連載
男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ:第416回「善玉と悪役」
簡単に言うと,善玉=ベビーフェイスはいい役,悪役=ヒールは文字通り悪い役ってこと。見ている人からしてみると,善玉を応援し,悪役を憎むっていう図式。
私,プロレスを見始めた頃,不思議に思っていたのよね。善玉はともかく,悪“役”というように役という字が使われているのはどういうことなのか。役ということは,悪い人を演じているだけなのか? と。
これって実はけっこう深い話で,人間にとっての正義の捉え方につながってくるのよね。もちろん,プロレスって勝負と同時に観客の感情をどうコントロールするかという面も求められるから,観客の目に自分がどう映っているか(どう映っていてほしいか)を客観視する力も必要となってくるのね。
いわゆる“懐が深い”と評される選手っていうのは,今行われている自分の試合を見た観客がどう思っているかを察知して,自分の振る舞いを変えることができる選手のことなの。これは見ている人には関係のない,プレイヤー視点の能力なので,ここで解説するのもなんか変なんだけど。
だから,悪い“役”と言ってしまうと,それはそれで間違ってはいないって話ね。見ている側が一番興奮する立ち位置を演じるわけだからね。私が小さい頃に疑問だった“役”に関しては,実際にリングに上がるようになって,上記のように解ケツしたわけ。
ただ,ここで私が言いたいのはそんなことではなく。なぜ善と悪に分けられるのかって点。一番シンプルな答えとしては,分かりやすいからでしょうね。善と悪が戦う。これ以上に分かりやすい図式はないわ。だから,プロレスでもそういう図式が昔から作られてきたんでしょう。それはいい。
では。もう一歩踏み込んで考えてみましょうか。その善と悪は,誰にとっての善で誰にとっての悪なのかしら。これはプロレスだけの話ではないんだけど,今はプロレスに絞って話しましょう。プロレスにもルールというものがあるわ。相手の両肩をマットにつけて3カウントを取れば勝利,場外に出たら20カウント(団体によっては10カウント)以内にリング内に戻らなければリングアウト負け,反則は5カウント以内などなど。
お気付きかしら。すべて「カウント」なの。相手の両肩をマットにつけて3秒ではなく,3カウント。これが意味するのはね,レフェリーがどう判断するかで変わるってことなの。要は,レフェリーさえコントロールしてしまえば,それはルールの範囲内ってこと。レフェリーが反則負けを宣告したら,それは負け。でも,それまでは反則だけど反則じゃない。
まとめましょうか。片方は反則攻撃をまったくせずに勝とうとしています。片方は勝つために反則攻撃をルールの範囲内で使ってきます。さあ,どちらが正義でしょうか。……答えなんて出ないわよね。だって,お互いがお互いの正義で戦っているんだから。見ている人の大部分が正義だと思っていることでも,そうじゃない正義を持って戦う人がいる。善とされている陣営から見ての正義,悪とされている陣営から見ての正義。それは別なのよ。
徹底的にルールを守らなきゃいけないっていうのも正義だし,反則負けになるまでは許されるっていうのも正義。その解釈があいまいだからこそ,プロレスの世界はいろんな価値観が共存できるのよ。
でも,本当の意味でのルールは守らなきゃダメ。ここがポイント。その範囲内であれば,何をやってもいい。悪役は,必ずしも悪ではない。悪の役ではあるけども,己の正義に沿って戦っている。私はこれが言いたいわけです。
というわけで,今回は「レイジングループ」(iOS / Android / PlayStation Vita)について。一昨年の暮れにスマホで,そして最近になってPlayStation Vitaのダウンロード専用ソフトとしてリリースされた,「人狼」がテーマのADVゲイムね。
レイジングってのは,「荒れ狂う,猛烈な,猛威をふるう」って意味なんですって。そういえばレイジング・スタッフって,確かに荒れ狂っていたわよね。なるほど。
ほとんどの人が予想できていると思うけど,今回,レイジングループってタイトルからレイジング・スタッフのことを思い出して,悪役について考えてみたっていう経緯なんだけど。ただ,結果的にこの考察はレイジングループにも通じるのよ。もちろん,アドベンチャーゲイムなんでストーリーには踏み込んでは語らないけど。
このゲイムってその名が示しているように“ループもの”なのね。主人公が死んだら,その記憶を持ち越して最初に戻るっていう。バッドエンドを迎えることを前提に進めていく。何度も繰り返して読み進めていく。ゲイムとしてはぶっちゃけテキストを読んで大切なところで選択肢から行動を選ぶだけ。
……なんだけど,面白いのよね。これってちゃんと先が楽しみになる文章だから成立しているの。そして,アナログゲイムの人狼をうまく調理できている。人狼って,要は村人側と人狼側の陣営に分かれるゲイムなんだけど,村人が善で人狼が悪として扱われるのよね。村人からしてみれば人狼は敵。でも,人狼からしてみれば村人が敵なの。
何が言いたいかというと,村人,人狼どちらの陣営も自分は自分の正義で生きようとしているってこと。それを踏まえたうえで,誰が,何が一番悪いのかって話なのよね。神に対する位置付けを含め,極めて日本的な作品だと思ったわ。
私,男色ディーノはゲイムの神なんだけど,私を神だと思っている人にとっては神。あなたは何を信じるのですか? そういうこと。プレイヤーからしてみれば“読むこと”がほとんどだけど,クリア後の余韻はあるゲイムだと感じたわ。ぜひプレイしてみてほしい作品ね。
というわけで,レイジングループから転じてレイジング・スタッフを通じて,善や悪について一歩踏み込んで考えさせられた一週間でした。でも,いくら難しいことを考えても,我々にできることなんて結局のところ限られているのよね。一生懸命生きるっていう。
人生,昔に戻ってヤり直せないからね。でも,間違えた! って思ったら,今からヤり直すことはできる。みんなにとっての善悪ではなく,自分のとっての善悪。公共のルールは守りつつ自分なりの価値観を自分でしっかりと持って生きていけたらいいなあ。
多人数タッグマッチのレイジング・スタッフ軍に何の説明もなくなぜかアニマル浜口が入っていたなあって思い出に浸りつつ,また来週。
今週のハマりゲイム
PlayStation 4:「ウイニングイレブン 2017」
PlayStation Vita:「レイジングループ」
Wii U:「Splatoon(スプラトゥーン)」
ニンテンドー3DS:「ポケットモンスター サン」
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