レビュー
ウクライナ生まれの個性的なFPSが,日本上陸
スコーピオン【完全日本語版】
サイバーフロントから2010年10月22日に発売された「スコーピオン【完全日本語版】」(以下,スコーピオン)は,近未来の世界を描いたSFタッチのFPSだ。開発はウクライナのデベロッパ,B-Cool Interactiveが担当しており,対応機種はPC。ローカライズは英語音声の日本語字幕というスタイルで,ゲーム内のテキストも日本語化されている。
スコーピオンの背景となる2048年の中央ヨーロッパは,相次ぐ戦乱によって法や秩序が崩壊し,いくつかの地域が国家として独立し自治を行っているという状況。旧ボスニアの首都,サラエボもそんな独立国家の首都だ。ある日,この街を支配する複合企業ゼニス社の経営者シャミールが,普通の人間をテロリストにしてしまうウイルスや,ハイテク戦闘スーツを開発して,よからぬことを企んでいるという情報がアメリカにもたらされる。
情報をリークしたのは,ゼニス社に勤務する女性科学者で,彼女が持ち出してきた資料と試作品の戦闘スーツを確認したワシントンは,特殊工作員「スコーピオン」にその戦闘スーツを与え,サラエボへと派遣する。目的は女性科学者の情報が真実なのか,事実だとすればシャミールが何を企んでいるのかを確認するためだ。
……という設定の本作だが,ゲームの展開はリニアな一本道で,仲間と行動を共にしたり,部下に命令を下すといったタクティカルな要素はない。また,シングルプレイ専用でマルチプレイが用意されていないなど,最近のFPSとはちょっと趣の異なる雰囲気の作品だ。
ウクライナのメーカの制作したFPSとしては,GSC Game Worldの「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズや,4A Gamesの「メトロ2033」などがあり,いずれも独自の世界観を持った個性的な作品として評価されている。さて,同じウクライナ生まれのスコーピオンは,果たしてどのようなゲームなのだろうか。さっそくプレイしてみよう。
「スコーピオン【完全日本語版】」公式サイト
近未来のサラエボを舞台にゲームは始まる
3Dでマップを表示する「スキャナー」にも注目
ゲームの主な舞台となるのは,サラエボにあるゼニス社の施設。周囲には,内戦の影響で荒廃した建物が多いが,ゲームが進むと,古代エジプトをイメージしたような雰囲気の異なるステージも登場する。もっとも,ゲーム導入部で主人公のことや世界観の話などはほとんど出てこないため,やや唐突に始まる印象。CGムービーもなく,たまに後方で支援している仲間からの通信が入る程度と,ストーリーを見せる演出は控えめだ。もちろん,モノはFPSなのだから,物語なんて雰囲気作り,撃ち合いの楽しみこそがキモ,という考え方もあるだろう。
決して最上級のグラフィックスというわけではないが,クオリティは水準をキープしている印象だ。
ちなみに,グラフィックスオプションに関しては,設定できる項目が少なく,シンプルだ。パッケージにはNVIDIAの物理演算シミュレーションエンジン「PhysX」のロゴもあるが,設定項目には見あたらない。
暗い場所が多く,フラッシュライトがないと右も左も分からない場面が多いが,暗がりから突然敵が姿を現したり,ドアを開けたら死体が転がっていたりといった,ショッカー的な要素は少ない。スクリーンショットなどから,「F.E.A.R.シリーズのようなホラー系のFPSなのかな?」と思っていたが,路線は違う。したがって,怖いゲームが苦手な人でも安心だ。
ゲームシステムはシンプルで,その場面でやるべきこと,例えば「ゼニス社内への侵入路を探せ」「施設の入口を探せ」といった指示が画面に表示され,それをクリアすればストーリーが進んでいくという仕組み。コンパスには,進む方向と目標までの距離が示されており,それに従えば道に迷うことはない。
