連載
インディーズゲームの小部屋:Room#524「Night in the Woods」
近頃は目がゴロゴロして,鼻がムズムズする筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第524回は,Infinite Fallが開発した「Night in the Woods」を紹介する。本作は,先日行われたIndependent Games Festivalで,大賞にあたるSeumas McNally Grand Prizeと,優れたストーリーの作品に与えられるExcellence in Narrativeの2冠を達成したアドベンチャーゲームだ。春だからって,良いことばかりじゃないですね……。
本作の主人公は,大学を中退して故郷のポッサム・スプリングスに帰ってきた20歳の女の子,メイ。かつては鉱山で栄えたものの,今ではすっかり衰退してしまったこの町で,メイは高校時代の友人達と以前のように無目的でただ楽しいだけの毎日を過ごすことを願っていたが,彼らは皆成長してそれぞれの道へ進み,町も昔と同じではなかった。
ゲームは基本的に,朝ベッドから起床して,母親に挨拶し,町に出かけ,昼間は働いている友人達と会話し,誰と一緒に過ごすかを決めることで進んでいく。町には古くからメイのことを知っている人もおり,町が置かれている状況や,メイの祖父のことなどを教えてくれたりもする。そして夜に帰宅し,父親とテレビを見て,ベッドで寝ることで一日が終わる。
本作で大きな比重を占めるのが,こうした家族や友人達との会話だ。そしてその中では,モラトリアムやうつ病,貧困,同性愛,児童虐待など,現代社会が抱えるさまざまな問題が描かれていく。両親は,大学を辞めて戻ってきたメイに以前と同じように愛情を持って接してくれるが,メイは中退の理由を聞かれてもあいまいな答えではぐらかし,友人達のパーティーに参加したり,束の間のスリルを求めて万引きをしたりしている。
しかし,一見すると何事もないように見えるメイの家族も,彼女を大学にやるために財政的にかなり無理をしており,いつ持ち家を手放さなければならなくなるか分からないことが判明する。友人達もそれぞれに問題を抱えており,どうにもならない現実に何とか折り合いを付けて,あるいは半分あきらめの気持ちで受け入れて日々を過ごしている。ただ一人,いつまでも子供のように振る舞うメイの姿を見ていると,大人になりきれないことへの共感といたたまれない思いの両方にかられる。
擬人化された動物達が登場する,絵本のような可愛らしい見た目と裏腹に,本作で描かれているストーリーはかなり深刻なものだ。物語はこのまま,家族や友人との交流を軸に,メイの自立を描いていくのかと思いきや,終盤に差し掛かると,なぜか急にオカルトめいた展開が待っている。自分のことを厄介者であると自覚しつつも,自分の中にあるいらだちを抑えきれずにいるメイは,奇妙な夢を見るようになり,ある出来事をきっかけに,この町に隠されている“何か”に気づくのだ。
そして,その“何か”の手がかりは,町外れの森につながっている……。ずいぶん回り道をしたが,ここでようやくタイトルの“Night in the Woods”に結びつくわけだ。
心に残るストーリーを味わいたい人にお勧めしたい作品ではあるのだが,正直なところ,筆者はこの急激な落差をどう捉えていいのか戸惑っている。ただ,家族や友人にまつわる個々のエピソードは,胸をえぐられるほどに印象的だったことは間違いない。全編英語のため,ややハードルは高いが,興味を持った人はぜひ,高い評価を得た物語を自分の目で確かめてみてほしい。そんな本作は,Steamにて1980円で発売中だ。
■「Night in the Woods」公式サイト
http://www.nightinthewoods.com/- この記事のURL:
キーワード