連載
男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ:第725回「2023年ベストゲイムは『メグとばけもの』」
「人生,立ち上がる力が大切なんじゃないか?」
ストレートには伝わりづらい。伝えづらい。伝えるほうからするとダイレクトにこんなことを言うのは照れくさいし,説教じみてもいる。自分が何様でどの立場から他人様に伝えようとしているんだ? という自問自答もある。
一方で,受け取る側からしてみても,良いことを言ってるんだろうなとは思うんだけど,あまり入ってこない。それは,私が何も成し遂げてない人間だからなんだろう。
有名な人が言えば響く言葉があったとして,同じことを有名じゃない人が言った場合,響かないことのほうが多い。何かを成し遂げた人が言う言葉のほうが,心には入ってくる。全部が全部じゃないけども,世の中そういうものなのだ。
だから,私はプロレスをヤっている。実際に相手に殴られて,蹴られて,投げられて,絞められて,関節極められて。そのうえで立ち上がり,ケツを出す。言葉だけじゃなく,実際にダウンさせられたあとに立ち上がって伝えるから,周りの人も耳を傾けてくれる。
私は頑張っているんだ! 的なことを言いたいわけではなく。なんなら私は普通のプロレスラーが頑張るべきことを頑張らないタイプなんで。そうではなく,伝えたいことを主張するのにプロレスという装置を使っているって話なのですよ。現実問題,プロレスラーという視点が無ければこの連載は成立していないしね。私にプロレスラーという肩書がなければ,ただのゲイム好きのおっさんが思ったことを書いているだけ。……あれ? なんか心が……痛い。
ともあれ,飛び抜けた文章力や専門知識があるでもない45歳のおっさんが,長くゲイムの連載を持たせてもらっているのは,他ジャンルの住人であるプロレスラーであるからにほかならないんですよ。
で,何が言いたいのかといえば。伝えたいことを伝える方法は一つじゃないってこと。これ,自慢なんですけどね。私,たまに「天才」と評されることがあるんです。でも,私自身は自分が天才じゃないことを知っている。ただ,伝える方法をほかの人と違う切り口でヤっているだけなんです。
具体的に言うと,プロレスラーは筋肉を鍛えて強さを競い合います。倒されても,立ち上がって相手を倒しにかかります。これはプロレスラーみんながヤっていることなんです。その方面では私は勝てないから,倒されたあとに立ち上がって,ケツを出すんです。
立ち上がったあとにヤりたいことは,相手を殴ることじゃなくしょうもないことなんですよ。痛い思いを乗り越えたあとに,それ。「イヤなことがあっても,立ち上がりさえすれば楽しいことが待っているんだよ」っていうメッセージなんですね。「立ち上がった先に勝利がある」はほかのプロレスラーがヤってくれているんで。プロレスラーは総じて「立ち上がる力」を表現しているんです。ただ,その先に何をするかで見ている印象は変わる。その方法を,ほかのプロレスラーがやらない形でどうにか探しているだけなんですよ私は。
開発元は「くまのレストラン」(PC / Mac / Nintendo Switch / iOS / Android)や「フィッシング・パラダイス」(PC / Nintendo Switch / iOS / Android)を生み出したOdencat。「M-1グランプリ」におけるかつての上沼恵美子さんのようなことを言ってしまうけど,今回プレイしてOdencatのファンになりました。ヤベーぞここ。
自分らにできることとできないことをちゃんと把握して,できることで今までにない体験を提供する。そして,伝えたいことを伝えるためにゲイムジャンルすら装置として使っている。
最後まで遊んでもプレイ時間は5時間ちょっと。おそらく,プレイし直すことはないと思います。でも,私は満足です。面白い。ゲイム的に言えば,もっと自由度があったほうがとか,ヤり込み要素が足りないとか,もっとこうしてほしいなって要素もあるっちゃああるんですよ。でも,それは野暮なんです。だってRPG要素はただ「伝えたいこと」のために利用されただけなんだから。今あるこの形が完成形。
たぶん,この作品のストーリーは普通に見てしまえば,ただの感動するいい話なんです。でも,ゲイムという装置で語られることで心に響くよう設計されている。作業であったり,ルールであったり,RPGあるあるですね。それらゲイムでしか表現しえない方法を使って独特の間を作って,泣かせにくるのですよ。これはすごいとしか言いようがない。文句なく名作です。頼むからヤッてみてください。
ゲイムに求めるものは人によって違います。作り手から考えた場合,伝えたいことは人によって,作品によって違います。そして,プレイヤーとして考えた場合も受け取りたいことは人によって違います。だから,私がゲイムをオススメしたいとき,多くのケースで条件まで提示します。例えば「シミュレーションが好きなら」「変わったゲイムをしたいなら」といったように。
でも,このメグとばけものに関しては,なるべく多くの人に体験してほしい。好きな絵本を人にオススメする感覚で。まあ,そもそもあまり絵本をオススメするっていうシチュエーションに遭遇することはないけども。あくまで想像だけど,手軽でそんなに好き嫌いに左右されにくい絵本って,ほかの人にオススメするとき,あまり条件を付けたりしないじゃないですか。そういう感じ。
私の価値観だけで言えば,今のところ2023年ベストゲイムです。しかも,この作品の壁はあまりにも高い。それほどのゲイムに出会えましたっていう今週はそんなお話でした。また来週。
今週のハマりゲイム
PlayStation 5:「eFootball 2023」
Nintendo Switch:「メグとばけもの」
iOS:「ロードモバイル」
iOS:「ウイニングイレブン カードコレクション」
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キーワード
(C)Odencat, 2023