高圧蒸気が激しく噴出している通路を進む場合,バルブを探して蒸気を止めるとか,ロックされたドアを開けるためにカードキーを探すといった軽いパズル要素もあるが,難しいものはほとんどないため,「ゲームに詰まる」可能性が低いのも好印象だ。
さらに親切なのが「スキャナー」と呼ばれる機能で,これは,マップが3D CADの図面のように表示されるというもの。目的地を確認するときなどに重宝する。ただし,表示されるのはプレイヤーが歩いた部分だけだし,また終盤,ステージの構造が複雑になると分かりにくくなってしまう。自分がいるエリアの色が違うとか,特定の場所だけを強調してくれたりすると,さらに便利になるはずだ。
主人公の前に立ちはだかる敵としては,ウイルスによって変異した人間やゼニス社のセキュリティ部隊,警備ロボットなどがおり,バリエーションは豊富といえる。序盤に登場するクリーチャーの攻撃は,突進して殴るという単純なものだが,やがて,ショットガンや火炎放射器を使う敵が出現する。また,同じセキュリティ部隊でも,身軽な女性兵士や重装備の兵士,光学迷彩で姿を隠すタイプなどがおり,単調な戦いにはならない。
一度戦った敵は記録され,どういった攻撃をしてくるか,長所や弱点などが分かるので,これを確認しておくのは重要だ。ただ,見た目が似ているものが多く,敵を一目見て「こいつはあれだな」と判別することは少々難しいが……。
敵のAIに関しては,遮蔽物の背後から同じタイミングで出たり引っ込んだり,無鉄砲に突っ込んできたりと,あまり頭がいいとは思えない部分が目につく。また,ヘルスは,最近流行の自動回復ではなく,救急キットを使うという伝統と格式を誇るシステムが採用されている。
銃火器と特殊能力が用意された戦闘システム
どちらを使って戦うか?
本作に登場する武器には,ハンドガンやサブマシンガン,アサルトライフルなどのほか,近未来らしくエネルギー系の武器もある。一部の銃は,サイレンサーの脱着や,射撃モード(シングルorフルオート)を選択できるので,状況に応じて切り替えていこう。
銃を撃ったときの反動はかなりすさまじく,そのため命中率はかなり低い。多くのFPSでは,歩きながら射撃するとレティクル(照準)が広がってターゲットに命中しにくくなるという演出になっているが,スコーピオンの場合,立ち止まって射撃をしても,弾がばらける。したがって,突撃しながら撃ちまくるランボースタイルではなく,ある程度の距離を取って正確に弾丸を送り込む必要があるだろう。銃の射撃音はちょっとチープな感じで,迫力に乏しい。
ゲーム開始時,銃の命中率は驚くほど低いが,敵を倒すたびに画面上部のゲージが溜まり,これが満タンになると,銃をパワーアップできるポイントが手に入る。ポイントは4回まで使用可能で,1回当たり10%ほど命中率が上昇するのだ。
とはいえ,MAXまでアップさせても「なんとか使い物になるか?」というレベルで,このへん,もうちょっと大胆にアップするのであれば,プレイを続ける強いモチベーションになったような気がする。
さらに,銃の命中率の低さに加えて,弾着のエフェクトも控えめなので,弾がちゃんと当たっているのかやや心もとない。しかも,終盤に登場する敵はとにかく固く,マガジン一本を使い果たしてやっと倒せるような相手もいるため,本作の戦闘はなかなか歯ごたえがあるものになっている。
ちなみに,筆者のオススメ武器はショットガンだ。十分に近づかなければ当たらないという問題はあるものの,威力が高いため,敵が派手に吹っ飛ぶのがなかなか爽快。スナイパーライフルも悪くはないが,こちらは弾薬の入手性が悪いため,メイン武器にすることはできない。
銃以外ではグレネードがあり,こちらは強力で見た目のエフェクトも派手だ。10個まで持ち歩けるうえ入手しやすいので,状況をあまり気にせず投げてしまっても大丈夫だろう。
