連載
インディーズゲームの小部屋:Room#570「The Stillness of the Wind」
先日,近所を車で走っていたら,いつの間にか新しい道が開通していたことに気付いた筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第570回は,Lambic Studiosが開発した「The Stillness of the Wind」を紹介する。本作は,とある年老いた女性の人生最後の時を体験するというアドベンチャーゲームだ。カーナビの地図データが5〜6年前のものだから,さすがにそろそろ更新しないとな……。
本作の主人公は,寂れた農園の小さな小屋に一人で暮らすタルマという老婆。かつては多くの人で賑わい,タルマおばあちゃん自身も家族に恵まれて,幸せな生活を送っていたが,家族もほかの住人も一人また一人と村を去っていき,今や残っているのはタルマおばあちゃんだけとなってしまった。
タルマおばあちゃんの人生は,ゆっくりと確実に終わりへ近づいている。そんな人生最後の時間を,物悲しいような,甘酸っぱいような,それでいて満ち足りたような日々の生活を通じて体験するというのが本作の趣旨だ。うう,切ない……。
農園では,ヤギやニワトリの世話をしたり,畑を耕して野菜を育てたり,周囲を散策してキノコ採りをしたりできる。そして,ときどきやって来る知り合いの行商人から,家族がくれた手紙を受け取り,物々交換で必要な品物を分けてもらいながら日々を過ごしていく。
年老いたタルマおばあちゃんにとって,農園での作業は重労働だ。上機嫌に鼻歌を歌いながらヤギの乳を搾り,その乳からチーズを作るだけで,あっという間に日が暮れてしまう。次の日は,畑を少し耕して種をまき,水をやるだけで手いっぱい。日が落ちると周囲は真っ暗になってしまうので,あれもこれもやろうなんて到底無理な話なのだ。
夜になったら小屋に戻って料理を作り,家族からの手紙に目を通したり,本を読んだりして過ごし,ベッドで眠る。そして,日が昇ったら,また前の日にできなかった作業の続きに取り掛かる。こう書くと,いかにものんびりとした農園生活のようだが,本作をただのスローライフゲームだと思ったら大間違い。本作では,人生最後の時を“生きる”ということと同じくらい,“失う”ことに焦点が当てられているからだ。
タイトルどおりの“風の静けさ”を感じるような,タルマおばあちゃんの穏やかな日々は,いつまでも続くものではない。家族からの手紙は不穏さを増していき,小さな農園にも変化が訪れる。農園を賑やかに発展させていくのではなく,1つずつ何かを失っていくことを,タルマおばあちゃんの人生を通じて体験できる,しんみりと考えさせられるゲームだ。
そんな本作のPC版は,Steamにて1320円で発売中。また,ニンテンドーeショップではNintendo Switch版が1280円(税込)で配信されているので,興味を持った人はぜひどうぞ。
■「The Stillness of the Wind」Steamストアページ
https://store.steampowered.com/app/828900/The_Stillness_of_the_Wind/- 関連タイトル:
The Stillness of the Wind
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