シリーズと同じだ。
なおDX58SOには,システムのモニタリングとオーバークロック設定をWindows上から行えるようにするソフトウェア,「Intel Desktop Control Center」が付属する。これは「Intel X38 Express」や「Intel X48 Express」チップセットを搭載したIntel製マザーボードでも用意されているものなので目新しさはないが,Core i7 965を差すと,Turbo Modeの倍率設定も,Windowsから再起動なしで変更できる点は使い勝手がいい。
Core i7 940相当のテストも実施
Turbo Mode有効/無効時も比較
前置きが長くなったが,テスト環境は表2のとおり。比較対象としては,表1にも登場したクアッドコアとデュアルコアの最上位モデル,「Core 2 Extreme QX9770/3.20GHz」(以下,C2E QX9770)と「Core 2 Duo E8600/3.33GHz」(以下,C2D E8600)を用意した。ゲームをプレイするに当たって,Core 2世代ではデュアルコアCPUで十分なパフォーマンスが得られている。その状況が,Core i7の登場によって変わるかどうかを検証しようというわけだ。
なお,メインメモリはIntelのベンチマークガイドラインに従い,Core i7用にはIntelの評価キットに含まれる,Qimonda製PC3-8500 1GBモジュール×3,Core 2用にはDDR3-1600 1GBモジュール×2を用意することにし,後者はDDR3-2000からの設定変更で実現している。
そのほか,
- Core i7 965をオーバークロックした状態
- Core i7 965の動作倍率を変更し,Core i7 940相当に設定した状態
でもテストを行っている点もお断りしておきたい。1.は,前述したとおり,2コア分を29倍に設定,残り2コア分を24倍に設定しているため,便宜的に以下「Core i7 965@3.86GHz」とする。2.だが,こちらはIntelからレビュワーに対し,Core i7 940相当のテストを行う場合には,BIOSから「Maximum Non-Turbo Ratio」を22倍に設定し,さらに各コアの「Ratio Limit」を一つだけ24倍,残る三つを23倍に変更せよという指示が出ているので,これに従っている。
テストは4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0準拠。ただし,GPU負荷が高くCPUの性能差が表われ難い高負荷設定は省略している。また,同じ理由で解像度も1024×768ドット,1280×1024ドット,1680×1050ドットの3パターンに絞っている。
ゲームによって明暗が分かれるCore i7
マルチスレッド対応が一つの鍵
グラフ1,まずは「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の結果から見ていこう。マルチスレッドの効果がよく表われる3DMark06において,Core i7 965のパフォーマンスはかなり良好だ。また,Turbo Modeの効果もハッキリと出ており,Turbo Mode有効時のスコアは,無効時のスコア(※グラフ中「w/o Turbo」とある項目。以下同)と比べ,目に見えて高い。
ただし,C2E QX9770と比較すると,さすがに2.66GHz動作のCore i7 920はだいぶ下回るスコアとなった。
続いて,3DMark06のデフォルト設定,解像度1280×1024ドットの「標準設定」におけるCPUスコアの結果をグラフ2にまとめた。当たり前といえば当たり前だが,総合スコアよりもさらにCore i7シリーズの優位性が顕著となっており,デュアルコアCPUであるC2D E8600とのスコア差は,Core i7 920であってもかなり大きい。
なお,Core i7 965@3.86GHzのスコアがCore i7 965の定格動作時よりもスコアが低いのは,2コアしかオーバークロックしていないため。マルチスレッドに最適化されたアプリケーションだと,偏ったTurbo Modeはパフォーマンスが伸びないばかりか,かえって遅くなる結果を招く場合があるようだ。
……といったところを踏まえ,実際のゲームにおける検証に入っていきたい。
グラフ3は,FPS「Crysis Warhead」のDirectX 10モードにおけるテスト結果である。Crysis Warheadはグラフィックス描画負荷が高いため,CPUの違いがスコアにはあまり影響していないが,それでも1024×768ドットに着目すると,3DMark06に似た傾向を示しているのが分かる。Turbo Modeの効果までは確認できないが,Core i7シリーズがC2E QX9770より高いスコアを示していることだけは確かだ。
しかし,すべてのゲームタイトルで似たような結果になるかというと,そうではない。
その顕著な例がFPS「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のテスト結果で,グラフ4に示したとおり,テストしたどの解像度でも,最も高いスコアを叩き出しているのはデュアルコアのC2D E8600だ。Call of Duty 4はマルチスレッド処理に対応しているとされているが,この結果を見る限り,より強く影響しているのはコアの数ではなく,キャッシュ容量である。