さて,こうした戦闘のハードさを軽減してくれるのが,本作のキーアイテムとなる戦闘スーツ。単なる撃ち合いだけでなく,さまざまな機能が埋め込まれた戦闘スーツを使いこなして戦っていくことが,ゲームの基本となるのだ。
スーツの能力としては,周囲の時間経過を遅くして,敵をスローモーション状態にする「時間圧縮」,一定時間防御力を高め,被弾時や格闘ダメージを減らす「エネルギーシールド」,生命体が探知できる「暗視ゴーグル」の3つがある。
それに加えて,切り替えて使用できる能力として,以下の5つある。
・回復
プレイヤーの体力をじっくり回復する
・サイコアタック
電撃弾を発射し,敵にダメージを与える
・マインドコントロール
敵を一定時間味方にし,一緒に戦える
・テレキネシス
敵を吹き飛ばしたり,オブジェクトをぶつけられる
・ランページ
敵を錯乱状態に陥らせ,近くにいるすべての者を無差別攻撃させる
敵の中には,銃撃にはやたら強いが電撃に弱いとかの特徴を持つものがいるので,それを考えて特殊能力を使えば,戦闘はグッと楽になる。マインドコントロールで同士討ちをさせたり,テレキネシスで物を吹き飛ばして攻撃させたりなど,攻撃方法は多彩で面白い。
戦闘スーツの能力を使うには,「サイコエネルギー」または「パワーエネルギー」のいずれかが必要になる。画面上,黄色のバーで表示されるのが,サイコエネルギーで,青いのがパワーエネルギーだ。特殊能力を使って消費したぶんは「サイコバッテリー」か「パワーバッテリー」を手に入れ,自分で再充填しなくてはならない。どちらも地面に落ちていたり敵をルートすることで手に入るが,かなり豊富に用意されており,エネルギー不足に悩まされることはあまりないだろう。
また,特殊能力のアップグレードも可能で,こちらには「ウイルスカプセル」というアイテムが必要になる。このアイテムは数があまり多くないため,すべての能力をMAXまで上げることはできないようだ。そのため,自分が使いたいものを選んで,それを強化することになる。
アイテムの出現率に偏り。バランス調整には疑問も
プレイして感じたのは,一部アイテムの数が必要以上に多い点だ。とくに救急キットとバッテリー2種類は使い切れないほど手に入るので,そのことがゲームの緊張感を下げている。しかも,バッテリーは無限に持てるので,事実上,特殊能力は使いたい放題となる。その反面,例えばスナイパーライフル用の弾薬は少ないなど,アイテム出現の偏りが感じられる。もちろん,アイテムが満遍なく出てくる必要はないのだが,本作に関してはちょっと意図が分からないくらい極端な印象だ。
手に入るアイテムの少ない序盤は,とくにFPSビギナーにはつらいかもしれない。銃はなかなか当たらないし,特殊能力はバッテリーに限りがあるため連発できない。敵も単純に突っ込んで来るような連中が相手で,作業っぽさを感じてしまう。
中盤以降では武器のアップグレードもいろいろ出来るようになるし,特殊能力も使いやすくなって面白くなるのだが,スタート時のハードルの高さは,ユーザー(ビギナー)フレンドリーであることを重要視する最近のゲームとしては異色といえそうだ。
近未来の世界観やさまざまな特殊能力など,ユニークなアイディアが盛り込まれており,素材自体は悪くはないが,ところどころ要素がうまくかみ合っていない印象も受ける。最初にも書いたように,ストーリーを語る部分がほとんどないことから,ちょっと突き放された感じを受けることになるだろう。
最近のFPSをプレイしている人にとっては,細かい部分で,いろいろな不満が出てきそうな感じのタイトルであり,やはりプレイヤーを選んでしまいそうな気はする。とはいえ,そういう部分も含めて北米や西欧の至れり尽くせりのFPSにはやや食傷気味,というベテランプレイヤーなら考慮してみる価値はありそうだ。いろんな意味で,デベロッパであるB-Cool Interactiveの次回作を楽しみにしたい。
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