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[GDC 2012]データから今のゲーム業界を読み解く。EEDARのセッションをレポート
セッションの参加者がスライドの写真を撮るだけで精一杯というぐらい,豊富なデータが発表されたのだが,その中でもとくに興味深かったものをピックアップして紹介したい。
なお,以下に掲載するデータは基本的に北米市場のものとなるので,その点は注意してほしい。
●コンシューマ向け/PC向けゲームのタイトルリリース数(パッケージ)
2002年から昨年まで,アメリカでリリースされたコンシューマ向け/PC向けゲームのパッケージタイトルの数をグラフにしたものだ。2008年までは上り調子だが,そこをピークに下り坂が続いている。
●コンシューマ向け/PC向けゲームのタイトルリリース数(パッケージ&ダウンロード)
こちらはダウンロードタイトルを含めた,2002年から昨年までのタイトルリリース数である。昨年は初めて前年の数字を下回ったものの,それまでは右肩上がりを続けていた。パッケージのみのグラフと比べると,ダウンロードタイトルの存在感が増していることが分かる。
●iPhone用ゲームのタイトルリリース数
iPhone用ゲームのリリース数である。iPhoneの普及にともなって数字を大きく伸ばしている。昨年のリリース数は4万6564と,コンシューマ向け/PC向けタイトルとは桁違いの数字だ。
●コンシューマゲーム機やPC,iPhone用人気タイトルの売上高
リリース数ではiPhone用タイトルに及ぶべくもないが,実際の売り上げで見ればまだまだコンシューマ向け/PC向けタイトルが上といったところか。あの「Angry Birds」も,このグラフでは「コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア2」といい勝負である。
●レビュースコア別のタイトル販売本数
レビュースコアを6つのゾーンに分け,それぞれに属するタイトルの合計販売本数をグラフ化したものだ。90〜100点のゾーンにあるタイトルはわずか216本だが,1511本ある80〜89点ゾーンの3倍近い販売本数を誇っている。80点台のゲームならばそれなりによく出来ているはずだが,ここまで差があるのは興味深い。
さて,ここまでは販売データを中心に紹介してきたが,次はEEDARが行った興味深い実験のデータを紹介しよう。ユーザーがプレイ前にレビューを見た場合,実際の評価にどれくらい影響を与えるのか,という実験である。
実験の内容は,集めたユーザーを「プレイ前に高いレビュースコアを見せる」「プレイ前に低いレビュースコアを見せる」「何も見せない」という3つのグループに分け,あるタイトルのレビューを行ってもらい,グループごとの平均点数を比較する。結果は下の写真のとおりだ。
左から,高いスコアを見せられたグループ,何も見せられなかったグループ,低いスコアを見せられたグループのグラフである。青のグラフがプレイ前に見せたスコアで,赤のグラフが実際にユーザーがつけたスコアだ。左右の2グループは,事前に見せられたレビューに引っ張られたスコアがついている。
とはいえ,この2つのグループのスコアは,何も見せられなかったグループのスコアから10点以内に収まっている。ここを見る限り,レビューのいいなりとも言えないだろう。
ゲーム以外にも,映画「Transformers: Revenge of the Fallen」のデータが参考値として紹介された。この作品は公開前に「21世紀最低の映画」とまで酷評されていたが,公開週の興行収入は歴代7位,最終的にも歴代9位の大ヒットとなった。つまり,レビューの影響は少なかったと考えられるわけだ。
次は,近年プラットフォームを問わず,さまざまなタイトルで登場しているダウンロードコンテンツ(以下,DLC)関連の数字を紹介しよう。
●ダウンロードコンテンツの利用率
このグラフは,黒がDLCの購入経験あり,オレンジが経験なしのユーザーを示している。年々,じわじわとDLCの購入者が増加しているのが分かる。
●PlayStation 3やXbox 360のユーザーのDLC利用傾向
PlayStation 3やXbox 360のユーザーが,DLCをどのように使っているかを示すものである。半分以上が積極的にDLCを購入している一方で,20%がDLCを知らないという両極端な印象を受けるデータだ。
●DLCによる売却の控え
ゲームを売却してしまうユーザーのうち,「DLCが配信されるかもしれないから売るのを遅らせようと思った」という人が38%いる,という調査結果だ。
DLCの目的の1つに,ユーザーのつなぎ止めがあるとよく言われるが,この数字を見る限り,それなりに効果はありそうである。
●ユーザーはレビュースコアが80以上のタイトルでないとDLCを買わない
86%のコンシューマ機向けタイトルのユーザーが,DLCを買うのはレビュースコアが80点以上のタイトルだけと考えている,という調査結果である。それほど面白くなかったタイトルでもDLCを買いたい,というケースはあまり考えられないので,妥当な数字だろうか。
続いて紹介するのは,協力プレイ関連のデータだ。
●協力プレイモードを搭載するタイトルの割合
まずは,ここ数年における協力プレイの流行がはっきり現れているグラフから。WiiよりもPlayStation 3とXbox360に,協力プレイの対応タイトルが多いことも読み取れる。
●ジャンル別の協力プレイモード搭載タイトルの割合
シューティングゲーム(ここでは日本でいう“シューティング”ではなく,FPSやTPSを指す)やリズムゲームでは半分近いタイトルが協力モードを搭載している一方で,現実であれば一番協力プレイが重要になりそうなスポーツが,わずか2%というのが面白い。スポーツゲームで協力プレイをやってみたい,という要望はないのだろうか……。
●マルチプレイヤーモードを搭載するタイトルの割合
こちらはマルチプレイヤーモードを搭載するタイトルの割合である。意外なことに,対応タイトルは年々減少傾向にあるようだ。とくにオンラインでのマルチプレイに対応するタイトルは,2006年の67%から,昨年の38%にまで減っている。
●画面分割モードを搭載したシューティングゲームの割合
最後に掲載するのは,オフラインでの画面分割対戦モード搭載タイトルのデータだ。こちらも年々数字を減らしており,全盛期の3分の1程度となっている。
マルチプレイヤーモード搭載タイトルの割合を示すグラフと合わせると,「オンラインでもオフラインでもマルチプレイは下火」ということになってしまいそうだが,コール オブ デューティシリーズなどの盛況ぶりを見ていると,なかなかそうも考えづらい。
今回のグラフは,あくまで対応タイトル数を数値化したものなので,もしかすると,一部のビッグタイトルにマルチプレイ好きのゲーマーが集中した結果,ほかのタイトルがマルチプレイを削ってきた,ということなのかもしれない。
以上,セッションで発表された中から印象深いものをピックアップしてお伝えしてみた。単なる売り上げのデータだけではなく,レビューやDLCがユーザー心理に与える影響まで調査したデータが発表されたところは,GDCならではと言えそうだ。
同様のデータを日本でも用意して比較できれば,国民性の違いのようなものも確認できて,より興味深いものになるのではないだろうか。
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