Core 2シリーズの大容量L2キャッシュに最適化された,2007〜2008年のゲームタイトルだと,(別途掲載したテストレポートで米田 聡氏が指摘しているように)L3キャッシュのパフォーマンスがボトルネックとなる可能性がありそうだ。
これは,三人称視点アクション,「デビル メイ クライ4」でも同じ(グラフ5)。C2E QX9770のスコアがC2D E8600のそれを上回っている点からも,Call of Duty 4よりもマルチスレッド処理への最適化が進んでいることは明らかなのだが,Core i7シリーズが“なんちゃってクアッドコア”ではないことのメリットは,残念ながら見えない。
グラフ6は,RTS「Company of Heroes」のテスト結果だ。本タイトルはマルチスレッド処理に最適化されているが,果たしてそのスコアは3DMark06に比較的似たものとなっている。ただし,Core i7 965とC2E QX9770のスコアはほぼ同じ。またCore i7 920は,C2D E8600にだいぶ置いて行かれてしまう。
ゲームにおけるパフォーマンス検証の最後は,レースタイトル「Race Driver: GRID」(以下,GRID)の結果である。CPU間の差はあまり出ないが,それでもCore i7シリーズが良好なスコアを示しているのは分かる。C2E QX9770とのスコアも比較するに,ここは4コアが理想的に機能していることと,トリプルチャネルによるメモリアクセス性能の高さが出た結果と見るべきだろう。
TDP 130Wは伊達でなく
高負荷時の消費電力はやはり高い
TDP値が130Wということで,Core i7の消費電力は気になるところだ。そこで,レギュレーション6.0準拠の消費電力測定を試みることにした。念のため確認しておくと,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,「Prime95」を用いてすべてのCPUコアに30分間,100%の負荷をかけ続けた状態を「高負荷時」としている。
結果はグラフ4にまとめたとおり。アイドル時におけるCore i7シリーズの消費電力はおおむね良好。C2D E8600とそれほど差がない点は特筆すべきポイントだろう。しかし,Turbo Modeの弊害なのかどうか,省電力機能である「Enhanced Intel SpeedStep Technology」(拡張版インテルSpeedStepテクノロジー)を有効化しても,ちょっとした負荷で動作クロックが頻繁に変動するため,消費電力はあまり下がらない。
一方,高負荷時の消費電力は,端的に述べて非常に高い。現代の,省電力化というニーズに対して,Bloomfieldが「Core i7 920でC2E QX9770と互角」という回答になっていることを,少なくともポジティブに受け取ることはできまい。C2D E8600との差もかなり大きく,電源ユニット選びは慎重に行いたいところだ。なお,Core i7 965@3.86GHzの消費電力が飛び抜けているのは,CPUコア電圧設定をBIOSから1.35Vへ高めているためである。
続けて,アイドル時と高負荷時におけるCPUの温度を「HWMonitor Pro」(Version 1.02)から測定した結果を,グラフ9に示す。いずれもリファレンスクーラーを用いたもので,室温25℃の室内に,PCケースへ組み込まない,いわゆるバラック状態で設置した環境でのスコアとなる。
さて,ここでは,Core i7 965@3.86GHzを除くと,消費電力が上がっている割には,C2E QX9770と同程度のスコアに収まっており,リファレンスクーラーはなかなかがんばっている。CPUクーラーを巨大化することで,なんとか低く抑えているという印象だ。もっとも,高負荷時のファン回転数はCore i7 965で2700rpm強,Core i7 920で2500rpm強となっており,少なくとも静かではない。
マルチスレッド処理に可能性を感じるCore i7
しかし現時点ではいま一つの印象を拭えず
1000個ロット時(※PCメーカーがIntelに1000個単位で発注した場合の単価。一般に,店頭価格よりも安価)の価格は,Core i7 965が999ドル,Core i7 940が562ドル,そしてCore i7 920は284ドルとなっており,少なくともCore i7 920はかなり戦略的な価格設定がなされているが,マザーボード(と,多くの場合はDDR3メモリモジュール)を新規に購入せねばならない。導入コストが高めなのもマイナスだ。
ゲームタイトルのマルチプラットフォーム戦略が浸透したことで,最新世代のゲームタイトルにおけるマルチスレッド対応は当たり前の時代になった。「最適化」という観点からすると,もう少し時間が必要だが,最適化が進んだとき,より高い性能を発揮するのはCore 2ではなく,Core i7のほうだろう。
ただ,Pentium DからCore 2の移行時あった,革命的といえるほどのパフォーマンス向上はなく,いまこの時点で,ハイエンド指向のゲーマーがパフォーマンス向上を期待して移行すべきCPUとはいえないことも,また確かである。Turbo Modeの詳細なテストなどは,またあらためてお伝えしたいと思うが,少なくともある程度の情報が出そろうまでは,様子見が無難ではなかろうか。
- 関連タイトル:
Core i7(LGA1366,クアッドコア)
- この記事のURL:
(C)Intel Corporation